浮気な彼氏

月夜の晩に

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◆浮気な彼氏シーズン2#9 初めての喧嘩

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◆浮気な彼氏シーズン2#9 

とある穏やかな喫茶店。洒落た室内音楽が流れる中。俺と紫乃さんは色々話した。


俺がたくみくんの元上司であるとか、たくみくんには浮気した元彼氏が実はいたんだよね、とか。

最初は探り合いつつだったけど、紫乃さんはアキトさんが欲しい、俺はたくみくんが欲しいと分かるや否や、途端に話は進んだ。


俺はかねてから頭にあった戦略を話してみた。


「俺としてはね、たくみくんがアキトさんの浮気現場に遭遇する、そういう場面を作りたい訳ですよ。そうすればふたりの関係を崩すことが可能かと」

「崩せるかしら?」

「たくみくんは元彼氏の浮気がショックで別れたみたいなんですよ。だからまた浮気されたらショックで別れる気がする」

「随分悪いこと思いつくのねえ」
「いや~昔から悪知恵は働くんですよね」

なんてうふふと笑い合う2人の男女。

それがまさか、カップルを引き裂く段取りをしているだなんて、誰が予測できるだろう。

しかも紫乃さんがついでに良いこと教えてくれた。

「え?紫乃さん、この間アキトさんのほっぺにキスして見せたんですか?たくみくんの前で?え~たくみくん、俺の前ではそんな話、してなかったけどなあ。じゃあそれだけショックだったんでしょうねえ。

まあ、案外もうヒビ入ってるかもしれませねえ、ふたり・・」


俺は機嫌良くコーヒーカップを傾けた。


◆◆◆


「さ、たっくん!今日は何でも食べてよっ!
あ、まずはシャンパン頼もっか!?ワインもどうぞ!すみませ~ん!」

仕事帰り。僕は暁都さんに、オシャレでお高いイタリアンに連れ込まれていた。

一緒に並んだカウンター席の下、そっと暁都さんが僕の手を握る。なんとなく握り返せないままの僕。


昨日は元妻が乗り込んできて帰りに暁都さんにキスしてくっていう爆弾付きで、何か興奮状態のままお互い寝ちゃったんだけど!

改めて昨日のこと思い出すとオエッてなってる自分がいてさ・・。

「ほらあ~んして!?」
「外だよ?」

おじさんしっかりしてと言わんばかりに手の平に爪を立てた。アキトさんが最大限僕の機嫌を取ろうとしてくれるのは分かるんだけど・・

「自分で食べれますよっ」

そう言って生ハムサラダをフォークでつついた。
ちょっと寂し気な暁都さん。僕だって「もう~♡」とか、やりたいけどさ。


・・ダメなんだ。なんか別れた元彼氏・辰也のことが頭にチラついてしまって・・。思い返せば奴の浮気も、不穏な兆候があったんだよなって。

いや、もちろん暁都さんは浮気なんしない。僕らは同じ痛みを持つもの同士。信じてるさ!

だけど・・

どうしても気持ちが沈んでしまう。胸がざわついて仕方なかった。それを察してなのかどうなのか、いつも以上にぺちゃくちゃ話しかけてくる暁都さん。うまく笑えない僕。

ううっもう僕ら、ふたりのんびり暮らしたいだけなのに。もう浮気だの失恋だのは本当にこりごりなんだ。


僕のグラスにワインを注ぎながら暁都さんは言った。

「たっくん、色々ごめんな本当。
だからさ、そんな悲しい顔しないで」

うう。そんなこと言ったってさ。

「暁都さんだってイメージしてみてよ。
・・僕が元恋人にキスされたらどうする?」

ウッと詰まった暁都さん。瞳が一瞬ギラと瞬いた。

「分かってくれた?僕の今の気持ち・・」

ぐぬぬ・・っと暁都さんの無骨な手が何か訴えようと何度か開いて閉じ、彼は言った。

「た、たっくんだってさっ瀬川だっけあの元上司のおっさんに抱きしめられたことあったじゃんっ」

もちろんヒソヒソ声でだけど!僕もヒソヒソ声で応戦した!

「っあれは避けれなかったから!」
「俺も同じだよ!」

「でっでも元妻からのキスは重さが違うと思います!」
「わざとじゃないって!」

「あんなの避けれた!」
「避けれません!!」

「本気出せば避けれた!!!」

ぐぎぎぎ・・と睨み合う。

「・・埒があかん。帰るぞ」

そう言って暁都さんはカード会計した。

まだまだ残ってるワインを置いて。冷めたピザがお皿の上でくたっとしていた。





とぼとぼと駐車場を車まで歩く。いつも2人並んでキャッキャして歩くけど。今日はなんとなく距離のあるふたり。


無言で車に着く。無言でエンジンを掛け、車を発進させた暁都さん。

僕はなんかむしゃくしゃして居た堪れなくてずっと窓の外を見つめていた。寒空が広がっている。

・・もうやだ哀しい。暁都さんと喧嘩するの初めて。つらい。


そりゃさ、『疑われてるのかな?』って暁都さんも思ってるのかもしれないけどさ。嫌じゃん。目の前で美人な元妻にキスされてるの見ちゃったらさ。もしかして万が一にも?なんて不安になるじゃないか。

暁都さんが夢から覚めちゃうんじゃないかって・・不安になるじゃないか。

僕は暁都さんのこと、もうこんなに好きになっちゃってるのに。






続く
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