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番外編SS
えちち洞窟 その2
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えちち洞窟その2
※両想い後。1巻のあとくらい
※あほネタ。なんでも許せる人向け
=====================
(で、出た~~~~~!!!! えちち洞窟!!)
謎の洞窟の入口に刻まれた古語を読んで、リュカはめちゃくちゃ渋い表情を浮かべた。
えちち洞窟。それはえっちなシチュエーションが待ち構える謎の洞窟である。しかも前回とは違う場所に出没したところを見ると、どうやら世界中に幾つも点在しているらしい。
リュカは以前えちち洞窟に遭遇して散々な目に遭った。あのときは同性同士の恋や情欲というものを知らなくて、余計に混乱したものだった。
まさか人生で再びこれに遭遇するとは思わず、リュカはここから逃げ出したくなる。
しかし今回は、「村の子供がこの洞窟に迷い込んだので助けてほしい」という依頼を受けてやって来たのだ。子供を助け出さずに帰る訳にはいかない。
「……えーと……。俺ひとりで行ってきていい?」
リュカは振り返ってヴァンとピート、それに護衛騎士団に向かって言う。
せっかく両護衛騎士団を引き連れてきたが、中でエッチなハプニングが起こることを理解しているリュカは彼らを連れていきたくない。
さすがに単身ならばえっちなシチュエーションも起こりようがないだろうと思ったのだ。
しかしそこは忠誠心の高い護衛騎士団。あるじをひとりで洞窟へなんて行かせない。
「何を言ってるんですかリュカ様! 我らリュカ様のためなら地獄の底までお供します!!」
「そうですとも!」
「そうですとも!」
騎士団員たちの熱い心意気に感謝しつつ、リュカは哀しそうに笑う。
そして意地でもそばにいたい恋人兼側近騎士のふたりからは、もはや呆れた視線を向けられた。
「寝ぼけたことを仰らないでください。リュカ様をひとりで行かせるわけがないでしょう」
「俺ら護衛は全員お役御免ってか? 笑えねー冗談だな」
リュカはあきらめて「デスヨネー」とやけくそな気分で笑う。
「そもそも何故単身で行くなどと言うのか」とヴァンとピートに詰め寄られたが、えちち洞窟のことを説明して説得するのも馬鹿馬鹿しいうえ、信じてもらえなければあまりに恥ずかしい。
「なんとなく」と言葉を濁し、リュカは結局全員で洞窟に入ることにした。
えちち洞窟のいいところは怪我の危険はないところだ。結局最後は夢で終わるのだから、怪我のしようもない。
(まあ前回と同じく、どうせみんな忘れちゃうだろうし。下手なことしなければそれほどえっちな展開にもならないだろうから、適当にやり過ごそう)
そう腹を括って、リュカはえちち洞窟に足を踏み入れたのだった。
洞窟は前回と同じくゴツゴツとした岩壁に囲まれていた。そして数十メートルほど進んだところで、予想通り紫の靄が発生する。
団員たちはざわついていたが、リュカは(やっぱりこのパターンなんだ……)と冷めた気持ちで眠りに落ちた。
しかし。
「あれ?」
目が覚めても周囲の風景は変わっていなかった。リュカは体を起こし、目をパチクリさせる。
前回は靄で眠らされるたびワケのわからないところへワープさせられたのだが、今回は違うようだ。
辺りの団員達も続々と目を覚まし、キョロキョロと周囲を見回している。
「……今のはいったい?」
「靄みたいなので眠らされたみてーだけど、なんだったんだ?」
ヴァンとピートも頭を押さえながら立ち上がり、不思議そうな顔をしながらリュカのほうを振り返った。
「大丈夫ですか、リュカ様」
「怪我はねーか?」
ふたりに向かって「うん、平気」と顔を上げたときだった。異常に気づき、リュカはふたりの頭上をジッと見つめる。
「なんだこれ?」
ヴァンとピートの頭の上に、何か数字が見える。ヴァンの頭上には3012、ピートの頭上には790と記されている。
するとヴァンとピートも目を丸くして、同じようにリュカの頭上を見つめていた。
「リュカ様の上に何か数字が見える……?」
「896って書いてあるぞ。なんだ?」
「え、俺も? きみたちの頭の上にも数字が出てるよ」
三人は頭の上に手を伸ばしてみたが、字に触れることはできない。触感的には何も感じられず、ただ数字が浮いて見えるだけだった。
他の団員たちも同じだった。みんな頭の上に数字が浮いている。記されている数字はバラバラだったが、だいたい600~5000くらいだった。中には0という者もいた。
リュカは首を傾げた。団員たちも何の意味があるのだろうと不思議がっている。
「戦闘力が可視化されたとか?」
3012のヴァンがそう言うと、790のピートは「はぁ? だったら俺の数値がこんなに低いわけねーだろ」と顔を顰めた。
謎の数字に皆あれこれ予想をしては騒ぎ始めた。一族の歴史の年数ではないかという意見もあれば、死ぬまでの残り日数かもしれないと恐ろしいことを言う者までいる。しかしどれもしっくりこない。すると。
「リュカ様! こちらの岩に何か文字が刻まれています!」
ひとりの団員が洞窟の隅のほうに小さな石碑らしきものを見つけた。
リュカは慌てて走っていき、ヴァンとピートもその後を追う。
石碑は案の定、古語で書かれていた。皆が注目する中、リュカはそれを読み解いていく。
「……ここは――」
声に出して読み上げようとして、リュカはすぐに口を噤んだ。そしてここがえちち洞窟であったことを思い出し、頭を抱えた。
(ばっっっっかじゃないの!!!!!?? この洞窟作ったヤツ世界一バカだろ!!!!??)
石碑には刻まれていた。『ここは自慰の数が可視化されるゾーン』だと。つまり各々の頭の上に浮かんでいるのは、今までしてきた自慰の回数である。
(なんの意味があるの!!!!?? ねえ、これを可視化したことによって誰が得をするの!!??)
