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【浮気な彼氏#12-1】暁都さんの癒えない傷と言えない話
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元彼と会うのを明日に控えた今日。ついあれこれ考えてしまいモンモンとするけれど、気晴らしに出かけたくても生憎の雨。
だから僕らは1日家にいることにした。
仕事部屋で籠って作業するという暁都さんに、コーヒーでも差し入れしようかと思って部屋の前まで来たのだが。
『・・らもう電・・るなっ・・だろ!』
珍しく声を荒げている声が漏れ聞こえてきた。
誰かと電話でもしてるんだろうか。
何だろう仕事で揉めてるとか?出来心で僕はドアに耳をそば立てた。
『だから・・絡は・・を通して・・っただろ。無理むり。離・・んだから俺・・るな。そんじゃ』
こんな暁都さんは初めてだった。
でもどうしたんだろう。仕事関連じゃないと思う。感じたことのない違和感に覆われていた。
昼。仕事部屋から出てきた暁都さんに僕は思い切って聞いてみた。
「すみません、さっき電話してる声がちょっと聞こえちゃったんですけど・・何かあったんですか?」
変な遠慮はしないってお互い決めたんだ。元彼の時みたいに、浮気してると半ば確信しつつ何も聞かないなんて、もうしない。
「ああ、あれ。聞かれちゃったかあ・・」
困ったように眉を下げ、頭を掻いた。チラリと赦しを乞う様にこちらを見ている。珍しかった。
でも暁都さんは結局折れて話し出した。
「その、ね。前付き合ってた子の話したでしょ。揉めて別れた子。今になって色々連絡してくんの。だからそう言うのもう辞めてねーって話してたんだよ」
「そうだったんですか」
つい目を見開いて驚いてしまった。暁都さんがそんなことに悩まされていたなんて知らなかった。
「そ。・・困るよな本当。あっでもやり直すつもりは一切ないからそこは安心して!
ただな、前一緒に住んでたもんでさ・・関係解消に当たって色んな手続きが・・ある訳よ、ホント、色々と・・」
珍しく物凄く歯切れが悪い。いつも立て板に水のごとくペラペラ喋るのに。
「あ、一緒に住んでたってのはこの家じゃないからね!それは昔の話でさ・・」
こんな悲しそうな顔、初めてだった。
「前はね俺、東京に住んでたんだよ。東京タワー見える部屋でさ。家賃くそ高いのに狭かったよなあ、あのマンション。誰かと住むにはなあ」
あははと乾いた笑い。それは心底悲しい思いをしないと、出ない笑いで・・。
「・・近くに花屋とケーキ屋があってさあ。よく買ってたよな俺も。あの子喜ぶかなとか思って・・」
僕はただ頷いた。
いま僕にしてくれてるみたいに、他の誰かを喜ばせようとしてた時があったんだなあと少し寂しかった。僕だけの暁都さんじゃないんだ、当たり前だけど。
彼はぽつぽつと続けた。
「・・あれは寒い冬の日のことだったなあ。いつもは仕事終わったら喫茶店でコーヒー飲んで帰るんだけど、あの日は何か気まぐれでまっすぐ帰って・・」
宙を見つめる彼の瞳が、脳裏の記憶を辿っている。僕の知らない『あの日』を思い返している暁都さんは、やがてギュッと瞳を閉じた。
「・・・。
・・・・・・。
・・ごめん、隠すつもりは、ないんだけど。でも俺もう前のことは何も思い出したくないんだ、ごめん・・でもいずれちゃんと、話すから」
暁都さんは苦しそうに顔を手で覆ってしまった。よっぽど嫌な記憶だったんだろう。その様子を見て僕は胸がギュウっとなった。
僕自身、元彼の浮気現場に遭遇した日のことを思い出していた。・・暁都さんにも、まさか同じことが?
