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第五話~お告げと神の使徒2~
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ーーー王都ルディリア パーティー会場
二コラ大司教に案内されて、俺はパーティー会場に足を運ぶ。
会場の中は煌びやかに装飾されており、パーティーに参加している人々が笑顔で話していた。
クラシックな音楽が流れ、なんだか心を落ち着かせてくれる。
色々と見回りながら二コラ大司教の後ろをついていくと、ウィリアム国王陛下を見つけた。どうやら国王様のところに向かっているらしい。
国王様の元にたどり着くと、いきなり手を握られて頭を下げられた。
「おお、我らが神の使徒様。この国に降臨なさっていただき、ありがたき幸せ」
「いや、そこまでかしこまらないでください。あなた王様でしょうっ」
「王様であろうがなかろうが、全ての人間はイディア様のために生きなければならないのです。あなたはイディア様の使徒、つまり崇め奉らなければいけない相手なのですよっ」
ウィリアム国王陛下は鼻息を荒くしながら言ってきた。ここまでの狂信者になると、余り関わり合いたくないと思ってしまう。
どうも昔かかわったあいつを思い出させる。あいつは確か、好きな人とうまくいかず、新興宗教にはまり、狂信者になったんだっけ。
その後は、俺と同年齢でありながらかなり悲惨な運命をたどったとかなんとか。
あいつ、元気にしているかな……。
「お、そんなところにおったのか。こちらに来なさい」
「どうしましたの、お父様」
俺の後ろから、幼そうな女の声が聞こえた。足音が近づいてくるたびに、頭が痛くなり、気持ち悪さを感じた。
振り返ると、青いドレスを着た可愛らしい女の子が立っていた。背丈は小さく、小学校高学年ぐらいか、中学一年生ぐらいの年齢だろうか。
この世界ではどうか知らないが、地球なら手を出したら犯罪だな。
先ほど感じていた気持ち悪さが若干引いた。子供なら、まだ大丈夫。不幸なことにはならない。
「使徒様、こちらが私の娘、シリアですぞ。国では双子姫と呼ばれて、とても可愛がられていてな。年齢も13と若く、使徒様にはちょうど良いかと。よかったらこのあとどうですかな?」
「何がどうですかな、ですかっ! あの、シリア姫? できれば近づかないでください」
シリア姫は、俺とウィリアム国王陛下が話している最中にじりじりと近寄って来ていた。上目遣いで俺を観察するように見つめる。その姿はまるでお人形のように思わせるが、この少女は三次元。子供とは言え、女性アレルギー的症状は出てしまうのだ。
本当に近寄ってこないでほしい。
じりじりと近づいて来るシリア姫に対して、俺はじりじりと距離を取る。
近づきながらもじっと俺を見つめていたシリア姫が、なまめかしい吐息と共につぶやいた。
「…………惚れましたわ」
「え?」
この子は何を言っているのだろう。よく分からない。本当によく分からないんだけど。
「あ、あの……お名前はなんと言うのでしょうか」
「えっと、来栖奏太だけど……」
俺は無意識に反応して名前を言ってしまった。普段ならこういったヘマをすることはない。三次元女子とかかわると碌でもないことが起こるのは経験でわかっている。
だから、普段は距離を取るために名乗らなかったりしている。
だけど、変なことを言われた後だったせいもあり、俺は思わず答えてしまった。言ってしまって、失敗したと後悔する。
俺の予想は的中していて、シリア姫は「奏太様、奏太様」とつぶやきながら、こちらをじっと見つめ続けていた。その目には狂信的な何かを感じさせる。
「私はシリア・フォン・アインシュバルツ・ルーディアですわ。この国の第二王女です、来栖様」
「は、はぁ……よろしく」
「あわわわわ~。好みの容姿、やさしそうな雰囲気、包容力のありそうなその体格、その上声まで私好みなんて、まるで私に惚れられるために生まれてきたような殿方ですわっ!」
シリア姫は、興奮気味に鼻息を荒くしている。そして再びじりじりと近づいてきた。
本当に勘弁してくれ。
「ちょっと近づくな。いや、本当に近づかないでくれ」