あまりの阿保らしさにリュカは頭を抱えたままその場に蹲ってしまった。
その様子に心配したピートとヴァンが、肩に手を置きそれぞれ声をかけてくる。
「おい、大丈夫か。いったいどんな恐ろしいことが書いてあったんだよ」
「教えてください、リュカ様。どんな残酷な内容だとしても、それに怯むような我々ではありません」
(いや多分さすがに怯むと思うよ)
心の中で答えて、リュカはふたりをチラリと見やる。
(……790……)
意味を知って改めて見ると、ピートは少ないなと思った。リュカは少し疑問に思う。
ピートはリュカよりふたつ年下なので、リュカより少なくてもおかしくはない。けれど彼はリュカよりだいぶ性欲が強い。ベッドに誘うのはいつも彼のほうからだ。
(以外……)と思ってピートの顔を見つめていたリュカは、ハッとその理由に気づく。
(そうか、これあくまで自慰なんだ。セックスは含まれないから……)
ピートは経験豊富だ。具体的に聞いたことはないが、彼の手慣れた様子やスラムで逞しく生きてきた背景を思えば、自明の理である。
彼は必ずしも性欲を己の手で発散させてきたわけではないのだ。
そのことに気づいて、リュカはなんだか拗ねた気持ちになった。
「……どした? ふくれっ面して。なんか怒ってんのか?」
「なんでもない」
あきらかにいじけた顔をしているリュカに上目使いに見つめられて、ピートは少したじろぐ。彼からしてみたら石碑を読んでいたリュカがいきなり自分に向かって不機嫌になったのだ、意味が分からないだろう。
リュカはピートが経験豊富であろうことは最初から予測がついていた。けれどそれに怒ることも、深く探ることも今までしてこなかった。
ピートはピートだ。彼がどんな過去を歩んでいようと、自分の元まで辿り着いてくれた軌跡を愛おしく思う。それに騎士になってからは、彼はリュカ以外と体を重ねていないのだから、それでいいと思っていた。
けれど、こんなふうに具体的に数字が見えてしまうと複雑な思いが拭えない。リュカは湿っぽい気持ちで唇を尖らせた。
(俺以外といっぱいセックスしてきたんだな……昔のことだし、別にいいんだけど)
そこまで考えて、リュカはハッとする。
ピートは経験豊富だ。対してもうひとりの恋人は、リュカを抱くまで清廉潔白、正真正銘の童貞だった。
先ほど見たヴァンの数字を思い出して、リュカは顔をカーッと赤くさせる。おずおずと視線を向けると、ヴァンが不思議そうな表情で「どうしました。大丈夫ですか?」と顔を覗き込んできた。
その頭上には、3012という数字がばっちりと記されている。
(多いな!!?? いや、多いよね?? え? 俺の三倍以上??)
ヴァンが何歳から自慰を始めたかは知らないが、これは多いと思う。しかしエッチのときの彼の精力絶倫ぶりを思えば、納得の数字でもあった。
ヴァンのエッチは長い。朝までリュカを抱くことも多々ある。リュカは途中で気を失ってしまって覚えていないが、ひと晩で六回以上射精したこともあったような。
(すご……)
リュカはゴクリと息を呑む。
普段は「性欲なんてありませんけど何か?」みたいな涼しい顔をしているヴァンだからこそ、驚異の三千回超えに畏怖の念さえ湧いてしまうのだ。
しかもヴァンは脇目も振らずリュカに恋をしてきた。おそらく……いや確実に、その3012回のオカズはリュカだ。
(ひぇええぇええぇぇぇぇ)
なんとも言えない恥ずかしさが込み上げてきて、リュカは限界まで赤くなった顔を両手で覆ってヴァンに背を向ける。いったい自分は彼の頭の中で3012回もどんな痴態を晒してきたのだろうか。
「リュ、リュカ様? どうかされたのですか?」と心配する彼の声にまで、耳が熱くなる。
(あーーーーー!!!! こんな情報知りたくなかったぁ!! えちち洞窟のバカバカバカ!!)
数の多いヴァンも、数の少ないピートも、これから見る目が変わってしまいそうだ。心底リュカが洞窟を恨んだとき、お約束のように紫の靄が立ち込めた。
再び目が覚めたときも、リュカたちはまた同じ場所にいた。
(あれ? 今回は場所移動のない洞窟なのかな)
変だなと思いつつも、全員の頭の上から数字が消えていたことにリュカはホッとする。
「なんなんだ? さっきから靄がかかるたびに眠気に襲われて……」
近くで目を覚ましたヴァンが、頭を押さえながら体を起こす。
「これ以上先に進ませないための仕掛けか?」
立ち上がったピートが眉根を寄せ、注意深く辺りを見回した。
そのときだった。ポツリと上から液体のようなものが落ちてきて、リュカは天井を見上げる。
目に映ったのは何の変哲もない岩肌の天井だったが、目を凝らしてよく見ると何やら液体が滲んでぽつ、ぽつと落ちてきていた。
(水が染み出てる……?)
すると天井から落ちてきた雫が一滴、リュカの腕にかかった。それはなんとジュウッと小さな音と煙を立てて、落ちた箇所の服を溶かすではないか。
「!! みんな気をつけて! 酸だ!」
リュカが叫ぶ。ほぼ同時に団員たちも天井から降ってくる液体に気づいたようで、一斉にどよめき出した。
しかし気をつけろと言ったところで、ここには身を隠す場所もない。リュカが魔法でシールドを張ろうと両手を掲げたときだった。
「わっ!」
雫が一滴、リュカの頬へと落ちてきた。肌が焼けたかと思いリュカはとっさに目を瞑ったが……
「……痛くない」
頬は全くのノーダメージだった。
驚いている間にも降ってくる雫はますます増えリュカの顔や手に当たったが、痛くもないし赤くすらならない。
――ただし、服だけは確実にダメージを負い、まるで焼けた煤がくっついたみたいに服を点々と溶かしていった。
リュカは理解する。これが今回のえちち――衣服を溶かす仕掛けなのだと。
「酸ではないようだ。肌にはまったくダメージを受けない」
「ああ。なのに服だけは溶けやがる。繊維を溶かす成分か何かなのか? そんな自然現象聞いたことないぜ」
同じく液体の謎に気づいたヴァンとピートが不思議そうな顔をする。
そうこうしているうちに天井から落ちてくる雫は早さも量も増していき、小ぶりの雨くらいになってきた。
「わぁあ、制服が溶ける!」
みるみる溶けていく衣服に、団員たちは慌てる。それを見てリュカは慌てて魔法のシールドを張ったが、雫はどういう訳かそれを貫通してしまった。
「や、やめて、やめて! これ以上、騎士団の制服溶かさないで!」
天井に向かってリュカは哀願する。
衣服が溶けるぐらいなら危険はないが、できることなら勘弁してもらいたい。
騎士団の制服は高価だ。魔法の糸で織られており、非常に動きやすく、それでいて魔法耐性と打撃耐性も高い。
リュカは団員たちの安全のためなら予算に糸目はつけたくないが、さすがにこんな馬鹿らしい洞窟に高価な制服を何十着と台無しにされるのは避けたかった。しかも。
「あぁーっ! 俺の法衣まで! これ一着作るのに何ヶ月もかかるんだぞ!」
リュカの法衣はさらに高級品だ。着る者の魔力を高めるため特別な技法で織られている。
敵との戦いで犠牲になるのならまだしも、えちちのために溶かされるなど許しがたい。
(前回は夢オチだったけど、今回も夢で済むんだろうな? 本当に制服と法衣台無しにしたら許さないぞ)
リュカがハラハラしているうちにも、服はなすすべもなく溶かされていく。
ヴァンとピートがリュカを庇おうとしてくれているが、天井から絶え間なく降ってくる液体が相手では手も足も出なかった。
……しかし。
「なんでぇ!?」
数分後。リュカは服を綺麗さっぱり溶かされ、見事なすっぽんぽんになっていた。
それなのにどういうわけか、他の者は脚衣だけは溶けなかったのだ。
「俺だけ全部丸出しなんだけど!? 余計に恥ずかしいんだけど!?」
いっそ全員揃ってすっぽんぽんならまだ開き直れるものがあったのに、これでは衆人環視の羞恥プレイである。
そのときリュカはひとつの結論にたどり着いた。前回といい今回といい、どうもえちち洞窟はリュカをメインターゲットにしているようだ、と。
(俺か!!? 俺にえっちなハプニングを起こすことが目的なのかこの最低な洞窟は!!)