「・・僕がそばに居ます」
その言葉は自然に出た。でもそれは単なる同情心じゃなかった。
暁都さんはそっと僕を見上げた。
未だ苦悩に満ちた顔。彼をこんな風にした誰かが、許せなかった。
暁都さんを守りたいと、初めて思った。
続く
だから僕らは1日家にいることにした。
仕事部屋で籠って作業するという暁都さんに、コーヒーでも差し入れしようかと思って部屋の前まで来たのだが。
『・・らもう電・・るなっ・・だろ!』
珍しく声を荒げている声が漏れ聞こえてきた。
誰かと電話でもしてるんだろうか。
何だろう仕事で揉めてるとか?出来心で僕はドアに耳をそば立てた。
『だから・・絡は・・を通して・・っただろ。無理むり。離・・んだから俺・・るな。そんじゃ』
こんな暁都さんは初めてだった。
でもどうしたんだろう。仕事関連じゃないと思う。感じたことのない違和感に覆われていた。
昼。仕事部屋から出てきた暁都さんに僕は思い切って聞いてみた。
「すみません、さっき電話してる声がちょっと聞こえちゃったんですけど・・何かあったんですか?」
変な遠慮はしないってお互い決めたんだ。元彼の時みたいに、浮気してると半ば確信しつつ何も聞かないなんて、もうしない。
「ああ、あれ。聞かれちゃったかあ・・」
困ったように眉を下げ、頭を掻いた。チラリと赦しを乞う様にこちらを見ている。珍しかった。
でも暁都さんは結局折れて話し出した。
「その、ね。前付き合ってた子の話したでしょ。揉めて別れた子。今になって色々連絡してくんの。だからそう言うのもう辞めてねーって話してたんだよ」
「そうだったんですか」
つい目を見開いて驚いてしまった。暁都さんがそんなことに悩まされていたなんて知らなかった。
「そ。・・困るよな本当。あっでもやり直すつもりは一切ないからそこは安心して!
ただな、前一緒に住んでたもんでさ・・関係解消に当たって色んな手続きが・・ある訳よ、ホント、色々と・・」
珍しく物凄く歯切れが悪い。いつも立て板に水のごとくペラペラ喋るのに。
「あ、一緒に住んでたってのはこの家じゃないからね!それは昔の話でさ・・」
こんな悲しそうな顔、初めてだった。
「前はね俺、東京に住んでたんだよ。東京タワー見える部屋でさ。家賃くそ高いのに狭かったよなあ、あのマンション。誰かと住むにはなあ」
あははと乾いた笑い。それは心底悲しい思いをしないと、出ない笑いで・・。
「・・近くに花屋とケーキ屋があってさあ。よく買ってたよな俺も。あの子喜ぶかなとか思って・・」
僕はただ頷いた。
いま僕にしてくれてるみたいに、他の誰かを喜ばせようとしてた時があったんだなあと少し寂しかった。僕だけの暁都さんじゃないんだ、当たり前だけど。
彼はぽつぽつと続けた。
「・・あれは寒い冬の日のことだったなあ。いつもは仕事終わったら喫茶店でコーヒー飲んで帰るんだけど、あの日は何か気まぐれでまっすぐ帰って・・」
宙を見つめる彼の瞳が、脳裏の記憶を辿っている。僕の知らない『あの日』を思い返している暁都さんは、やがてギュッと瞳を閉じた。
「・・・。
・・・・・・。
・・ごめん、隠すつもりは、ないんだけど。でも俺もう前のことは何も思い出したくないんだ、ごめん・・でもいずれちゃんと、話すから」
暁都さんは苦しそうに顔を手で覆ってしまった。よっぽど嫌な記憶だったんだろう。その様子を見て僕は胸がギュウっとなった。
僕自身、元彼の浮気現場に遭遇した日のことを思い出していた。・・暁都さんにも、まさか同じことが?
「・・僕がそばに居ます」
その言葉は自然に出た。でもそれは単なる同情心じゃなかった。
暁都さんはそっと僕を見上げた。
未だ苦悩に満ちた顔。彼をこんな風にした誰かが、許せなかった。
暁都さんを守りたいと、初めて思った。
続く
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