異世界チートハーレムというテンプレ展開に巻き込まれた男がハーレムだけは嫌だと逃げるような物語

日向 葵

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第十一話~商業区の小さな異変1~

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ーーールーディア王国 安らぎの里

 翌朝、俺は二コラ大司教からもらった地図を開きながら、どうするべきか考えていた。

 昨日は、子供たちと楽しく食事をした後、なんだかんだでマルスとニトの遊び相手になってやり、すぐに寝てしまった。
 双子姫が襲ってこないという安心感もあってぐっすり眠れはしたが、正直何もやらずに寝てしまった。
 そのことについてはちょっとだけ後悔している。

 ちなみに、部屋の中に、マルスとニトはいない。シスターが迎えに来てくれたので、孤児院に送り届けたからな。

 俺は誰もいない静かな部屋で、地図を広げながら、どこに向かうのかを考えていた。
 別に観光を目的としているわけではない。
 俺は唯奈を救うために、あの得体のしれない何かの信仰を集めなければならない。
 だけど、二コラ大司教が知っているお告げは、不浄なるものがこの大陸に降り立ったので使徒を遣わすというものだった。
 つまり、ただ信仰を集めるだけで終わらないということだ。

 不浄なるものがいったい何を指しているのか、俺が分からない以上、調査するしかない。
 不浄なるものというのだから、何かしら異変は起きているのだろう。

 聞き込みをするならば、やはり商業区に行くべきか。
 でも、個人的に工業区を見に行きたい。俺がもらったジュラルミン製の剣と盾。これを作った人たちの技術力を是非とも見たい。作業場を見学したいという欲求にかられる。
 うーん、本当にどうしよう。

 唯奈を早く助けてやりたいという気持ちはある。
 だけど、他国に人質にされているという訳ではない。神様に生死を握られているだけだ。だったら、確実に達成できるよう身支度を整えるのも、立派な勤めなんじゃないだろうか。
 商業区でも買えそうだけど、やっぱり職人が作ったオーダーメイド品が欲しいからね。

 とまあ、自分の欲望と最速で目的を達成することを天秤にかけて、最終的に出した結論はーー

「よし、商業区に行こう」

 だった。

 装備を整えると言ったって、剣をまともに振ったことがない俺には宝の持ち腐れだ。
 それだったら、有益な情報を早く手に入れたほうがいいだろう。
 それに、ゲームでも情報収集は大切だしな。
 しっかり情報収集しないと、ゲームを先に進めることが出来なくなる。
 よし、準備していくか。
 俺はもらった荷物などをまとめた。いつでもいけるよう荷物を整えたので、シスターと子供たちに挨拶に行こうと思ったのだが、先に部屋に来客があった。

「奏太様、入りますわよ」

 部屋にやってきたのは、セリカだった。
 俺が女性嫌いであることを知っている為か、部屋の扉を開けてちょっと中に入ったが、それ以上近づこうとはしなかった。

「セリカ、どうしたんだ」

「えっと、奏太様にお客様です」

 そう言って、セリカの後ろにいたのであろうもう一人が、部屋の中に入ってきた。
 入ってきた人物を見て、俺はぎょっとする。

「うふふふ、使徒様に使っていただく為に、やってきましたわ」

 やってきたのは、双子姫の姉、レイラ姫だった。
 病んだ瞳、狂信者を思わせる風格、まぎれもなく本物のレイラ姫だ。相変わらず、この女は狂っている。

「使徒様、お覚悟はいいですか」

「その前に、レイラ姫、一ついいですか」

「はい、なんでしょうか。命令でしょうか」

「いえ、子供が見ているので自重してください」

「はぇ?」

 姫らしかぬ声をあげて、レイラ姫は俺が指をさしているほうに視線を向ける。
 そこには、セリカがいた。なんだか顔が赤い。熱でもあるのだろうか、と心配になる。

「レイラ姫は、俺に命令をされたいんだよな」

「は、はい。とうとう私を使っていただけるのですね、ドキドキ」

「じゃあ命じる、セリカが体調を悪くしている」

「……え」

 と、声をあげたのは、レイラ姫ではなくセリカだった。
 なんか、私、別に体調悪くないよ、的な表情を浮かべていた。
 すまない、セリカ。なんか口調的に、お姫様のお世話が出来そうな感じがしたから、レイラ姫の相手を君に任せることにするよ。
 俺が、セリカに視線を向けてにこやかに笑うと、セリカは引きつった笑みを浮かべてこちらを見ていた。
 なんだろう、十歳児には見えない迫力だ。

