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公爵家ご令嬢は悪役になりたい!
31.どうしよう、何もしてない
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さて、裏方会議を行ってから数日が経ち、とうとうパーティー当日を迎えることになった。
アッシュと飛鳥に協力を求めたはいいのだが、結局パーティー当日まで何も起こらず、大した成果は得られなかった。
一番痛かったのは、裏方会議前にちょくちょく現れていた不審者野郎たちが一切現れなくなったことだ。
何かが起こるだろうという予想は出来るが、そう思うのは不審者が現れたというきっかけがあったからだ。
だから協力を求めたのだが、まさか現れなくなるとは思ってもいなかった。
飛鳥とアッシュに協力を求め、少しばかしシンシアの身の回りの警護を強化した。俺とアッシュ、そして飛鳥のいずれかが一緒にいれば、ある程度の敵に襲われたとしてもシンシアを逃がすことぐらいはできるだろう。
それがたとえ敵に魔王軍幹部が現れたとしても、だ。アッシュや俺なら討伐できるかもしれないし、飛鳥でも逃げることぐらいはできる。それに、シンシアもやわな育て方をしていない。やろうと思えばシンシアだけでも逃げることぐらいは可能である。
でもそれは、相手がチート級の能力を持っていなければの話だ。
世界は理不尽なもので、いつ何時に何が起こるかなんてわからない。想定しているよりも最悪なことが起きるなんてよくあることだ。
敵が想定よりも強かったなんて言い訳にしかならない。守れなければ意味がないのだ。
そう思って準備をしていたのだが、パーティー当日まで何も起こらずに来てしまった。
俺たちが警護を固める前はちょくちょくと得体のしれない男が来ていたのだが、それも突然ぱったりと来なくなってしまう。
それが逆に怪しいとも言えるのだが、相手のことについての情報が一切ないため、俺たちがどうのこうのすることができない。
それに、どこの誰かも分からないので調べることすら難しい。
あの得体のしれない野郎がいた時、リセとイリーナもいた。なので調査するために似顔絵を描いてもらったのだ。
俺には絵心がないのでリセとイリーナに期待したのだが、まあ、結果は予想通りというかなんというか。
イリーナは、見た目的な年齢に似合う可愛らしい絵になっていた。やばいのはリセだ。
これはいったい何だろう。口で言い表すのもおぞましい何かのように見える。
白い紙を冒涜するような黒と赤を強調させる、まるで悪意を紙の中に押しとどめたようなそれは、虫すら逃げ出した。
そんなものを作り出す彼女が少し寂しそうな笑みを浮かべて「私ね、虫にすら逃げられる女なのよ」という姿は、なんともいたたまれないものがあった。
こういう残念なところが彼女がずっとボッチだった原因なんだろう。それを見てなんと口にすればいいのか分からなかった俺は、とりあえず「元気に生きろ」とだけ伝えておいた。
そんなこんなで、俺たちは何とかシンシアへの被害を最小限に抑えようと対策を考えて行動していたわけだが、俺と飛鳥、アッシュを交えた裏方会議以降、そう言った怪しげな人物がいっさい現れなくなったのだから驚きだ。
そしてもう一つ問題が起こった。それは……。
「せ、先生っ! どうしましょう。私パーティの準備を何もしていませんでしたっ!」
慌てたようにあたふたとするシンシアに、ゼイゴが静かに写真をとりながら鼻血を垂らす。まあいつもの光景が、今はパーティーの準備を大急ぎでしなければいけない時。こんなふうに遊んでいる場合ではない。
というか、そば付きのメイドなんだからゼイゴは仕事しろとすら思う。
「大丈夫だ、俺達には頼もしい仲間がいるからな」
そう言って俺は、リセやイリーナ、そして飛鳥とアッシュに視線を向けると、一斉にそらされた。ちょっと待て、なんで反らすんだよ。反らすなよっ!
