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稼業が嫌で逃げたらそこは異世界だった

14.どうやら頭のおかしい奴がいるらしい

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 ゴブリン退治をすることに決めた俺たちは、早速コノ村に行くべく行動を開始した。

『のう、本当にこのままコノ村に行って大丈夫なんじゃろうか。不安じゃなのう』

「気にするな、ノリと勢いで突っ込めば大抵なんとかなる」

『いや、土地勘のない場所で戦闘するのにノリと勢いとか関係ないじゃろう。下手して大怪我して死の淵をさまように決まっておる。まずは旅支度を整えて、どんな状況に陥っても生存できるよう準備するのが普通じゃろう。諸刃は馬鹿じゃのう』

「なんかのじゃロリにまじめなこと言われたっ!」

『そこは驚くことじゃないのじゃっ!』

 俺はずっと、のじゃロリのことを魚を捌くことにしか使えない馬鹿な刀だとずっと思っていたんだが……もしかしてこいつ、優秀なのか。なんて考えてみたけど、あほらしい。ゴブリンってあれだろ。洞窟で戦ったやつ。あれを狩るぐらいなら全然余裕だね。今までの経験上、あれぐらいならどんな場所でも討伐できるねっ!

『全部声に出ているのじゃ……。のじゃあああ、儂はそんな風に思われておったのか。なんか悲しいのじゃああああ』

「あ、諸刃っ。旅支度は私が全部整えてあるから大丈夫だよ。なんたって女神だから、そこら辺は完ぺきなの」

 そう言ってリセが俺に頭を差し出す。もしリセに尻尾があるなら、盛大に振っていたことだろう。何も言ってないのに、撫でてと言われているような気がする。のじゃロリは『なんか全て取られたような気がするのじゃあああ』と嘆いているが、気にすることはないだろう。
 俺がなかなか撫でて褒めてあげなかったせいか、上目遣いでこっちを見て、「うぅ~」とうなっている。ちょっとだけ目が潤んでいるせいで、俺がいじめているような構図が生まれた。

「ねぇ見てアレ。きっとあの男が女の子を虐めているに違いないわ」

「きっとそうよ。あの子、泣いているもの」

「あの男、よく見るとブサイクね。ヒモなんじゃないかしら」

「あら、私は良い男だと思うけど。痛めつけた時にどんな表情をするのかしら」

 三秒間ぐらい目を閉じて心を無にし、リセの頭をそっと撫でる。撫でられたリセは子犬のように喜んでいた。それを見た周りの人間は「「「っち」」」と盛大な舌打ちをしたが、気にしないことにする。
 一人だけ「違う、そうじゃない、痛めつけるのよ。その男の泣き顔が、見たいのよっ!」と言っている奴、あいつ頭おかしいんじゃないかな?

『ほれ、痛めつけられんか。儂がいつもやられていることをやられんかっ! この、大馬鹿者っ』

「なんで俺怒られてんのっ!」

 理不尽に言ってくるのじゃロリにイラっと来たのでたたきつけておいた。こいつ、虐められたくてわざとやってるんじゃねぇだろうなと思ってしまう。こいつの心なんて分からないから確かめようがないんだけど。

「とりま準備ができているということで、早速出発するか」

「うん、あ、荷物は私が全部持つよ。諸刃は、その、敵が来た時に私を守ってね。私、戦えないからっ」

「いやいや、全部持たせるわけにはいかない。俺がろくでもない男みたいじゃないか」

「いいのいいの。私、戦えないもの。これぐらいやらせてっ」

「いやいや俺が」

「大丈夫、私が」

『いやはよ行かんか。痴話げんかは後でやるのじゃ』

 ……のじゃロリに正論を言われてちょっとだけ悔しかった。



 シロウトの町を出て数刻後。俺たちはコノ村にたどりついた。

「ようこそ、ナン村へ。何もないところですが、楽しんでいってください」

「は? ここはコノ村じゃないのか」

「コノ村は先週の名前ですよ。今週は『なんで私のことを見てくれないの』なのでナン村になりました」

 週ごとに村の名前が変わるって頭おかしいよな。どうやって管理してるんだよ。というか、このシステム非合理的じゃね。無駄が多すぎる……。
 と、心の中で愚痴ってみるが、それを気にしていてもしょうがない。

