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第二十一話~生贄の少女と悪魔3~
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ティーナを追いかけて入った家の中は、まるで物語やゲームに出てくる迷宮のようになっていた。
ブロック型の石がタイルのように地面にひかれており、たいまつの炎が辺りを照らす。
奥のほうは明かりが届かず、真っ暗なまま、まるで永遠に道が続いているのではないかと錯覚してしまうほどだ。
ごくりと生唾を飲む音が響く。
俺はちょっと、いやかなり緊張しているようだ。
「とりあえず、中に進もう」
「そうね、なんでこんな場所があるのか分からないけど、きっと悪魔の仕業ね」
「どんな罠があるのか分からないから、慎重に進もう」
「ええ、わかったわ」
俺たちは、ゆっくり焦らずに道を進んだ。進みながらマッピングもしっかりとやっておく。
だけど、時間が経つにつれて、ミーナがソワソワとし始めた。
ダンジョンが危険だということはわかっているのだが、ティーナにもうすぐ追いつくという気持ちが彼女を焦らせているのかもしれない。
俺は彼女の肩をそっと叩いて落ち着かせる。
気が付けば、俺の手に蕁麻疹が出なくなっていた。
まさか、女性に触って蕁麻疹が出なくなるなんて思いもしなかった。
これはある程度女性慣れしてきたということなのだろうか。まあいい。
「ミーナ、少し休憩をとるか。村を出てからかなりハイスペースで進んでいるし」
「はぁはぁ、私は……大丈夫…………よ。早くいきましょう」
ミーナの体力はもう限界だった。森に入ってからずっと戦っていた。走りまわっていた。
体力がなくなって当然だ。
俺はミーナを無理やり座らせた。そして、ミーナに水を渡す。
ティーナのことを思うのであれば、水を飲んでいる時間すらもったいないと思ってしまうかもしれない。
でも、彼女は獣を狩るプロだ。どんな危険があるのか分からない以上、万全の状態で行動する大切さを知っている。
ミーナがゆっくり水を飲む姿を確認した後、俺も水を飲んだ。
そして、今までマッピングしていた地図を見ながらティーナがどこに行ったのかを考えていた。
もしかするとこのダンジョンは、侵入者対策的なものなのかもしれないと、少しだけ思った。
このダンジョンは思ったよりも広かった。
なかなか奥にたどり着けない。
下手にこの中で迷子になれば、最悪出てこれずに飢えて死んでしまうだろう。
生贄が迷子になる可能性のあるダンジョンに一人で突破しろなど、酷な話である。
まあでも、このダンジョンがどういう立ち位置なのか知ったからと言って俺たちの対応は変わらない。
ティーナを助けるだけだ。
「ゴメン奏太、私はもう大丈夫だから。先を目指しましょう」
「ああ、さっさとティーナを助けよう」
「ええ、そうね」
まだ疲れが見えるも、先ほどよりはマシになった。
俺たちはティーナがいるであろう場所を目指して奥に進んだのだが、あっさりとゴールにたどり着く。
そこは広いホールのような場所だった。
その中央にティーナが立っている。その横には、フードをかぶって顔を隠している人物が立っていた。
ティーナの目は虚ろで、正常な状態には見えない。フードをかぶった人物が彼女の耳元で何かをささやいた。
それを聞いて頷き、ティーナは何かをぼそぼそとささやいている。
「ティーナっ」
ティーナを見つけたミーナが叫んだ。駆け寄りたい気持ちを押さえながら、必死に呼びかける。
あのフードの人物がおそらく悪魔だろう。あれがそばにいることで、俺たちはうかつに手を出せない状況になっていた。
ミーナの叫び声で、フードの人物がこちらに気が付く。
「やあ、待っていたよ」
フードを外し、素顔があらわになる。
フードの中に顔はなかった。真っ黒に塗りつぶされていて、何も見えない。まるで吸い込まれそうな漆黒が俺たちをじっと見つめていた。
「私は何者でもあって何者でもない、そこにいてそこにいる、無色透明だからこそ何色にも染まれる存在。私はあの方に切り捨てられ、黒く染まり、人の願いを叶え、災いをもたらすもの。そうですね、なんか悪魔なんて呼ばれています」
「そんなことはどうでもいい。早くティーナを離して」
「嫌ですよぉ。この子は私にプレゼントされた子なんですから。これからもっと楽しいことが起こりますよ。人間関係って、壊すと楽しいですよね。特に、裏切られた時なんか、ふふふ」
顔のない悪魔が、楽しそうな声を出して笑った。
そして顔のない悪魔が、ティーナを後ろから抱きしめて、ない顔をこちらに向ける。
