駄女神がいる日常~就職浪人してたが死んだら駄女神の旦那にされました。え、俺同意していないんだけど~

日向 葵

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第十七話~猫の獣人はミルクが好きっ~

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「おいしいミルクティーは、ミルクが命なのっ」

 サクレが突然叫びだした。しかも、俺が入れたミルクティーを飲みながら。こいつ、ふざけているのだろうか。

「ミルクっていうのはね、銘柄牛によって味も風味も違うの。ダーリンも知っているでしょう。牛乳を販売しているメーカーによって味が全然違うって。ミルクティーもそうなのよ。銘柄牛、牛乳のメーカー、その違いを吟味して紅茶に合うミルクを求める、それがミルクティーなのっ」

「つまりあれな」

「そうよ、ダーリン」

「俺が出したミルクティーがまずいって言いたいんだな」

「そう、まずいって、そうじゃないよっ! 違う、違うから怒らないでっ」

「別に怒ってない」

「怒ってる、絶対に怒ってるっ! 私もうダーリンのご飯がないと生きていけないの。だからご飯無しだけは……」

「いいよ、もうっ。とっておきのミルクを見つけてやるから」

 サクレに言われて、ちょっとだけプライドが傷ついた。
 このままじゃ終われない。俺が、俺が。

「とっておきのミルクティーを入れてやるんだからなーー」

「ちょ、どこ行くのよダーリンっ!」

 俺は、最高のミルクを求めて走り出した。ただ、いくら走ったとしても、だだっ広い転生の間から出れることはないんだけど。サクレから身を隠すことぐらいはできる。
 俺はサクレから見えない場所に行き、こっそりと牛を呼び出した。
 メインで呼び出した牛の種類はホルスタイン種。あの白に黒ぶち模様がある、こう、牛乳と言ったらこれでしょうというイメージがある牛だ。

 最高の牛乳を作って、あの駄女神をぎゃふんと言わせてやる。
 俺は牛の近くにより、腹の乳の下に来るようバケツを用意した。
 乳首を親指と人差し指で掴み、中指、薬指と指を閉じていき、乳を絞り出す。
 きっと変にやると牛もストレスを感じることだろう。あまり刺激を与えないよう、やさしくすることを心掛けながら、バケツに牛乳を注いでいく。

「ねぇ、何やってるの?」

 俺が牛乳絞りをやっていると、いつの間にか女の子が近くにいた。
 でも、その女の子は普通じゃない。人間にはないであろう猫の耳、家猫みたいな尻尾を生やした、12歳ぐらいの女の子。茶色っぽい髪色をしているし、品種は何なのだろうかと、馬鹿なことを考える。

「ねぇ、何をやっているの?」

 同じ質問をもう一度問われてしまった。もしかして、俺に聞こえていなかったとでも思っているのだろうか。でも視線向けたし……うーん。とりあえず、正直に話すか。

「牛乳を搾り取っているんだよ」

「牛乳?」

「えっと、うーん。ミルクを絞っているんだよ」

「ミルクっ!」


 猫耳の女の子はとてもいい笑顔を浮かべた。目をキラキラと輝かせながら俺を見る。

「私も、飲みたいっ」

 お、おう。俺は猫耳少女の勢いがすごすぎて逆に狼狽えてしまった。
 びっくりして、何も言えなかったが、とりあえず無言で搾り取った牛乳をカップに注いで猫耳少女に渡した。
 猫耳少女はカップを受け取り、すんすんと匂いを嗅ぐ。

「や、これいらない」

「な、なんでっ! 搾り立ての牛乳だよ。おいしいはずなのに……」

「その考えが間違っている。ミルクは搾ってから14日ほどたったものが甘みがましておいしいの。これもこれでおいしいけど……それと比べたら微妙ね」

「お、おう」

 心にグサッと来た。ミルクは新鮮なのが一番、搾り立てがうまいと思っていたのだが、そんな事実があったとは。俺もまだまだ勉強不足だなと感じた。

「なあ、俺と一緒に最高の牛乳、ミルクを追求してはくれねぇか」

「最高の、ミルク?」

「ああそうだ、俺には最高のミルクを飲ませてぎゃふんと言わせなきゃならない奴がいるんだ。俺のくだらないプライドの為だということはわかっている。だけどこのままじゃ終わりたくない。お願いだ、君の知識が必要なんだ」

「……いいよ、私でよければ力になる」

 それから、俺達のつらくも充実した日々が始まった。

「このミルク、甘味も濃厚さも全然ない、却下」

「くそ、もう普通の牛じゃダメなのか」

「だったらいいのがいる」

「いいのとは?」

「ミノタウロス」

「…………え」

「だから、ミノタウロス。あれのミルクは結構おいしい」

「ド畜生っ」

 なぜかミノタウロスのメスと戦うことになった。体が人間で頭が牛の化け物やん、そんなんからミルク搾るって、そりゃ無理だって。
 ちなみにミノタウロスから搾り取ったミルクはとても濃厚だった。でも、甘さは控えめかな。後、俺はミルクを絞ってません。一応体は人間だったから、ミルクを絞る作業は猫耳少女に任せました。

