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いつまで普通だった?
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僕が雪弥(ゆきや)くんと最初に出会ったのは、地元のちょっと大きめのショッピングモールでのイベントでだった。
当時本当の本当に駆け出しのアイドルグループに過ぎなかったrips。雪弥くんはそのメンバーの1人だった。
だけど雪弥くんはメンバーの中でも一際異彩を放っていた。ホリの深いハンサムな顔立ちで、一番背が高くて、白い肌は名前の通り雪を連想させた。
存在感が凄くて、僕は一気に引き込まれた。
とはいえ駆け出しアイドル。見物客はまばらだった。
ステージを終えた彼らの握手会に参加する人もほぼいない。アイドルでさえ、駆け出しってこんなもんなのか。
心なししょんぼりする様に見える彼らの前に、僕は勇気を振り絞って立った。
「…あ、あの。素晴らしかったです、本当に。きっと皆さん、いつかトップアイドルになる気がします。応援してます」
そう絞り出した僕。雪弥くんが握手してくれた。
「…ありがとうございます、そう言ってもらえると僕らも勇気が出ます!」
ニコと笑った雪弥くん。
眩しくて、ドキドキして、僕はその瞬間いっぺんで恋に落ちた。
『いつまで普通だった?』
イベントが解散しても、僕は頭の中が雪弥くん一色だった。素敵な声だったなあ。
僕みたいな平凡な人間からすると別種族にしか見えない感じの、あの存在感。
多分同じクラスだったら喋ってももらえないだろうこの隠キャ。しかし相手がアイドルだと握手して頂けるという身に余る光栄。
ああ…幸せ…
彼らをもっと応援したい。
僕はふと思い立ち、ファンレターを書くことにした。
どれどれと調べてみると、彼らはまた2週間後に同じこのショッピングモールにイベントをしに来るとあったので、次回ファンレターを渡すぞと心に決めた。
僕はありったけの想いを込めてファンレターを書いた。
どんなに雪弥くんの歌やダンスが素晴らしいかったか。あそこまで上手くなるのにきっと沢山練習しただろうこと、その努力が素晴らしいこと。人を楽しませるために一生懸命努力できることが、どんなに尊いことか。
僕は特別アイドルを推したことはなかったが、雪弥くんは本当に特別なんだってこと。
2週間後、僕は再びやってきた雪弥くんにファンレターを渡した。
「ファンレターなんて、人生で初めて貰いました!ありがとうございます、嬉しいです」
ほんのり目の淵が赤い。感動屋さんなのかな。
でも喜んでもらえて僕もすっごく嬉しかった!
数日後になんと雪弥くん本人からお返事も貰って、僕は天にも昇る気持ちだった。
『ファンレターありがとう、その気持ちで頑張れます』って。
いやそんな、僕なんかの言葉でやる気出してくれるなんて、そんな畏れ多かった。
でも好きな人の役に立てるのは嬉しい、とっても!
それからメキメキと売れていったrips。
僕は雪弥くんにファンレターを毎月何通も送り続けた。きっと僕以外にもファンは大勢いるだろうけれど、それでも僕の手紙を喜んでくれた雪弥くのあの顔が忘れられなかったのだ。
最初の方こそお返事をくれた雪弥くんも、じきに返事はくれなくなった。そりゃそう。忙しいのだ。ちょっと寂しくはあるものの、別に仕方ないと思ってる。
テレビでもファンレターは極力全部読んでるって言ってたし!僕のファンレターが目に止まるならそれは嬉しいし。
そんな思いで僕のファンレター制作は僕のルーチンと化し、やがて僕は高校3年生となった。
ドームもツアーもやったrips。知らない人はほぼいないアイドルグループへと成長した。
好きな人が売れるの嬉しい。
だけどある日…。
教室のスマホで熱心に雪弥くんの動画やらを見ていると。ふと後ろから携帯を覗き込まれた。
「わ、男の癖に男のアイドルのファンとか、きっしょ」
…!!!
