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第二章 ゴリラと大空とバレンタイン・キッス
王者と姫と決闘の申し込み
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「あんたも諦めがわるいわね。だからモテないのよ」
毒づいた兎萌だったが、舞流戦は堂々と頬を緩めて見せるだけで、びくともしない。
葵は息を呑む。バチバチと散らされた火花は烈しく、その爆心地に割り込むことなど一切できずにいた。漁夫の利とはよく言うが、さしもの漁夫とて、暴れる蛤と鴫には関われない。まして素人の自分では、尚更だった。
そこへ、トイレの方からいつぞやのキザ眼鏡が戻って来た。
「ヘイ百目鬼サン? 私、彼氏ができたと伝えてくれって頼んだわよね?」
「そこの雑魚が本当に君の彼氏ならね」
「チッ、もう葵はうちのジムの仲間。雑魚呼ばわりは見過ごせないんですけどお?」
兎萌があごをしゃくれさせると、泰然自若としていた舞流戦が口を開いた。
「ほう? ならば正式に挨拶をしよう」
葵は、ぬっと立ち上がった彼と、不敵に眼鏡を直す百目鬼から囲まれてしまった。二人とも自分と同じくらいの身長だというのに、威圧感で縮んでしまいそうだ。
隣で目を光らせてくれている彼女のように口を開く余裕なんて、ない。こんな景色の前で、怪我をした足で、足を震わせることなく立っていたのか。こいつは。
「では、まずは僕から。改めまして、ヤンキーくん。山形市から来た、ジム『百目鬼』所属の百目鬼拳統王だ」
「同じく、釈迦堂舞流戦だ。憶えておけ」
「お、おう。川樋葵、っす。よろしく頼んます、先輩」
存外礼儀正しいのかもしれないと、戸惑いながらも握手の手を差し出す。だが、永遠にも感じられた一瞬の沈黙のおかげで、気付いてしまった。
こいつらは、手を握り返す気など、さらさらない。
「よろしくは頼まないよ? 君と慣れ合う気はないからね」
「オレの名は刻ませるが、貴様の名前など覚える気はない」
「なっ……」
文武両道とは、礼節とは、何なのかと問いたかった。あまつさえ拳統王は、こちらの硬直した手のひらを払い除けようと――するのも途中で飽きたように、手をだらりと下ろしていく。
さあっと、葵の頭から何かが引いていくのを感じた。
「どうしよう、俺こいつら嫌いだ!」
指をさして訴えると、兎萌は仕方なしにため息を吐いて、舞流戦へと向き直った。
「ねえ、釈迦堂くん。私にご執心なら、その私の『彼氏』にそんな態度とっていいの?」
「本当にそれが羽付兎萌の彼氏で、かつ、今後も関わることで有益な人間であればな」
にべもなく一蹴した舞流戦は、「フルネームで呼ぶな」を無視して、続ける。
「お前にこんな男は似合わん」
「面白い偏見ね。私に誰が似合うかは、私が決める」
「オレの女になれば、その考えも改まるだろうさ。オレなら、お前が見たい景色を見せてやる」
「お生憎様。私の見たい景色は、彼がテッペンを取るところなのよ」
「この素人がか?」
「ええ。とびっきり逸材のね」
初めて、舞流戦の目の色が変わった。相変わらず顔を向けることなく、視線だけでのものだったが、こちらの体を舐め回すように見てくる。
「階級は」
「そういえばまだ聞いてなかったわね。葵、体重何キロ?」
「健康診断の時は、六十八、だったけど……」
「あら、体型の割にけっこうあるのね。骨かしら。それともインナーマッスル?」
