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第一章:幼少期編~悪役令嬢と破滅イベント~

第七話~この街の経済政策は何かがおかしい~

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 お父様の仕事部屋のすぐ近くに給湯室がある。給湯室が遠かったら仕事中に出すお茶もぬるくなったりするのだろう。だから仕事部屋の近くにできているのだと私は思っている。

 今私は給湯室の目の前にいる。お父様の仕事を執事長としてゼバスがサポートしているからね。
 ケセラはゼバスのところにディランがいると言っていた。
 だとしたらディランはこの給湯室にいるはずだ。もしかしたらゼバスもいるかもしれないけど、ディランがダメだったらゼバスに頼めばいいや。
 いや、ダメかな。お父様の仕事のサポートをしているんだから駄目だろう。

 今度はノックせずに扉を開けた。
 そして中にいたのは、ゼバスのものまねをしている青年の姿が…………。
 私はそっと扉を閉じた。

「おおおお嬢様っ! ちょ、ちょっと待ってください」

 ドタバタと音が聞こえる。きっとものまね道具をしまっているのだろう。なんだろう、突然彼氏がやってきて慌てて部屋を片付ける女の子を見ているようだ。
 しばらく待っていると「どうぞ」と声が聞こえてきた。
 私は扉を開いて中に入ると、青年がキリッとした表情をしながら立っていた。

 この青年こそケセラが言っていたディランという家の執事だ。
 元々貧しい家柄で、両親が死んだあと犯罪組織につかまって奴隷として売られそうになっていた。そこをお父様が助け出したんだけど身元引受人がいなくて、そのまま家で雇うことになった。
 お父様には恩義を感じているらしくかなりまじめなんだけど、お父様を完璧にサポートするゼバスにちょっと憧れているところがあって、時々こっそりとものまねをしている。
 確か、ゼバスのことを師匠って呼んでいたっけ。師弟関係まで発展していたんだ。あんまり気にしていなかったよ。

「お見苦しいところをお見せして申し訳ありません、お嬢様」

「別にいいよ。ディランがゼバスに憧れているのは知っているから。それよりも今は暇?」

「えっと、暇といえば暇ですね。仕事は全て完了させましたので、ゼバス様と旦那様に呼ばれるまで待機しているところですから」

 この執事はかなり優秀のようだ。だってまだ日が登り切っていないのにすべての仕事を終わらせるなんて……。さすがゼバスに憧れているだけのことはある。アンとは大違いだ。
 あれ、よく考えればケセラも優秀だしゼバスもすごい優秀だし、ダメなのアンだけじゃない?
 そんなのがそば付きメイドなんてヤダな。競馬場で当たったら何か奢ってもらおう。そうと決まれば早速街に行こうっ!

「今から街に行きたいんだけど一緒についてきてくれる?」

 そういうと、突然ディランが涙を流した。
 え、なんで? 泣く要素なかったよね。

「お、お嬢様がお屋敷の外に行きたいなんて……うぅ、僕は感動しました。行きましょう、是非とも行きましょう。今から旦那様とゼバス様に確認をとってきます」

「それ、泣く要素じゃないから。私はそんなに引きこもっていないから。ちょっと聞いてよ。行かないでぇぇぇぇぇぇぇ!」

 私の声は届かず、ディランは行ってしまった。前世の記憶を思い出す前の私ってどんだけ引きこもり体質だったの。なんか怖いんだけど。
 もしかしてあれか。引きこもりすぎて世間を知らないご令嬢が高等部入学する年齢になって強制的に外に出された的なことが原作ゲームの設定にでもあったのかな?
 ならいろいろと納得できるんだけど……泣かれることについては納得いかないっ!
 というか、今現在お父様の仕事部屋から泣く声が聞こえる。なんかゼバスもお父様も泣いているっぽいんですけどっ!
  
 …………あれ? お母様は?