振り向けなかった。
「雪弥くんかわいそ~可愛い女の子に好かれたいでしょ普通」
やいのやいの言いながら遠ざかっていく男女数人のグループ。
かわいそう、か…。
***
クラスメイトに言われたことが妙に気になって、それから僕は雪弥くんにファンレターが書けなくなってしまった。
どんなに心尽くして書いても、僕はキショいのかもしれない。雪弥くんもウワッて思ってるのかもしれない。でもアイドルはそんな発言、思っててもしちゃいけないから、笑顔の下で我慢させていたのかもしれない。
そう思うと胸が張り裂けそうだったのだ。
…雪弥くんに手紙を送るのはもう辞めよう。そう思ってレターセットは全て捨ててしまった。
それから3ヶ月程経った頃。
雪弥くん達のグループが久しぶりに地元のショッピングモールに御礼イベントしに来て、えらい大騒ぎになった。人垣に囲まれて雪弥くん見えないし。たぶんあの渦の中心にいるんだろうなあ…とは思った。
しかし愛されてるんだなあ。雪弥くんは。
ホッコリしつつも、人垣の後ろから何とかイベントを拝見する。
雪弥くんと目が合って手を振ってくれた気がする、というのは単なるファン心理だとよく心得ていた。
イベント終了時刻を迎え、帰ろうとした時。
僕は廊下歩いてて突然誰かに腕を捕まれ、スタッフ用の廊下に連れ込まれた。一瞬だった。
「…雪弥くん…」
僕の腕を力強く握ったままの彼。2人きりの廊下。
久しぶりの雪弥くんは、初めて会った時よりも背が伸びて男らしい精悍さを漂わせていた。
そっぽ向いたまま、彼は言った。
「…何で最近ファンレターくれないんです…?」
「え…」
大量に貰ってるだろうファンレター。僕のものがないことに気づくなんて、なんてすごいんだ雪弥くん。
テレビでファンレター楽しみにしてるって言ってたもんね。全部読んでるってのは本当だったのか。
でも、な…
「えっとその、ごめん。受験勉強で時間がなくて…」
「…ふーん…大変なんだ?」
「う、うん、そうそう」
勉強がやばいのは事実だった。
「そっか…やっぱ手紙書くって時間かかるもんな、そっか、やっぱそうだよな。…良かった」
やっとこっち見てくれて、力抜けた笑顔を見せてくれた雪弥くん。
え、でも良かったって何?
「じゃあさ、LINE教えてよ。LINEならすぐちょこっと送れるだろ。ここ良かったとか、見たよ、でも何でも。携帯出して?」
むず痒いような笑顔になった雪弥くんの笑顔にやられて僕は携帯を差し出しそうになったけど、僕はすんでのところで止めた。
「どしたの…?」
訝しげな雪弥くん。
「えっとアイドルって個人の連絡先とか交換して良いんだっけ…?事務所の人に怒られない??」
グッと詰まった雪弥くんはしどろもどりになりながら言った。
「じっ地元民は良いんだよ!!良いからLINE、待ってるから!絶対ね!」
怒鳴り声で雪弥くんは居場所がバレ、廊下には人がなだれ込んできて、あっという間に遠ざかった僕ら…!
***
まあそんな訳で雪弥くんとLINEのフレンドになってしまったのだが。
好きな人とこうしてお近づきになれるなんて、夢?天にも昇れそう。あっいま昇ってるのかな…?
ホワホワした気持ちのまま、しかし半信半疑で手元のスマホを見つめていた。
連絡して来いとは言ってたけど、『やっぴー、今何してる?』とかそういうの求めてる訳じゃないだろうし…。
あっそうそう、雪弥くんの出演に関してファンレター代わりにLINEすれば良いんだよね?
思い切って僕はLINEをお送りしてみた。
『雪弥くん、今日もお疲れ様!今日の歌謡祭も良かったよお』
って送ったら0.5秒で既読になってビクついた。
『マジで?ありがとう。どのあたりが良かったとか、ある?』
これまたものの数秒で返信が来た。あっやっぱりトップアイドルでも視聴者から見たらどうなのか、気になるんだなあ。なんて熱心なんだ。
『えっと、キレのあるダンスと声量ある歌声、全部!カメラに向かってファンサしてくるとこも良かった!視聴者を楽しませようってしてくれるのが伝わって、さすが雪弥くんって感じ!すごく素敵だったよ!』
しかし送ってしばらく返信来なくて、うわウザかったのかなと猛省していたら。結局1時間半後くらいに返信が来た。
『了解』
ええ~!?了解、それだけ!?
