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7つのくてくてと放浪の賢者
放浪の賢者、行き着く先は……_1
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まるで彷徨う何かが出てきそうな、不気味な雰囲気を放つシュプレッツ砦。それを前にしてヴィスたちは動きを止めてしまった。
それがこの雰囲気に飲み込まれて恐怖してしまったからではない。
確かに、シュプレッツ砦の廃墟っぷりはものすごいものがあるが、別の見方をすれば、歴史的な価値ありそうな、威厳のある雰囲気もあるように見える。
そんなシュプレッツ砦を目の前に、ヴィスたちが恐怖するわけがなかった。
アティーラはちょっと別かもしれないが、ヴィスとセーラにとってもへっちゃらなことだろう。
ヴィスたちが止まってしまった理由な別にあった。
「これ、どっから入ればいいんだ」
入口となる部分が完全にふさがれていた。最初っから入り口がない、という訳ではない。シュプレッツ砦には、入り口があったであろう痕跡があった。でも、その入り口も何か魔法的なものでふさがれたのか、完全に閉ざされて開けることも難しそうだ。ヴィスたちは頭を悩ませる。
「そういえば、この前見た時にじじいが空間移動みたいなことをしていたな。もしかして……あの空間転移的なことをしないと中に入れない的なことでもあるのか」
「そんなことがあったんですか! 師匠、どうしましょう」
「壊せばいいじゃない」
「「それだっ!」」
アティーラが当たり前のようにつぶやいた言葉に、ヴィスとセーラが称賛の声を上げる。褒められたアティーラはなんだか照れ臭そうに笑った。
セーラとヴィスの行動はあまり褒められたものでもないし、アティーラも、もうすこし女神としての自覚を持ってもらいたいところだ。歴史的建造物を壊すとは何事だろうか。
でもヴィスは基本的に目的を果たすためなら何でもやるタイプの男だ。ヴィスは腕をぐりぐりと大きく回した後、そっと拳を魔法的な何かでふさがれた入り口にそっと当てる。
「ふぅ~~~~~~~~~~、おりゃぁ!」
気の抜けた掛け声とともに、ゆっくりと腕を引いた。なのになぜか大きな衝撃音と共に、入り口をふさいでいた魔法的な何かに罅が広がり、瓦解した。
「よし、入り口は開いたっ! 行くぞ」
「ちょちょちょ、ちょっと待ってくださいっ! 師匠! 今の何ですかっ! どうやるんですか、こうですか? こうですか!」
「ぐほぉ、痛い、ちょ、やめて、セーラ、ちょっとやめてよっ!」
アティーラに拳を当てて動きを真似するセーラの目はとても輝いていた。その目は世界を救う勇者の冒険劇を見た後の男の子のようだった。
可哀そうなことに、巻き込まれたアティーラは涙目になっているが、そっとセーラから渡される少量のお金を受け取ると、殴られているのにとてもいい笑顔になった。
借金返済の為になんでもする。アティーラはそれほどピンチなのである。
まあ、この世界に殴られ屋なんてものはないので、アティーラが初めての開業者なのかもしれないが……。
そんな名誉があるとは知らず、アティーラはだらしなく笑う。笑いながら殴られるというかなりシュールな状況だ。
いつもなら気にしないヴィスも、この時ばかりは注意した。
「お前ら、もうちょっと気を張れ。この強大な気配を感じられないのかよ。もうすぐ最終決戦だというのによ」
「むむ、なるほど師匠。これは確かにすごい気ですね。いいや、魔力か……」
「え、ええ? どういうこと? 私は何にも感じられないんだけど」
アティーラのみ困惑していた。ヴィスとセーラは大きなため息を吐く。説明するのも無駄だと、視線で会話した後、ヴィスはアティーラに「ついてこい」と投げやり的に言った。
「ちょっとどういうことよ?」
「馬鹿野郎少し静かにしろよ。敵がすぐそこにいるんだよ」
「敵? 敵ってどういうこと。ちゃんと説明しぅう」
ヴィスはアティーラの口を手で押さえ、壁に押さえつけた。
「だからもう少し声を落とせって言ってんだよ借金女神。お前この状況分からないの? もうすぐ敵が現れて、くてくて争奪戦が始まるんだよ。くてくてを使って願いを叶えられるかどうかがかかっているんだ。お前も金が欲しいなら真面目にやれ。いいな」