以前の何も知らないリュカならば、この状況を大して恥ずかしいとは感じなかっただろう。しかし今のリュカは男同士の恋愛も情欲も知っている。そのうえで素っ裸にひん剥かれれば、羞恥を覚えるのも当然だった。
(この洞窟嫌い!!!)
思わずしゃがみ込んで身を丸めれば、すかさずヴァンとピートがリュカを隠すように前後に立った。
「全員回れ右! こちらを向くんじゃない!」
「見るな見るな! 勝手にリュカ様の裸見るんじゃねえよ!」
団員たちもさすがにあるじの全裸を見るのは不敬だと思ったのか、慌てて背を向ける。
リュカは縮こまってプルプルとしながら、早く紫の靄が出てこのシチュエーションが終わることを祈った。
――ところが。
微かな振動を感じたかと思うと、突然天井からパラパラと小石が落ち始めた。
落盤の予兆かと思い、リュカは股間を隠しつつ立ち上がる。
「天井が崩れるかも……いったん外へ逃げよう!」
しかし先陣を切った部隊の団員が、見えない壁に当たって跳ね返される。どうやら前後二十メートルくらいを見えない壁で塞がれているみたいだ。
(なんで!? えちち洞窟は安全なはずじゃなかったの!?)
落盤の可能性がある洞窟で袋小路になってしまい、リュカは慌てる。さらに大きな石がバラバラと降ってきて、団員や、リュカを庇うヴァンとピートの頭上に降り注いだ。
「みんな、俺の周囲に集まって!」
見かねてリュカは全員の中央に躍り出ると、天井に向かって両手を掲げた。
「シールド!」
さっきの液体には効かなかった魔法だが、今回は効果があった。リュカを中心に魔法の防御壁がドーム状に張られ、降ってくる石がすべて弾かれる。
よかった、とリュカが安堵したのも束の間だった。
「は…………あ、あ、わあぁぁああああああ!!!!!」
安全のためには仕方ないとはいえ、リュカはすごい状態になっていた。
すっぽんぽんで両手を掲げている体勢なのだ。上に向かってシールドを張っている以上、股間を隠すわけにもいかず、いさぎよいほどに丸出しだ。
リュカの魔法のおかげで安心していた団員達も、あるじのあられもない姿に気づきアワアワと狼狽える。再びヴァンとピートに怒鳴られ、皆慌てて背を向けたり顔を逸らしたりしたが、リュカが全裸で頑張っている姿はほとんどの者に見られてしまった。
(ほんと嫌い!!! ほんっっっと嫌いこの洞窟!!!!!!)
リュカは涙目になってシールドを展開し続ける。
ヴァンとピートは再びリュカの前後に立って色々隠してくれたが、彼らもリュカの卑猥な姿に内心動揺しているようだった。ふたりとも頬が赤い。
(……今夜辺り、数字が増えたりして)
リュカはさっきふたりの頭上に浮かんだ数字を思い出す。たはは、と力なく笑ったところで、ようやくお待ちかねの紫の靄が漂ってきた。
リュカが目を開くと、今度は場所が変わっていた。
岩肌に囲まれた洞窟ではない。大きな寝台が用意された立派な部屋だ。
この部屋には見覚えがある。前回のえちち洞窟で閉じ込められた『セックスしないと出られない部屋』だ。
「またこれか~」
リュカはうんざりと溜息を吐きながら体を起こした。服が元通りになっていたことに気づき、少しホッとする。
ややすると予想通り、ヴァンとピートが突如部屋の中に現れた。ふたりは驚いた様子でキョロキョロとし、自分の服が何事もなかったかのように元通りになっていることに目を見開いていた。
「ふたりとも大丈夫?」
声をかけるとヴァンとピートはすぐさまリュカのもとへ駆けつけてきた。
「リュカ様! 無事ですか!?」
「怪我は……ないみたいだな。服も戻ったみたいでよかったな」
ふたりはリュカの無事を確認すると、怪訝な顔で部屋を見回した。「洞窟の中にいたはずなのにこの豪華な部屋はなんだ?」と怪しんでいる。当然の反応だろう。
そして前回と同じように扉の上に書いてある文字を読んで、前回と同じように唖然とした。
ただし前回と違っていたのは、部屋を出られる条件が変わっていたことだ。
「「……媚薬を三十本飲まないと出られない部屋……?」」
これにはリュカも驚いた。というか意味が分からなかった。
「媚薬……? 媚薬ってなんだっけ?」
耳慣れない言葉にリュカが小首を傾げると、ピートがテーブルの上に並べられていた小瓶をひとつ取って「これだな」と手渡してきた。
硝子の小瓶の中にはピンク色の液体が艶めいている。見るからに卑猥だ。
「性力増強とか催淫効果とか感度が増すとか効能は色々あるけど、簡単に言うとエロい気分と体になる薬だな」
さすが社会の表も裏も様々なことに精通しているピートである。媚薬にも詳しかった。
対して箱入り坊ちゃんのリュカとヴァンは、そんないかがわしいものがこの世にあったのかと目を見開く。
「そ、そんな怪しい薬を三十本も飲めだと……? ふざけているのか!?」
ヴァンは憤ってピートに吠えたが、ピートはうんざりした表情で「俺に言うなよ。文句はこの部屋に閉じ込めたヤツに言え」と顔を背ける。
前回のように性行為を強要される内容ではなかったが、精力を増す薬を大量に飲めば結果は同じだろう。リュカは(この部屋はどーしても俺にセックスさせたいんだな……)と凪いた表情になった。
「得体のしれない薬など飲むものか! こんな部屋、力ずくで出てやる!」
カンカンに怒ったヴァンは扉や壁を力ずくで破壊しようとしたが、無意味なのはお約束である。
ピートも脱出路を探したが、やがて黙って肩を竦め首を横に振った。
リュカはどうせこの部屋から出られないことを知っていたが、何も知らないふたりの手前、脱出の手段を探すふりをした。
そうしてかれこれ二時間後。
ここを出るには媚薬を飲むしかないとわからされた三人は、苦々しい表情を浮かべながらテーブルの前に立った。
「これ一本でどれくらい効果があるの?」
リュカが尋ねれば、ピートは「さあな」と媚薬を手に取り蓋を開けて匂いを嗅いだ。
「媚薬っつっても色々だ。強いのもあれば弱いのもある。これは……生薬の匂いが濃いな。感度を上げるってより性力増強効果のほうが強そうだ」
そう説明してピートはクンクンとじっくり匂いを嗅いでから、いきなり瓶を煽って液体を一気飲みしてしまった。
「え!! ちょっと!? 大丈夫なの!?」
リュカは慌てたが、ピートは空っぽになった瓶を投げ捨てるとペロリと口の周りを舐めて言った。