「近づかなければ出来ないじゃないですか」
「一体何が……」
「もちろん、子作りです。私的に子供は22人ほど欲しいと思っているので張り切ってくださいね」
「サッカーチームが2チーム作れるんだけどっ!」
「あ、もしかして元気がないんですか。それでしたら、こちらの栄養ドリンクを飲んでください。朝までビンビンですよ! さぁ、今すぐ子作りを始めましょう」
「いや、始めないから。本当に近づくなっ」
この子、話を聞いてくれない。俺はまだ、自分がこの世界でどうやって信仰を集めなければいけないか分かっていない状況なのに、味方であるはずの人間が襲ってくる。
迫りくるシリア姫。ふいに彼女と目があった。彼女の目は愛に狂った女のそれと一緒だ。
あの目を一度、俺は見たことがある。俺が思い出そうとすると頭が痛くなる、あの忌まわしい事件の加害者。シリア姫の目は、彼女のそれと全く同じように思えた。
思わず俺の体が震える。叫びそうになったが、ここがパーティー会場であることを思い出し、何とかこらえた。
俺が取り乱したら、信仰を集めるどころじゃなくなる。それでは唯奈が戻ってこない……。
「そんなに嫌ですの……はっ!」
シリア姫は何かに気が付いたかのようにハッとした表情を浮かべ、嬉しそうな笑みを浮かべながらこちらを見つめてきた。
「まさか、別室にはいかずここでやろうということですか。わ、私は全然かまいませんわ」
といって、いそいそと自分の服を脱ぎだそうとした。
「いや、そういうことじゃないから」
「さぁ、子作りしましょーーぶへぇ」
シリア姫の後頭部を、何者かが鉄の棒のような何かで叩いた。シリア姫は不意を突かれた一撃をまともに食らってしまい、そのまま白目を向いて倒れてしまう。
シリア姫の後頭部を叩いた人物は、シリア姫と全く同じ顔をしていた。シリア姫とは違い、オレンジ色のドレスを身にまとっている。
もし同じドレスを着ていたら、絶対に見分けがつかないと思った。
「全く、使徒様に対してなんて無礼な。申し訳ございません、使徒様」
スカートの裾を掴み、お辞儀をする少女。まるでどこかのお姫様のように見えた。そのせいで鳥肌が立つ。近寄らないでほしい。
ウィリアム国王陛下が彼女のことを紹介してくれた。
「この娘はシリアの双子の姉で、レイラという。レイラはシリアと違って熱心なイディア教徒ですので、きっとお役に立ちますぞ。好きに使ってください」
「誰をどう使えというのですかっ」
ウィリアム国王陛下は、自分の娘を紹介出来て満足したのか、別の席に移動してしまった。
あとは若い者同士でやってくださいってか。本当に勘弁してほしい。あの得体のしれない何かに別の世界に送られて、なんでいきなり危機的状況に陥ってるんだろう。
その原因は俺が女性アレルギーであることも関係あるのだが、何もせずに女性が近づいてくるってどうなんだろう。
そして俺はここにきて、ライトノベルの定番展開、女性をあてがって勇者やらなんやらを永住させよう作戦がやってきたんだと思った。実に最悪な気分だ。
「うちの愚妹が本当に申し訳ありません」
「あ、いえ……大丈夫です」
レイラ姫は、シリア姫と違いずいぶんと落ち着いている様子。
シリア姫が異常なだけで、ライトノベル的怪しげな陰謀はなさそうだ。いや、絶対にないはず。俺はそう思い込むことにした。そのほうが心に優しい。
レイラ姫は、こちらを見て微笑んで、そして頭が痛くなるようなことを話し始めた。
「全く、シリアにも困ったものです。使徒様に対してああも迫っていくなんて。私たちはこの世界に住むただの人間。神イディア様や使徒様から見たら道具や人形のようなもの。私たちが迫っていくのではありません。私たちは使って貰わなければいけないのです」
「…………」
「夜中に部屋に来いと言われたなら、精一杯ご奉仕いたしましょう。全裸で外を歩けと言われたら喜んで裸で王都を一周しましょう。私たちは道具、私たちは人形。使ってもらうことは至上の喜びであり、使ってもらえることを使徒様に、そして神イディア様に感謝しなければならないのです。それなのに、シリアときたら……」
そして、可哀そうな子を見るような目で、レイラは足元に転がっている自分の妹を見つめた。
