モフモフ異世界のモブ当主になったら側近騎士からの愛がすごい

柿家猫緒

文字の大きさ
上 下
61 / 92
番外編SS

しっぽのはなし

しおりを挟む

※ちょいお下品(?)ネタあり。
※本編ネタバレあり。

=====================


 獣人族にとって尻尾は大切な器官であり、ステイタスであり、おしゃれである。

 公爵家当主であるリュカは、当然尻尾の手入れも上等だ。
 まずリュカには専属の理髪師ならぬ理尾師がいる。手入れは全てその者と助手がやる。

 入浴の際に尻尾専用の液体石鹸で丁寧に洗い、艶を出すための化粧液を塗布し櫛を入れる。乾いたタオルで包むように優しく水分を取り、乾いたら潤いを逃がさないための香油を全体に揉みこませ、これでもかというほど櫛で整える。最後に古い毛や不揃いな毛をカットして出来上がり。これが毎日。
 
 そうやってリュカの黄金色の尻尾は大陸一ともいえるほど、フワフワでサラサラでモフモフな美しさを保っているのだ。
 
 
「まあ魔王のヤローがリュカの尻尾をさわりたがるのも、わからなくはねーんだよなあ」

 まもなく日付が変わる深夜。
 三人で愛し合ったあとのベッドで、うつ伏せているリュカの尻尾を撫でながらピートが言う。フワフワのそれを指先で撫でれば、くすぐったいのかフルフルと横に揺れた。

「ただでさえキツネ族の尻尾は毛量が多くて見栄えするのに、あんたのはサイコーに手触りいいもんな」

 リュカは「くすぐったい」と笑うとゴロンと仰向けになって体を丸め、脚の間から尻尾を出して抱きしめた。

「俺も自分の尻尾は大好きだよ。気持ちいいし見た目も可愛いもん」

 そう言って微笑む姿は、なんともあざと可愛い。これが天然なのだから、リュカはある意味魔性の男だとピートもヴァンも密かに思った。

「でも尻尾ってどの獣人も特徴があって面白いよね。イヌ科は毛量が多いし、ネコ科はシャープなのが多い」

 言われて、ヴァンとピートは自分の尻尾を手にとって見た。

 キツネ族のリュカとオオカミ族のヴァンは同じイヌ科だ。上流貴族出身のヴァンも、リュカほどではないが尻尾の手入れには手間をかけている。艶のある銀色のそれは毛が豊かで凛々しく、とてもヴァンに似合っている。

「そうだな。毛量が豊富で立派な尻尾はイヌ科の特徴だ。私やリュカのようにな」

 リュカと同科のモフモフ尻尾でマウントを取り出したヴァンに、ピートが「あ?」と眉間に皴を刻む。

「くっだらねーことで優越感に浸ってんじゃねーぞ、コラ」
「尻尾の美しさは社交界のステイタスでもあるからな。リュカ様の立派な尻尾の隣には、同じイヌ科の私の尻尾が似合うと言ってるんだ」
「そのご自慢の尻尾、毛を毟って丸禿げにしてやろうか」

 いつものように喧嘩が始まったけれど、エッチで体力を消耗したリュカには止める気力はない。まあ殴り合いにはならないだろうと楽観視し、ヴァンの尻尾に手を伸ばした。

「確かにヴァンの尻尾も毛量多いよね。毛足の長さは俺より長いし。銀色でカッコいい」

 毛の流れに沿ってそっと銀の尾を撫でる。その瞬間ヴァンの体がピクリと震え彼が唇を噛みしめたことに、リュカは気づかない。

 それを見ていたピートはムッとして唇を尖らせたが、次の瞬間、リュカの手はピートの尻尾にも伸びてきた。

「でも俺はネコ科の尻尾もカッコいいと思うな。シュッとしててお洒落な柄が入ってる人が多いし。ピートのもそうだよね、ブチ模様の入ったツートンカラー。派手でピートにピッタリだと思う」

 褒められて、拗ねていたピートの顔がたちまち綻ぶ。彼の気持ちを表すように、リュカの手の中で尻尾がクネクネと動き出した。

「尻尾の先っぽが黒いの、俺と同じだね」

 そう言って微笑みながら、リュカはピートの尻尾を毛の流れに沿って片手で撫でる。

「あんまり他人の尻尾さわったことないから、なんか新鮮な感じ。確かにデモリエルの気持ちわかるな。ヴァンの尻尾もピートの尻尾も、さわってて気持ちいいよ。セラピー効果ありそう」