「任してください、私がしっかり看病しますわ」

 そんな俺たちのやり取りに全く気が付かないレイラ姫は、かなりやる気を出していた。
 レイラ姫の相手をセリカが行っている間に、俺はとんずらしようとした。
 部屋を出るときに、セリカと目が合う。セリカは、小さく「後で覚えておいてくださいね」と言ってきた。
 あとでお菓子でも買ってあげようなどと思いながら、俺はこの場を脱出した。



   ◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆



ーーールーディア王国 商業区

 いろんな人が行き交う商業区のちょうど中央に位置する場所に、大きな噴水がある。
 俺は噴水近くのベンチにぐでぇと座っていた。
 正直、人が多すぎてかなり疲れた。近くを通った人に話をさりげなく聞こうとするが、時間がないのか忙しいのか、誰も相手にしてくれなかった。
 有益な情報も全く得られず、ただ人ごみに流されて、邪魔だよと怒鳴られて、俺はいったい何がしたいんだろう。

 商業区には、王都付近の町から辺境の村の人たちまで、皆が楽し気に商売をしている。
 なんというか、フリーマーケットみたいな感じかな。
 商業区と聞いていたから、商店街に近い感じかと思っていたが、そうでもない。
 商売をするには、商売許可書が必要となり、その土地を治めている領主に許可を取らなければならない。
 ところがどっこい、このフリーマーケット的な場所は、とある商会が陣取っている場所で、その場所を借り受けて、ほかの町や村の人々が委託販売を行っているようだ。

 俺が知っているゲームの世界とは微妙に違う。ゲームの舞台となっている時代って、委託販売とかあったのだろうか。
 多分ないだろうな。ということは、誰かがいらぬ知恵を貸し与えている。
 それが、不浄なるものの正体だっ! と思ったのだが、たまたま話を聞いてくれた店のおっちゃんに違うと一蹴された。
 商業区で聞き込みすれば、楽に情報を手に入れられると思ったんだけどなー。

「さて、どうするか」

「さて、どうしますの? というか子作りしましょう」

 不意に横から声が聞こえてきた。俺はそっと横を見る。青を中心とした装飾とドレスを身にまとった、可憐な女の子、そして愛に飢えた頭のおかしい子、シリア姫だった。

 俺は飛びのいて、ベンチから離れた。
 いくら何でも心臓に悪すぎるだろう。

「奏太様のにおいを感じましたので、城から抜け出してきましたわ」

「……ちょっと待て、ツッコミどころが多すぎてあれだが、ここの近くをたまたま通ったら俺を見かけた……じゃないんだよな」

「違います。私ほどの愛の探究者であれば、離れたところからでも好きな人のにおいを嗅ぎ分けることが出来ます」

「ある意味で怖いよっ!」

 俺が、変な声で言うと、シリア姫がクスクスと笑った。
 一通り笑った後、シリア姫はまじめな顔になる。愛に飢えている様子もない。

「ところで奏太様は、こんなところで何をしているのですか」

「えっと、聞き込み調査かな。お告げにあった不浄なるものっていうのが何か分からないからさ。とりあえず、俺は女性アレルギーで、下手に触られると死ぬから、よろしく」

「了解しました。あと、不浄なるものって、あのお告げのことについてですよね。もし、私の知っている情報を奏太様に話せば、子作りしてくれますか」

「そ、それはまだ早いかな。シリア様はもう少し大人になってから、そして俺の女性恐怖症が治ったら、だな」

「そうですか、では、私が知っている情報を教えましょう。私の好きな果物はオレンジですっ!」

「一体何の情報を言おうとしているんだよっ」

 ……シリア様の好きな食べ物、今は関係ないよ……ね?
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