ヴィスさんマジ怒りである。本気を出していなかったとはいえ、あのヴィスを簡単にあしらえるほどの実力者だ。今回の敵は油断できる相手じゃない。それが理解できないアティーラだったが、これ以上ヴィスを怒らせるとまずいと思ったのだろう。こくこくと頷き、ヴィスの言うことに従うことにしたようだ。
砦の中は薄暗く、埃が溜まっているような、悪い空気がした。セーラとアティーラは、顔をしかめて、口元を手で覆う。そんな場所にいても平然としているヴィスの姿は、なんだか頼もしいようにも見えて、セーラとアティーラの中でのヴィスの好感度がぐんぐん上がった。
進んでいくと、壁の中で何かが走っているような音が聞こえて来た。きっと壁の中にネズミでもいるのだろう。とっとっと、と走る音は、一つ二つではない。ある程度のネズミの群れがいるということは、聞こえてくる音で分かった。
ヴィスは少しだけ警戒を高める。屑野郎ではあるが、ヴィスはそこそこ名の知れた戦士だ。敵の陣地にいて、異様な音が聞こえてくればそりゃ警戒もするだろう。
ただ、温室育ちで人をとにかく殴りたいだけのセーラや、賭博が人生と語るアティーラはそうでもない。
不穏な音というものは、人に恐怖心を与える。それが現在ヴィスたちがいるような気味の悪い廃砦ならなおさらのことだろう。
いつもはいがみ合うセーラとアティーラだったが、この時ばかりは、互いに手を取り合い、身を寄せ合って、恐怖に体を縮ませながらゆっくりとヴィスの後をついていく。
「そんな怖がることなんてない。ここいらに現れる敵なんてこんなやつだけだ」
ヴィスが指差す方向にいる場所には、背徳的で冒涜的な姿をした、なんというか時間のたった血のように赤黒いゼリー状の何かに目のようなものがびっしりとついていて、当たりをぎょろぎょろと見回しながら体を引きずって進む、SAN値がゴリゴリと削られそうな生物がそこにいた。
「「何あれ気持ち悪いっ」」
この時ばかりはセーラとアティーラの気持ちが一致した。あの外見は、特に女性が嫌いそうな姿をしている。ぎょろぎょろと動くその視線が常に嘗め回すような、いやもしかしたらあの生物的には知的好奇心からしっかりと物事を観察しよとしているだけなのかもしれないが、それでも他者、特に女性が見たら嫌悪感を感じるだろう、不愉快で気持ちの悪い動きをしていたことには間違いない。
そんな生物を前にしても平然としているヴィスは、ある意味で凄い存在なのだろう。
「あれは……俺の知らない生物だな。何だアレ? とりあえず……殴るか?」
「お願いです師匠、あれに直接触れないでください。なんというか、師匠が汚されてしまうような気がするんです。あわわわわ、ダメ、ダメなんですよぅ」
涙目でセーラがヴィスにしがみついた。ここまで怯えるセーラを始めてみたビスが、大きくため息をはいた。ちなみにしがみついているのはセーラだけじゃない。アティーラもヴィスの首にしがみついている。ヴィスは屑男だがかなり名の知れた戦士だ。だからアティーラが首にしがみついたぐらいでどうのこうのなるわけではないが、通常の人なら首が閉まって大変なことになっていただろう。
「分かったよ。ったくもう」
そう言うと、ヴィスはどこからともなく剣を取り出した。
セーラとアティーラも、いつヴィスが剣を取り出したのか分からず、驚いた表情を浮かべる。
それに、ヴィスが持っている剣は市販で売られているような、そんな安っぽいものではなかった。見たものを魅了するほど美しく、吸い込まれそうなほど透き通っていて、神々しささえ感じられるほどの剣だった。
ヴィスが剣を軽く振るうと、赤黒い謎の生き物ごと、砦の壁を切り裂いた。
「おっと、あぶねえ。力加減間違えるところだった」
切ったはずなのに、敵は一瞬にして跡形もなく消え去る。がらがらとおとをたてて崩れる壁から、外の明かりが入って来て、薄暗くて気味の悪かった室内を照らした。
その明かりが、まるでヴィスたちを導いているかのように真っすぐ続いている。こうなったのは多分偶然だろう。だが、偶然だったとしても、ボスがいることに変わりはなかった。
照らされた明かりの奥、最終地点でほくそ笑む一人のご老人。