 ふたりの尻尾を両手で撫で繰り回しているリュカは気づかない。両脇から聞こえる呼吸が、だんだん荒くなっていることに。

 ついにふたりから手首を掴まれたときには遅かった。驚いて顔を上げたリュカの目に、興奮した様子のヴァンとピートが映る。

「さっきから敏感なとこ弄りまわしやがって。もしかして誘ってるつもりか?」
「お前が刺激するのが悪いんだからな。責任はとってもらうぞ」
「え……?」

 尻尾はじつに敏感な器官だ。腰骨に直結しているので、弄り方によってはそのまま性的な刺激になる。
 リュカはふたりのモノが元気に屹立しているのを見て、ようやく自分が随分と迂闊な行為をしていたことに気づいた。

「待って。待って待って。そんなつもりじゃなかった、ごめんなさい。明日は冬祭りで忙しいから今夜はもう寝たいです、もう1ラウンドとか無理です、体力なくなっちゃう、明日起きられなくなっちゃう、無理無理ほんとに無理ぃぃぃぃあああぁぁあぁぁぁぁ」

 ベッドでふたりに挟まれた状態で逃げられるはずもなく、涙目になってブンブン首を振るも慈悲はなく、リュカは両脇から押し倒され否応なしに煽った責任を取らされたのであった。



 翌朝。
 昨夜限界まで体力を消耗しきったリュカだったが、なんとかヨロヨロと起床し身支度を整え公務に向かった。

 今日は年に一度の冬祭り。
 これから本格的な冬を迎えるにあたって、しっかりと冬支度をし無事に春を迎えられるよう神様にお祈りするお祭りだ。

 レイナルド領の町々では朝から音楽が鳴り響いている。この日は神に仕える司祭が子供たちにお菓子を配り歩き、そのお礼に代表の少年少女が花びらを撒きながら踊り歩くのが習わしだ。
 レイナルド家の当主も代々これに参加していて、首都近郊の町をまわってお菓子を配り歩いている。
 町の子供たちと直接触れ合えるこのお祭りが、リュカは大好きだ。

 正午。馬車で本日四つ目の町に辿り着いたリュカはお菓子の詰まった籠を手に、さっそく大通りへ向かう。両脇にはもちろん護衛兼お手伝いのヴァンとピートが控えていた。

「わあ、リュカ様だあ!」
「リュカ様、お菓子ちょうだい!」
「リュカ様、リュカ様ぁ、ぎゅーしてぇ」

 領民に人気のリュカは、子供にも大人気だ。子供たちのために慈善活動に力を入れているのもあるが、なんといっても警戒心を抱かせない外見と愛くるしい笑顔は人を惹きつける。
 本人も子供好きなので気軽に頭を撫でたり抱っこに応じるのも人気の秘訣だろう。ヴァンには身分を意識しろと叱られるが。

 大通りへ出たリュカは、あっという間に子供たちに取り囲まれてしまった。「お菓子が欲しい子は並んでね」と諭すが、甘えん坊の子たちはリュカの足もとにまとわりつき腰にギュッと抱きついてくる。

 身動きが取れなくなってリュカがちょっと焦っていたときだった。

「リュカ様、なんか変なにおいする……」

 太ももに抱きついていた小さなゾウの子が、眉根を寄せてそう言った。
 リュカが「え?」と驚いていると近くにいたクマの子も鼻をクンクンさせて、「ほんとだ。尻尾のとこ変なにおい」と呟いた。

 思わず後ろ手で自分の尻尾をまさぐったリュカは、付け根近くの内側に乾いた何かがパリパリに貼りついてるのを感じて、一瞬で顔を青ざめさせた。

「わぁああぁあああ!!!!!!!!! ちょっとごめん!!!! 失礼!!」

 リュカは持っていた籠を近くにいたヴァンとピートに押しつけると、取り囲んでる子供たちの頭上を浮遊の魔法で飛び越して、猛ダッシュで走って行ってしまった。
 残された子供たちはただポカンとそれを見つめ、ヴァンとピートも「な、なんだ……?」と唖然としていた。



 馬車に駆け戻ったリュカは真っ青な顔で尻尾をハンカチで拭いていた。

 昨夜、予定外の二回戦目が終わったあと、リュカは疲れすぎてそのまま意識を失ってしまった。しかし朝目覚めたときには体が綺麗になっていたので、おそらくヴァンとピートが後始末をしてくれたのだろう。というかイカされすぎてリュカが意識を飛ばしたときはたいていそうだ。

 体にこびりついた汗も涎も精液も、綺麗に拭きとられていた。……けれど、〝中〟の掻き出し方が甘かったようだ。

 寝ている間に溢れたソレが尻の谷間を伝って尻尾の内側に零れていただなんて、誰が想像しようか。

(ウソだろ~!? よりによってこんな日に俺はなんてモノくっつけて歩いてんだよ!)

