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第九話『作ってみよう、漫画のご飯……後編』

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 僕と長原さんは買い物を済ませて、リーベルに向かった。お客さんに荷物を持たせるのも悪いから全部持とうとしたんだけど、長原さんは「いえ、私も持ちますから!」と譲ってくれなかった。
 うーん、ちょっとだけ悪い気もするけど、こう、家族でお買い物しているって感じがあるからちょっといいね。
 そんなことを思いながら歩くこと数分。リーベルにたどり着いたわけだが、家は真っ暗だった。

「ただいま~ってあれ? まだ誰も帰ってきてないのかな」

「おじゃましま~す。誰も居なさそうですね?」

「今日はみんな仕事関連で遅くなるって聞いているけど、夕飯前には帰ってくるよ」

「そうなんですか?」

「いつもそうだよ。学生としての本分を忘れず、家族の時間も大切にして、その上で好きな仕事をしているらしいから。
 でも、みんな締切前じゃなかったはずなんだけど……。今日はどうしたのかな?」

「水紋ちゃんは知らないんですか?」

「全部は知らないけど、たまに編集さんと打ち合わせをしているから。こうして料理を作りながら待っていると、お母さんになった気分になれて楽しいよ」

「はへ~、水紋ちゃんはすごいですね」

「はは、そんなにおだてても何も出ないよ」

 と言いつつ、すごいと言われてちょっと嬉しかったりする。お母さんか。男だから複雑な気分もするけど、自分の子供ができたらこんな気持ちになるのかな?
 今日もみんなが喜んでくれる、漫画のご飯を作ろう!
 ただし、赤まむしは入れないよ。

「あの、水紋ちゃん。これなんですか?」

「え、あ、えーっと……赤まむし?」

 きっと真麻ちゃんのだろう。用意周到だ。赤まむしと一緒にメモが置いてあり、そこには、『料理に使ってくださいね、むふふふふ』と書いてある。僕がこんなものを使うはずないのに。ほんと、真麻ちゃんには困ったものだ。

「水紋ちゃんは……その、えっと、赤まむしを使った料理をするんですか」

「え、使わないよ。てかもじもじしないで。そんな意図はないから!」

 はぁはぁ、なんたってこんな目に遭うんだ。後で真麻ちゃんにキツく言っとかないと。

「赤まむしは置いといて、早速料理を始めましょうか」

「は、はい!」

 さて、ブリ大根から作りますか。最初は僕がやるけど、これは長原さんに任せようかな。一緒に料理をするのは楽しいし、長原さんもなんだかやる気に満ちている。

 えっと材料はブリの切り身、大根、昆布、生姜、醤油、砂糖、お酒かな。

 まず、鍋でお湯を沸かして、小さく切ったブリの切り身をさっと湯通して冷水につけておく。
 改めて、大根が浸かるぐらいの水を鍋に入れて、大根を二十分ぐらい茹でる。

「長原さん、鍋を見ていてもらえる? 二十分ぐらい茹でたら、ブリを投入して、昆布、お酒、生姜を足して煮るの。
 必要な分量は用意してあるから、そのまま入れて大丈夫だよ」

「わ、分かりました。見ているだけでいいんですね。頑張ります!」

 なんか新鮮な光景だ。こう、初めてお手伝いしてくれる娘を見ているかのようだ。こんな考えをしているから、お母さんと言われてしまうんだと思うけど、まぁいいや。

 さて、ご飯もちょちょっと用意しておこうかな。

 土鍋にといだお米と水、日本酒を少々いれる。そんでもって強めの中火にかけて沸騰するまで待つ。
 日本酒入れると風味がますらしんだよね。この情報、漫画で初めて知ったよ。
 沸騰するまで時間かかるから、その間になめろうとかぼす締めさんまを作ろうかな。

