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番外編SS
えちち洞窟 その3
しおりを挟む※2巻のあとくらい
※あほネタ。なんでも許せる方向け
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今日も今日とて領民の依頼でとある洞窟へやって来たリュカは、入口に『えちち洞窟』と古語で書かれた石銘板を見て凪いた笑みを浮かべる。
今回の依頼は洞窟に迷いこんだ旅人の救出。どうせ自分が全ての仕掛けを浴びてこなくては旅人は解放されないだろうことはわかりきっている。
「さ、行くよ。サクッと行ってサクッと帰ろ」
えちち洞窟のたくらみを知っているリュカは、半ばあきらめ半ば反抗的な気持ちでズンズンと洞窟へ入っていく。
どうせえちちな仕掛けから逃げることはできない。しかし洞窟の思惑通りセックスをするのは腹が立つので絶対阻止したい。ならばしらけるほど平常心を保ってサクサク通過してやろうじゃないかと意気込む。
「ちょ……リュカ様、お待ちください!」
「おいおい、単身で突っ込むなよ。あぶねーだろ」
騎士団を置いてズンズン洞窟に入っていくリュカのあとを、ヴァンとピートと団員たちが慌てて追いかけた。
リュカは平常心を保った! どんな事態になっても周囲の欲を煽らないよう、半目のしらけた表情でしらけたオーラを醸し出した!
まず一発目の紫の靄が出現し、目覚めたときヴァンとピートと一緒に円形のステージに乗せられ、どこからともなくピンクのライトで照らされても平常心を保ったのだ!
「な、なんだこれは……?」
「すげー奇妙なとこに来ちまったぞ? 魔法か、これ?」
動揺しているのは何も知らないヴァンとピートだ。リュカは「大丈夫大丈夫。ジッとしてればそのうち終わるから」と地蔵のような顔で諭した。――すると。
「ん? なんか聞こえねーか?」
「……音楽か?」
どこからともなく軽快……いや、珍妙なメロディが流れてきた。
ヴァンとピートはひたすら困惑しているが、リュカはこの珍妙なメロディに聞き覚えがある。とは言っても前世の古いバラエティ番組で一度聴いただけだが。
(なんでもアリだな!?)
平常心を忘れ、うっかり心の中でツッコんでしまう。それも仕方ない。中世ヨーロッパベースのファンタジー世界で、どうして野球拳のメロディが流れてくると思えようか。
♪野ぁ球ぅ~すぅるなら~
「なんだなんだ、この人を小馬鹿にしたような曲は?」
「古語か? 聞き取れねーけど知的じゃない歌だってのだけは伝わってくんな」
野球拳を知らないふたりは昭和の宴会ムード満点のメロディに思いっきり怪訝な表情を浮かべる。
平常心を取り戻したリュカは棒立ちのまま再び半目になったが、恐ろしいことに意思を無視して手足が勝手に動き出した。
「え? え、え?」
「な、なんだ? 体が勝手に」
「なんだこりゃ? 魔法か? それとも呪いかなんかか?」
三人は曲に合わせて野球拳の舞を強制的に踊らされる。脱力するような珍妙な舞は、リュカはまだしも長身のイケメンふたりが踊るとシュールが過ぎる。リュカは謎の共感性羞恥に襲われた。
(あ~~~馬鹿馬鹿しい~! 腹立つ~~! えちちの中でも最低な部類だ~~)
リュカは努めて平常心を保とうとしたが難しくなってきた。何が悲しくて美形の恋人が「♪アウト、セーフ、ヨヨイのヨイ!」と踊るところを見なくてはならないのか。しかもふたりは困惑顔である。
などと思っているうちに、勝手に手がじゃんけんをしていた。リュカがグーでふたりはパー。リュカのひとり負けである。
次の瞬間、リュカの外衣が音もなく消えた。野球拳に負けたら一枚脱ぐ。正当なルールである。
ヴァンとピートはリュカの外衣が消えたことに驚愕していたが、リュカは半目に戻って納得していた。
(ははーん。これで俺をひん剥こうってワケね。はーどうぞどうぞ)
再び野球拳の曲が流れだし、三人は小さなステージの上で珍妙に踊りだす。
「リュカ様はなんだか落ち着いてますね……。私はまっっったく意味がわからないのですが……」
「これいつまで踊らされるんだ? またじゃんけんか? そんでやっぱ服が消えるのか」
さすがに三回目のループに入ると、ヴァンとピートも音楽、じゃんけん、脱衣の流れがわかってきた。だからといって成す術もないのだが。
野球拳は延々と続いた。勝手に手足が動いているとはいえさすがにくたびれてきて、途中からは三人ともひたすらうんざりしていたし曲に殺意が芽生えていた。
最終的に野球拳は十五回で終わりを迎えた。リュカ九敗、ヴァン四敗、ピート二敗という結果である。
洞窟はおそらくリュカを全裸にしたいのだろうが、盛り上げているつもりなのかヴァンとピートもほどほどに負けて、ふたりは上半身のみ裸である。
そしてリュカは、洞窟のご期待に応えてすっぽんぽんである。
何もかも丸出しになりながら、リュカは直立不動でしらけた表情を浮かべる。色気もエロさも何もない。
(別に、ふたりには裸なんて飽きるほど見られてるんだし。どーってことないんですけど?)