「平気だ。毒もねえ、純粋にただの媚薬だ」
どうやら本当に毒はないようでリュカはホッとしたが、ピートはテーブルに並べられた媚薬を次々に飲んでいってしまう。
「たかが媚薬だ。さっさと飲んでさっさとこんなところからおさらばしよーぜ」
確かに彼の言う通りだ。精力が増すくらいならさして問題はない。パパッと飲んでパパッと部屋から出てしまえばいいのだ。ナニが催すのなら、トイレで処理してくればいい。
「よし……!」
リュカも覚悟を決めて媚薬に手を伸ばす。
テーブルにはぴったり三十本の媚薬がある。三人ならばひとりあたり十本のノルマだ。
ところが。
「おっと、あんたは飲むなよ。ただの媚薬だとは思うが、当主サマに得体のしれねーもん飲ますワケにゃいかないからな」
「おやめください、こんな怪しいものに口をつけようとするのは。なんのために私どもがいると思ってるんですか」
ピートとヴァンに両脇から手を掴まれ、止められてしまった。
「でも……三人で分けたほうが負担が少ないよ」
自分だけ免除されるのも悪いと思い訴えるが、ふたりはテーブルの前に立ちふさがってリュカを遠ざけてしまった。
「いいから、あんたはその辺で休んでな」
「ここは私とこいつにお任せください」
そうしてピートはグイグイと媚薬を飲み干していき、ヴァンも覚悟を決めたように媚薬を飲み始めた。
たかが媚薬、されど媚薬。
ヴァンとピートが十二本目の瓶を投げ捨てたあたりから、リュカは嫌な予感がし始めた。
ふたりの顔が赤い。息が荒い。リュカを見つめる目が爛々としている。
リュカは迷う。正直なところ、この部屋の思うつぼになってセックスするのは嫌だ。しかしリュカの代わりに媚薬を飲んでくれたふたりの性欲をこのまま放っておくのも申し訳ない。けれども、ただでさえ性欲の強いふたりにバフがかかっているこの状態で相手をするのは、さすがに怖かった。
「さ……最後の一本を飲んだら、すぐに部屋から出ようね。そうすれば多分、媚薬の効果も消えるはずだから……」
リュカの見立てではこの部屋から出れば夢から覚めるはずだ。そうすればヴァンとピートも強烈な欲情状態から解放される。だったらさっさと目覚めてしまえばいいのだと考えたが――。
えちち洞窟は甘くない。
扉の前で待機していようと思い、座っていたベッドからピョンと飛び降りたリュカは、足もとのマットに滑ってひっくり返った。それもう、盛大に。
幸いクッションがあったので頭は打たなかったが、ひっくり返った勢いで法衣の裾が捲れ上がった。それはもう、はしたなく。
ひっくり返ったままの体勢でリュカは思う。自分はいつ脚衣と下着を脱いだのだろうと。不自然に腹まで捲れ上がった法衣から覗く自分の太腿を見つめながら、「ああそうだ。ここはえちち洞窟だから」と悟って、何もかもあきらめた穏やかな笑みを浮かべた。
ヴァンとピートは耐えていた。正直なところリュカを抱きたくて抱きたくて仕方ないが、こんな部屋に踊らされて大切な人で性欲を発散させることに抵抗があったからだ。愛する人は自分の意志で抱きたいものである。
それなのに、その愛する人は何故ひとりでひっくり返ったうえ、丸出しの下半身を見せつけているのだろうか。いや見せつけているわけではない、法衣が捲れ上がってしまっただけだ。だがそれならば何故脚衣も下着もはいていないのか。
((……もうどうでもいいか))
限界まで昂っていた性欲が、どストレートな誘惑のせいで理性を粉々にする。
十五本目の媚薬を飲み干したふたりは、扉が開錠した音にも構わずリュカに近づいていった。
それから六時間、尽きぬふたりの性欲に翻弄されながらリュカは思った。(……俺が媚薬飲んだほうが結果的にラクだったのでは?)と。
何度も意識を飛ばし何度目かの目覚めで、リュカはようやく媚薬の部屋から解放された。
目を覚ましたとき自分が服を着て洞窟の元の場所に倒れていたことに、心の底からホッとする。思わず無言のまま感激の万歳ポーズをとってしまったほどだ。
(媚薬怖い、媚薬怖い!!!!!! ヴァンもピートも何回射精した!? お尻も口もちんちんも擦り切れてなくなるかと思った!!!)
えちち洞窟が夢オチで本当によかったと思う。そうでなければリュカは一週間は立ち上がれなかっただろう。
胸に手をあて深く安堵の息を吐いたリュカは、辺りを見回す。最初に入ってきたときと何も変わっていない、岩肌の洞窟にヴァンとピートを始めとする騎士団の団員たちが倒れて眠っていた。
やがてひとり、ふたりと団員たちが起き始めたころ、洞窟の奥からひとりの子供がトコトコと歩いてきた。どうやらこの子が行方不明になっていた子供のようだ。なんでも奥まで行ったが行き止まりだったので引き返してきたのだと言う。怪我もない。
(えちち洞窟もさすがに子供には手を出さないんだな。案外倫理しっかりしてる……)
どうでもいいことに感心してしまったが、何はともあれ子供が無事でよかった。もちろんリュカにも団員たちにも怪我はない。そして今回もリュカ以外には夢の記憶がなかった。
「いったいなんだったのでしょうね、この洞窟は」
「眠らされただけで何もないとか、変な洞窟だよな」
洞窟を出てヴァンとピートが不思議そうに呟く。団員達も皆首を傾げていた。しかし。
「うん。こんな変な洞窟は危険だから潰して塞いじゃおうね」
リュカだけはにこやかに微笑みながら怒り心頭だった。
(もう怒ったからな!! 夢オチとはいえ知りたくもないこと知らされたり、みんなの前で大恥かかされたり、エンドレス耐久セックスさせられたり!!! お前なんか永久に封じ込めてやる!)
洞窟内に落盤を起こし封鎖してやろうと、リュカは錫杖を構える。
「「え? は? ど、どうした?」」
あるじが唐突に物騒なことを言いだし、ヴァンもピートも団員もわけがわからずポカンとした。
――そのときだった。
テンテロリンッ♪と軽快な音がリュカの頭に中に鳴り響き、目の前に文字が浮かび上がる。
リュカは驚いて目をまん丸くしたが、他の者は誰も気づいていない。どうやらリュカだけに聞こえ、見えているようだ。
目の前に浮かんだ文字は古代語だった。リュカは怪訝そうに顔を顰めながら、それを読み解いていく。
(……〝おめでとうございます! えちち洞窟、実績解除――6・媚薬の部屋〟……?)
