SECOND!!

雨愁軒経

文字の大きさ
上 下
37 / 37
第四章 減量と決戦と風に立つライオン

エピローグ

しおりを挟む
 週明けの放課後、葵は兎萌と並んで廊下を闊歩していた。
 葵の腕の中には、ドでかいトロフィーが抱えられている。


「ねえ見た? 先生たちの顔、最高だったわね!」


 これだからやめられないわと呵々大笑しながら、兎萌が片手でハンディカメラを弄ぶ。
 大きなカバンを持って登校した時には、上野から訝しい視線を向けられたが、それがまさか、優勝の証であるとは思わなかったのだろう。放課後に職員室へ乗り込み、お披露目をした時の凍り付いた空気には、思わず笑ってしまいそうになる痛快さがあった。
 きっと自分はドッキリの仕掛人にはなれないだろうと、このとき分かった。

 その後、どこから聞きかじったのか、簡単に勝てる階級を選んだに違いない! と指摘する声が上がったかと思うと、便乗したざわめきが吹き荒れる。が、しかし。


『当初のプランだったら、今の正解だったんですけどぉー』


 わざとらしくキャピった兎萌が取り出したハンディカメラと本によって、形勢逆転。明日葉たちから撮ってもらった試合の映像と、釈迦堂舞流戦という王者について特集したキックボクシング誌の記事によって、職員室は再び氷河期を迎えた。


「それじゃあ、今日も張り切ってジムに行きますか!」


 そう言ってくるりとスカート翻した兎萌は、口元に指を当ててウィンクを決めた。


「トレーニングにする? 特訓にする? そ・れ・と・も、修行?」
「テンション高っけえなあおい……そこは普通、飯と風呂とか、『私?』じゃねえの?」


 葵のため息に、びたりと兎萌の動きが止まった。
 うっかり追い抜いてしまい、葵も足を止めて振り返る。


「……兎萌?」
「は、ははははあ!? なな何言ってんのよあんた! そんなこと、そんなこと……言ったとしてもトレーニングの後よ、バーカ! ブァーカ!!」
「トレーニングの後ならいいのかよ」
「うるっしゃい!」


 やいのやいのと騒ぎながら、すっかり通いなれたジムへの道を歩く。


「あ、そうだ。ジム着いたらさっきのアレ、読ませてくれね?」
「釈迦堂くんの?」


 カバンから覗かせた雑誌を、そうそれ、と指さす。


「職員室でもチラッと見えたんだけど、無駄に写り良くて腹立つなあいつ。つうか、そもそもナニソレ。実在する雑誌なのか?」
「キック専門のスポーツ誌。こういうの、割とどこの業界にもあるわよ?」


 私も載ったことあるんだあと、兎萌が迫ってきた。「見たい? ねえ見たい?」とすり寄る首根っこを引っぺがす。餌を前にしたフグかお前は。
 ジムの玄関をくぐり、靴を脱いで中へ――入ったところで、葵は突然、眩いフラッシュに襲われた。


「えっ、な、何ごと!?」


 突然のことに、顔を覆って一歩下がる。ちょっと止まらないでよ、なんて追い越していった兎萌が「あ、矢来さんじゃないですか。こんちには」と、声を明るくした。


「ええと、知り合い?」


 訊ねると、大きなカメラを構えていた女性が、それを首にぶら提げて、名刺を取り出す。


「はじめまして、川樋くん。私、Fight&Fireの記者をやってます、矢来です」


 そう名乗った彼女は、葵が訊ねる前から用件を切り出してきた。


「今、君はホットよお? 『あの』羽付さんをセコンドに据え、『あの』釈迦堂くんを食った、新進気鋭のルーキー! というわけで。取材させてくーださい。あ、羽付さんも一緒にね」
「はあい」
「物分かりいいなお前……」


 慣れている人は違うのだろうか。俺は『あの』の圧が強すぎて未だに混乱しているんだが。
 戸惑っているうちに、強引に受付の客用椅子に座らされてしまった。拒否権はないらしい。


「それでは、はじめに。お二人が出会ったきっかけは?」



――SECOND!!~楽園の片隅で眠る金色の鳥は~(了)
しおりを挟む
感想 0

この作品の感想を投稿する

あなたにおすすめの小説

俯く俺たちに告ぐ

青春
【第13回ドリーム小説大賞優秀賞受賞しました。有難う御座います!】 仕事に悩む翔には、唯一頼りにしている八代先輩がいた。 ある朝聞いたのは八代先輩の訃報。しかし、葬式の帰り、自分の部屋には八代先輩(幽霊)が! 幽霊になっても頼もしい先輩とともに、仕事を次々に突っ走り前を向くまでの青春社会人ストーリー。