やっぱ調子に乗って長いの送っちゃったから!?どうしよう、今度からメッセージは短めにしよ・・。
と思ったのだけれども。
それから雪弥くんからしょっちゅうLINEが来た。
雪弥くんがテレビ出た時とか、アイドルグループが新しくアルバム出した時とか。
『どうだった?』
っていつも来る。
僕が何か送るよりも早く。
それに対して『今回も素敵だった!』とか無難な返事を返すと、『どういうとこが?』って絶対来る。
それに対して短めに返信すると、『もっと話したい』って来るから、長めのメッセージ送ると2時間くらい返信が来ない。
そしてやっぱり『了解』って来るのだ。
喜ばれているのか迷惑がられているのか、よく分からない僕のメッセージ。しかし送らないと雪弥くんは許してくれない。
狐に包まれた様な気持ちだったけれど、僕は雪弥くんとやりとりを続けた。
僕は言い続けた。どんなに雪弥くんが特別に素敵な人か。
だけど日を追うごとに雪弥くんはちょっと変になってきた。
返信ちょっと返さないだけで、こんなLINEが来る。
『誰といんの』
『まさか他のアイドルグループのライブ行ってる?』
『今どこ』
『勉強中?邪魔してごめん』
『同じクラスだったらな』
なんて立て続けに。
あまりに頻繁にLINEが来るので僕もちょっと怖くなり、ある日の深夜にこんなメッセージを送った。
『雪弥くん、僕のこと気にし過ぎだよ。僕なんかただの一般人だよ。一意見に振り回されちゃだめだよ。
だからもう、やりとりするの辞めよ。
僕も勉強しなくちゃ』
即既読がついた。
それは深夜2時半だった。
つい非常識な時間に送っちゃった僕も僕なんだけど、この時間に送ったLINEが即読まれたのもちょっと執着心を感じて怖くなり、僕は雪弥くんをブロックした。
こうして僕と憧れの人は終わった。
それから日がたち、僕は大学受験に無事に合格した。推し活から離れて随分経っていた。
久しぶりに開いたらツイッターで、雪弥くんは体調不良でしばらく芸能活動休止するとあって、僕は心配した。
やっぱり。ちょっといっ時ヤバかったもんね、雪弥くん。どうかゆっくり休んでね…。
一人暮らしをしようと、業者手配してトラックに荷物を積んだ。
ここの業者はサービスが良くて、荷物も一緒に僕自身も新しい家に乗せて行ってくれるのだ。
よろしくお願いします、と言って助手席に乗る。ガチャと助手席のドアの鍵がかかる。
帽子を目深に被った運転手さんは言った。
「ひさしぶり」
ドクンと心臓が跳ねた。この声…。
トラックは走り出した。もう止まれない、降りれない。
運転席の方は見れなかった。
「なあ、久しぶり。忘れちゃった?俺のこと」
忘れる訳がない。この声。
「俺は君と話すの、楽しみにしてた」
「……」
「何でLINEブロックした?歌っても芝居しても、瑞希から連絡来なきゃ意味なかったよ。君が『楽しかった』『今回の歌、良かった』『特別です』って言ってくれるから俺は頑張れてた。
なのにふいに切られて、俺はここ半年生きた気持ちがしなかった。
俺は…俺はもう、君の言葉がなければ生きられないんだ!」
「…このトラック、どこに行くの…」
「俺ん家。2度と離さないから」
ふいに合ったふたりの視線。
少し涙ぐんだ瞳は、初めてファンレター渡したあの日と同じ。
end
当時本当の本当に駆け出しのアイドルグループに過ぎなかったrips。雪弥くんはそのメンバーの1人だった。