『諸刃、すべて口に出ているのじゃ』

「確かに、毎週変わる村の名前、とてもめんどくさいって思ってた」

「……恥ずかしい、もう消えてしまいたい」

 思ったことが口に出てしまうって、地味に恥ずかしいな此畜生っ。
 気を取り直して、俺たちは村の長がいる集会所に向かうことにした。向かうことにしたのだが、いくら探しても見つからない。試しに村の人に事情を説明して聞いてみるが、皆「さぁ」としか答えてくれなかった。さぁってなんだよ、さぁって……。村長がどこにいるのか分からないと、ゴブリンに対しての情報が得られない。
 あれ、なんで俺、ゴブリン盗伐前に苦労してるの? おかしくね?

「ったく、村長どこにいるんだよ。ゴブリンの話聞かないとクエストできないじゃん…………」

『諸刃よ、感覚を研ぎ澄ますのじゃっ』

「は? お前何言って……」

「分かったっ」

「ちょ、リセ?」

 最近、のじゃロリとリセが通じ合っているような気がする。あれか、頭のおかしい奴と寂しがりやは通じ合う的なことでもあるのだろうか。

「みつ、けたっ」

「嘘だろっ!」

 額から汗を垂らしながら、リセがぐっと親指を立てる。自信ありげな表情が、逆に俺を狼狽えさせた。
 いや、確かに地下から気配はあるけど……え、マジで見つけたの?
 ちょっと理解が追い付けなかった。というか、俺でもかなり修行して気配を見抜く力を手に入れたというのに、あっさりとやられてしまってちょっとだけショックを感じたという方が正しいかもしれない。

「地下から魔力反応あり。村長は、地下にいるっ」

「確かに地下に気配あるけどさ。え、これからどうするの?」

「さぁ?」

「さぁっておい……」

「大丈夫、女神な私に任せて。諸刃は私が養うんだからっ」

「いや、これ養うとかそういう次元の話じゃないからね。ただ村長を探して仕事の話をしに行きたいだけだからねっ」

 何を勘違いしたか知らないけど、リセが暴走しているような気がする。きがするというか、暴走していた。
 勝手に走り回り、どこかに行ったかと思えば、戻ってきた。こいつ、何がしたいんだろうか。

「向こうのおっきな岩の物陰に地下に向かう階段があったっ」

「マジで見つけてきやがった」

『流石、我が弟子じゃっ。これからも諸刃のことを他のむのう』

「はは~」

「俺、この二人のノリについていけない」

 だんだんめんどくさくなってきた俺は、リセやのじゃロリを無視して、勝手に進む。リセが言っていた通りの方向に進むと、なんかでかい岩があった。周りに人がちらほらいて、岩に祈りを捧げている。耳を澄ませると、彼らがどんな願いを捧げているのか聞こえて来た。

「村長様、朝ご飯の時間ですよ、そろそろ出てきてください」

 俺はその言葉が理解できなかった。
 は? 村長? どうしてそんなところにいるんだよ。

「いやだっ! 絶対にここから出ないっ。お外はゴブリンがいるんでしょ。絶対出ないからなっ」

 多分村長だと思われる人物の声だと思うのだが、思ったよりも幼い。まるで少年みたいだ。村長って言ったら、村で一番偉い人だから、威厳のある人とか年配の人がやるんじゃないだろうか。なんか思っていたのと違う。

「諸刃、行こ! 村長を襲撃しなくちゃ」

「襲撃はしないよっ! 話を聞きに行くの」

『そう言って、儂を抜く諸刃じゃった……』

「てめぇ、のじゃロリ、後で覚悟しとけよ」

『ひぇ、なのじゃっ』

 怯えるなら最初っから言うなって感じなんだけど。まあ、のじゃロリだし、仕方ないよな。

 とりあえず、いつものようにのじゃロリに天罰を与えて、俺とリセは村長らしき人物のいる岩へと向かっていった。
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