浮気な彼氏

月夜の晩に

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【浮気な彼氏#13-5】

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「・・!」

僕は絶句していた。そんな、過酷すぎる傷を背負っていたなんて・・!声が出ない。




一方で、いつぞや暁都さんに言われた『元彼、こんな可愛い女が落とせるなら他も落とせる。多分他も浮気してるよ』ってアドバイスはこういうことだったのかと腑に落ちていた。




「さっき俺に、浮気ぐらいしたことあるだろ、って言ったよな?ねえよ、人生で一回も!裏切られたことならあるけどな!

逆に聞くけどさ、分かる?裏切られた側のリアルな気持ちが、お前に!」




暁都さんの未だ癒えない心の傷口から血が溢れ出していた。

その人差し指を拳銃の様に元彼の胸にトンと当てて、暁都さんは言った。怒りと悲しみに支配された瞳で。




「眠れない、食べれない、もう誰も信じられない!笑うことなんざすっかり忘れちまって、あるのは無限に続く絶望だけさ!世界がひっくり返っちまうんだよ!

お前みたいな人間がお気楽に浮気する一方で、された側は苦しみ抜く、ずっとだ、何年も!

どうせ分からないだろうがなお前みたいな奴には!

・・だがな?俺には分かる。この子の気持ちが。痛みも、苦しみも、全部!だから俺は絶対にこの子を裏切らない、悲しませないって誓えるんだ。お前よりずっとこの子に近くて幸せに出来ると誓えるのは、俺なんだよ!!!」




そう叫ぶ様に言う。

「暁都さん、もう良いよ!」


暁都さんを宥め、僕は元彼に言った。



「もう話し合い終わり!とにかくもう二度と会わないから!僕は暁都さんを大事にしたい。他にこんな風に思える人、いないんだ。

・・さようなら」

「・・そういうことだ、そんじゃな」


暁都さんは僕の腕を引いて今度こそ歩き出した。



車に乗る前、一度だけ振り返ったら元彼はただただ悔しそうな苦しそうな顔で僕らを見つめていた。









「ちょっと海沿い走ってくよ」

僕を車の助手席に放り込むと、僕がもたもたとシートベルトを着けるのに手間取っている内に、暁都さんは車を走らせ出した。らしくなかった。



その内スピード上げて道路を飛ばし始めた。車の通りはない真っ直ぐな道だけどこんな乱暴な運転、暁都さんじゃなかった。


黙って車を走らせる横顔は時折海をじっと見つめている。きっと綺麗な景色に救いを求めてきたんだろう。僕の様に。彼が海沿いの街に住んでいる理由が初めてちゃんと分かった気がした。




「・・バツイチだったの黙っててごめんね」
「ううん良いよ」



責める気なんかなかった。

むしろ何でこんな人がこの歳まで独身だったんだろう?ってずっと思ってた。



「・・でも嘘さ、あんな話。俺小説家だから、ドラマチックなストーリー考えるのが得意なだけで。君の元彼に引導を渡すための、ただの演出さ。あんなこと、俺には起こらなかった・・」




言いながらグスと鼻を啜った。目の縁が赤い。そんな哀しい嘘、つかないで欲しかった。聞いてる僕自身もすごく辛い。

信じてあげたかった。なあんだそうだったんだって言ってあげたかった。けれど。




「・・僕が側にいるから、ずっと・・」

「・・くそ!くそくそ、くそ!!
前の家も、ファミリカーも処分した!

それに全部捨てたんだ!ベッドも、寝巻きも!タオルだって、残らず全部!なんであんなこと!!俺を裏切るなんて!!しかも俺たちの家で・・!!」




彼の心は今ここにない。苦しい過去に、1人で居させちゃいけない。


「車止めて!!落ち着いついて!暁都さん、ゆっくり話そう!」
「くそ、くそ・・」


彼の心は過去に囚われたまま。それに外車は更に加速する。苛立ちが悪い方へ向かって発散されている。この調子じゃ色々まずい!


「暁都!!車止めて!!僕を殺しても良いのか!あんなに好きって言ったくせに!!」

大声で叱りつけた。暁都さんはビクッとして我に返ると、さっと周囲を確認して急ブレーキを踏んだ。








続く
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