だけど雪弥くんはメンバーの中でも一際異彩を放っていた。ホリの深いハンサムな顔立ちで、一番背が高くて、白い肌は名前の通り雪を連想させた。
存在感が凄くて、僕は一気に引き込まれた。
とはいえ駆け出しアイドル。見物客はまばらだった。
ステージを終えた彼らの握手会に参加する人もほぼいない。アイドルでさえ、駆け出しってこんなもんなのか。
心なししょんぼりする様に見える彼らの前に、僕は勇気を振り絞って立った。
「…あ、あの。素晴らしかったです、本当に。きっと皆さん、いつかトップアイドルになる気がします。応援してます」
そう絞り出した僕。雪弥くんが握手してくれた。
「…ありがとうございます、そう言ってもらえると僕らも勇気が出ます!」
ニコと笑った雪弥くん。
眩しくて、ドキドキして、僕はその瞬間いっぺんで恋に落ちた。
『いつまで普通だった?』
イベントが解散しても、僕は頭の中が雪弥くん一色だった。素敵な声だったなあ。
僕みたいな平凡な人間からすると別種族にしか見えない感じの、あの存在感。
多分同じクラスだったら喋ってももらえないだろうこの隠キャ。しかし相手がアイドルだと握手して頂けるという身に余る光栄。
ああ…幸せ…
彼らをもっと応援したい。
僕はふと思い立ち、ファンレターを書くことにした。
どれどれと調べてみると、彼らはまた2週間後に同じこのショッピングモールにイベントをしに来るとあったので、次回ファンレターを渡すぞと心に決めた。
僕はありったけの想いを込めてファンレターを書いた。
どんなに雪弥くんの歌やダンスが素晴らしいかったか。あそこまで上手くなるのにきっと沢山練習しただろうこと、その努力が素晴らしいこと。人を楽しませるために一生懸命努力できることが、どんなに尊いことか。
僕は特別アイドルを推したことはなかったが、雪弥くんは本当に特別なんだってこと。
2週間後、僕は再びやってきた雪弥くんにファンレターを渡した。
「ファンレターなんて、人生で初めて貰いました!ありがとうございます、嬉しいです」
ほんのり目の淵が赤い。感動屋さんなのかな。
でも喜んでもらえて僕もすっごく嬉しかった!
数日後になんと雪弥くん本人からお返事も貰って、僕は天にも昇る気持ちだった。
『ファンレターありがとう、その気持ちで頑張れます』って。
いやそんな、僕なんかの言葉でやる気出してくれるなんて、そんな畏れ多かった。
でも好きな人の役に立てるのは嬉しい、とっても!
それからメキメキと売れていったrips。
僕は雪弥くんにファンレターを毎月何通も送り続けた。きっと僕以外にもファンは大勢いるだろうけれど、それでも僕の手紙を喜んでくれた雪弥くのあの顔が忘れられなかったのだ。
最初の方こそお返事をくれた雪弥くんも、じきに返事はくれなくなった。そりゃそう。忙しいのだ。ちょっと寂しくはあるものの、別に仕方ないと思ってる。
テレビでもファンレターは極力全部読んでるって言ってたし!僕のファンレターが目に止まるならそれは嬉しいし。
そんな思いで僕のファンレター制作は僕のルーチンと化し、やがて僕は高校3年生となった。
ドームもツアーもやったrips。知らない人はほぼいないアイドルグループへと成長した。
好きな人が売れるの嬉しい。
だけどある日…。
教室のスマホで熱心に雪弥くんの動画やらを見ていると。ふと後ろから携帯を覗き込まれた。
「わ、男の癖に男のアイドルのファンとか、きっしょ」
…!!!