「ねぇ、この子、体があんまり強くないでしょう。つらい思いをしていたんだね。なのに村に一人取り残されて……可哀そうにね」
「…………私、可愛そうなの?」
「そうだよ、一体誰のせいだろうね」
「…………誰の」
悪魔はなおも囁き続ける。ミーナはそれを否定するように叫んだ。
でも、ティーナには何も聞こえていないようだった。
「あいつのせいだよ。ほら、見てごらん」
「ティーナ、そんな奴の言葉に騙されないで」
俺たちは動けない。ティーナを人質に取られている以上、何も出来ない。
悪魔が囁くたびに、ティーナの様子がおかしくなる。その目に殺意のようなものが宿っている、そのように感じた。
「すべてはそこにいるお姉さんがいたからだよ、あいつさえいなければ、君はこんなに苦しまなくてもよかったのにねぇ」
「お姉ちゃんのせい?」
「ティーナ、いい加減目を覚ましてよ」
「ほら、あんなふうに叫んで、きっと君のことは何とも思っていないんだよ。ここに一本のナイフがある。手にもってごらん」
ティーナは悪魔に渡されたナイフをしっかりと握り、ミーナを見つめた。
「あいつさえいなければ、お姉ちゃんさえ、いなければっ」
洗脳されたティーナは、真っすぐミーナを見つめ、そして走り出した。
「うわあああああああああああああああああああああああああああああああ」
ティーナはナイフを持って、ミーナに向かって走り出した。
このような光景を、俺は一度見たことがあった。
小学生の時、俺が好きだった女の子がいた。この時はまだ、女の子が平気だった。
だけど、もう一人、俺に好意を寄せてくれた女の子がいた。
彼女に告白された時、俺は断ったんだ。
この一言がきっかけで起きた殺人事件。
俺が好きだった女の子は、俺に告白してきた女の子に殺された。
理由は、「あの子がいなければ、私を選んでくれるはずだった」というものだった。
あいつさえいなければ、誰もが一度は思ったことあるその感情。
その感情が行き過ぎた結果起こったもの。人の行き過ぎた感情は、誰かを不幸にさせる。俺のように。
だけど、今のはティーナの本心じゃない。あの子といた時間は全然ないけれど、ミーナと一緒にいた時の様子を見た時に、彼女がミーナを嫌っているとは思えなかった。
「やめてよ、ティーナっ」
ミーナは、ティーナに問いかける。でも、彼女はティーナを傷つけたいとは思っていない。
ナイフを持っているティーナに、ミーナは手を出せずにいた。
ブロック型の石がタイルのように地面にひかれており、たいまつの炎が辺りを照らす。
奥のほうは明かりが届かず、真っ暗なまま、まるで永遠に道が続いているのではないかと錯覚してしまうほどだ。
ごくりと生唾を飲む音が響く。
俺はちょっと、いやかなり緊張しているようだ。
「とりあえず、中に進もう」
「そうね、なんでこんな場所があるのか分からないけど、きっと悪魔の仕業ね」
「どんな罠があるのか分からないから、慎重に進もう」
「ええ、わかったわ」
俺たちは、ゆっくり焦らずに道を進んだ。進みながらマッピングもしっかりとやっておく。
だけど、時間が経つにつれて、ミーナがソワソワとし始めた。
ダンジョンが危険だということはわかっているのだが、ティーナにもうすぐ追いつくという気持ちが彼女を焦らせているのかもしれない。
俺は彼女の肩をそっと叩いて落ち着かせる。
気が付けば、俺の手に蕁麻疹が出なくなっていた。
まさか、女性に触って蕁麻疹が出なくなるなんて思いもしなかった。
これはある程度女性慣れしてきたということなのだろうか。まあいい。
「ミーナ、少し休憩をとるか。村を出てからかなりハイスペースで進んでいるし」
「はぁはぁ、私は……大丈夫…………よ。早くいきましょう」
ミーナの体力はもう限界だった。森に入ってからずっと戦っていた。走りまわっていた。
体力がなくなって当然だ。
俺はミーナを無理やり座らせた。そして、ミーナに水を渡す。
ティーナのことを思うのであれば、水を飲んでいる時間すらもったいないと思ってしまうかもしれない。
でも、彼女は獣を狩るプロだ。どんな危険があるのか分からない以上、万全の状態で行動する大切さを知っている。
ミーナがゆっくり水を飲む姿を確認した後、俺も水を飲んだ。
そして、今までマッピングしていた地図を見ながらティーナがどこに行ったのかを考えていた。
もしかするとこのダンジョンは、侵入者対策的なものなのかもしれないと、少しだけ思った。
このダンジョンは思ったよりも広かった。
なかなか奥にたどり着けない。
下手にこの中で迷子になれば、最悪出てこれずに飢えて死んでしまうだろう。