続いて目の前に現れたのはスタンプカードのようなものだった。三十マスほどある枠の六番目の位置に、ポンッと花丸のハンコが押される。
リュカはなんとなく理解した。媚薬の部屋だけハンコが押されたということは、えちち洞窟から脱出するだけでなく、セックスまでこぎつけないと実績解除にならないのだと。
(……〝コンプリート達成で激レアアイテムゲット! えちちキングを目指しましょう!〟…………)
続けて現れたメッセージを読んで、リュカは怒りのあまりプルプルと震える。
「誰がえちちキングなんか目指すかーー!!!! もう二度とこんな馬鹿洞窟入らないからな!! 絶対! 一歩だって入らない!!」
「「は、はあ?」」
いきなり叫び出したリュカに、周囲にいたものは皆びっくりしている。そして困惑する団員たちに構わずリュカはさっさと洞窟を落盤で塞ぎ、怒り冷めやらない状態でプンプンしながら馬車に戻った。
「……どーしちまったんだ、リュカは」
「さあ……? リュカ様があんなに怒るとは珍しい」
ピートとヴァンはひたすら不思議そうな顔をしながらリュカの後についていった。……なんだか妙に体がだるいなと思いながら。
――えちち洞窟。それは神々の戯れ。この世にえっちなシチュエーションある限り、えちち洞窟は無限に出没してくるのだ――
※両想い後。1巻のあとくらい
※あほネタ。なんでも許せる人向け
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(で、出た~~~~~!!!! えちち洞窟!!)
謎の洞窟の入口に刻まれた古語を読んで、リュカはめちゃくちゃ渋い表情を浮かべた。
えちち洞窟。それはえっちなシチュエーションが待ち構える謎の洞窟である。しかも前回とは違う場所に出没したところを見ると、どうやら世界中に幾つも点在しているらしい。
リュカは以前えちち洞窟に遭遇して散々な目に遭った。あのときは同性同士の恋や情欲というものを知らなくて、余計に混乱したものだった。
まさか人生で再びこれに遭遇するとは思わず、リュカはここから逃げ出したくなる。
しかし今回は、「村の子供がこの洞窟に迷い込んだので助けてほしい」という依頼を受けてやって来たのだ。子供を助け出さずに帰る訳にはいかない。
「……えーと……。俺ひとりで行ってきていい?」
リュカは振り返ってヴァンとピート、それに護衛騎士団に向かって言う。
せっかく両護衛騎士団を引き連れてきたが、中でエッチなハプニングが起こることを理解しているリュカは彼らを連れていきたくない。
さすがに単身ならばえっちなシチュエーションも起こりようがないだろうと思ったのだ。
しかしそこは忠誠心の高い護衛騎士団。あるじをひとりで洞窟へなんて行かせない。
「何を言ってるんですかリュカ様! 我らリュカ様のためなら地獄の底までお供します!!」
「そうですとも!」
「そうですとも!」
騎士団員たちの熱い心意気に感謝しつつ、リュカは哀しそうに笑う。
そして意地でもそばにいたい恋人兼側近騎士のふたりからは、もはや呆れた視線を向けられた。
「寝ぼけたことを仰らないでください。リュカ様をひとりで行かせるわけがないでしょう」
「俺ら護衛は全員お役御免ってか? 笑えねー冗談だな」
リュカはあきらめて「デスヨネー」とやけくそな気分で笑う。
「そもそも何故単身で行くなどと言うのか」とヴァンとピートに詰め寄られたが、えちち洞窟のことを説明して説得するのも馬鹿馬鹿しいうえ、信じてもらえなければあまりに恥ずかしい。
「なんとなく」と言葉を濁し、リュカは結局全員で洞窟に入ることにした。
えちち洞窟のいいところは怪我の危険はないところだ。結局最後は夢で終わるのだから、怪我のしようもない。
(まあ前回と同じく、どうせみんな忘れちゃうだろうし。下手なことしなければそれほどえっちな展開にもならないだろうから、適当にやり過ごそう)
そう腹を括って、リュカはえちち洞窟に足を踏み入れたのだった。
洞窟は前回と同じくゴツゴツとした岩壁に囲まれていた。そして数十メートルほど進んだところで、予想通り紫の靄が発生する。
団員たちはざわついていたが、リュカは(やっぱりこのパターンなんだ……)と冷めた気持ちで眠りに落ちた。
しかし。
「あれ?」
目が覚めても周囲の風景は変わっていなかった。リュカは体を起こし、目をパチクリさせる。
前回は靄で眠らされるたびワケのわからないところへワープさせられたのだが、今回は違うようだ。
辺りの団員達も続々と目を覚まし、キョロキョロと周囲を見回している。
「……今のはいったい?」
「靄みたいなので眠らされたみてーだけど、なんだったんだ?」
ヴァンとピートも頭を押さえながら立ち上がり、不思議そうな顔をしながらリュカのほうを振り返った。
「大丈夫ですか、リュカ様」
「怪我はねーか?」
ふたりに向かって「うん、平気」と顔を上げたときだった。異常に気づき、リュカはふたりの頭上をジッと見つめる。
「なんだこれ?」
ヴァンとピートの頭の上に、何か数字が見える。ヴァンの頭上には3012、ピートの頭上には790と記されている。
するとヴァンとピートも目を丸くして、同じようにリュカの頭上を見つめていた。
「リュカ様の上に何か数字が見える……?」
「896って書いてあるぞ。なんだ?」
「え、俺も? きみたちの頭の上にも数字が出てるよ」
三人は頭の上に手を伸ばしてみたが、字に触れることはできない。触感的には何も感じられず、ただ数字が浮いて見えるだけだった。
他の団員たちも同じだった。みんな頭の上に数字が浮いている。記されている数字はバラバラだったが、だいたい600~5000くらいだった。中には0という者もいた。
リュカは首を傾げた。団員たちも何の意味があるのだろうと不思議がっている。
「戦闘力が可視化されたとか?」
3012のヴァンがそう言うと、790のピートは「はぁ? だったら俺の数値がこんなに低いわけねーだろ」と顔を顰めた。
謎の数字に皆あれこれ予想をしては騒ぎ始めた。一族の歴史の年数ではないかという意見もあれば、死ぬまでの残り日数かもしれないと恐ろしいことを言う者までいる。しかしどれもしっくりこない。すると。
「リュカ様! こちらの岩に何か文字が刻まれています!」
ひとりの団員が洞窟の隅のほうに小さな石碑らしきものを見つけた。
リュカは慌てて走っていき、ヴァンとピートもその後を追う。
石碑は案の定、古語で書かれていた。皆が注目する中、リュカはそれを読み解いていく。
「……ここは――」
声に出して読み上げようとして、リュカはすぐに口を噤んだ。そしてここがえちち洞窟であったことを思い出し、頭を抱えた。
(ばっっっっかじゃないの!!!!!?? この洞窟作ったヤツ世界一バカだろ!!!!??)
石碑には刻まれていた。『ここは自慰の数が可視化されるゾーン』だと。つまり各々の頭の上に浮かんでいるのは、今までしてきた自慰の回数である。
(なんの意味があるの!!!!?? ねえ、これを可視化したことによって誰が得をするの!!??)