俺には、レイラ姫の言っていることが全く理解できない。
この女……狂っている。
二コラ大司教に案内されて、俺はパーティー会場に足を運ぶ。
会場の中は煌びやかに装飾されており、パーティーに参加している人々が笑顔で話していた。
クラシックな音楽が流れ、なんだか心を落ち着かせてくれる。
色々と見回りながら二コラ大司教の後ろをついていくと、ウィリアム国王陛下を見つけた。どうやら国王様のところに向かっているらしい。
国王様の元にたどり着くと、いきなり手を握られて頭を下げられた。
「おお、我らが神の使徒様。この国に降臨なさっていただき、ありがたき幸せ」
「いや、そこまでかしこまらないでください。あなた王様でしょうっ」
「王様であろうがなかろうが、全ての人間はイディア様のために生きなければならないのです。あなたはイディア様の使徒、つまり崇め奉らなければいけない相手なのですよっ」
ウィリアム国王陛下は鼻息を荒くしながら言ってきた。ここまでの狂信者になると、余り関わり合いたくないと思ってしまう。
どうも昔かかわったあいつを思い出させる。あいつは確か、好きな人とうまくいかず、新興宗教にはまり、狂信者になったんだっけ。
その後は、俺と同年齢でありながらかなり悲惨な運命をたどったとかなんとか。
あいつ、元気にしているかな……。
「お、そんなところにおったのか。こちらに来なさい」
「どうしましたの、お父様」
俺の後ろから、幼そうな女の声が聞こえた。足音が近づいてくるたびに、頭が痛くなり、気持ち悪さを感じた。
振り返ると、青いドレスを着た可愛らしい女の子が立っていた。背丈は小さく、小学校高学年ぐらいか、中学一年生ぐらいの年齢だろうか。
この世界ではどうか知らないが、地球なら手を出したら犯罪だな。
先ほど感じていた気持ち悪さが若干引いた。子供なら、まだ大丈夫。不幸なことにはならない。
「使徒様、こちらが私の娘、シリアですぞ。国では双子姫と呼ばれて、とても可愛がられていてな。年齢も13と若く、使徒様にはちょうど良いかと。よかったらこのあとどうですかな?」
「何がどうですかな、ですかっ! あの、シリア姫? できれば近づかないでください」
シリア姫は、俺とウィリアム国王陛下が話している最中にじりじりと近寄って来ていた。上目遣いで俺を観察するように見つめる。その姿はまるでお人形のように思わせるが、この少女は三次元。子供とは言え、女性アレルギー的症状は出てしまうのだ。
本当に近寄ってこないでほしい。
じりじりと近づいて来るシリア姫に対して、俺はじりじりと距離を取る。
近づきながらもじっと俺を見つめていたシリア姫が、なまめかしい吐息と共につぶやいた。
「…………惚れましたわ」
「え?」
この子は何を言っているのだろう。よく分からない。本当によく分からないんだけど。
「あ、あの……お名前はなんと言うのでしょうか」
「えっと、来栖奏太だけど……」
俺は無意識に反応して名前を言ってしまった。普段ならこういったヘマをすることはない。三次元女子とかかわると碌でもないことが起こるのは経験でわかっている。
だから、普段は距離を取るために名乗らなかったりしている。
だけど、変なことを言われた後だったせいもあり、俺は思わず答えてしまった。言ってしまって、失敗したと後悔する。
俺の予想は的中していて、シリア姫は「奏太様、奏太様」とつぶやきながら、こちらをじっと見つめ続けていた。その目には狂信的な何かを感じさせる。
「私はシリア・フォン・アインシュバルツ・ルーディアですわ。この国の第二王女です、来栖様」
「は、はぁ……よろしく」
「あわわわわ~。好みの容姿、やさしそうな雰囲気、包容力のありそうなその体格、その上声まで私好みなんて、まるで私に惚れられるために生まれてきたような殿方ですわっ!」
シリア姫は、興奮気味に鼻息を荒くしている。そして再びじりじりと近づいてきた。
本当に勘弁してくれ。
「ちょっと近づくな。いや、本当に近づかないでくれ」
「近づかなければ出来ないじゃないですか」
「一体何が……」
「もちろん、子作りです。私的に子供は22人ほど欲しいと思っているので張り切ってくださいね」
「サッカーチームが2チーム作れるんだけどっ!」