生贄が迷子になる可能性のあるダンジョンに一人で突破しろなど、酷な話である。
まあでも、このダンジョンがどういう立ち位置なのか知ったからと言って俺たちの対応は変わらない。
ティーナを助けるだけだ。
「ゴメン奏太、私はもう大丈夫だから。先を目指しましょう」
「ああ、さっさとティーナを助けよう」
「ええ、そうね」
まだ疲れが見えるも、先ほどよりはマシになった。
俺たちはティーナがいるであろう場所を目指して奥に進んだのだが、あっさりとゴールにたどり着く。
そこは広いホールのような場所だった。
その中央にティーナが立っている。その横には、フードをかぶって顔を隠している人物が立っていた。
ティーナの目は虚ろで、正常な状態には見えない。フードをかぶった人物が彼女の耳元で何かをささやいた。
それを聞いて頷き、ティーナは何かをぼそぼそとささやいている。
「ティーナっ」
ティーナを見つけたミーナが叫んだ。駆け寄りたい気持ちを押さえながら、必死に呼びかける。
あのフードの人物がおそらく悪魔だろう。あれがそばにいることで、俺たちはうかつに手を出せない状況になっていた。
ミーナの叫び声で、フードの人物がこちらに気が付く。
「やあ、待っていたよ」
フードを外し、素顔があらわになる。
フードの中に顔はなかった。真っ黒に塗りつぶされていて、何も見えない。まるで吸い込まれそうな漆黒が俺たちをじっと見つめていた。
「私は何者でもあって何者でもない、そこにいてそこにいる、無色透明だからこそ何色にも染まれる存在。私はあの方に切り捨てられ、黒く染まり、人の願いを叶え、災いをもたらすもの。そうですね、なんか悪魔なんて呼ばれています」
「そんなことはどうでもいい。早くティーナを離して」
「嫌ですよぉ。この子は私にプレゼントされた子なんですから。これからもっと楽しいことが起こりますよ。人間関係って、壊すと楽しいですよね。特に、裏切られた時なんか、ふふふ」
顔のない悪魔が、楽しそうな声を出して笑った。
そして顔のない悪魔が、ティーナを後ろから抱きしめて、ない顔をこちらに向ける。
「ねぇ、この子、体があんまり強くないでしょう。つらい思いをしていたんだね。なのに村に一人取り残されて……可哀そうにね」
「…………私、可愛そうなの?」
「そうだよ、一体誰のせいだろうね」
「…………誰の」
悪魔はなおも囁き続ける。ミーナはそれを否定するように叫んだ。
でも、ティーナには何も聞こえていないようだった。
「あいつのせいだよ。ほら、見てごらん」
「ティーナ、そんな奴の言葉に騙されないで」
俺たちは動けない。ティーナを人質に取られている以上、何も出来ない。
悪魔が囁くたびに、ティーナの様子がおかしくなる。その目に殺意のようなものが宿っている、そのように感じた。
「すべてはそこにいるお姉さんがいたからだよ、あいつさえいなければ、君はこんなに苦しまなくてもよかったのにねぇ」
「お姉ちゃんのせい?」
「ティーナ、いい加減目を覚ましてよ」
「ほら、あんなふうに叫んで、きっと君のことは何とも思っていないんだよ。ここに一本のナイフがある。手にもってごらん」
ティーナは悪魔に渡されたナイフをしっかりと握り、ミーナを見つめた。
「あいつさえいなければ、お姉ちゃんさえ、いなければっ」
洗脳されたティーナは、真っすぐミーナを見つめ、そして走り出した。
「うわあああああああああああああああああああああああああああああああ」
ティーナはナイフを持って、ミーナに向かって走り出した。
このような光景を、俺は一度見たことがあった。
小学生の時、俺が好きだった女の子がいた。この時はまだ、女の子が平気だった。
だけど、もう一人、俺に好意を寄せてくれた女の子がいた。
彼女に告白された時、俺は断ったんだ。
この一言がきっかけで起きた殺人事件。
俺が好きだった女の子は、俺に告白してきた女の子に殺された。
理由は、「あの子がいなければ、私を選んでくれるはずだった」というものだった。
あいつさえいなければ、誰もが一度は思ったことあるその感情。
その感情が行き過ぎた結果起こったもの。人の行き過ぎた感情は、誰かを不幸にさせる。俺のように。
だけど、今のはティーナの本心じゃない。あの子といた時間は全然ないけれど、ミーナと一緒にいた時の様子を見た時に、彼女がミーナを嫌っているとは思えなかった。
「やめてよ、ティーナっ」
ミーナは、ティーナに問いかける。でも、彼女はティーナを傷つけたいとは思っていない。
ナイフを持っているティーナに、ミーナは手を出せずにいた。
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