仲間に裏切られた俺は、ゆっくりとシンシアの方へ視線を向けると、彼女はなんというか、絶望しきった表情を浮かべていた。もう手はないと言わんばかりで、瞳には涙が溜まっている。罪悪感が湧いてくる状況ではあるのだが、そもそもパーティーというものに出たことがないので何をすればいいのかもわかっていない。
こんな状況でどうしろとっ! と嘆きたい気分にはなるのだが……。
そもそもパーティーの準備を今まで何もしてこなかったシンシアも悪い。そのことについて少し聞いてみた。
「なんでパーティーの準備をしていなかったんだ? 事前に知っていただろう?」
「そ、そうなんですが……」
シンシアは悪いことをした子供のように視線を逸らす。そして、とても悪いことをしてしまったかのようにぼそりと呟いた。
「剣術の修行を……そこの人としてたら忘れてました」
シンシアが指をさした方向にいた人物は……アッシュだった。こいついつの間に仲良くなっていたのだろうか?
「ちょ、待て、俺は悪くないっ」
悪いことをしたやつが言うセリフを堂々と吐くアッシュは慌てふためいて2、3歩後ろに後ずさる。何かやましいことをしていますという雰囲気がバリバリに感じられた。
『のじゃ、怪しい雰囲気がバリバリ感じられるのじゃっ! 夜の授ーー』
「やかましいっ!」
俺はのじゃロリを小突いて黙らせる。もう少し強くしても良かったのだが、ロリ声であーだこーだ言われると、心に来るものがある。
それに、のじゃロリのせいで何度もひどい目に遭っているからな。ここは警戒して奥に限る。
「まあいい。アッシュが犯人だとしても、それで現状どうなるかと言われたら、何もならないだろう。だからこそ、今はこの現状をどうにかしなければいけないのかっていうのを考えなければならないんじゃないのかっ」
真面目腐ったことを言ってみると、訝しげな視線を向けられる。なぜそんな目線を向けられるのか、よくわからない。
「主殿には……前科があるの」
「え、やっぱり。私もそうじゃないかと……」
リセとイリーナがこそこそと話し始め、その話に耳を傾けたシンシアが、一気に顔を真っ赤にさせる。恥じらうかのように頬に手を当てて、上目遣いで一瞬だけこちらに視線を向けた後にさっと視線をそらされた。
あの二人はいったいどんな話をしているんだか。気になるのだが、あんな反応をされると聞くに聞けない。
グダグダとしていて何も進まない状況に陥った俺たちは、マジでどうしようと本気で悩み始める。多分、本気で悩んでいるのは俺だけで、アッシュは特に何も気にせず、リセとイリーナとシンシアは仲良く全然違うことを話し合っているみたいだが、きっと気のせいだろう。本気でどうしようか考えているに違いない。何せこの問題はシンシアの問題だからな。本人が何も考えていないとか、そんなことあるはずがない。
それでも先ほどまでの悲しそうな表情とは違って楽しそうに談笑する姿は、ある意味でほほえましい光景だった。
そして何か結論が出たのか、こちらに寄って来て笑顔で言った。
「もうドレスもないので制服で出ますっ! よくよく考えたら、服の指定なんてないので制服で全然OKらしいのでっ」
それでいいのかお嬢様、と思ったがあえて口には出さない。シンシアが問題ないというのだから、もうそれでいいだろう。実は準備していたんだろう、こっそりとドレスを持ってきて、さあ前に出ようとしたところで固まっているゼイゴの姿はちょっと哀れというかなんというか。でも準備していたのに何も言わなかったあいつが悪いとも思う。要は自業自得だ。
悪役令嬢になりたいと言っていたシンシアが制服参加って、ちょっと違うような気もするが、俺たちの目的はシンシアがまっとうな学園生活を送ることであり、悪役令嬢に仕立て上げることじゃない。そこをあえて指摘しなくてもいいだろう。
何の準備もなくこの時を迎える状態になってしまったが、パーティーは無事に終わるだろうかという心配もあるが、きっとなるようになるだろう。