「あ、もしかして元気がないんですか。それでしたら、こちらの栄養ドリンクを飲んでください。朝までビンビンですよ! さぁ、今すぐ子作りを始めましょう」
「いや、始めないから。本当に近づくなっ」
この子、話を聞いてくれない。俺はまだ、自分がこの世界でどうやって信仰を集めなければいけないか分かっていない状況なのに、味方であるはずの人間が襲ってくる。
迫りくるシリア姫。ふいに彼女と目があった。彼女の目は愛に狂った女のそれと一緒だ。
あの目を一度、俺は見たことがある。俺が思い出そうとすると頭が痛くなる、あの忌まわしい事件の加害者。シリア姫の目は、彼女のそれと全く同じように思えた。
思わず俺の体が震える。叫びそうになったが、ここがパーティー会場であることを思い出し、何とかこらえた。
俺が取り乱したら、信仰を集めるどころじゃなくなる。それでは唯奈が戻ってこない……。
「そんなに嫌ですの……はっ!」
シリア姫は何かに気が付いたかのようにハッとした表情を浮かべ、嬉しそうな笑みを浮かべながらこちらを見つめてきた。
「まさか、別室にはいかずここでやろうということですか。わ、私は全然かまいませんわ」
といって、いそいそと自分の服を脱ぎだそうとした。
「いや、そういうことじゃないから」
「さぁ、子作りしましょーーぶへぇ」
シリア姫の後頭部を、何者かが鉄の棒のような何かで叩いた。シリア姫は不意を突かれた一撃をまともに食らってしまい、そのまま白目を向いて倒れてしまう。
シリア姫の後頭部を叩いた人物は、シリア姫と全く同じ顔をしていた。シリア姫とは違い、オレンジ色のドレスを身にまとっている。
もし同じドレスを着ていたら、絶対に見分けがつかないと思った。
「全く、使徒様に対してなんて無礼な。申し訳ございません、使徒様」
スカートの裾を掴み、お辞儀をする少女。まるでどこかのお姫様のように見えた。そのせいで鳥肌が立つ。近寄らないでほしい。
ウィリアム国王陛下が彼女のことを紹介してくれた。
「この娘はシリアの双子の姉で、レイラという。レイラはシリアと違って熱心なイディア教徒ですので、きっとお役に立ちますぞ。好きに使ってください」
「誰をどう使えというのですかっ」
ウィリアム国王陛下は、自分の娘を紹介出来て満足したのか、別の席に移動してしまった。
あとは若い者同士でやってくださいってか。本当に勘弁してほしい。あの得体のしれない何かに別の世界に送られて、なんでいきなり危機的状況に陥ってるんだろう。
その原因は俺が女性アレルギーであることも関係あるのだが、何もせずに女性が近づいてくるってどうなんだろう。
そして俺はここにきて、ライトノベルの定番展開、女性をあてがって勇者やらなんやらを永住させよう作戦がやってきたんだと思った。実に最悪な気分だ。
「うちの愚妹が本当に申し訳ありません」
「あ、いえ……大丈夫です」
レイラ姫は、シリア姫と違いずいぶんと落ち着いている様子。
シリア姫が異常なだけで、ライトノベル的怪しげな陰謀はなさそうだ。いや、絶対にないはず。俺はそう思い込むことにした。そのほうが心に優しい。
レイラ姫は、こちらを見て微笑んで、そして頭が痛くなるようなことを話し始めた。
「全く、シリアにも困ったものです。使徒様に対してああも迫っていくなんて。私たちはこの世界に住むただの人間。神イディア様や使徒様から見たら道具や人形のようなもの。私たちが迫っていくのではありません。私たちは使って貰わなければいけないのです」
「…………」
「夜中に部屋に来いと言われたなら、精一杯ご奉仕いたしましょう。全裸で外を歩けと言われたら喜んで裸で王都を一周しましょう。私たちは道具、私たちは人形。使ってもらうことは至上の喜びであり、使ってもらえることを使徒様に、そして神イディア様に感謝しなければならないのです。それなのに、シリアときたら……」
そして、可哀そうな子を見るような目で、レイラは足元に転がっている自分の妹を見つめた。
俺には、レイラ姫の言っていることが全く理解できない。
この女……狂っている。
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