夜明け待ち

わかりなほ

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はつしぐれ

少年の話 Ⅲ

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家に帰ってすぐ、自分の意志でパソコンを開き大学を調べる。検索語は「文系 植物を学べる大学」だ。いくつかの大学の園芸学部や農学部がヒットする。しかし、試験科目を見ると数学を避けては通れない。やはり理系へ向かう覚悟を決めなくてはダメだろうか。
画面をスクロールしていくと、森林学部を持つ大学が目に入った。さらに教授の名前に見覚えがある。
「この教授、キノコの研究を専門にしているって人だ…」
さらに見ていくと授業科目には森林カウンセリングというものがあった。詳細欄には「植物が人間に与える影響について学ぶ」とある。自分の学びたいことと合致している。だけどここからが重要だ。
試験科目のPDFを開く。丹念に隅から隅まで見て息を呑んだ。

英語と国語と日本史で試験が受けられる。
さらに取得可能な資格欄にも目を走らせる。司書資格欄にも丸が付いていた。
「ここなら、文系のまま挑戦できる…!」
俺は、そのまま手元に文理選択票を引き寄せた。

数日後、再び進路相談があった。担任の先生は心配そうだ。
「白川さん。文理選択票ですが日本史でしたね。園芸学部の方は諦めてしまったんですか?」
「いえ。諦めてません。ただ、植物関係のことが学べて文系科目で試験を受けられる別の大学を見つけたんです。すみません、先生、僕は理系に進める自信がやっぱりありません。でも自分の得意な文系科目で戦える道を見つけられたので、これで3年生からは頑張っていきたいんです」
「なるほど。…良かったですね。自分が戦える道を自分で見つけ出せたと言うことはとても大切なことですから。ではこれで預かりますね」
先生は安心したように微笑んでいた。

進路相談が終わり、ハヤトと帰る。
「アキラ。かなり文理選択迷っていたみたいだけど決まったの?何か顔が晴れ晴れしてる」
「うん。どっちも捨てなくて良い道が見つかった」
「そっか。良かったな」
「国語と日本史は自信あるけど英語はやっぱり自信ないんだよね。ハヤトは英語得意だろ?どうやって勉強してるの?」
「んー。俺は目に映った物を普段から頭ん中で英訳してるよ。例えばあそこに自転車に乗っている人が居るから『ride a bike』だなって具合に」
ハヤトの返答は如何にも頭が良い。さすがだと思う。前までは俺には真似できないって最初から実践しようとも思わなかっただろう。でも、俺のこれからは俺が決めなくてはいけない。分からないなら試してみるしかないだろう。
「ありがと。やってみるよ。今俺たちは花屋の前にいるから『we're in front of the flower shop. 』だな」
「そういうこと!」
ハヤトは嬉しそうに笑った。

ある日、部活を終えた俺は後輩と帰っていた。不意に後輩が口を開く。
「白川先輩は、もう文理選択終わったんですよね?」
「うん」
「理系か文系か決めるのって大変じゃないですか?僕は文系科目と理系科目のどちらも得意とかないし、大学でも特に行きたい学部とかないんですよ。でも今はIT系が盛り上がってるし、そっちに進むのが安泰かなと思ったり。それなら理系なんですかね」
「確かにそうかもしれないけど、とりあえずやりたいことを見つけてみる方が良いと俺は思うな。まだ時間あるし」
「ですよねー。でも、将来のこととか色々考えるの何か面倒くさくて」
「それは分かるなー。でも、本当に大事な所は、面倒でも自分自身で決めなきゃいけないと思う。自分の未来だから…」
後輩は、少し驚いた顔をした。
「…確かにそうですよね。そう言って貰えて嬉しいです。ありがとうございます」
俺の言葉に納得する後輩に慌てて訂正する
「あっ、いや。今言ったのは俺の考えじゃなくて…」
「誰かから言われたんですか?担任の先生とか?」
違う。先生ではない。だけど、誰か思い出せない。俺は取り繕うように笑う。
「あ、えっと、うん。そうなんだ。先生が迷ってた俺にそうやってアドバイスしてくれた」
「へー!白川先輩の担任の先生ってすごいですね。僕も2年になったらその先生がいいな。あ、じゃあ僕こっちなので。相談のってくれてありがとうございました!また学校で」
「うん。またな!」
そして後輩と別れた。


彼の姿を遠目に見つけた。後輩と進路のことで話しているようだった。
「それは分かるなー。でも、本当に大事な所は、面倒でも自分自身で決めなきゃいけないと思う。自分の未来だから…」
あぁ、その言葉を覚えていてくれたのかと嬉しくなった。
でも、きっと彼は俺のことは思い出さない。それで良い。訪れた人々が晴れやかな顔で立ち去っていくのを幾度となく見送り、良かったと心から思っていた。だけど、

友達との仲に悩み泣いていたあの子も。
消えない後悔を抱えて生きていたあの人も。
将来に悩み考えることすら諦めかけていた彼も。
初めて俺の力になりたいと言った、優しい彼女も。

全てこの手からこぼれ落ちて消え、最後には自分1人が取り残される気がしたのだ。
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