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片時雨
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「やっと仲直りしたのかい」
慌てて2人同時に振り向くと、手にお盆を持った文さんが立っていた。その後ろでは、目を真っ赤にして震える源さんの姿もあった。
「どこから聞いてたんですか!」
源さんは、時々鼻をズズッとすすりながら話す。
「俺らはっ、なにもっ、聞いてないぞっ…!」
「いやいや、ジジイ。明らかに最初から聞いてただろ!もらい泣きしてんじゃねぇか」
「源二。いい年してメソメソするんじゃないよ。ったく」
「なぁんだよー!そういう文乃も目が真っ赤だろー!俺は見てたぜ」
「フン。うるさいね。黙りな」
恐らく2人には全部聞かれていたのだろう。今更ながら恥ずかしくなり、私は赤面する。
すると、玲が突然真剣な顔をする。
「なぁ、お前らに恭哉のことを話しておきたい。聞いてくれるか?」
誰もが無言で頷いた。
「俺はアイツを探して、1年間色々な所に行っていた。それで、分かったことがある。アイツは俺らの前から姿を消してから、ここから少し先の如月町にいたらしい」
「如月町って…。謎の妖とその手下に占拠されたって所?」
その噂はこの町でも耳にした。玲はコクリと頷いた。
「そうだ。どうやら如月町を占拠した妖は『憑鬼』って言う奴らしい」
ハッとする。昨日倒した妖の言葉を思い出した。
「その名前、私も聞いた。昨日倒した妖が消える直前に言ってたの。『お前など憑鬼様の手にかかれば…』って。まさか恭さんは…」
「そうだったのか?なら、この町にも手下が送り込まれているってことか…?あぁ。多分お前と同じことを俺も考えてる。雪。もしかしたらアイツは、憑鬼を倒そうとしていたのかもしれない」
確かに、妖退治屋として強大な力を持ち、妖から恐れられていた彼ならありえる。
「だが、憑鬼についても恭哉についても、それ以上のことは分からなかった。すまねぇっ!」
ガバリと玲は頭を下げる。そんな彼の背中に触れた。
「玲、顔上げてよ。大丈夫。なら、今度は2人で探そう。私たちは1人じゃない。文さんも源さんもいるから」
「…ありがとな…雪」
「そこまで分かったのなら上出来だよ。私はそう思うよ」
「ババア…」
「ああ。よくやったな!玲」
「ジジイ…」
文さんがゆっくりと口を開く。
「あんたらが、信じることを諦めないなら、恭哉は戻ってくるだろうよ」
源さんも横で大きく頷く。
「そうだぞ。アイツは絶対戻ってくる。嬢ちゃんと玲が信じる限り戻ってくる」
また、涙が零れてしまう。今日は泣いてばかりだ。そして小さく笑う。ぼんやりと透き通るような青空を見つめ、私はあの人を信じる決意をした。
ただただ、雨が降り続けていた。鉛色の空の下、雨は止まない。
『申し訳ありません。憑鬼様。夢魔鳥の一行はしくじったようです』
和服を着込んだ男が身体を震わし跪く。
カツン カツン 地面を叩く足音が男の前で止まる。
「そうか。やはりただ者では無かったか」
そして、男の手がぐしゃりと踏みつけられる。その首元には長い爪がギシリと食い込んでいく。
『がっ…は…うぁっ…』
「良いか?4日後の夜だ。4日後の夜にあの町へ向かえ。次こそ、退治屋の小娘と小僧を生け捕りにしろ。そして我の前に献上しろ。…同じ醜態をさらすのなら…。この首をへし折られると思え」
そして、無造作に手を離す。男は何度も咳き込みながらも必死に言葉を紡ぐ
『げほっ…ごほっ…。承知…致しました。憑鬼様っ…! 』
「…失せろ」
その言葉で、男は着物を翻す。するとその姿は蛇となり消えた。
憑鬼と呼ばれた存在は、くるりと踵を返し、豪奢な椅子に足を組み座る。廃墟に満ちた世界でその椅子だけが異端だ。