「んじゃ、とりあえず会場にでも行くか」
俺が一言いうと、シンシアやリセ、イリーナが元気よく挨拶して俺の後ろをちょこちょことついて来た。
そんな俺を見てアッシュが言う。
「お前、異世界の図鑑で見たことのあるカルガモの親子みたいだな」
「うるせぇ」
アッシュの言葉でさらに不安になった。本当に大丈夫なんだろうか。
アッシュと飛鳥に協力を求めたはいいのだが、結局パーティー当日まで何も起こらず、大した成果は得られなかった。
一番痛かったのは、裏方会議前にちょくちょく現れていた不審者野郎たちが一切現れなくなったことだ。
何かが起こるだろうという予想は出来るが、そう思うのは不審者が現れたというきっかけがあったからだ。
だから協力を求めたのだが、まさか現れなくなるとは思ってもいなかった。
飛鳥とアッシュに協力を求め、少しばかしシンシアの身の回りの警護を強化した。俺とアッシュ、そして飛鳥のいずれかが一緒にいれば、ある程度の敵に襲われたとしてもシンシアを逃がすことぐらいはできるだろう。
それがたとえ敵に魔王軍幹部が現れたとしても、だ。アッシュや俺なら討伐できるかもしれないし、飛鳥でも逃げることぐらいはできる。それに、シンシアもやわな育て方をしていない。やろうと思えばシンシアだけでも逃げることぐらいは可能である。
でもそれは、相手がチート級の能力を持っていなければの話だ。
世界は理不尽なもので、いつ何時に何が起こるかなんてわからない。想定しているよりも最悪なことが起きるなんてよくあることだ。
敵が想定よりも強かったなんて言い訳にしかならない。守れなければ意味がないのだ。
そう思って準備をしていたのだが、パーティー当日まで何も起こらずに来てしまった。
俺たちが警護を固める前はちょくちょくと得体のしれない男が来ていたのだが、それも突然ぱったりと来なくなってしまう。
それが逆に怪しいとも言えるのだが、相手のことについての情報が一切ないため、俺たちがどうのこうのすることができない。
それに、どこの誰かも分からないので調べることすら難しい。
あの得体のしれない野郎がいた時、リセとイリーナもいた。なので調査するために似顔絵を描いてもらったのだ。
俺には絵心がないのでリセとイリーナに期待したのだが、まあ、結果は予想通りというかなんというか。
イリーナは、見た目的な年齢に似合う可愛らしい絵になっていた。やばいのはリセだ。
これはいったい何だろう。口で言い表すのもおぞましい何かのように見える。
白い紙を冒涜するような黒と赤を強調させる、まるで悪意を紙の中に押しとどめたようなそれは、虫すら逃げ出した。
そんなものを作り出す彼女が少し寂しそうな笑みを浮かべて「私ね、虫にすら逃げられる女なのよ」という姿は、なんともいたたまれないものがあった。
こういう残念なところが彼女がずっとボッチだった原因なんだろう。それを見てなんと口にすればいいのか分からなかった俺は、とりあえず「元気に生きろ」とだけ伝えておいた。
そんなこんなで、俺たちは何とかシンシアへの被害を最小限に抑えようと対策を考えて行動していたわけだが、俺と飛鳥、アッシュを交えた裏方会議以降、そう言った怪しげな人物がいっさい現れなくなったのだから驚きだ。
そしてもう一つ問題が起こった。それは……。
「せ、先生っ! どうしましょう。私パーティの準備を何もしていませんでしたっ!」
慌てたようにあたふたとするシンシアに、ゼイゴが静かに写真をとりながら鼻血を垂らす。まあいつもの光景が、今はパーティーの準備を大急ぎでしなければいけない時。こんなふうに遊んでいる場合ではない。
というか、そば付きのメイドなんだからゼイゴは仕事しろとすら思う。
「大丈夫だ、俺達には頼もしい仲間がいるからな」
そう言って俺は、リセやイリーナ、そして飛鳥とアッシュに視線を向けると、一斉にそらされた。ちょっと待て、なんで反らすんだよ。反らすなよっ!
