稼業が嫌で逃げだしたら、異世界でのじゃロリ喋る妖刀を拾いました

日向 葵

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稼業が嫌で逃げたらそこは異世界だった

18.ゴブリンを狩る生活

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「GAAAAAAAA……GA……‥‥…」

「これで932体目っと。一体いつになったら終わるのやら」

 俺たちのパーティーはゴブリン退治に勤しんでいた。数日、いや、数週間、ん、数か月前だっただろうか。とある村で飛鳥と出会った。そこで大量発生しているゴブリンの情報を貰い、二人で分担して全部撃破する計画を立てた。正直ゴブリンなんて大した敵じゃない。現代の鬼の最弱クラスよりも弱いくらいだ。現代の鬼なんて、最弱クラスでも自然災害クラスの脅威になるからな……。
 ゴブリンの強さは置いておいて、俺たちは飛鳥達と別れて各地を回り、ゴブリンを退治している。
 いや、にしても助かった。このゴブリン退治、お金が出るらしくて本当に助かった。
 ま、お金くれっていったの俺なんだけどな。

 それを言った時の飛鳥のお供の顔と来たら、すごくひどい顔だった。まるで俺に無償で働けと言っているみたいだ。でも俺は飛鳥のように優遇されている分けじゃない。金をもらわなければ、生活ができない。その点をちゃんと説明しても、あのお供達は勇者様の為に働けるなんて光栄だとか何とか言ってたがな。
 殺す気かって言ったら飛鳥にボコられていた。ざまぁ。

 そんなわけで俺たちは仕事としてゴブリン退治に勤しんでいる。いやー、ゴブリン退治大変だなー。

「ねえ諸刃、そろそろ飽きたんだけど。遊ばない?」

『そうじゃそうじゃ、もっと儂たちを甘やかさんか。儂なんてずっとゴブリンを切り続けているのじゃぞ。そろそろ手入れの一つあってもいいと思うんじゃが……』

「いや、のじゃロリに人権ないし。錆びない、折れない、手入れがいらないが売りのお前を手入れするって頭おかしいだろうって思うんだけど……」

『扱いが酷いのじゃっ!』

 のじゃロリは適当にあしらっておいて、確かに最近ずっと戦い続けて来た。相手はゴブリンだけだけど、受けた依頼を片っ端から片付けて来たからな。ここらで一息ついてもいいだろう。

「最近ずっと働いてたしな。そろそろ休憩してもいいかも。あとどれぐらい依頼って残ってるの」

 残りの数ぐらい確認してから休まないとな。

「えっと、あと一つ、次で最後だね」

「じゃあ休暇は全て終わらせてからにしよう」

「えー」

『諸刃、それはないと思うのじゃ』

「俺はお前ら二人の考えの方がないと思うよ。ん、意志をもつ刀も一人でいいのか? あれ、どっちだ。まあいいや」

『そこはあきらめちゃだめだと思うんじゃがっ!』

「うるせぇ」

『のじゃあああああああああああああああ』

 いつものようにのじゃロリを地面にたたきつけ、拾い上げる。悶絶するロリ声。なんか悪いことをやっている気にもなるんだが、しょせんは刀、しょせんはのじゃロリと思うことで平常心を保っている。うん、のじゃロリだからやっていいよねっ!