洞窟に挑むようにステージを踏みしめ堂々と全裸で立つリュカに、ヴァンとピートのほうが困惑してオロオロしている。
「リュカ様、お召し物が……」
「参ったな。なんか着せてやりてーけど俺たちも脚衣しかねえ」
ふたりもエロさより、謎に裸にされてしまったリュカをどうすればいいのか困っている。
もはやえちちな雰囲気になりようがなく、洞窟もあきらめたのか、あっさりと紫の靄が発生した。
眠りに落ちながら、リュカは内心「ヨシ!」とほくそ笑んだ。とことんしらけて、えちちな雰囲気を台無しにしてやったのだ。ようやく洞窟に黒星をひとつつけてやったような気持ちになる。
しかしリュカは知らなかった。
――鳴かぬなら鳴かせてみせようホトトギス。洞窟が闘争心に火をつけたことを。
目が覚めたとき三人は豪華なベッドルームにいた。
(あれ? 今回はもうベッドルーム?)
前回、前々回ともベッドルームは最後だったので、今回は二回目だったことに少し驚く。
(もしかして今回は手応えがないから、ワンステージスキップしたとか?)
そんな都合のいいことを考えていたリュカは、目の前のテーブルに小瓶とメモが置いてあることに気づいた。メモには「飲みなさい」と古語で書いてある。
「ここはどこですか? リュカ様、お召し物が戻って……?」
「なんだこりゃ、ドアも窓も凍ってるみたいに開かねーぞ」
謎の部屋に困惑しているヴァンとピートに構わず、リュカは小瓶の蓋を開けて匂いを嗅ぐ。どうやら前回のえちち洞窟にあった媚薬と同じもののようだ。
(今度は俺に媚薬を飲ませてえちちにしようって魂胆か)
リュカは鼻で笑う。媚薬の攻略法はもうわかっているのだ。これは攻めるほうに飲ませてはいけない。何故なら攻めの増大した性欲は、受けが文字通り受けとめなくてはならないのだから。
(だからこれは俺が飲むのが正解。俺がムラムラしたって、セックスせずとも手で処理しちゃえば終わりだもんね。余裕余裕)
リュカは完全にタカをくくっていた。ピートが「ん? おい、あんた何飲もうとしてるんだ」と気づき、ヴァンが「リュカ様! わけのわからないものを口に入れないでください!」と止めに入ったが、リュカは媚薬の瓶を煽り一気に中身を飲み干してしまった。
そして空いた瓶をテーブルに置いて気づくのだ。メモの裏に『感度3000倍バージョン』と記されていたことに。
「三千倍!!!??」
悲鳴を上げたときには遅かった。体中がカーッと熱くなって、全身がみるみる敏感になっていく。
「リュカ様! 大丈夫ですか!?」
「おい! 何飲んだんだ!?」
心配して駆け寄ってきたふたりの風圧にさえリュカの体は過敏に反応してしまう。
「あぁあッ! ち、近寄らないでぇ……っ」
いきなり真っ赤な顔で全身を震わせたリュカを見て、ヴァンもピートも驚愕して狼狽える。リュカはえちち洞窟のことを把握しているが、毎回記憶がリセットされるふたりは珍妙な踊りを踊らされたり主が突然喘ぎだしたりと奇々怪々の連続だ。もはやえっちな状態のリュカを見ても意味がわからず恐怖を覚える。
「び……媚薬飲んだ、ぁ……っ。そしたら、全身敏感になっちゃって、あ、あぁんッ」
息を乱しその場に膝をついたリュカに、「「なんでそんなもの飲んだ!?」」とヴァンもピートも叫ばずにはいられない。まったくもって「なんで」である。
「普通の媚薬かと思ったら……んッ、か、感度三千倍って書いてあって……っ」
「「三千倍!!!!??」」
ふたりは目を剥いて驚いていたが、リュカとて予想外だ。なんとかしてほしい。服が肌に擦れるだけで感じてしまい、すでに陰茎は射精寸前だ。
しかも恐ろしいことに感度はまだまだ上がっていくようで、リュカは体がどんどん過敏になっていくのを感じた。もはやしらけてスルーすることなんてできない。完敗である。
……しかし。
「………………三千倍?」
ヴァンが目をしばたたかせながら呟く。
「…………それって、媚薬か……?」
ピートが顎に手をあてて首を傾げた。
次の瞬間、リュカは「あいたたたたたたたたたたたたたた!!!!」と絶叫した。
「痛い痛い!!! 小指のささくれ滅茶苦茶痛い!!!!」