気恥ずかしさに歯切れが悪くなる。これが女子の気持ちか。だが職員室で兎萌は「五十一キロ」と、せめて一キロくらいのサバを読むこともなく、はっきり申告していた。自分は先ず、その辺りの恥じらいをかき捨てる必要があるのかもしれない。
制服の上から腹と背中をサンドイッチしてぺたぺた触れてくる兎萌を引き剥がしていると、舞流戦が静かな声で「絞れるな」と呟いた。
「一年以内に育て上げ、オレと勝負させろ。オレが勝った暁には、お前を貰う」
「へぇ。ルーキー相手に一年しか猶予を与えられないほど、『最強』サマは小心なのかしら?」
「高校を卒業してから参加する海外トーナメントに、お前をすぐ連れていくためだ」
葵は背筋に怖気を感じた。中学の部活で仲間と話していた「全国行こうね!」とはまるで格が違う。進出することは、釈迦堂舞流戦にとって決定事項。既にその後のことを見据えている。
だからこ着くことができる、高校生最強の座。眩いのは席ではなく、そこに座する肉体だ。
勝てるのか? いや、勝てるかどうか問うこと自体がおこがましいのかもしれない。少なくとも、留年撤回のために結果を残せればいいなどというお気楽さでは、届かない。
よく、何かを背負っている人は強いという。だが自分はどうだ。背負っているのは不必要なものばかりだ。留年も、髪の色も、我儘で噛みついているだけにすぎない。
犬が狼に一矢報いるためには、どうすれば――
「葵。こいつの誘いになんて乗らなくていいからね。自分のやるべきことだけを考えていて」
いつの間に兎萌の手が、こちらの手に重ねられていた。そこで葵は、自分が震えていたことを知った。
あたたかい温もりによって冷やされた頭が、彼女の言葉を咀嚼して、ふと、異物に気付く。
「どういうことだよ。一か月後、俺はこいつとも戦うことになるんだろ」
すると、兎萌は悲しそうな目をして、力なく首を振った。
「いいえ。私はこいつと違う階級で、あんたを優勝させるつもりだった」
「えっ……?」
「そんな軽蔑する目で見ないでよ。私だって、ズルいやり方だってのは分かってる。けど。まずは進級の問題をなんとかして、地力をつけるのが先。化け物に挑むのはその後の段階なの」
長年隠し続けていた嘘がバレたかのように、瞳を逸らす。
この目には見覚えがあった。父が危篤状態の時、もう助からないと分かっていて、何度も子供の自分に「大丈夫だから」と言い聞かせてくれた母と同じ目だ。
だからこそ、目の前の少女を責めることなんて、できやしなかった。
そんな葵の代わりに責め句の横槍を入れたのは、舞流戦だった。
「まさか、進級さえおぼつかないような男を見込んでいたのか、お前は」
「私のパートナーを馬鹿にしないでくれる? 確かにトチッてしまったけれど、自頭もあるし、ご両親想いの素敵な人よ。悪いのはうちの担任」
「ふん、どうだかな。かの羽付兎萌も、錆び付いてきたようだ」
鼻で笑うチャンピオンに、葵の震えがぴたりと止まった。
今、何つった? 羽付兎萌が、錆び付いた?
――そして今、私はも~~~れつに、ナンパをしてみたい心境になりました!
そういう体にしておちゃらけないと、照れてしまう、普通の女の子なんだよ。こいつは。
「錆び付いたと思うなら、そのまま嫌ってくれると嬉しいんですけどー」
「いや、むしろオレと来い。すぐにお前を磨いてやる」
「断・固・拒・否! 三歩下がって言いなりになってくれる女がいいなら、そういうサービスをする店の女の子でも呼んだら?」
――だから私も、先生の敵に回っただけのこと。以上、文句ある?