 リュカは顔を青くしたり赤くしたりしながら尻尾をゴシゴシと拭く。今回たまたま鼻のいいゾウの子が気づいたが、朝からずっとこんな卑猥な状態で子供たちと接していたのかと思うと、顔から火が出そうだった。

 すると、突然走って行ってしまったリュカを心配したヴァンとピートが駆けつけてきて、馬車の扉を勢いよく開いた。

「リュカ様、いったいどうしたので――」
「馬鹿!!!! 馬鹿馬鹿!! ヴァンとピートの馬鹿ぁっ!」

 恥ずかしさのあまりリュカは顔を見るなりふたりを怒らずにはいられなかった。

「もう絶対途中で気絶しないっ。中に一滴も残ってないの確認するまで寝ない! っていうかもう中出し禁止!! あと外に出る公務の前の夜は二度とエッチしない!!」

 涙目で尻尾を擦りながらキレ散らかすリュカにヴァンとピートはポカンとしていたけれど、やがて段々と事情を察し、ふたり揃って顔を青ざめさせた。

「…………しゃ……謝罪の言葉もございません……」
「……あー……それは悪かった。うん、悪かった。めちゃくちゃ反省する」

 それからヴァンとピートは水と石鹸を持ってきてリュカの尻尾の汚れをなんとか落としたが、急いで洗った尻尾はビショビショのボサボサで、リュカは大陸一素晴らしいと称される自慢の尻尾をみすぼらしくさせて町々を回る羽目になったのだった。


 おわり
しおりを挟む
感想 10

あなたにおすすめの小説

【BL】どうやら精霊術師として召喚されたようですが5分でクビになりましたので、最高級クラスの精霊獣と駆け落ちしようと思います。

riy
BL
風呂でまったりしている時に突如異世界へ召喚された千颯(ちはや)。 召喚されたのはいいが、本物の聖女が現れたからもう必要ないと5分も経たない内にお役御免になってしまう。 しかも元の世界へも帰れず、あろう事か風呂のお湯で流されてしまった魔法陣を描ける人物を探して直せと無茶振りされる始末。 別邸へと通されたのはいいが、いかにも出そうな趣のありすぎる館であまりの待遇の悪さに愕然とする。 そんな時に一匹のホワイトタイガーが現れ? 最高級クラスの精霊獣(人型にもなれる)×精霊術師(本人は凡人だと思ってる) ※コメディよりのラブコメ。時にシリアス。

中身おっさんの俺が異世界の双子と婚約したら色々大変なことになった件

くすのき
BL
気がつけばラシェル・フォン・セウグになっていた俺。 ある双子を庇って負傷した結果、記憶喪失になった呈でなんとか情報収集しつつ、せめてセウグ夫夫の自慢の息子を演じるよう決意を新たにしていると、何故か庇った双子が婚約者になっていた。なんとか穏便に婚約破棄を目指そうとするのだが、双子は意外と手強く色々巻き込まれたりして……。 1話1笑いならぬ1くすりを極力自らに課した異色のコメディーBLです。 作中のキャラの名前ですが、名前・●・苗字の、●の部分はちょっとした理由により兄弟であっても異なっておりますのであしからず。 イイね!やコメント頂けると執筆の励みになります。というか下さい!(直球)

宰相閣下の執愛は、平民の俺だけに向いている

飛鷹
BL
旧題:平民のはずの俺が、規格外の獣人に絡め取られて番になるまでの話 アホな貴族の両親から生まれた『俺』。色々あって、俺の身分は平民だけど、まぁそんな人生も悪くない。 無事に成長して、仕事に就くこともできたのに。 ここ最近、夢に魘されている。もう一ヶ月もの間、毎晩毎晩………。 朝起きたときには忘れてしまっている夢に疲弊している平民『レイ』と、彼を手に入れたくてウズウズしている獣人のお話。 連載の形にしていますが、攻め視点もUPするためなので、多分全2〜3話で完結予定です。 ※6/20追記。 少しレイの過去と気持ちを追加したくて、『連載中』に戻しました。 今迄のお話で完結はしています。なので以降はレイの心情深堀の形となりますので、章を分けて表示します。 1話目はちょっと暗めですが………。 宜しかったらお付き合い下さいませ。 多分、10話前後で終わる予定。軽く読めるように、私としては1話ずつを短めにしております。 ストックが切れるまで、毎日更新予定です。