リュカは小指に二ミリほどのささくれがある左手を押さえて悶絶した。それから「んぁあああああ俺の声うるさっっっっ」と大きな耳を畳むように手で押さえ、「いてぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!」と再び悶絶した。
「感度……三千倍…………」
「……そりゃそうなるよな」
ひとりで転げ回ってはダメージを負っているリュカを見ながら、ヴァンとピートは慄いて呟いた。五感の感度が増しすぎればそれはもはや快感を通り越して痛みである。えちちどころか拷問に近い。
「へにっ! へにっ! く、くしゃみが止まんな……へにっ! いででででで!」
痛くて暴れ回ったせいで埃が立ち、過敏になった鼻腔がくしゃみを連発させる。くしゃみのしすぎで負荷のかかった肋骨が激しく痛み、リュカはすっかりパニックだ。
「た、たすけてぇ……へにっ! へにっ! いででででで、ささくれもいたたたたたたたた」
リュカを助けたいが感度三千倍では触れるわけにもいかずヴァンとピートはまたもやオロオロとする。
さすがに可哀想だと思ったのか、部屋にはすぐに紫の靄が充満し、リュカは感度三千倍地獄から解放されたのだった。
「し……死ぬかと思った…………」
目覚めたリュカはもとに戻った体の感覚に、心の底から安堵した。えちち洞窟で命の危機を覚えたのは初めてかもしれない。
(この洞窟怖い!!!!もうやだ!!!!!)
先ほどの地獄を思い出し青ざめて震えていると、両脇で眠っていたヴァンとピートも目を覚ました。
「ん……? 何が起きたんだ……?」
「……あっ、リュカ大丈夫か!?」
「うん。なんとか……」
リュカはなんの警戒心も抱かず媚薬を煽ったことを恥じる。洞窟に対する反抗心で意気込んでいたとはいえ、あれは少々無謀だった。
リュカの体が戻ったことに安堵した三人は辺りを見回す。さっきとは少し趣が違うが、どうやらまたしてもベッドルームのようだ。
「今度は何が起きるんだろ……」
感度三千倍のせいですっかり怯えてしまったリュカは、ベッドの上で身を縮め尻尾を巻き付けて三角座りをする。
なんとも哀れなその様子にヴァンとピートが慰めようと頭や背に触れたときだった。
「え……!?」
心臓が大きく音を立てたと思ったら、またしても体が熱くなった。
感度三千倍地獄が終わっていないのかと思い泣きそうになったリュカだったが、さっきのような異常な敏感さは訪れず、ただ無性に欲情しただけだった。
(なんだなんだ? 強制発情ってこと?)
随分と芸がないなと思ったが……何やらヴァンとピートの様子がおかしい。顔を赤らめ息を荒げている。彼らも強制的に発情させられているのかと思ったが、少し違うようだ。
「リュカ様、なんですかこの甘ったるい匂いは……!?」
「この匂いを嗅いでいると頭がクラクラする……理性が飛びそうだ」
「え? 俺?」
自覚できないが、どうやらリュカの体から何か甘い香りが発せられているらしい。それがヴァンとピートの性欲を強く煽っているようだ。
「わかんない……、なんか俺もすごくエッチしたい気分だけど……」
洞窟の思惑通りセックスするのは悔しいが、どうにも抗えない。これはもう情欲とかいうレベルではなく、本能レベルで求めている気がする。
「う~~体熱い……っ、お尻が切ないよぉ……」
ベッドの上でモジモジと身を捩るリュカを見て、ヴァンとピートは騎士団の上着を脱ぎ捨てる。そしてふたりがかりでリュカの法衣を剥くと……どういうわけかうつ伏せにベッドに倒した。
「リュカ様……うなじを、うなじを噛ませてください」
肩と背中を押さえながら、ヴァンがリュカの細い首に牙を立てようとする。しかしすんでのところでピートに押しのけられ、ふたりは激しく睨み合った。
「どけ、リュカのうなじを噛むのは俺だ」
「ふざけたことを抜かすな。誰が貴様なんかにリュカ様のうなじを噛ませるものか」
何故うなじに固執するかはわからないが、リュカも噛まれたいような気がする。
しかしヴァンとピートはガウガウと吠え合い、うなじどころかなかなか抱いてくれないので、リュカはふたりの脱ぎ捨てた上着を拾うとベッドの隅っこでそれに包まり丸まった。
「あ~よくわかんないけどやけに落ち着く……」
ふたりの匂いがする物にいっぱい包まりたいが、あいにくここには上着しかない。じつに貧相な巣に包まりながら、リュカはふたりの喧嘩が収まるのを待った。