ああそうだ、そうだよな。セコンドがボクサーと共に戦うっていうんなら、ボクサーもセコンドと共に戦うのが筋だ。
「なあ、兎萌」
「何? ごめん、今ぶっちゃけ余裕ないから手短にお願い」
葵は深呼吸して、踏み込んだ。
自分が彼女とともに戦うボクサーになるために、必要な一歩を。
「俺がこいつに勝てばいいんだろ?」
「はあっ!?」
兎萌の絶叫に、ジム内の注目が集まる。状況を把握しようと伝搬するざわざわとした声が起こりはじめると、固まっていた彼女もようやく動きだした。
無理じゃねえのと言わんばかりに頭を振って――
いやでも案外悪くないんじゃねえのと思案の瞬きをして――
つってもなー危険だよなーと腕を組み、難しい顔をして――
そんな百面相も沈黙して、数秒。突然、兎萌が肩を震わせはじめたかと思うと、先刻の絶叫に劣らないくらいの大声で、笑いだした。
「ふふっ、ははは、あはははははっ!! うん、分かった。葵がそう言うなら、私を預ける!」
「ええと……俺が言うのもなんだけど、お前、正気か?」
「うん、なんか吹っ切れた。別に自棄になったわけじゃないよ?」
分かっているでしょう? と見上げてくる視線に、頷いて返す。
勝てるかどうか、じゃあないのだ。そこを問うことが愚かなのは、自分が素人だから。ならば、素人じゃなくなればいい。『最強』を笠に着たストーカー紛いの野郎には、自分がフリでもなんでもない、本物の『パートナー』になってみせればいい。
「釈迦堂くん。一年とはいわず、月末の大会で決めたげる」
そう言って、兎萌が松葉杖で壁際のポスターを指し示した。
大会『IDEHA』。東北大会である『BRAVE』の間を埋めるように企画された、山形県内の選手を対象に行われる大会らしい。
「僕に一発も当てられなかった雑魚が、一ヶ月? 頭がイッてしまったのかな」
「おけ、拳統王。身の程を知らない犬には、鞭打つしかなかろう」
言ってくれる。葵は歯噛みした。けれど、ようやくナンバーワン様がこちらを向いてくれたのだ。一介のワン公としては、存分に睨み返してやるのが礼儀だろう。
「言った言わないの無駄は勘弁だ、確認しておく。やるんだな?」
「ったり前だ。お前なんかに兎萌は渡さない」
視線が交差し、ぶつかったところで弾けとぶ。なるほど踏み込んでみれば、意外と立っていられるものだ。まるで台風の目にでもなったような気分で、心はカッカと燃えつつも、思っていたより頭は回る。
「羽付兎萌、お前もいいんだな?」
「だからフルネームで呼ぶなし。……ええ、けれど一つ条件があるわ。この場で葵とフルスパをしなさい。ただし、葵にはヘッドギアも脛当てもフル装備させること。葵もいいよね?」
「お、おう……いや、急にか?」
「なぁに、怖気づいちゃったかしら。頼りにしているわよ、王子様!」
さすがに予想していなかった展開にたじろいでいると、兎萌から背中を叩かれた。
毒づいた兎萌だったが、舞流戦は堂々と頬を緩めて見せるだけで、びくともしない。
葵は息を呑む。バチバチと散らされた火花は烈しく、その爆心地に割り込むことなど一切できずにいた。漁夫の利とはよく言うが、さしもの漁夫とて、暴れる蛤と鴫には関われない。まして素人の自分では、尚更だった。
そこへ、トイレの方からいつぞやのキザ眼鏡が戻って来た。
「ヘイ百目鬼サン? 私、彼氏ができたと伝えてくれって頼んだわよね?」
「そこの雑魚が本当に君の彼氏ならね」
「チッ、もう葵はうちのジムの仲間。雑魚呼ばわりは見過ごせないんですけどお?」
兎萌があごをしゃくれさせると、泰然自若としていた舞流戦が口を開いた。
「ほう? ならば正式に挨拶をしよう」
葵は、ぬっと立ち上がった彼と、不敵に眼鏡を直す百目鬼から囲まれてしまった。二人とも自分と同じくらいの身長だというのに、威圧感で縮んでしまいそうだ。
隣で目を光らせてくれている彼女のように口を開く余裕なんて、ない。こんな景色の前で、怪我をした足で、足を震わせることなく立っていたのか。こいつは。
「では、まずは僕から。改めまして、ヤンキーくん。山形市から来た、ジム『百目鬼』所属の百目鬼拳統王だ」
「同じく、釈迦堂舞流戦だ。憶えておけ」
「お、おう。川樋葵、っす。よろしく頼んます、先輩」
存外礼儀正しいのかもしれないと、戸惑いながらも握手の手を差し出す。だが、永遠にも感じられた一瞬の沈黙のおかげで、気付いてしまった。
こいつらは、手を握り返す気など、さらさらない。
「よろしくは頼まないよ? 君と慣れ合う気はないからね」