 ミノタウロスのミルク、これはいいかもしれない。この濃厚さが、紅茶やコーヒーに合う、そんな気がする。
 いけるんじゃないかと思って猫耳少女を見ると、渋い顔をしていた。

「この銘柄ミノタウロス、微妙な奴だ。とても濃厚で深い味わいがあるのだけど、甘味とかそういうのがない。料理向けの品種だ、これ」

「お、おう」

 またしても猫耳少女にダメだしされた。

「甘さも欲しいならアレがいいよ」

「アレ、とは」

「アウズンブラ」

「…………は?」

「アウズンブラ、早く」

「アイアイサー」

 なんか俺と猫耳少女の立ち位置おかしくねぇ。
 アウズンブラは、北欧神話に出てくる雌牛だった。神話級の牛なだけあって、口に含んだ瞬間に広がるさわやかな風味と強く強く感じられる甘味がとてもおいしい。
 何だろう、まるでデザートでも食べているかのようだ。
 猫耳少女の方をちらりと見る。
 猫耳少女はとても満足した表情をしながら3杯目を飲んでいた。
 どんだけおいしかったんだよ。

「ねえ、このミルク、何に使うの」

「おいしいロイヤルミルクティーに……」

「じゃあダメ」

「………………え」

「このミルク、普通に飲む分には最高だけど、紅茶やコーヒーに入れた瞬間、最高の風味が霧散するから、入れるのにお勧めしない。違うのがいい」

「例えばどんな奴がいいの」

「うーん、ベヒーモス?」

「待ってそれ、牛じゃないっ」

 ベヒーモスはカバか象だよ。絶対に牛じゃないからね。たまに猫キャラっぽく描かれているけど、あれは絶対に違うからねっ。
 少女にペースを崩されて、自分自身がキャラ崩壊しているが、最高のミルクを追い求めるのはやめられなかった。
 そして体感で2週間ほど経過して、ようやく作り上げることが出来た。

「やった、やったよっ」

「うん、すごく頑張った」

 俺たちが最終的に出した結論は、ブレンドすればいいんじゃねぇ、ということだった。
 だってどれもおいしいけど、結構偏った感じのものが多かったし、だったらコーヒーと同じように他のミルク同士を合わせた特性ブレンドを作ればいいんじゃねぇという結論に至ったわけだ。これでサクレをぎゃふんと言わせてやる。

「君のおかげで最高のミルクを作り出すことが出来たよ。ありがとう」

「どういたしまして。ところで、一つ聞いていい?」

「えっと、何かな?」

「ここどこ」

 ………………あ。
 この猫耳少女こそが、今回の迷える魂だった。
 仕事をしなくてはと思ったところで、俺はようやくサクレが今どうなっているのかを思い出す。
 そういや、ミルク作りをずっとしていて、あいつにご飯作ってないや。
 やばいと思い、猫耳少女を連れてサクレの元に行く。事情はまだ説明していない。
 サクレの元にたどり着くと、地面にうつぶせになって倒れている彼女を見つけた。

「サクレ、大丈夫か」

「う、うぅ、どこ行ってたのダーリン、私を捨てないでよ」

「ほんとゴメン、この子と一緒にミルクつくりを……」

 サクレは視線を猫耳少女に向ける。そしてクワッと目を見開いた。

「ま、まさか…………浮気?」

「いや違うから、今回の迷える魂だから」

「仕事になるといつも真面目になるダーリンが、迷える魂を私の元に案内しないなんてありえないわ。ねぇ、どういうこと? もしかして私、捨てられるの? 捨てられるんだ……ぐすん」

「ちょ、ま、泣くな、そうじゃないから、そうじゃないからっ!」

 この後サクレにちゃんと説明したら、納得してもらえた。ちなみに俺たちが馬鹿なことやっている間に、猫耳少女は俺たちが必死になって追い求めたミルクをすべて飲み干した。
 ゴメン、俺の分取っといてくれねぇかな、と思ったが、事情も説明せず、俺たちが話し合ったのが悪いのだから仕方がないとあきらめた。
 そして彼女は牛乳が有名な牧場の娘として転生することになる。
 立派な牛乳職人を目指してくれ。
 そしてサクレはというと……。

「ダーリン、お代わりっ」

「お前それ何杯目だ」

「15杯目っ。最近ずっと食べられなかったから、しっかり食べないと。ダーリン、もっとっ」

「ちょ、勘弁してくれよ」

 俺が大量の料理を作らされることになったのは言うまでもない。
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