あまりの阿保らしさにリュカは頭を抱えたままその場に蹲ってしまった。
その様子に心配したピートとヴァンが、肩に手を置きそれぞれ声をかけてくる。
「おい、大丈夫か。いったいどんな恐ろしいことが書いてあったんだよ」
「教えてください、リュカ様。どんな残酷な内容だとしても、それに怯むような我々ではありません」
(いや多分さすがに怯むと思うよ)
心の中で答えて、リュカはふたりをチラリと見やる。
(……790……)
意味を知って改めて見ると、ピートは少ないなと思った。リュカは少し疑問に思う。
ピートはリュカよりふたつ年下なので、リュカより少なくてもおかしくはない。けれど彼はリュカよりだいぶ性欲が強い。ベッドに誘うのはいつも彼のほうからだ。
(以外……)と思ってピートの顔を見つめていたリュカは、ハッとその理由に気づく。
(そうか、これあくまで自慰なんだ。セックスは含まれないから……)
ピートは経験豊富だ。具体的に聞いたことはないが、彼の手慣れた様子やスラムで逞しく生きてきた背景を思えば、自明の理である。
彼は必ずしも性欲を己の手で発散させてきたわけではないのだ。
そのことに気づいて、リュカはなんだか拗ねた気持ちになった。
「……どした? ふくれっ面して。なんか怒ってんのか?」
「なんでもない」
あきらかにいじけた顔をしているリュカに上目使いに見つめられて、ピートは少したじろぐ。彼からしてみたら石碑を読んでいたリュカがいきなり自分に向かって不機嫌になったのだ、意味が分からないだろう。
リュカはピートが経験豊富であろうことは最初から予測がついていた。けれどそれに怒ることも、深く探ることも今までしてこなかった。
ピートはピートだ。彼がどんな過去を歩んでいようと、自分の元まで辿り着いてくれた軌跡を愛おしく思う。それに騎士になってからは、彼はリュカ以外と体を重ねていないのだから、それでいいと思っていた。
けれど、こんなふうに具体的に数字が見えてしまうと複雑な思いが拭えない。リュカは湿っぽい気持ちで唇を尖らせた。
(俺以外といっぱいセックスしてきたんだな……昔のことだし、別にいいんだけど)
そこまで考えて、リュカはハッとする。
ピートは経験豊富だ。対してもうひとりの恋人は、リュカを抱くまで清廉潔白、正真正銘の童貞だった。
先ほど見たヴァンの数字を思い出して、リュカは顔をカーッと赤くさせる。おずおずと視線を向けると、ヴァンが不思議そうな表情で「どうしました。大丈夫ですか?」と顔を覗き込んできた。
その頭上には、3012という数字がばっちりと記されている。
(多いな!!?? いや、多いよね?? え? 俺の三倍以上??)
ヴァンが何歳から自慰を始めたかは知らないが、これは多いと思う。しかしエッチのときの彼の精力絶倫ぶりを思えば、納得の数字でもあった。
ヴァンのエッチは長い。朝までリュカを抱くことも多々ある。リュカは途中で気を失ってしまって覚えていないが、ひと晩で六回以上射精したこともあったような。
(すご……)
リュカはゴクリと息を呑む。
普段は「性欲なんてありませんけど何か?」みたいな涼しい顔をしているヴァンだからこそ、驚異の三千回超えに畏怖の念さえ湧いてしまうのだ。
しかもヴァンは脇目も振らずリュカに恋をしてきた。おそらく……いや確実に、その3012回のオカズはリュカだ。
(ひぇええぇええぇぇぇぇ)
なんとも言えない恥ずかしさが込み上げてきて、リュカは限界まで赤くなった顔を両手で覆ってヴァンに背を向ける。いったい自分は彼の頭の中で3012回もどんな痴態を晒してきたのだろうか。
「リュ、リュカ様? どうかされたのですか?」と心配する彼の声にまで、耳が熱くなる。
(あーーーーー!!!! こんな情報知りたくなかったぁ!! えちち洞窟のバカバカバカ!!)
数の多いヴァンも、数の少ないピートも、これから見る目が変わってしまいそうだ。心底リュカが洞窟を恨んだとき、お約束のように紫の靄が立ち込めた。
再び目が覚めたときも、リュカたちはまた同じ場所にいた。
(あれ? 今回は場所移動のない洞窟なのかな)
変だなと思いつつも、全員の頭の上から数字が消えていたことにリュカはホッとする。
「なんなんだ? さっきから靄がかかるたびに眠気に襲われて……」
近くで目を覚ましたヴァンが、頭を押さえながら体を起こす。
「これ以上先に進ませないための仕掛けか?」
立ち上がったピートが眉根を寄せ、注意深く辺りを見回した。
そのときだった。ポツリと上から液体のようなものが落ちてきて、リュカは天井を見上げる。
目に映ったのは何の変哲もない岩肌の天井だったが、目を凝らしてよく見ると何やら液体が滲んでぽつ、ぽつと落ちてきていた。
(水が染み出てる……?)
すると天井から落ちてきた雫が一滴、リュカの腕にかかった。それはなんとジュウッと小さな音と煙を立てて、落ちた箇所の服を溶かすではないか。
「!! みんな気をつけて! 酸だ!」
リュカが叫ぶ。ほぼ同時に団員たちも天井から降ってくる液体に気づいたようで、一斉にどよめき出した。
しかし気をつけろと言ったところで、ここには身を隠す場所もない。リュカが魔法でシールドを張ろうと両手を掲げたときだった。
「わっ!」
雫が一滴、リュカの頬へと落ちてきた。肌が焼けたかと思いリュカはとっさに目を瞑ったが……
「……痛くない」
頬は全くのノーダメージだった。
驚いている間にも降ってくる雫はますます増えリュカの顔や手に当たったが、痛くもないし赤くすらならない。
――ただし、服だけは確実にダメージを負い、まるで焼けた煤がくっついたみたいに服を点々と溶かしていった。
リュカは理解する。これが今回のえちち――衣服を溶かす仕掛けなのだと。
「酸ではないようだ。肌にはまったくダメージを受けない」
「ああ。なのに服だけは溶けやがる。繊維を溶かす成分か何かなのか? そんな自然現象聞いたことないぜ」
同じく液体の謎に気づいたヴァンとピートが不思議そうな顔をする。
そうこうしているうちに天井から落ちてくる雫は早さも量も増していき、小ぶりの雨くらいになってきた。
「わぁあ、制服が溶ける!」
みるみる溶けていく衣服に、団員たちは慌てる。それを見てリュカは慌てて魔法のシールドを張ったが、雫はどういう訳かそれを貫通してしまった。
「や、やめて、やめて! これ以上、騎士団の制服溶かさないで!」
天井に向かってリュカは哀願する。
衣服が溶けるぐらいなら危険はないが、できることなら勘弁してもらいたい。
騎士団の制服は高価だ。魔法の糸で織られており、非常に動きやすく、それでいて魔法耐性と打撃耐性も高い。
リュカは団員たちの安全のためなら予算に糸目はつけたくないが、さすがにこんな馬鹿らしい洞窟に高価な制服を何十着と台無しにされるのは避けたかった。しかも。
「あぁーっ! 俺の法衣まで! これ一着作るのに何ヶ月もかかるんだぞ!」
リュカの法衣はさらに高級品だ。着る者の魔力を高めるため特別な技法で織られている。
敵との戦いで犠牲になるのならまだしも、えちちのために溶かされるなど許しがたい。
(前回は夢オチだったけど、今回も夢で済むんだろうな? 本当に制服と法衣台無しにしたら許さないぞ)
リュカがハラハラしているうちにも、服はなすすべもなく溶かされていく。
ヴァンとピートがリュカを庇おうとしてくれているが、天井から絶え間なく降ってくる液体が相手では手も足も出なかった。
……しかし。
「なんでぇ!?」
数分後。リュカは服を綺麗さっぱり溶かされ、見事なすっぽんぽんになっていた。
それなのにどういうわけか、他の者は脚衣だけは溶けなかったのだ。
「俺だけ全部丸出しなんだけど!? 余計に恥ずかしいんだけど!?」
いっそ全員揃ってすっぽんぽんならまだ開き直れるものがあったのに、これでは衆人環視の羞恥プレイである。
そのときリュカはひとつの結論にたどり着いた。前回といい今回といい、どうもえちち洞窟はリュカをメインターゲットにしているようだ、と。
(俺か!!? 俺にえっちなハプニングを起こすことが目的なのかこの最低な洞窟は!!)