GIVEN〜与えられた者〜

菅田刈乃
青春
囲碁棋士になった女の子が『どこでもドア』を作るまでの話。

おてんばプロレスの女神たち ~男子で、女子大生で、女子プロレスラーのジュリーという生き方~

ちひろ
青春
 おてんば女子大学初の“男子の女子大生”ジュリー。憧れの大学生活では想定外のジレンマを抱えながらも、涼子先輩が立ち上げた女子プロレスごっこ団体・おてんばプロレスで開花し、地元のプロレスファン(特にオッさん連中!)をとりこに。青春派プロレスノベル「おてんばプロレスの女神たち」のアナザーストーリー。

切り札の男

古野ジョン
青春
野球への未練から、毎日のようにバッティングセンターに通う高校一年生の久保雄大。 ある日、野球部のマネージャーだという滝川まなに野球部に入るよう頼まれる。 理由を聞くと、「三年の兄をプロ野球選手にするため、少しでも大会で勝ち上がりたい」のだという。 そんな簡単にプロ野球に入れるわけがない。そう思った久保は、つい彼女と口論してしまう。 その結果、「兄の球を打ってみろ」とけしかけられてしまった。 彼はその挑発に乗ってしまうが…… 小説家になろう・カクヨム・ハーメルンにも掲載しています。

俺たちの共同学園生活

雪風 セツナ
青春
初めて執筆した作品ですので至らない点が多々あると思いますがよろしくお願いします。 2XXX年、日本では婚姻率の低下による出生率の低下が問題視されていた。そこで政府は、大人による婚姻をしなくなっていく風潮から若者の意識を改革しようとした。そこて、日本本島から離れたところに東京都所有の人工島を作り上げ高校生たちに対して特別な制度を用いた高校生活をおくらせることにした。 しかしその高校は一般的な高校のルールに当てはまることなく数々の難題を生徒たちに仕向けてくる。時には友人と協力し、時には敵対して競い合う。 そんな高校に入学することにした新庄 蒼雪。 蒼雪、相棒・友人は待ち受ける多くの試験を乗り越え、無事に学園生活を送ることができるのか!?

彗星と遭う

皆川大輔
青春
【✨青春カテゴリ最高4位✨】 中学野球世界大会で〝世界一〟という称号を手にした。 その時、投手だった空野彗は中学生ながら152キロを記録し、怪物と呼ばれた。 その時、捕手だった武山一星は全試合でマスクを被ってリードを、打っては四番とマルチの才能を発揮し、天才と呼ばれた。 突出した実力を持っていながら世界一という実績をも手に入れた二人は、瞬く間にお茶の間を賑わせる存在となった。 もちろん、新しいスターを常に欲している強豪校がその卵たる二人を放っておく訳もなく。 二人の元には、多数の高校からオファーが届いた――しかし二人が選んだのは、地元埼玉の県立高校、彩星高校だった。 部員数は70名弱だが、その実は三年連続一回戦負けの弱小校一歩手前な崖っぷち中堅高校。 怪物は、ある困難を乗り越えるためにその高校へ。 天才は、ある理由で野球を諦めるためにその高校へ入学した。 各々の別の意思を持って選んだ高校で、本来会うはずのなかった運命が交差する。 衝突もしながら協力もし、共に高校野球の頂へ挑む二人。 圧倒的な実績と衝撃的な結果で、二人は〝彗星バッテリー〟と呼ばれるようになり、高校野球だけではなく野球界を賑わせることとなる。 彗星――怪しげな尾と共に現れるそれは、ある人には願いを叶える吉兆となり、ある人には夢を奪う凶兆となる。 この物語は、そんな彗星と呼ばれた二人の少年と、人を惑わす光と遭ってしまった人達の物語。        ☆ 第一部表紙絵制作者様→紫苑*Shion様《https://pixiv.net/users/43889070》 第二部表紙絵制作者様→和輝こころ様《https://twitter.com/honeybanana1》 第三部表紙絵制作者様→NYAZU様《https://skima.jp/profile?id=156412》 登場人物集です→https://jiechuandazhu.webnode.jp/%e5%bd%97%e6%98%9f%e3%81%a8%e9%81%ad%e3%81%86%e3%80%90%e7%99%bb%e5%a0%b4%e4%ba%ba%e7%89%a9%e3%80%91/

雨上がりに僕らは駆けていく Part2

平木明日香
青春
学校の帰り道に突如現れた謎の女 彼女は、遠い未来から来たと言った。 「甲子園に行くで」 そんなこと言っても、俺たち、初対面だよな? グラウンドに誘われ、彼女はマウンドに立つ。 ひらりとスカートが舞い、パンツが見えた。 しかしそれとは裏腹に、とんでもないボールを投げてきたんだ。

Toward a dream 〜とあるお嬢様の挑戦〜

green
青春
一ノ瀬財閥の令嬢、一ノ瀬綾乃は小学校一年生からサッカーを始め、プロサッカー選手になることを夢見ている。 しかし、父である浩平にその夢を反対される。 夢を諦めきれない綾乃は浩平に言う。 「その夢に挑戦するためのお時間をいただけないでしょうか?」 一人のお嬢様の挑戦が始まる。

処理中です...