 まずはなめろうから。新鮮なまさし君……じゃなくて、鯖を三昧に下ろす。骨と皮はしっかりと取り除くよ。
 切り身とみそ、大葉をまな板の上に乗せてトントンとたたく。

「それ、トントン、トントン、ヒノノニトン」

「み、水紋ちゃん……」

「あ、うん、ごめんね」

 あう、あの冷めた眼差しが心に来る。ちょっとした冗談だったのに……。きっとあのCMのせいだ! 絶対にそうだ!
 ……責任転換はやめよう。

「あ、あの水紋ちゃん。これからどうすればいいの?」

「ん、もう二十分立った?」

「うん。それでさっき言われたものを全部入れたんだけど」

「じゃあ、十五分ほど煮て、煮立ったら、アクを取ってくれる?」

「わ、分かりました!」

 うん、ブリ大根も順調そうだ。
 っと、ブリ大根も大事だけど、ご飯もちゃんとやらないと。吹きこぼれてきそうになったら弱火にして十三分ほど置いておく。

 これでご飯は大丈夫でしょう。ささっとなめろうを作らないと。といっても直ぐに終わるけどね。叩き終わったら酒、醤油、生姜汁で味を整えて、ネギを散らしたら出来上がり。まず一品完成だ。
 そして次に作るのが、かぼす締めさんま。
 ふふふ、生でも食べれる新鮮なさんまを用意した。
 っと、さんまに見とれていないで、先に締め酢作りをしないと。お酒とお酢に軽く火を入れて、鍋底を氷水にあてて急冷し、かぼすの絞り汁を加える。
 漫画のようにお酢を控えめにして作ってみたけど、本当にかぼすのいい香り。お酢自体匂いが強いので、入れすぎるとかぼすの匂いが死んでしまう。それだとやっぱりもったいないよね。
 締め酢を冷ましている間に、さんまをおろして塩をしっかりあてておく。うう、そういえばワタのことなんにも考えていなかった……なんてね。漫画でも同じようにどうしようって困っていたけど、最終的にワタみそというとっても美味しそうなものを作っていた。ついでだからそれも作ろうかな。

 まだ締め酢がさめるまで時間がかかるしね。
 ワタをざっと刻んで、少々お酒をあえてアルミホイルの上に乗せる。そんでもってオーブントースターでちょちょと焼く。
 刻みネギ、生姜、みそ、醤油で味を整えたら完成。
 あ、ご飯が炊けた。えっと、三十秒強火にして、火を消すってところか。その後どのぐらい蒸らすんだっけ?

「あの、水紋ちゃん。アクとりも終わったけど、次はどうしたらいいの?」

「えっと、醤油、砂糖、酒を足して十五分煮汁がなくなるまで弱火でじっくり煮込んで。それで完成だから」

「サー・イエス・サー」

 なんなん、そのノリ。僕にはついていけないよ。
 っと、ご飯は……確か十分ぐらいだったよね。うん、これで大丈夫なはず。あとはかぼす締めさんまだ。
 といっても、塩を落として締め酢につけるだけ。料理はほぼ完了。ブリ大根はどうなったかな?

「あの、水紋ちゃん。一応できたけど、大丈夫?」

「どれどれ、うん、大丈夫だよ。すっごく上手だ」

「ほんと! やった!」

 こう、喜んでいる姿を見ると、僕も嬉しくなる。きっと幸せな気持ちって広がっていくんだよ。

「ただいま~」

「あ、おかえり、菜乃華。ほかのみんなは?」

「もうすぐ帰ってくるけど……お客さんがいるの?」

「花梨のお友達だね。僕のお友達でもあるけど。彼女の家には誰もいないようだったからご飯に誘ってみた」

「ふ、ふ~ん。好きにすれば。ふん!」

 ツンツン菜乃華さんは自分の部屋に戻られてしまったようだ。
 口では嫌そうに言ってたけど、表情が嫌がっているふうに見えないんだよね。
 相変わらずの菜乃華さんだ。これだから学校でツンデレってからかわれているんだよ。それ言っているの僕だけなんだけどね。

 菜乃華が言ったとおり、みんなは直ぐに帰ってきた。
 長原さんも歓迎されて、楽しい夕食になった。
 長原さんが作ったブリ大根も好評だったし、かぼす締めさんまもなめろうも大好評。真麻ちゃんなんて、なくなったなめろうのお皿をぺろぺろと舐め始めたぐらいだ。
 あれがなめろうという名の由来か! と驚愕してしまったさ。漫画では諸説ありますって書いてあったし、過大評価されているだけなんだろうな~ぐらいしか思っていなかったけど、実際に見ると、こう、納得できる。
 あと、ご飯。毎日土鍋にしようとか言われて大変だった。さすがに毎日は大変だから回避したけどね。
 でも、なんだかんだで楽しい時間だった。



 お父さん、お母さん。あと、頭のおかしい姉。元気にしているかな?
 今日はみんなで楽しくご飯を食べたよ。作ったのは漫画に載っていたご飯。作ったご飯はみんなを笑顔にしてくれた。それだけで僕も幸せだ。
 あと、今日はリーベルメンバーにプラス一人、長原さんというお友達も一緒だったよ。
 僕と同じく両親が単身赴任なんだって。つい誘っちゃった。別に変な意味はないよ。
 でも、みんなで一緒に楽しい時間を過ごす、やっぱり家族って素晴らしいなって思った。
 今度の休みはいつなのかな? たまには帰ってきてね、お父さん、お母さん。
 あ、頭のおかしい姉は……帰ってきたら塩ぐらい投げつけてあげるね。
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