以前の何も知らないリュカならば、この状況を大して恥ずかしいとは感じなかっただろう。しかし今のリュカは男同士の恋愛も情欲も知っている。そのうえで素っ裸にひん剥かれれば、羞恥を覚えるのも当然だった。
(この洞窟嫌い!!!)
思わずしゃがみ込んで身を丸めれば、すかさずヴァンとピートがリュカを隠すように前後に立った。
「全員回れ右! こちらを向くんじゃない!」
「見るな見るな! 勝手にリュカ様の裸見るんじゃねえよ!」
団員たちもさすがにあるじの全裸を見るのは不敬だと思ったのか、慌てて背を向ける。
リュカは縮こまってプルプルとしながら、早く紫の靄が出てこのシチュエーションが終わることを祈った。
――ところが。
微かな振動を感じたかと思うと、突然天井からパラパラと小石が落ち始めた。
落盤の予兆かと思い、リュカは股間を隠しつつ立ち上がる。
「天井が崩れるかも……いったん外へ逃げよう!」
しかし先陣を切った部隊の団員が、見えない壁に当たって跳ね返される。どうやら前後二十メートルくらいを見えない壁で塞がれているみたいだ。
(なんで!? えちち洞窟は安全なはずじゃなかったの!?)
落盤の可能性がある洞窟で袋小路になってしまい、リュカは慌てる。さらに大きな石がバラバラと降ってきて、団員や、リュカを庇うヴァンとピートの頭上に降り注いだ。
「みんな、俺の周囲に集まって!」
見かねてリュカは全員の中央に躍り出ると、天井に向かって両手を掲げた。
「シールド!」
さっきの液体には効かなかった魔法だが、今回は効果があった。リュカを中心に魔法の防御壁がドーム状に張られ、降ってくる石がすべて弾かれる。
よかった、とリュカが安堵したのも束の間だった。
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安全のためには仕方ないとはいえ、リュカはすごい状態になっていた。
すっぽんぽんで両手を掲げている体勢なのだ。上に向かってシールドを張っている以上、股間を隠すわけにもいかず、いさぎよいほどに丸出しだ。
リュカの魔法のおかげで安心していた団員達も、あるじのあられもない姿に気づきアワアワと狼狽える。再びヴァンとピートに怒鳴られ、皆慌てて背を向けたり顔を逸らしたりしたが、リュカが全裸で頑張っている姿はほとんどの者に見られてしまった。
(ほんと嫌い!!! ほんっっっと嫌いこの洞窟!!!!!!)
リュカは涙目になってシールドを展開し続ける。
ヴァンとピートは再びリュカの前後に立って色々隠してくれたが、彼らもリュカの卑猥な姿に内心動揺しているようだった。ふたりとも頬が赤い。
(……今夜辺り、数字が増えたりして)
リュカはさっきふたりの頭上に浮かんだ数字を思い出す。たはは、と力なく笑ったところで、ようやくお待ちかねの紫の靄が漂ってきた。
リュカが目を開くと、今度は場所が変わっていた。
岩肌に囲まれた洞窟ではない。大きな寝台が用意された立派な部屋だ。
この部屋には見覚えがある。前回のえちち洞窟で閉じ込められた『セックスしないと出られない部屋』だ。
「またこれか~」
リュカはうんざりと溜息を吐きながら体を起こした。服が元通りになっていたことに気づき、少しホッとする。
ややすると予想通り、ヴァンとピートが突如部屋の中に現れた。ふたりは驚いた様子でキョロキョロとし、自分の服が何事もなかったかのように元通りになっていることに目を見開いていた。
「ふたりとも大丈夫?」
声をかけるとヴァンとピートはすぐさまリュカのもとへ駆けつけてきた。
「リュカ様! 無事ですか!?」
「怪我は……ないみたいだな。服も戻ったみたいでよかったな」
ふたりはリュカの無事を確認すると、怪訝な顔で部屋を見回した。「洞窟の中にいたはずなのにこの豪華な部屋はなんだ?」と怪しんでいる。当然の反応だろう。
そして前回と同じように扉の上に書いてある文字を読んで、前回と同じように唖然とした。
ただし前回と違っていたのは、部屋を出られる条件が変わっていたことだ。
「「……媚薬を三十本飲まないと出られない部屋……?」」
これにはリュカも驚いた。というか意味が分からなかった。
「媚薬……? 媚薬ってなんだっけ?」
耳慣れない言葉にリュカが小首を傾げると、ピートがテーブルの上に並べられていた小瓶をひとつ取って「これだな」と手渡してきた。
硝子の小瓶の中にはピンク色の液体が艶めいている。見るからに卑猥だ。
「性力増強とか催淫効果とか感度が増すとか効能は色々あるけど、簡単に言うとエロい気分と体になる薬だな」
さすが社会の表も裏も様々なことに精通しているピートである。媚薬にも詳しかった。
対して箱入り坊ちゃんのリュカとヴァンは、そんないかがわしいものがこの世にあったのかと目を見開く。
「そ、そんな怪しい薬を三十本も飲めだと……? ふざけているのか!?」
ヴァンは憤ってピートに吠えたが、ピートはうんざりした表情で「俺に言うなよ。文句はこの部屋に閉じ込めたヤツに言え」と顔を背ける。
前回のように性行為を強要される内容ではなかったが、精力を増す薬を大量に飲めば結果は同じだろう。リュカは(この部屋はどーしても俺にセックスさせたいんだな……)と凪いた表情になった。
「得体のしれない薬など飲むものか! こんな部屋、力ずくで出てやる!」
カンカンに怒ったヴァンは扉や壁を力ずくで破壊しようとしたが、無意味なのはお約束である。
ピートも脱出路を探したが、やがて黙って肩を竦め首を横に振った。
リュカはどうせこの部屋から出られないことを知っていたが、何も知らないふたりの手前、脱出の手段を探すふりをした。
そうしてかれこれ二時間後。
ここを出るには媚薬を飲むしかないとわからされた三人は、苦々しい表情を浮かべながらテーブルの前に立った。
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そうしてピートはグイグイと媚薬を飲み干していき、ヴァンも覚悟を決めたように媚薬を飲み始めた。
たかが媚薬、されど媚薬。
ヴァンとピートが十二本目の瓶を投げ捨てたあたりから、リュカは嫌な予感がし始めた。
