浮気な彼氏

月夜の晩に

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浮気な彼氏シーズン2#1 溺愛旦那の憂鬱

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お知らせ

シーズン2始めるにあたり、登場人物に名前をつけました(今更)

主人公くん・・小春たくみ
暁都・・加賀美 暁都
元上司・・瀬川 謙太郎
元カレ・・浅倉 辰也

ーーーーーー

溺愛されるのも中々困ったもんだ。



ホテルみたいにお高いマンションの、これまた洒落てお高い部屋のベッドの上。

「たっくん・・行くなよお」
大きな抱っこちゃんは僕を離してくれない。


朝から・・いや昨日の夜からすこぶる機嫌が悪いのだ。


「暁都さん、離してよお。そろそろ本当に行かないと。ね?」
「・・ちっ・・」

珍しくお行儀の悪い暁都さんの心からの『ちっ』が苛立ちをよく表していた。


「元上司の方によろしくねえ。
・・ご丁寧~でやたらに親切な、若い子好きのおっさんにね」

「まあまあ・・ははは」


暁都さんと同じような年齢だけどなあと内心苦笑しつつ僕はベッドを降りた。


僕の前の仕事の元上司・・瀬川さんと今日夜に食事会をするのだ。

一時、間借りさせて貰っていた旅館引き渡しとそのお礼ってことで。

瀬川さんは僕に気があったかもしれないけれど、とは言えあんなにお世話になっておいてメールで終わり、ってのも出来なかったもんで・・


まあもちろん、瀬川さんのプチセクハラだとか好意匂わせなんかは暁都さんには言っていない。面倒見の良い元上司ということにしてある。

じゃないと色々面倒なことになるんで・・


でも溺愛旦那には『僕が元上司とふたりで会う』というのが苛立ちのタネみたいで、僕は昨日の晩からそれはそれは・・な目に遭わされている。


振り返ってみたら嫉妬に布団の端を噛み締め(比喩じゃなくまじ)、そのハンサムな風貌を惨めに歪めた暁都さんがいた。


やれやれ。

あれは溺愛?寵愛?いや執着愛ってやつ?





『嵐の火種』





「これでよしっと」

片付けと掃除を完了し、僕は一息ついた。

僕が暁都さんの家に転がり込む前、僕が住んでいたある旅館の一部屋。

いつの間にか暁都さんと同棲していた僕には、もう無用ということで引き払うことになった。

最後に片付けと掃除をして、完了。短い間だったけどホテル暮らしという身に余る贅沢をさせてもらった。


鍵はフロントに返せば良いらしい。瀬川さんにメッセージを打とうと思って携帯を開いたら、割り込む様に暁都さんからLINEが来ていた。


『今日の店、駅すぐのここだよね?』

某グルメサイトのURL付き。す、すごい。鍋料理の店で~ってフワッと言っておいただけなのに当ててきたよ。


『そうだよ。終わったら連絡するね』

そう返信した矢先。瀬川さんから電話がかかってきたんで出た。


「わ、はい!?」
『あ、小春くん~久しぶり!俺ねえ待ち切れなくて今旅館の下のとこいるよお」

駅集合じゃなかったっけ!?

「あ、ハイ!い、今行きます~!」

僕はバタバタと出ていった。
もう感傷に浸る必要のなくなったこの部屋を。






「小春く~ん!・・ってアレ!?何か垢抜けたね!?」
「いや、瀬川さんこそ・・」

久々に会った瀬川さんもまた、なんかお洒落になっていた。こんなカッコ良かったっけ?


ちょこっと垂れ目で整っている顔立ち、綺麗に撫でつけたオールバック気味の髪、見るからにわかる高いスーツ。溢れ出るおぼっちゃま感。これで僕にプチセクハラしなければ完璧だったのに。まあ過去のことは良い。良くないけど。



「こっちの仕事が早く終わってさあ!まあさ、ホラ!小春くんの新しい門出、存分に話を聞かせてもらおうじゃないの。って訳でお店行こね~タクシー呼んどいたよ」




タクシーで瀬川さんが随分楽しそうにぺちゃくちゃするもんで、僕は携帯を弄れずにいた。

まあどっかのタイミングで暁都旦那にはLINE一報くらい送れるよね、きっと・・。





たどり着いた駅前の半個室の鍋料理店。ぐつぐつと煮たつ鍋を前に、僕はこれまでの経緯をザックリと話していた。


まあ要は、元カレの辰也と別れ、暁都さんと付き合い始め、今は一緒に住んでるってこと。どんな人かってことも。・・溺愛が過ぎるタイプってのも吐かされてちょっと恥ずかしい気持ち。


ニコニコと人の良い笑みで話を一通り聞くと、瀬川さんは言った。


「・・いやあ、最初『恋人出来たんで旅館出ます』って連絡来た時はビックリしたよねえ本当。

俺が仕事に忙殺されてる間にそんな新恋人が出来ていたなんて・・俺がちょっかい出せてた頃はまだ元カレくんとすったもんだしてたのに・・」

しみじみと瀬川さんは言った。

「おじさん出遅れちゃったなあ・・まあでもおめでとう♪」

タハハと笑い、日本酒をグビと飲んだ。歳の割に(失礼)若々しい瀬川さんの、白いけど割と男らしい喉がごくんと動くのをつい見てしまった。


暁都さんといい瀬川さんと言い、なぜ彼らは自分をおじさんと称するんだろう。あっ思いついた、二人で飲めば楽しいんじゃない!?