「何故だかわからないが、オオカミ族の団長である私のほうが優位な気がする! だからリュカ様のうなじを噛むのは私だ!」
「なんだかわかんねーけど、今ならリュカを一発で孕ませる自信があるんだよ!だから俺に噛ませろ!」
「なんかわかんないけど、俺今なら妊娠できそうな気がする……男なのに……」
どうしてかわからないが、三人とも未知なる自然界の摂理に則っているような気がした。
結局喧嘩しても埒が明かなかったヴァンとピートは、左右から同時にリュカのうなじを噛んだ。そして今度はどちらが先に種付けするかで激しく言い争い、やっぱり埒が明かなくてあわや二本挿しチャレンジになりかけたところで、紫の靄が発生したのだった。
「はわわわわわわわわわわわわわ……!!!!!! お尻! 俺のお尻無事!?」
目が覚めるなりリュカは飛び起きて、服の上から自分の尻を撫でさすった。痛みもなければ特に拡張された感覚もない。間一髪で助かったのだとほーっと息を吐く。
(ていうか今回も夢オチだから、別に体はなんともないのか)
辺りを見回せば、岩肌の洞窟の中だった。最初に靄が出た辺りである。周囲にはヴァンとピート、それに騎士団の団員たちが倒れていて、ぼちぼち目を覚ましつつあった。
「う~ん。なんだ? 洞窟に入るなり靄が出てきて眠らされたぞ?」
起きて不思議そうな顔をしている団員たちを見ながら、そういえば今回は彼らの出番はなかったなとリュカは思う。出番があったところで夢オチのうえ記憶がないのだから意味はないのだが、出番がないと本当に無駄足極まりなくて少し可哀想になる。
そして案の定、リュカが洞窟を踏破したことで迷い込んでいた旅人が奥から出てきた。これでミッションコンプリートである。
やれやれと思ってリュカが息を吐いたとき、例のテンテロリンッ♪というメロディが頭の中に響き渡った。
『おめでとうございます! えちち洞窟、実績解除――9・オメガバース』
リュカにしか見えないエレクトリカルな文字が目の前に浮かび上がり、続いてスタンプカードの九番目のマスに花丸のハンコが押される。
(〝オメガバース〟ってなんだろう……。てかギリギリ二本挿しから逃れたと思ったんだけど、あれでクリアなの?)
リュカは小首を傾げる。そのとき、記憶にないはずの直腸の圧迫感が脳裏を一瞬駆け抜けた。
(…………逃れた……んだよね?)
リュカは最後のステージの記憶を辿ろうとして、首を振ってやめた。どうせ夢のことである。思い出さなくていいものは思い出さないほうがいい。
(多分うなじを噛まれたから、それでクリアなんだ! よくわかんないけど!)
考えるのをやめたリュカは困惑している団員たちに向かって号令をかける。
「さーみんなさっさと帰るよー」
ヴァンもピートも洞窟が意味不明だったうえ、リュカが洞窟について何も追究しようとせずとっとと馬車に乗り込んだことに、ものすごく不可解な表情を浮かべていた。
「リュカ様。洞窟について調査しなくてよろしいのですか?」
「いーのいーの。ほら早く帰ろう。晩御飯の時間に遅れちゃう」
「……てか、前も似たような洞窟に来たことなかったっけか……?」
「気のせいだよ、気のせい。はいはい撤収撤収」
馬車の中でヴァンとピートは向かいの席から怪訝そうな視線をリュカに送る。リュカはそんなふたりに構わず、凪いた表情で窓の外を眺めていた。
(まだあるのかな、えちち洞窟。あるよね、スタンプカードの枠が三十あるんだから。ひとつ三ステージとして、あと七箇所か。………………つらぁ)
やけに淡々としていたと思ったらじわじわと膝を抱えて丸まってしまったリュカを見て、ヴァンもピートもびっくりする。リュカの大きな耳はぺしゃんこだ。
「えっどうしたんですかリュカ様!」
「なんだなんだ、いきなりどうしたんだ? 腹でも痛いのか?」
「ウッウッ、俺は今ほど自分が転生者で残念だと思ったことはないよ、ウウッ」
べそべそと泣き出してしまったリュカとオロオロするヴァンとピートを乗せて、馬車は夕焼け空の下を走っていく。えちちな試練に翻弄されるリュカの明日はどっちだ――。
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