 お父様のところにいないようだけど、どこにいるのかしら。なんか天井裏から泣き声らしきものが聞こえてくるんだけど、きっと気のせいよね。

 お母様の所在が不明すぎて頭を悩ませているとディランが戻ってきた。かわいいウサギのバックを持ちながら。もしかして、それってディランのリュック? その年でそんな乙女チックなものを持っているって男としてどうなのかしら。

「お嬢様、どうぞお使いください。旦那様からのプレゼントです」

「え、それはディランのじゃないんだ。よかった」

「僕がこんな可愛らしもの使わないですよ。僕はゼバス様に似合いそうなかっこいい鞄を使います」

 この子、ゼバスにあこがれを抱きすぎじゃない? もし、ゼバスがうさぎのリュックを使っていたとしたら、絶対にマネするよね。
 …………あまり気にしすぎると泥沼にはまりそう。気分を変えるためにさっさと街に行きますか。
 私はディランを引き連れて、初めて街に向かった。



 街は思ったよりにぎわっていた。さすがに渋谷とか新宿とか東京と比べると劣るけど、それでも都会と田舎かと聞かれたら絶対に都会だといえるぐらいには栄えていた。
 うむ、中世ヨーロッパでも栄えている都市はこんなものだったのだろうか?
 それに商業が結構盛んに見える。いろんな商人たちが声をあげて呼び込みをしていたりする。

「すごいでしょう、お嬢様。このあたりは独占販売権や非課税権、不入権を持つ商工業者をすべて排除して作った自由取引市場なんです。旦那様が考えた新しい経済政策ですがまだ実験段階でありまして、この地区だけ行われていますがかなり活気に溢れています。さすが旦那様です」

 それ、楽市楽座じゃありません?
 有名どころだと織田信長がやった経済政策だよね。なぜに中世ヨーロッパ風の世界でそれが行われているの? あれか、原作ゲーム製作者たちの中に歴史が好きな人でもいたのかな?

「まだ問題もありそうだけど活気に溢れているのはいいことだわ。いろんな店もあるみたいだし、いろいろと見て回りましょう」

「そうですねお嬢様。エスコートしますのでお手をつかまりください」

「ええ、よろしく頼むわね」

 それから私とディランは自由取引市場を見て回った。たくさんの店があって、買い物好きな私はいろんなものに目移りしてしまった。
 当初の目的である破滅の運命を回避するための情報収集なんて忘れて純粋に楽しんだ。

 結構実用的なものから娯楽に関することまでたくさんあり、お金があればたくさん遊べるだろう。
 6歳児の子供にお金を持たせるのも問題になりそうなので、今回はディランに頼んで買ってもらうことになった。

 時間的にお昼過ぎぐらいだったので、買い物途中でおなかがぐーっとなってしまう。
 市場がにぎわっていたおかげで回りの人には聞こえなかったようだが、ディランはしっかりと聞いていた。
 うう、最近おなかの音を聞かれまくっている気がする。

「お嬢様、お昼にしましょうか。ここなんか有名ですよ」

 そうして案内されたのは『龍寵宴りゅうちゅうえん』という中華料理屋さんだった。
 別に中華料理屋さんについて文句はないよ。中華料理はおいしいとこがたくさんあるからね。私だって大好きだ。
 ただ、中世ヨーロッパ風の世界観で日本の経済政策が取り入れられたところに中華料理屋さんがあるという状況に頭が混乱してくる。
 まるで現代の地球のようじゃないか。
 ゲームの世界なんだからもう少し統一感が欲しいところだ。
 いやでも……他国から来た人がここで店を開いたという考え方もできる。

「この店の店主は天才ですよ。今までにない料理をたくさん開発してきたんです。この中華料理というのも彼が考えた料理のひとつらしいですよ」

 ほんと、なんでもありだなこの世界。いまのって例えるなら食文化が全く違う、それこそアメリカとかで、突然寿司をひらめいたといって店を開くようなものだよ。
 生食の文化がないところで生食の料理を思いついちゃうようなことが起こるなんて……ある意味でこの世界は壊れている。さすがバカゲーの世界だ。
 でも…………中華料理は大好きだからここに決めたっ!

 私とディランは店の中に入って料理をたらふく食べた。
 ここのおすすめである中華丼が最高だった。あとエビマヨね。もう箸が止まらない。中華最高っ!
 そういえば、中世ヨーロッパ風の世界観なのにフォークやスプーンじゃなくて箸なんだねとツッコミを入れることすら忘れて、ひたすらに食べる、食べる、食べるっ!

 おなかがいっぱいになって食べられなくなるまで私は食べ続けた。若干ディランが引いていた気がするけど、おいしいものを食べた後は気分がいい。
 至福の時間を過ごしながら、私はまた絶対に食べに来ようと心の中で決めたのだった。
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