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番外編SS
しっぽのはなし
しおりを挟む※ちょいお下品(?)ネタあり。
※本編ネタバレあり。
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獣人族にとって尻尾は大切な器官であり、ステイタスであり、おしゃれである。
公爵家当主であるリュカは、当然尻尾の手入れも上等だ。
まずリュカには専属の理髪師ならぬ理尾師がいる。手入れは全てその者と助手がやる。
入浴の際に尻尾専用の液体石鹸で丁寧に洗い、艶を出すための化粧液を塗布し櫛を入れる。乾いたタオルで包むように優しく水分を取り、乾いたら潤いを逃がさないための香油を全体に揉みこませ、これでもかというほど櫛で整える。最後に古い毛や不揃いな毛をカットして出来上がり。これが毎日。
そうやってリュカの黄金色の尻尾は大陸一ともいえるほど、フワフワでサラサラでモフモフな美しさを保っているのだ。
「まあ魔王のヤローがリュカの尻尾をさわりたがるのも、わからなくはねーんだよなあ」
まもなく日付が変わる深夜。
三人で愛し合ったあとのベッドで、うつ伏せているリュカの尻尾を撫でながらピートが言う。フワフワのそれを指先で撫でれば、くすぐったいのかフルフルと横に揺れた。
「ただでさえキツネ族の尻尾は毛量が多くて見栄えするのに、あんたのはサイコーに手触りいいもんな」
リュカは「くすぐったい」と笑うとゴロンと仰向けになって体を丸め、脚の間から尻尾を出して抱きしめた。
「俺も自分の尻尾は大好きだよ。気持ちいいし見た目も可愛いもん」
そう言って微笑む姿は、なんともあざと可愛い。これが天然なのだから、リュカはある意味魔性の男だとピートもヴァンも密かに思った。
「でも尻尾ってどの獣人も特徴があって面白いよね。イヌ科は毛量が多いし、ネコ科はシャープなのが多い」
言われて、ヴァンとピートは自分の尻尾を手にとって見た。
キツネ族のリュカとオオカミ族のヴァンは同じイヌ科だ。上流貴族出身のヴァンも、リュカほどではないが尻尾の手入れには手間をかけている。艶のある銀色のそれは毛が豊かで凛々しく、とてもヴァンに似合っている。
「そうだな。毛量が豊富で立派な尻尾はイヌ科の特徴だ。私やリュカのようにな」
リュカと同科のモフモフ尻尾でマウントを取り出したヴァンに、ピートが「あ?」と眉間に皴を刻む。
「くっだらねーことで優越感に浸ってんじゃねーぞ、コラ」
「尻尾の美しさは社交界のステイタスでもあるからな。リュカ様の立派な尻尾の隣には、同じイヌ科の私の尻尾が似合うと言ってるんだ」
「そのご自慢の尻尾、毛を毟って丸禿げにしてやろうか」
いつものように喧嘩が始まったけれど、エッチで体力を消耗したリュカには止める気力はない。まあ殴り合いにはならないだろうと楽観視し、ヴァンの尻尾に手を伸ばした。
「確かにヴァンの尻尾も毛量多いよね。毛足の長さは俺より長いし。銀色でカッコいい」
毛の流れに沿ってそっと銀の尾を撫でる。その瞬間ヴァンの体がピクリと震え彼が唇を噛みしめたことに、リュカは気づかない。
それを見ていたピートはムッとして唇を尖らせたが、次の瞬間、リュカの手はピートの尻尾にも伸びてきた。
「でも俺はネコ科の尻尾もカッコいいと思うな。シュッとしててお洒落な柄が入ってる人が多いし。ピートのもそうだよね、ブチ模様の入ったツートンカラー。派手でピートにピッタリだと思う」
褒められて、拗ねていたピートの顔がたちまち綻ぶ。彼の気持ちを表すように、リュカの手の中で尻尾がクネクネと動き出した。
「尻尾の先っぽが黒いの、俺と同じだね」
そう言って微笑みながら、リュカはピートの尻尾を毛の流れに沿って片手で撫でる。
「あんまり他人の尻尾さわったことないから、なんか新鮮な感じ。確かにデモリエルの気持ちわかるな。ヴァンの尻尾もピートの尻尾も、さわってて気持ちいいよ。セラピー効果ありそう」
ふたりの尻尾を両手で撫で繰り回しているリュカは気づかない。両脇から聞こえる呼吸が、だんだん荒くなっていることに。
ついにふたりから手首を掴まれたときには遅かった。驚いて顔を上げたリュカの目に、興奮した様子のヴァンとピートが映る。
「さっきから敏感なとこ弄りまわしやがって。もしかして誘ってるつもりか?」
「お前が刺激するのが悪いんだからな。責任はとってもらうぞ」
「え……?」
尻尾はじつに敏感な器官だ。腰骨に直結しているので、弄り方によってはそのまま性的な刺激になる。
リュカはふたりのモノが元気に屹立しているのを見て、ようやく自分が随分と迂闊な行為をしていたことに気づいた。
「待って。待って待って。そんなつもりじゃなかった、ごめんなさい。明日は冬祭りで忙しいから今夜はもう寝たいです、もう1ラウンドとか無理です、体力なくなっちゃう、明日起きられなくなっちゃう、無理無理ほんとに無理ぃぃぃぃあああぁぁあぁぁぁぁ」