ふたりの顔が赤い。息が荒い。リュカを見つめる目が爛々としている。
リュカは迷う。正直なところ、この部屋の思うつぼになってセックスするのは嫌だ。しかしリュカの代わりに媚薬を飲んでくれたふたりの性欲をこのまま放っておくのも申し訳ない。けれども、ただでさえ性欲の強いふたりにバフがかかっているこの状態で相手をするのは、さすがに怖かった。
「さ……最後の一本を飲んだら、すぐに部屋から出ようね。そうすれば多分、媚薬の効果も消えるはずだから……」
リュカの見立てではこの部屋から出れば夢から覚めるはずだ。そうすればヴァンとピートも強烈な欲情状態から解放される。だったらさっさと目覚めてしまえばいいのだと考えたが――。
えちち洞窟は甘くない。
扉の前で待機していようと思い、座っていたベッドからピョンと飛び降りたリュカは、足もとのマットに滑ってひっくり返った。それもう、盛大に。
幸いクッションがあったので頭は打たなかったが、ひっくり返った勢いで法衣の裾が捲れ上がった。それはもう、はしたなく。
ひっくり返ったままの体勢でリュカは思う。自分はいつ脚衣と下着を脱いだのだろうと。不自然に腹まで捲れ上がった法衣から覗く自分の太腿を見つめながら、「ああそうだ。ここはえちち洞窟だから」と悟って、何もかもあきらめた穏やかな笑みを浮かべた。
ヴァンとピートは耐えていた。正直なところリュカを抱きたくて抱きたくて仕方ないが、こんな部屋に踊らされて大切な人で性欲を発散させることに抵抗があったからだ。愛する人は自分の意志で抱きたいものである。
それなのに、その愛する人は何故ひとりでひっくり返ったうえ、丸出しの下半身を見せつけているのだろうか。いや見せつけているわけではない、法衣が捲れ上がってしまっただけだ。だがそれならば何故脚衣も下着もはいていないのか。
((……もうどうでもいいか))
限界まで昂っていた性欲が、どストレートな誘惑のせいで理性を粉々にする。
十五本目の媚薬を飲み干したふたりは、扉が開錠した音にも構わずリュカに近づいていった。
それから六時間、尽きぬふたりの性欲に翻弄されながらリュカは思った。(……俺が媚薬飲んだほうが結果的にラクだったのでは?)と。
何度も意識を飛ばし何度目かの目覚めで、リュカはようやく媚薬の部屋から解放された。
目を覚ましたとき自分が服を着て洞窟の元の場所に倒れていたことに、心の底からホッとする。思わず無言のまま感激の万歳ポーズをとってしまったほどだ。
(媚薬怖い、媚薬怖い!!!!!! ヴァンもピートも何回射精した!? お尻も口もちんちんも擦り切れてなくなるかと思った!!!)
えちち洞窟が夢オチで本当によかったと思う。そうでなければリュカは一週間は立ち上がれなかっただろう。
胸に手をあて深く安堵の息を吐いたリュカは、辺りを見回す。最初に入ってきたときと何も変わっていない、岩肌の洞窟にヴァンとピートを始めとする騎士団の団員たちが倒れて眠っていた。
やがてひとり、ふたりと団員たちが起き始めたころ、洞窟の奥からひとりの子供がトコトコと歩いてきた。どうやらこの子が行方不明になっていた子供のようだ。なんでも奥まで行ったが行き止まりだったので引き返してきたのだと言う。怪我もない。
(えちち洞窟もさすがに子供には手を出さないんだな。案外倫理しっかりしてる……)
どうでもいいことに感心してしまったが、何はともあれ子供が無事でよかった。もちろんリュカにも団員たちにも怪我はない。そして今回もリュカ以外には夢の記憶がなかった。
「いったいなんだったのでしょうね、この洞窟は」
「眠らされただけで何もないとか、変な洞窟だよな」
洞窟を出てヴァンとピートが不思議そうに呟く。団員達も皆首を傾げていた。しかし。
「うん。こんな変な洞窟は危険だから潰して塞いじゃおうね」
リュカだけはにこやかに微笑みながら怒り心頭だった。
(もう怒ったからな!! 夢オチとはいえ知りたくもないこと知らされたり、みんなの前で大恥かかされたり、エンドレス耐久セックスさせられたり!!! お前なんか永久に封じ込めてやる!)
洞窟内に落盤を起こし封鎖してやろうと、リュカは錫杖を構える。
「「え? は? ど、どうした?」」
あるじが唐突に物騒なことを言いだし、ヴァンもピートも団員もわけがわからずポカンとした。
――そのときだった。
テンテロリンッ♪と軽快な音がリュカの頭に中に鳴り響き、目の前に文字が浮かび上がる。
リュカは驚いて目をまん丸くしたが、他の者は誰も気づいていない。どうやらリュカだけに聞こえ、見えているようだ。
目の前に浮かんだ文字は古代語だった。リュカは怪訝そうに顔を顰めながら、それを読み解いていく。
(……〝おめでとうございます! えちち洞窟、実績解除――6・媚薬の部屋〟……?)
続いて目の前に現れたのはスタンプカードのようなものだった。三十マスほどある枠の六番目の位置に、ポンッと花丸のハンコが押される。
リュカはなんとなく理解した。媚薬の部屋だけハンコが押されたということは、えちち洞窟から脱出するだけでなく、セックスまでこぎつけないと実績解除にならないのだと。
(……〝コンプリート達成で激レアアイテムゲット! えちちキングを目指しましょう!〟…………)
続けて現れたメッセージを読んで、リュカは怒りのあまりプルプルと震える。
「誰がえちちキングなんか目指すかーー!!!! もう二度とこんな馬鹿洞窟入らないからな!! 絶対! 一歩だって入らない!!」
「「は、はあ?」」
いきなり叫び出したリュカに、周囲にいたものは皆びっくりしている。そして困惑する団員たちに構わずリュカはさっさと洞窟を落盤で塞ぎ、怒り冷めやらない状態でプンプンしながら馬車に戻った。
「……どーしちまったんだ、リュカは」
「さあ……? リュカ様があんなに怒るとは珍しい」
ピートとヴァンはひたすら不思議そうな顔をしながらリュカの後についていった。……なんだか妙に体がだるいなと思いながら。
――えちち洞窟。それは神々の戯れ。この世にえっちなシチュエーションある限り、えちち洞窟は無限に出没してくるのだ――
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