「オレの名は刻ませるが、貴様の名前など覚える気はない」
「なっ……」
文武両道とは、礼節とは、何なのかと問いたかった。あまつさえ拳統王は、こちらの硬直した手のひらを払い除けようと――するのも途中で飽きたように、手をだらりと下ろしていく。
さあっと、葵の頭から何かが引いていくのを感じた。
「どうしよう、俺こいつら嫌いだ!」
指をさして訴えると、兎萌は仕方なしにため息を吐いて、舞流戦へと向き直った。
「ねえ、釈迦堂くん。私にご執心なら、その私の『彼氏』にそんな態度とっていいの?」
「本当にそれが羽付兎萌の彼氏で、かつ、今後も関わることで有益な人間であればな」
にべもなく一蹴した舞流戦は、「フルネームで呼ぶな」を無視して、続ける。
「お前にこんな男は似合わん」
「面白い偏見ね。私に誰が似合うかは、私が決める」
「オレの女になれば、その考えも改まるだろうさ。オレなら、お前が見たい景色を見せてやる」
「お生憎様。私の見たい景色は、彼がテッペンを取るところなのよ」
「この素人がか?」
「ええ。とびっきり逸材のね」
初めて、舞流戦の目の色が変わった。相変わらず顔を向けることなく、視線だけでのものだったが、こちらの体を舐め回すように見てくる。
「階級は」
「そういえばまだ聞いてなかったわね。葵、体重何キロ?」
「健康診断の時は、六十八、だったけど……」
「あら、体型の割にけっこうあるのね。骨かしら。それともインナーマッスル?」
気恥ずかしさに歯切れが悪くなる。これが女子の気持ちか。だが職員室で兎萌は「五十一キロ」と、せめて一キロくらいのサバを読むこともなく、はっきり申告していた。自分は先ず、その辺りの恥じらいをかき捨てる必要があるのかもしれない。
制服の上から腹と背中をサンドイッチしてぺたぺた触れてくる兎萌を引き剥がしていると、舞流戦が静かな声で「絞れるな」と呟いた。
「一年以内に育て上げ、オレと勝負させろ。オレが勝った暁には、お前を貰う」
「へぇ。ルーキー相手に一年しか猶予を与えられないほど、『最強』サマは小心なのかしら?」
「高校を卒業してから参加する海外トーナメントに、お前をすぐ連れていくためだ」
葵は背筋に怖気を感じた。中学の部活で仲間と話していた「全国行こうね!」とはまるで格が違う。進出することは、釈迦堂舞流戦にとって決定事項。既にその後のことを見据えている。
だからこ着くことができる、高校生最強の座。眩いのは席ではなく、そこに座する肉体だ。
勝てるのか? いや、勝てるかどうか問うこと自体がおこがましいのかもしれない。少なくとも、留年撤回のために結果を残せればいいなどというお気楽さでは、届かない。
よく、何かを背負っている人は強いという。だが自分はどうだ。背負っているのは不必要なものばかりだ。留年も、髪の色も、我儘で噛みついているだけにすぎない。
犬が狼に一矢報いるためには、どうすれば――
「葵。こいつの誘いになんて乗らなくていいからね。自分のやるべきことだけを考えていて」
いつの間に兎萌の手が、こちらの手に重ねられていた。そこで葵は、自分が震えていたことを知った。
あたたかい温もりによって冷やされた頭が、彼女の言葉を咀嚼して、ふと、異物に気付く。
「どういうことだよ。一か月後、俺はこいつとも戦うことになるんだろ」
すると、兎萌は悲しそうな目をして、力なく首を振った。
「いいえ。私はこいつと違う階級で、あんたを優勝させるつもりだった」
「えっ……?」
「そんな軽蔑する目で見ないでよ。私だって、ズルいやり方だってのは分かってる。けど。まずは進級の問題をなんとかして、地力をつけるのが先。化け物に挑むのはその後の段階なの」
長年隠し続けていた嘘がバレたかのように、瞳を逸らす。
この目には見覚えがあった。父が危篤状態の時、もう助からないと分かっていて、何度も子供の自分に「大丈夫だから」と言い聞かせてくれた母と同じ目だ。
だからこそ、目の前の少女を責めることなんて、できやしなかった。
そんな葵の代わりに責め句の横槍を入れたのは、舞流戦だった。
「まさか、進級さえおぼつかないような男を見込んでいたのか、お前は」
「私のパートナーを馬鹿にしないでくれる? 確かにトチッてしまったけれど、自頭もあるし、ご両親想いの素敵な人よ。悪いのはうちの担任」
「ふん、どうだかな。かの羽付兎萌も、錆び付いてきたようだ」
鼻で笑うチャンピオンに、葵の震えがぴたりと止まった。
今、何つった? 羽付兎萌が、錆び付いた?