「ほっほっほっほ、よく来たのう、ご客人たち」
かつて賢者と呼ばれたとこの慣れの果てのような、黒く濁った眼をした男、放浪の賢者フェリズがそこにいた。
それがこの雰囲気に飲み込まれて恐怖してしまったからではない。
確かに、シュプレッツ砦の廃墟っぷりはものすごいものがあるが、別の見方をすれば、歴史的な価値ありそうな、威厳のある雰囲気もあるように見える。
そんなシュプレッツ砦を目の前に、ヴィスたちが恐怖するわけがなかった。
アティーラはちょっと別かもしれないが、ヴィスとセーラにとってもへっちゃらなことだろう。
ヴィスたちが止まってしまった理由な別にあった。
「これ、どっから入ればいいんだ」
入口となる部分が完全にふさがれていた。最初っから入り口がない、という訳ではない。シュプレッツ砦には、入り口があったであろう痕跡があった。でも、その入り口も何か魔法的なものでふさがれたのか、完全に閉ざされて開けることも難しそうだ。ヴィスたちは頭を悩ませる。
「そういえば、この前見た時にじじいが空間移動みたいなことをしていたな。もしかして……あの空間転移的なことをしないと中に入れない的なことでもあるのか」
「そんなことがあったんですか! 師匠、どうしましょう」
「壊せばいいじゃない」
「「それだっ!」」
アティーラが当たり前のようにつぶやいた言葉に、ヴィスとセーラが称賛の声を上げる。褒められたアティーラはなんだか照れ臭そうに笑った。
セーラとヴィスの行動はあまり褒められたものでもないし、アティーラも、もうすこし女神としての自覚を持ってもらいたいところだ。歴史的建造物を壊すとは何事だろうか。
でもヴィスは基本的に目的を果たすためなら何でもやるタイプの男だ。ヴィスは腕をぐりぐりと大きく回した後、そっと拳を魔法的な何かでふさがれた入り口にそっと当てる。
「ふぅ~~~~~~~~~~、おりゃぁ!」
気の抜けた掛け声とともに、ゆっくりと腕を引いた。なのになぜか大きな衝撃音と共に、入り口をふさいでいた魔法的な何かに罅が広がり、瓦解した。
「よし、入り口は開いたっ! 行くぞ」
「ちょちょちょ、ちょっと待ってくださいっ! 師匠! 今の何ですかっ! どうやるんですか、こうですか? こうですか!」
「ぐほぉ、痛い、ちょ、やめて、セーラ、ちょっとやめてよっ!」
アティーラに拳を当てて動きを真似するセーラの目はとても輝いていた。その目は世界を救う勇者の冒険劇を見た後の男の子のようだった。
可哀そうなことに、巻き込まれたアティーラは涙目になっているが、そっとセーラから渡される少量のお金を受け取ると、殴られているのにとてもいい笑顔になった。
借金返済の為になんでもする。アティーラはそれほどピンチなのである。
まあ、この世界に殴られ屋なんてものはないので、アティーラが初めての開業者なのかもしれないが……。
そんな名誉があるとは知らず、アティーラはだらしなく笑う。笑いながら殴られるというかなりシュールな状況だ。
いつもなら気にしないヴィスも、この時ばかりは注意した。
「お前ら、もうちょっと気を張れ。この強大な気配を感じられないのかよ。もうすぐ最終決戦だというのによ」
「むむ、なるほど師匠。これは確かにすごい気ですね。いいや、魔力か……」
「え、ええ? どういうこと? 私は何にも感じられないんだけど」
アティーラのみ困惑していた。ヴィスとセーラは大きなため息を吐く。説明するのも無駄だと、視線で会話した後、ヴィスはアティーラに「ついてこい」と投げやり的に言った。
「ちょっとどういうことよ?」
「馬鹿野郎少し静かにしろよ。敵がすぐそこにいるんだよ」
「敵? 敵ってどういうこと。ちゃんと説明しぅう」
ヴィスはアティーラの口を手で押さえ、壁に押さえつけた。
「だからもう少し声を落とせって言ってんだよ借金女神。お前この状況分からないの? もうすぐ敵が現れて、くてくて争奪戦が始まるんだよ。くてくてを使って願いを叶えられるかどうかがかかっているんだ。お前も金が欲しいなら真面目にやれ。いいな」
ヴィスさんマジ怒りである。本気を出していなかったとはいえ、あのヴィスを簡単にあしらえるほどの実力者だ。今回の敵は油断できる相手じゃない。それが理解できないアティーラだったが、これ以上ヴィスを怒らせるとまずいと思ったのだろう。こくこくと頷き、ヴィスの言うことに従うことにしたようだ。