平凡な俺が双子美形御曹司に溺愛されてます

ふくやまぴーす
BL
旧題:平凡な俺が双子美形御曹司に溺愛されてます〜利害一致の契約結婚じゃなかったの?〜 名前も見た目もザ・平凡な19歳佐藤翔はある日突然初対面の美形双子御曹司に「自分たちを助けると思って結婚して欲しい」と頼まれる。 愛のない形だけの結婚だと高を括ってOKしたら思ってたのと違う展開に… 「二人は別に俺のこと好きじゃないですよねっ?なんでいきなりこんなこと……!」 美形双子御曹司×健気、お人好し、ちょっぴり貧乏な愛され主人公のラブコメBLです。 🐶2024.2.15 アンダルシュノベルズ様より書籍発売🐶 応援していただいたみなさまのおかげです。 本当にありがとうございました!

異世界で騎士団寮長になりまして

円山ゆに
BL
⭐︎ 書籍発売‼︎2023年1月16日頃から順次出荷予定⭐︎溺愛系異世界ファンタジーB L⭐︎ 天涯孤独の20歳、蒼太(そうた)は大の貧乏で節約の鬼。ある日、転がる500円玉を追いかけて迷い込んだ先は異世界・ライン王国だった。 王立第二騎士団団長レオナードと副団長のリアに助けられた蒼太は、彼らの提案で騎士団寮の寮長として雇われることに。 異世界で一から節約生活をしようと意気込む蒼太だったが、なんと寮長は騎士団団長と婚姻関係を結ぶ決まりがあるという。さらにレオナードとリアは同じ一人を生涯の伴侶とする契りを結んでいた。 「つ、つまり僕は二人と結婚するってこと?」 「「そういうこと」」 グイグイ迫ってくる二人のイケメン騎士に振り回されながらも寮長の仕事をこなす蒼太だったが、次第に二人に惹かれていく。 一方、王国の首都では不穏な空気が流れていた。 やがて明かされる寮長のもう一つの役割と、蒼太が異世界にきた理由とは。 二人の騎士に溺愛される節約男子の異世界ファンタジーB Lです!

異世界に来たのでお兄ちゃんは働き過ぎな宰相様を癒したいと思います

猫屋町
BL
仕事中毒な宰相様×世話好きなお兄ちゃん 弟妹を育てた桜川律は、作り過ぎたマフィンとともに異世界へトリップ。 呆然とする律を拾ってくれたのは、白皙の眉間に皺を寄せ、蒼い瞳の下に隈をつくった麗しくも働き過ぎな宰相 ディーンハルト・シュタイナーだった。 ※第2章、9月下旬頃より開始予定

国を救った英雄と一つ屋根の下とか聞いてない!

古森きり
BL
第8回BL小説大賞、奨励賞ありがとうございます! 7/15よりレンタル切り替えとなります。 紙書籍版もよろしくお願いします! 妾の子であり、『Ω型』として生まれてきて風当たりが強く、居心地の悪い思いをして生きてきた第五王子のシオン。 成人年齢である十八歳の誕生日に王位継承権を破棄して、王都で念願の冒険者酒場宿を開店させた! これからはお城に呼び出されていびられる事もない、幸せな生活が待っている……はずだった。 「なんで国の英雄と一緒に酒場宿をやらなきゃいけないの!」 「それはもちろん『Ω型』のシオン様お一人で生活出来るはずもない、と国王陛下よりお世話を仰せつかったからです」 「んもおおおっ!」 どうなる、俺の一人暮らし! いや、従業員もいるから元々一人暮らしじゃないけど! ※読み直しナッシング書き溜め。 ※飛び飛びで書いてるから矛盾点とか出ても見逃して欲しい。  

異世界転生先でアホのふりしてたら執着された俺の話

深山恐竜
BL
俺はよくあるBL魔法学園ゲームの世界に異世界転生したらしい。よりにもよって、役どころは作中最悪の悪役令息だ。何重にも張られた没落エンドフラグをへし折る日々……なんてまっぴらごめんなので、前世のスキル(引きこもり)を最大限活用して平和を勝ち取る! ……はずだったのだが、どういうわけか俺の従者が「坊ちゃんの足すべすべ~」なんて言い出して!?

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。