――そして今、私はも~~~れつに、ナンパをしてみたい心境になりました!
そういう体にしておちゃらけないと、照れてしまう、普通の女の子なんだよ。こいつは。
「錆び付いたと思うなら、そのまま嫌ってくれると嬉しいんですけどー」
「いや、むしろオレと来い。すぐにお前を磨いてやる」
「断・固・拒・否! 三歩下がって言いなりになってくれる女がいいなら、そういうサービスをする店の女の子でも呼んだら?」
――だから私も、先生の敵に回っただけのこと。以上、文句ある?
ああそうだ、そうだよな。セコンドがボクサーと共に戦うっていうんなら、ボクサーもセコンドと共に戦うのが筋だ。
「なあ、兎萌」
「何? ごめん、今ぶっちゃけ余裕ないから手短にお願い」
葵は深呼吸して、踏み込んだ。
自分が彼女とともに戦うボクサーになるために、必要な一歩を。
「俺がこいつに勝てばいいんだろ?」
「はあっ!?」
兎萌の絶叫に、ジム内の注目が集まる。状況を把握しようと伝搬するざわざわとした声が起こりはじめると、固まっていた彼女もようやく動きだした。
無理じゃねえのと言わんばかりに頭を振って――
いやでも案外悪くないんじゃねえのと思案の瞬きをして――
つってもなー危険だよなーと腕を組み、難しい顔をして――
そんな百面相も沈黙して、数秒。突然、兎萌が肩を震わせはじめたかと思うと、先刻の絶叫に劣らないくらいの大声で、笑いだした。
「ふふっ、ははは、あはははははっ!! うん、分かった。葵がそう言うなら、私を預ける!」
「ええと……俺が言うのもなんだけど、お前、正気か?」
「うん、なんか吹っ切れた。別に自棄になったわけじゃないよ?」
分かっているでしょう? と見上げてくる視線に、頷いて返す。
勝てるかどうか、じゃあないのだ。そこを問うことが愚かなのは、自分が素人だから。ならば、素人じゃなくなればいい。『最強』を笠に着たストーカー紛いの野郎には、自分がフリでもなんでもない、本物の『パートナー』になってみせればいい。
「釈迦堂くん。一年とはいわず、月末の大会で決めたげる」
そう言って、兎萌が松葉杖で壁際のポスターを指し示した。
大会『IDEHA』。東北大会である『BRAVE』の間を埋めるように企画された、山形県内の選手を対象に行われる大会らしい。
「僕に一発も当てられなかった雑魚が、一ヶ月? 頭がイッてしまったのかな」
「おけ、拳統王。身の程を知らない犬には、鞭打つしかなかろう」
言ってくれる。葵は歯噛みした。けれど、ようやくナンバーワン様がこちらを向いてくれたのだ。一介のワン公としては、存分に睨み返してやるのが礼儀だろう。
「言った言わないの無駄は勘弁だ、確認しておく。やるんだな?」
「ったり前だ。お前なんかに兎萌は渡さない」
視線が交差し、ぶつかったところで弾けとぶ。なるほど踏み込んでみれば、意外と立っていられるものだ。まるで台風の目にでもなったような気分で、心はカッカと燃えつつも、思っていたより頭は回る。
「羽付兎萌、お前もいいんだな?」
「だからフルネームで呼ぶなし。……ええ、けれど一つ条件があるわ。この場で葵とフルスパをしなさい。ただし、葵にはヘッドギアも脛当てもフル装備させること。葵もいいよね?」
「お、おう……いや、急にか?」
「なぁに、怖気づいちゃったかしら。頼りにしているわよ、王子様!」
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