仲間に裏切られた俺は、ゆっくりとシンシアの方へ視線を向けると、彼女はなんというか、絶望しきった表情を浮かべていた。もう手はないと言わんばかりで、瞳には涙が溜まっている。罪悪感が湧いてくる状況ではあるのだが、そもそもパーティーというものに出たことがないので何をすればいいのかもわかっていない。
こんな状況でどうしろとっ! と嘆きたい気分にはなるのだが……。
そもそもパーティーの準備を今まで何もしてこなかったシンシアも悪い。そのことについて少し聞いてみた。
「なんでパーティーの準備をしていなかったんだ? 事前に知っていただろう?」
「そ、そうなんですが……」
シンシアは悪いことをした子供のように視線を逸らす。そして、とても悪いことをしてしまったかのようにぼそりと呟いた。
「剣術の修行を……そこの人としてたら忘れてました」
シンシアが指をさした方向にいた人物は……アッシュだった。こいついつの間に仲良くなっていたのだろうか?
「ちょ、待て、俺は悪くないっ」
悪いことをしたやつが言うセリフを堂々と吐くアッシュは慌てふためいて2、3歩後ろに後ずさる。何かやましいことをしていますという雰囲気がバリバリに感じられた。
『のじゃ、怪しい雰囲気がバリバリ感じられるのじゃっ! 夜の授ーー』
「やかましいっ!」
俺はのじゃロリを小突いて黙らせる。もう少し強くしても良かったのだが、ロリ声であーだこーだ言われると、心に来るものがある。
それに、のじゃロリのせいで何度もひどい目に遭っているからな。ここは警戒して奥に限る。
「まあいい。アッシュが犯人だとしても、それで現状どうなるかと言われたら、何もならないだろう。だからこそ、今はこの現状をどうにかしなければいけないのかっていうのを考えなければならないんじゃないのかっ」
真面目腐ったことを言ってみると、訝しげな視線を向けられる。なぜそんな目線を向けられるのか、よくわからない。
「主殿には……前科があるの」
「え、やっぱり。私もそうじゃないかと……」
リセとイリーナがこそこそと話し始め、その話に耳を傾けたシンシアが、一気に顔を真っ赤にさせる。恥じらうかのように頬に手を当てて、上目遣いで一瞬だけこちらに視線を向けた後にさっと視線をそらされた。
あの二人はいったいどんな話をしているんだか。気になるのだが、あんな反応をされると聞くに聞けない。
グダグダとしていて何も進まない状況に陥った俺たちは、マジでどうしようと本気で悩み始める。多分、本気で悩んでいるのは俺だけで、アッシュは特に何も気にせず、リセとイリーナとシンシアは仲良く全然違うことを話し合っているみたいだが、きっと気のせいだろう。本気でどうしようか考えているに違いない。何せこの問題はシンシアの問題だからな。本人が何も考えていないとか、そんなことあるはずがない。
それでも先ほどまでの悲しそうな表情とは違って楽しそうに談笑する姿は、ある意味でほほえましい光景だった。
そして何か結論が出たのか、こちらに寄って来て笑顔で言った。
「もうドレスもないので制服で出ますっ! よくよく考えたら、服の指定なんてないので制服で全然OKらしいのでっ」
それでいいのかお嬢様、と思ったがあえて口には出さない。シンシアが問題ないというのだから、もうそれでいいだろう。実は準備していたんだろう、こっそりとドレスを持ってきて、さあ前に出ようとしたところで固まっているゼイゴの姿はちょっと哀れというかなんというか。でも準備していたのに何も言わなかったあいつが悪いとも思う。要は自業自得だ。
悪役令嬢になりたいと言っていたシンシアが制服参加って、ちょっと違うような気もするが、俺たちの目的はシンシアがまっとうな学園生活を送ることであり、悪役令嬢に仕立て上げることじゃない。そこをあえて指摘しなくてもいいだろう。
何の準備もなくこの時を迎える状態になってしまったが、パーティーは無事に終わるだろうかという心配もあるが、きっとなるようになるだろう。
「んじゃ、とりあえず会場にでも行くか」
俺が一言いうと、シンシアやリセ、イリーナが元気よく挨拶して俺の後ろをちょこちょことついて来た。
そんな俺を見てアッシュが言う。
「お前、異世界の図鑑で見たことのあるカルガモの親子みたいだな」
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