『き、鬼畜なのじゃ。鬼畜の諸刃さんなのじゃ……』

「別に鬼畜がどうのはどうでもいいけどさ、次が最後なんだろう。終わらせてから休んだ方が気持ちが楽になると思うんだけど」

 俺がそう言うと、リセがゆっくりと首を振る。そして「ふっ」と鼻で笑ってきた。いや、意味わかんないんだけど。

「最後の一つだからこそ、事前に休みを入れて、万全の態勢で臨むものなのよ。女神な私が諸刃に告げてあげる。女神のお告げ、メガ告げよっ!」

「あ、うん、どうぞどうぞ」

 女神のお告げがどうしてメガ告げなんだよ。てかメガ告げってなんだよと思ったが、今度こそ口に出して言わなかった。俺、成長している。

「これまでずっと戦ってきたわ。毎日毎日ゴブリンを切って切って斬りまくっていたわ」

「まあ、切っていたのは俺だけどな」

「きっと諸刃は疲れてるはずよっ! そうに違いないわ」

「いや、俺はまだ全然、この通り動けるぞ。というか何をもって俺が疲れると思ったのか教えてほしいんだけどな」

「だから休息は必要なの。あと一つと侮って怪我でもしたらどうするのよ。女神が悲しむわっ」

『儂は喜ぶがな』

 ちょっと余計な言葉が聞こえた気がする。のじゃロリは相変わらず俺のことが嫌いらしい。
 まあでも、リセの言い分もなんとなくわかる。要はずっと戦ってきたからそろそろ休息を入れろ。最後は万全の状態で挑め。疲れて死んだらどうする、と言うことを言いたいわけだな。

「とは言ってもな……あの程度の敵、いくら倒したところで疲れるわけないんだが……」

「いいえ、疲れているはずだわ。諸刃にとってゴブリンは雑魚かもしれないけど、それなりに移動しているのよ。そろそろ体の汚れを落として綺麗になりたいはずだわ」

 ああ、本音はそこか。要は風呂に入りたいんだな。確かに、宿にも止まらず野宿続きでゴブリンを退治してきた。多少血を浴びた時も、川の水で軽く流すだけで終わっていた。こんなの鬼狩り時代はしょっちゅうだったので気にもしていなかったが、この世界の冒険者は違うらしい。ある程度身だしなみに気を遣うし、綺麗好きでもある。そういう文化、俺の世界の鬼狩りたちにも欲しかった。

「確かに、風呂に入りたい。このよごれきった体を綺麗にしたい」

けがれたの間違いだと思うのじゃが。ゴブリンの血をバンバン浴びて、きっと魂が呪われているのじゃ』

 余計なことをいうのじゃロリに、この前買った調理器具用洗剤をぶちまける。

『のじゃあああああああ、綺麗になっちゃうのじゃああああああ』

 いや、綺麗になると叫ばれるっておかしいよな。あれ、俺が間違っているのだろうか。
 …………いや、のじゃロリがおかしい。

「いいなー。私もきれいになりたい」

 そう言って、リセは両手を広げた。さぁこいと言わんばかりの表情を見て、俺はげんなりする。今のリセは、あれだ。洗剤かけられたい系女子とでもいえばいいのだろうか。
 そんな女子いたら引くわ。

「きれいになりたいなら風呂に行け。洗剤かけられようとするな」

「えー、でもー、諸刃が連れて行ってくれないし~」

「分かったよ、最後の村にたどり着いたらお前だけ休憩していいから。きれいになって来ていいから。それで我慢しろ」

 そう言って俺が先に進もうとすると、リセが俺の腰あたりにしがみついて来た。
 涙目になりながら、俺のことを上目づかいで見つめてくる。

「いや、捨てないで。私を一人にしないで」

「いや、お前いても何も変わらないから、俺だけ仕事してくるからって意味。お前を捨てたりしないって」

「嘘よ、絶対に嘘っ。そう言って皆私を捨ててきた」

「ああもう、どうせ風呂入る時も別れるんだからちょっとぐらい良いだろう」

「なんで、なんで別れるのよっ」

「男女で風呂が別々になっているからだよ! 俺は男。お前は女。そんなの分かりきってることだろう」

「一緒に入ればいいじゃないっ」

「恥じらいを持てよ!」

 寂しいから風呂までついて来ようとするなんて、どんだけボッチだったんだよ。というか、風呂入ってる間に捨てられるって、結構壮絶な人生を歩んできたんだなこいつ。
 あれ、こんな美人と一緒に風呂って、男的にはおいしい状況な気もするが……。
 それを考えた瞬間に背筋がゾクッとした。
 やっていいことと悪いことがある。こんな人の弱みにつけこんですることじゃない。誠実にいこう、誠実に。
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