ベッドでふたりに挟まれた状態で逃げられるはずもなく、涙目になってブンブン首を振るも慈悲はなく、リュカは両脇から押し倒され否応なしに煽った責任を取らされたのであった。
翌朝。
昨夜限界まで体力を消耗しきったリュカだったが、なんとかヨロヨロと起床し身支度を整え公務に向かった。
今日は年に一度の冬祭り。
これから本格的な冬を迎えるにあたって、しっかりと冬支度をし無事に春を迎えられるよう神様にお祈りするお祭りだ。
レイナルド領の町々では朝から音楽が鳴り響いている。この日は神に仕える司祭が子供たちにお菓子を配り歩き、そのお礼に代表の少年少女が花びらを撒きながら踊り歩くのが習わしだ。
レイナルド家の当主も代々これに参加していて、首都近郊の町をまわってお菓子を配り歩いている。
町の子供たちと直接触れ合えるこのお祭りが、リュカは大好きだ。
正午。馬車で本日四つ目の町に辿り着いたリュカはお菓子の詰まった籠を手に、さっそく大通りへ向かう。両脇にはもちろん護衛兼お手伝いのヴァンとピートが控えていた。
「わあ、リュカ様だあ!」
「リュカ様、お菓子ちょうだい!」
「リュカ様、リュカ様ぁ、ぎゅーしてぇ」
領民に人気のリュカは、子供にも大人気だ。子供たちのために慈善活動に力を入れているのもあるが、なんといっても警戒心を抱かせない外見と愛くるしい笑顔は人を惹きつける。
本人も子供好きなので気軽に頭を撫でたり抱っこに応じるのも人気の秘訣だろう。ヴァンには身分を意識しろと叱られるが。
大通りへ出たリュカは、あっという間に子供たちに取り囲まれてしまった。「お菓子が欲しい子は並んでね」と諭すが、甘えん坊の子たちはリュカの足もとにまとわりつき腰にギュッと抱きついてくる。
身動きが取れなくなってリュカがちょっと焦っていたときだった。
「リュカ様、なんか変なにおいする……」
太ももに抱きついていた小さなゾウの子が、眉根を寄せてそう言った。
リュカが「え?」と驚いていると近くにいたクマの子も鼻をクンクンさせて、「ほんとだ。尻尾のとこ変なにおい」と呟いた。
思わず後ろ手で自分の尻尾をまさぐったリュカは、付け根近くの内側に乾いた何かがパリパリに貼りついてるのを感じて、一瞬で顔を青ざめさせた。
「わぁああぁあああ!!!!!!!!! ちょっとごめん!!!! 失礼!!」
リュカは持っていた籠を近くにいたヴァンとピートに押しつけると、取り囲んでる子供たちの頭上を浮遊の魔法で飛び越して、猛ダッシュで走って行ってしまった。
残された子供たちはただポカンとそれを見つめ、ヴァンとピートも「な、なんだ……?」と唖然としていた。
馬車に駆け戻ったリュカは真っ青な顔で尻尾をハンカチで拭いていた。
昨夜、予定外の二回戦目が終わったあと、リュカは疲れすぎてそのまま意識を失ってしまった。しかし朝目覚めたときには体が綺麗になっていたので、おそらくヴァンとピートが後始末をしてくれたのだろう。というかイカされすぎてリュカが意識を飛ばしたときはたいていそうだ。
体にこびりついた汗も涎も精液も、綺麗に拭きとられていた。……けれど、〝中〟の掻き出し方が甘かったようだ。
寝ている間に溢れたソレが尻の谷間を伝って尻尾の内側に零れていただなんて、誰が想像しようか。
(ウソだろ~!? よりによってこんな日に俺はなんてモノくっつけて歩いてんだよ!)
リュカは顔を青くしたり赤くしたりしながら尻尾をゴシゴシと拭く。今回たまたま鼻のいいゾウの子が気づいたが、朝からずっとこんな卑猥な状態で子供たちと接していたのかと思うと、顔から火が出そうだった。
すると、突然走って行ってしまったリュカを心配したヴァンとピートが駆けつけてきて、馬車の扉を勢いよく開いた。
「リュカ様、いったいどうしたので――」
「馬鹿!!!! 馬鹿馬鹿!! ヴァンとピートの馬鹿ぁっ!」
恥ずかしさのあまりリュカは顔を見るなりふたりを怒らずにはいられなかった。
「もう絶対途中で気絶しないっ。中に一滴も残ってないの確認するまで寝ない! っていうかもう中出し禁止!! あと外に出る公務の前の夜は二度とエッチしない!!」
涙目で尻尾を擦りながらキレ散らかすリュカにヴァンとピートはポカンとしていたけれど、やがて段々と事情を察し、ふたり揃って顔を青ざめさせた。
「…………しゃ……謝罪の言葉もございません……」
「……あー……それは悪かった。うん、悪かった。めちゃくちゃ反省する」
それからヴァンとピートは水と石鹸を持ってきてリュカの尻尾の汚れをなんとか落としたが、急いで洗った尻尾はビショビショのボサボサで、リュカは大陸一素晴らしいと称される自慢の尻尾をみすぼらしくさせて町々を回る羽目になったのだった。
おわり
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