砦の中は薄暗く、埃が溜まっているような、悪い空気がした。セーラとアティーラは、顔をしかめて、口元を手で覆う。そんな場所にいても平然としているヴィスの姿は、なんだか頼もしいようにも見えて、セーラとアティーラの中でのヴィスの好感度がぐんぐん上がった。
進んでいくと、壁の中で何かが走っているような音が聞こえて来た。きっと壁の中にネズミでもいるのだろう。とっとっと、と走る音は、一つ二つではない。ある程度のネズミの群れがいるということは、聞こえてくる音で分かった。
ヴィスは少しだけ警戒を高める。屑野郎ではあるが、ヴィスはそこそこ名の知れた戦士だ。敵の陣地にいて、異様な音が聞こえてくればそりゃ警戒もするだろう。
ただ、温室育ちで人をとにかく殴りたいだけのセーラや、賭博が人生と語るアティーラはそうでもない。
不穏な音というものは、人に恐怖心を与える。それが現在ヴィスたちがいるような気味の悪い廃砦ならなおさらのことだろう。
いつもはいがみ合うセーラとアティーラだったが、この時ばかりは、互いに手を取り合い、身を寄せ合って、恐怖に体を縮ませながらゆっくりとヴィスの後をついていく。
「そんな怖がることなんてない。ここいらに現れる敵なんてこんなやつだけだ」
ヴィスが指差す方向にいる場所には、背徳的で冒涜的な姿をした、なんというか時間のたった血のように赤黒いゼリー状の何かに目のようなものがびっしりとついていて、当たりをぎょろぎょろと見回しながら体を引きずって進む、SAN値がゴリゴリと削られそうな生物がそこにいた。
「「何あれ気持ち悪いっ」」
この時ばかりはセーラとアティーラの気持ちが一致した。あの外見は、特に女性が嫌いそうな姿をしている。ぎょろぎょろと動くその視線が常に嘗め回すような、いやもしかしたらあの生物的には知的好奇心からしっかりと物事を観察しよとしているだけなのかもしれないが、それでも他者、特に女性が見たら嫌悪感を感じるだろう、不愉快で気持ちの悪い動きをしていたことには間違いない。
そんな生物を前にしても平然としているヴィスは、ある意味で凄い存在なのだろう。
「あれは……俺の知らない生物だな。何だアレ? とりあえず……殴るか?」
「お願いです師匠、あれに直接触れないでください。なんというか、師匠が汚されてしまうような気がするんです。あわわわわ、ダメ、ダメなんですよぅ」
涙目でセーラがヴィスにしがみついた。ここまで怯えるセーラを始めてみたビスが、大きくため息をはいた。ちなみにしがみついているのはセーラだけじゃない。アティーラもヴィスの首にしがみついている。ヴィスは屑男だがかなり名の知れた戦士だ。だからアティーラが首にしがみついたぐらいでどうのこうのなるわけではないが、通常の人なら首が閉まって大変なことになっていただろう。
「分かったよ。ったくもう」
そう言うと、ヴィスはどこからともなく剣を取り出した。
セーラとアティーラも、いつヴィスが剣を取り出したのか分からず、驚いた表情を浮かべる。
それに、ヴィスが持っている剣は市販で売られているような、そんな安っぽいものではなかった。見たものを魅了するほど美しく、吸い込まれそうなほど透き通っていて、神々しささえ感じられるほどの剣だった。
ヴィスが剣を軽く振るうと、赤黒い謎の生き物ごと、砦の壁を切り裂いた。
「おっと、あぶねえ。力加減間違えるところだった」
切ったはずなのに、敵は一瞬にして跡形もなく消え去る。がらがらとおとをたてて崩れる壁から、外の明かりが入って来て、薄暗くて気味の悪かった室内を照らした。
その明かりが、まるでヴィスたちを導いているかのように真っすぐ続いている。こうなったのは多分偶然だろう。だが、偶然だったとしても、ボスがいることに変わりはなかった。
照らされた明かりの奥、最終地点でほくそ笑む一人のご老人。
「ほっほっほっほ、よく来たのう、ご客人たち」
かつて賢者と呼ばれたとこの慣れの果てのような、黒く濁った眼をした男、放浪の賢者フェリズがそこにいた。
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