「さぁて。あいつらはどんな顔で我の前に現われるだろうな。…その時が心底楽しみだなぁ。宵風 雪。影山 玲」
慌てて2人同時に振り向くと、手にお盆を持った文さんが立っていた。その後ろでは、目を真っ赤にして震える源さんの姿もあった。
「どこから聞いてたんですか!」
源さんは、時々鼻をズズッとすすりながら話す。
「俺らはっ、なにもっ、聞いてないぞっ…!」
「いやいや、ジジイ。明らかに最初から聞いてただろ!もらい泣きしてんじゃねぇか」
「源二。いい年してメソメソするんじゃないよ。ったく」
「なぁんだよー!そういう文乃も目が真っ赤だろー!俺は見てたぜ」
「フン。うるさいね。黙りな」
恐らく2人には全部聞かれていたのだろう。今更ながら恥ずかしくなり、私は赤面する。
すると、玲が突然真剣な顔をする。
「なぁ、お前らに恭哉のことを話しておきたい。聞いてくれるか?」
誰もが無言で頷いた。
「俺はアイツを探して、1年間色々な所に行っていた。それで、分かったことがある。アイツは俺らの前から姿を消してから、ここから少し先の如月町にいたらしい」
「如月町って…。謎の妖とその手下に占拠されたって所?」
その噂はこの町でも耳にした。玲はコクリと頷いた。
「そうだ。どうやら如月町を占拠した妖は『憑鬼』って言う奴らしい」
ハッとする。昨日倒した妖の言葉を思い出した。
「その名前、私も聞いた。昨日倒した妖が消える直前に言ってたの。『お前など憑鬼様の手にかかれば…』って。まさか恭さんは…」
「そうだったのか?なら、この町にも手下が送り込まれているってことか…?あぁ。多分お前と同じことを俺も考えてる。雪。もしかしたらアイツは、憑鬼を倒そうとしていたのかもしれない」
確かに、妖退治屋として強大な力を持ち、妖から恐れられていた彼ならありえる。
「だが、憑鬼についても恭哉についても、それ以上のことは分からなかった。すまねぇっ!」
ガバリと玲は頭を下げる。そんな彼の背中に触れた。
「玲、顔上げてよ。大丈夫。なら、今度は2人で探そう。私たちは1人じゃない。文さんも源さんもいるから」
「…ありがとな…雪」
「そこまで分かったのなら上出来だよ。私はそう思うよ」
「ババア…」
「ああ。よくやったな!玲」
「ジジイ…」
文さんがゆっくりと口を開く。
「あんたらが、信じることを諦めないなら、恭哉は戻ってくるだろうよ」
源さんも横で大きく頷く。
「そうだぞ。アイツは絶対戻ってくる。嬢ちゃんと玲が信じる限り戻ってくる」
また、涙が零れてしまう。今日は泣いてばかりだ。そして小さく笑う。ぼんやりと透き通るような青空を見つめ、私はあの人を信じる決意をした。
ただただ、雨が降り続けていた。鉛色の空の下、雨は止まない。
『申し訳ありません。憑鬼様。夢魔鳥の一行はしくじったようです』
和服を着込んだ男が身体を震わし跪く。
カツン カツン 地面を叩く足音が男の前で止まる。
「そうか。やはりただ者では無かったか」
そして、男の手がぐしゃりと踏みつけられる。その首元には長い爪がギシリと食い込んでいく。
『がっ…は…うぁっ…』
「良いか?4日後の夜だ。4日後の夜にあの町へ向かえ。次こそ、退治屋の小娘と小僧を生け捕りにしろ。そして我の前に献上しろ。…同じ醜態をさらすのなら…。この首をへし折られると思え」
そして、無造作に手を離す。男は何度も咳き込みながらも必死に言葉を紡ぐ
『げほっ…ごほっ…。承知…致しました。憑鬼様っ…! 』
「…失せろ」
その言葉で、男は着物を翻す。するとその姿は蛇となり消えた。
憑鬼と呼ばれた存在は、くるりと踵を返し、豪奢な椅子に足を組み座る。廃墟に満ちた世界でその椅子だけが異端だ。
「さぁて。あいつらはどんな顔で我の前に現われるだろうな。…その時が心底楽しみだなぁ。宵風 雪。影山 玲」
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