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悪役師匠は手がかかる!魔王城は今日もワチャワチャです
第四章 売れない魔道具、貧乏な我が家
しおりを挟む「便利な魔道具はいかがですかー。長持ちする魔法のランプに、作物がよく育つ魔法の水、汚れがよく落ちる魔法の石鹸ですよー」
「おっちゃん、おっちゃん。安うしとくで! こんな上等なシロモン他にあらへんで!」
「み、見ていってください」
「……欲しければ買え……」
とある街の大通りの隅で、僕らは今日も今日とて魔道具の路上販売にせっせと勤しむ。しかし。
「たっかいなあ。これ同じのが大型の魔道具屋で半額で売ってるよ。ぼったくりすぎじゃない?」
時々は足を止めて商品を見ていく人はいるものの、みんな決まって同じ台詞を吐いて立ち去っていった。
虚しく人通りの絶えた道を眺め、僕は溜息をつく。
「師匠~やっぱギルド入りましょうよ。これじゃ何を作ったって売れませんよ」
師匠は困ったように口をモゴモゴさせていたが、結局俯いて小さく「……無理を言うな……」と呟いた。
魔道具とは魔法使いが研究を重ね開発する努力の代物だ。当然その製法は最初に開発した人の功績で、全世界公認の特許が与えられる。……ただしそれはギルドという国家認定組織を介してのこと。
つまりギルドに所属していない師匠の道具は特許申請できず、解析されてパクられ放題ということなのだ。
どこからか師匠の魔道具が優秀だという噂を聞きつけた魔法ギルドがそれを買い占め解析し、唯一無二だった商品は今や安価なコピー品で溢れている。大手組織が薄利多売で製造販売したものにモグリで個人販売の僕らが敵うはずもなく、売り上げは激減している。こっちのほうがオリジナルなのに。
「あーもう腹立つのお! なーにがギルドじゃ、師匠のパチモンしか作れへんくせに!」
ドゥガーリンが悔しそうに地団駄を踏むと、地面がちょっと揺れた。気持ちはわかるけど竜の地鳴りを起こすのはやめてほしい。
「まあまあ。僕が大きくなったらギルドに入って師匠の代わりに特許取るから、それまで我慢しよう」
なんとか前向きに励まそうとするけど、ドゥガーリンは悲しそうな目で「兄やん、呑気やのお。そん前にワイら飢え死にしてまうで」と尤もなことを言った。ギルドに入れるのは十六歳からで僕は今十歳だからまだ六年もある。うん、ドゥガーリンが正しい。
「とりあえず、別の場所に行ってみたらどうかな。魔道具屋のない村なら売れるかも」
そう建設的な意見を述べてくれたのはエルダールだ。
エルダールが家族になってから一年が過ぎた。最初は人間が怖くて街へは来られなかった彼だけど、三ヶ月前から一緒に売り子をしてくれるようになった。きっとものすごい勇気の要ったことだと思う。僕、エルダールのそういうところ、本当に尊敬する。
もちろん街へ出るときは三人揃ってフードを被った外套姿だ。三人お揃いだと、なんだか売り子のユニフォームみたい。
「賛成。ここは人通りが多いけど買ってもらえなくちゃ意味ないもんね。それに……」
僕はチラリと道の奥に目をやると急いで商品を木箱に詰め始めた。他のみんなもハッとして、ガチャガチャと慌てて商品を片づける。
「こらー! 勝手に露店を出すんじゃなーい!」
「来た! 逃げろ!」
道の奥からやって来たのは憲兵だ。無許可の商売は叱られるだけでなく、常習だと罰金も獲られかねない。売上もないのに罰金なんてとられたらやってらんないよ。
僕たちは商品を詰めた木箱を抱え、一目散に逃げていく。この街で見つかったのはこれで三回目だ。もうしばらくここへは来られないな。
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