なんて思ってふふっと笑ってしまった。


「?どしたの?」
「えっいや何でもないです!まあそんな感じで、ぼちぼちこっちでやっていきます、僕」

「おおー、こっちで仕事も探す系?」
「ハイそのつもりです」


ぶっちゃけ今は金持ち旦那のスネを齧りまくりなので、そろそろちゃんと定職に着かなきゃって思ってます・・!


ぐつぐつに煮立った鍋にA5ランク牛を遠慮なくぶっ込みながら、瀬川さんは言った。


「ささ!もっと食べて!新しい仕事、良いの見つかると良いねえ~。

さて、俺も君らを見習って、恋の狩?に出なきゃだなあ」


あははあと僕は笑った。

「まあ瀬川さんならすぐ見つかるんじゃないですか」

「そう?君にそう言ってもらえるとヤル気でるねえ俺は。元上司としてはさ・・

あっそういえば、職場の例の事務さん覚えてる?そういえばあの子このあいだ結婚決まってさあ」

「え!?あのヤンチャな事務さんが!?」



そんなこんな、昔の職場話を交えて話は盛り上がり、僕は楽しいひとときを過ごした。





お店の前で、帰り際。

「すみません、ご馳走になっちゃって。色々ありがとうございました」

「全然良いよお。

ところでさあ、今のそのアキトさんて人とはどこに住んでるの?小春くんとは職場は離れても縁は切れたら寂しくてさ~。
年賀状くらいはこれからも出したいから、良かったら住所教えてくれない?ねっね?」

眉を下げてお願いされると、弱い。

まあ、年賀状くらいならいっか。

「あ、えーと・・住所はメッセージの方に送りますね。えーと・・」

マメだなあ、瀬川さん・・なんて呑気に思いながら携帯を開いたら。




『今どこ』
『俺を忘れてるだろ』
『何してるとこ?ねえー!』
『たっくんー!!!』
『スタンプ一個くらい返せるでしょ!?』

などなど数々のライン。そして不在着信15件。



やっべええーー忘れてたああああ・・

頭を抱えた。


「小春くん?」
「あ!ハイ!?」


とりあえず瀬川さんに僕らの家の住所を送っておいた。



ああ、それにしてもヤバい。あの寂しがりが嫉妬すると面倒だぞ・・!

頭の中をフル回転して何てフォローしよう、と考えていた時。

お店の駐車場に車がポツポツと並んでるのをなんとなしに見ていたら。

場違いなくらいの高級外車を発見。いや~景気良いな。あんなの持ってるの暁都さんくらいかと思っ・・


!?

いや暁都さんの車だよね!?ナンバーも!!?


そしてふとネットリした視線を感じ、反対側の信号のところに視線を移すと暁都さんが普通に立っていた。

僕の方を見てバツが悪そうにする・・どころか堂々とガン見している。いやそこは恥ずかしそうにして?

『俺は見てるぞ』

怨念の様に僕をじっと見ている。

ウン・・知ってる・・


「じゃあねえ」
「・・え!?あ、はい!」

そう言って帰っていこうとする瀬川さん。

もう流石に会うこと、ないよなあ。旦那のことは一旦置いておいて、と・・!

前の職場でプチセクハラされたり結構面倒だなって思ってたけど、僕にひとときの逃げ場をくれたのはこの人だったし。

「それじゃ。瀬川さん、お元気で・・」

感傷的な気分で言った僕に、瀬川さんは不思議そうに言った。

「何で?また会うよ?」

また遊びに来るって意味?

「・・あは、そうですね、またいつか・・」

「ちなみにさっそく来週」

「え?」

「俺さ、ところで言い忘れてたんだけど。

前の職場辞めて、こっちの仕事に専念することにしたよ。ずっと忙しかったのはそのせい♡手広く色々仕事してて良かった~!って訳でこれからもよろしくね。こっちに引っ越すし!」


そう言ってさっと僕を抱きしめ、僕にビンタされるよりも早く身をかわし、逃げるように改札奥へ。


「俺、人妻って好きなんだよね!って訳でまたね!たくちゃん!」


うおおおそんな甘ったるい言い方で僕を呼ぶあああ誤解を生むだろうがあああ!!!しかも声がでかい!!!


去って行った嵐の種。

ギギ・・と振り返る。

視線をやった先に、全身の毛を逆立てるが如く負のオーラを全開にしている暁都さんがいた。


改札奥に逃げ込んだ瀬川さんを多分頭の中でころし、そして僕の方を見た。


や、やっべ・・


冷や汗ところじゃない冷たい汗が背中を流れ落ちる。


お願い、一生あの信号変わらないで。そう願った矢先、虚しくも信号は青へと変わった。


ズンズンとこっちへやって来る暁都さんの、足の早いことといったら・・



一難去ってまた一難?

僕と暁都さんの恋愛関係は、また一波乱ありそうなのだった。






続く
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