浮気な彼氏

月夜の晩に

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【浮気な彼氏#13-6】

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「!!!!」




キキキーッ!ガクン!!って車体が揺れた。その衝撃でバン!!と僕はダッシュボードに手をついた。この時ほどシートベルトしてて良かったと思ったことはなかった。


はあはあと荒い息を吐く。鼓動が早い。脈打つのが聞こえる。冷や汗を背中にかいている。


生きてるのか僕は・・?

車の通りが他になくて良かった。
本当、ほんとうに・・。





「・・俺どうかしてたよ。ごめんね、危ない目に遭わせて・・」


彼は肩を落として瞳を伏せた。

僕を危険運転に巻き込んだことを、死ぬほど後悔してるって顔だった。



「大丈夫だった?手見せて・・」


すごく心配そうにあれこれと僕に怪我がないか見ていく。しょんぼりと垂れたワンコの耳が見えた。



「ううん良いんだ別に・・。それより暁都さん落ち着いて。一緒に海沿い、歩こ?」


だまって彼は頷いた。路肩に車を止めて、僕らは歩き出した。僕が彼の手を引いて。






ザブンザザアンと波の音がただ聞こえる。風が冷たいけど、火照った心を冷やすにはこれくらいが丁度良いのかもしれない。怒りに震える心には特に・・。



大人しく僕についてくる暁都さん。その無骨な指先は悲しげにしおれている。いつもみたいに僕に戯れついてはこなかった。





「・・別れた元奥さんさ、今になって連絡してくんの。やり直したいとか言ってさ。

俺がそこそこ名の知れた作家になったから。真男より金持ってるから。

笑っちゃうよねホント・・。

・・・。

・・慰謝料請求をね、してる訳よ。元奥さんと間男にさ。別に金が欲しいんじゃなくて、罪を償って欲しいって意味で・・。俺をこんな風にしといて幸せになるなよって嫌味をこめてさ・・。

連絡は弁護士を通せって言ってんだけど、電話掛けてくんだよね・・」





あの電話はそう言うことだったのか。


「僕には全部教えてくれたら良かったのに」

「・・俺自身、向き合えなかったんだ。自分の過去に。それに・・」



「それに?」
「・・・」


「言ってよ、暁都さん」
「・・ダサいから」



「ええ?」
「・・・。
好きな子の前ではスーパーマンでありたかったの。スーパーマンには、悲しい過去なんてないんだ・・」



彼はふいに立ち止まった。しゅんとして、哀しそうにわらった。



「暁都さんはカッコ良いよ。僕のヒーローじゃないか」


しょんぼりした瞳が僕を見下ろすもんだから、僕は背伸びをしてキスをした。

そしてずっと言いたかった言葉を伝えた。まっすぐその瞳を捉えて。



「暁都さん、好きです」
「・・俺は同情なら要らないよ。慰めるためなら辞めてくれ」



彼は僕を押しのけた。初めて。そして自嘲気味に言った。



「・・俺がねえ、君のこと気に入った本当の
の理由、教えてやろうか。ウブそうでさあ、俺に変な嘘つかなさそうだからだよ。かわいかった、は二番目の理由。どう?ダサいだろ」


「ダサくないよ。信用できそうって思う人を選ぶのはそんなにダメなこと?」

「・・・」

「暁都さん、好きだよ。これが嘘に聞こえるの・・?」

「・・いや・・」




彼は頭をがりがりと掻いた。



「・・俺、君に捨てられたら死んじゃうからね。そんなに強くないんだ、本当は」

「捨てないよ」

ずっと一緒だよって言葉はどちらが言ったんだっけ。抱き締められてキスされて、包む様な波の音だけがずっと聞こえていた。








続く
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