振り向けなかった。
「雪弥くんかわいそ~可愛い女の子に好かれたいでしょ普通」
やいのやいの言いながら遠ざかっていく男女数人のグループ。
かわいそう、か…。
***
クラスメイトに言われたことが妙に気になって、それから僕は雪弥くんにファンレターが書けなくなってしまった。
どんなに心尽くして書いても、僕はキショいのかもしれない。雪弥くんもウワッて思ってるのかもしれない。でもアイドルはそんな発言、思っててもしちゃいけないから、笑顔の下で我慢させていたのかもしれない。
そう思うと胸が張り裂けそうだったのだ。
…雪弥くんに手紙を送るのはもう辞めよう。そう思ってレターセットは全て捨ててしまった。
それから3ヶ月程経った頃。
雪弥くん達のグループが久しぶりに地元のショッピングモールに御礼イベントしに来て、えらい大騒ぎになった。人垣に囲まれて雪弥くん見えないし。たぶんあの渦の中心にいるんだろうなあ…とは思った。
しかし愛されてるんだなあ。雪弥くんは。
ホッコリしつつも、人垣の後ろから何とかイベントを拝見する。
雪弥くんと目が合って手を振ってくれた気がする、というのは単なるファン心理だとよく心得ていた。
イベント終了時刻を迎え、帰ろうとした時。
僕は廊下歩いてて突然誰かに腕を捕まれ、スタッフ用の廊下に連れ込まれた。一瞬だった。
「…雪弥くん…」
僕の腕を力強く握ったままの彼。2人きりの廊下。
久しぶりの雪弥くんは、初めて会った時よりも背が伸びて男らしい精悍さを漂わせていた。
そっぽ向いたまま、彼は言った。
「…何で最近ファンレターくれないんです…?」
「え…」
大量に貰ってるだろうファンレター。僕のものがないことに気づくなんて、なんてすごいんだ雪弥くん。
テレビでファンレター楽しみにしてるって言ってたもんね。全部読んでるってのは本当だったのか。
でも、な…
「えっとその、ごめん。受験勉強で時間がなくて…」
「…ふーん…大変なんだ?」
「う、うん、そうそう」
勉強がやばいのは事実だった。
「そっか…やっぱ手紙書くって時間かかるもんな、そっか、やっぱそうだよな。…良かった」
やっとこっち見てくれて、力抜けた笑顔を見せてくれた雪弥くん。
え、でも良かったって何?
「じゃあさ、LINE教えてよ。LINEならすぐちょこっと送れるだろ。ここ良かったとか、見たよ、でも何でも。携帯出して?」
むず痒いような笑顔になった雪弥くんの笑顔にやられて僕は携帯を差し出しそうになったけど、僕はすんでのところで止めた。
「どしたの…?」
訝しげな雪弥くん。
「えっとアイドルって個人の連絡先とか交換して良いんだっけ…?事務所の人に怒られない??」
グッと詰まった雪弥くんはしどろもどりになりながら言った。
「じっ地元民は良いんだよ!!良いからLINE、待ってるから!絶対ね!」
怒鳴り声で雪弥くんは居場所がバレ、廊下には人がなだれ込んできて、あっという間に遠ざかった僕ら…!
***
まあそんな訳で雪弥くんとLINEのフレンドになってしまったのだが。
好きな人とこうしてお近づきになれるなんて、夢?天にも昇れそう。あっいま昇ってるのかな…?
ホワホワした気持ちのまま、しかし半信半疑で手元のスマホを見つめていた。
連絡して来いとは言ってたけど、『やっぴー、今何してる?』とかそういうの求めてる訳じゃないだろうし…。
あっそうそう、雪弥くんの出演に関してファンレター代わりにLINEすれば良いんだよね?
思い切って僕はLINEをお送りしてみた。
『雪弥くん、今日もお疲れ様!今日の歌謡祭も良かったよお』
って送ったら0.5秒で既読になってビクついた。
『マジで?ありがとう。どのあたりが良かったとか、ある?』
これまたものの数秒で返信が来た。あっやっぱりトップアイドルでも視聴者から見たらどうなのか、気になるんだなあ。なんて熱心なんだ。
『えっと、キレのあるダンスと声量ある歌声、全部!カメラに向かってファンサしてくるとこも良かった!視聴者を楽しませようってしてくれるのが伝わって、さすが雪弥くんって感じ!すごく素敵だったよ!』
しかし送ってしばらく返信来なくて、うわウザかったのかなと猛省していたら。結局1時間半後くらいに返信が来た。
『了解』
ええ~!?了解、それだけ!?
やっぱ調子に乗って長いの送っちゃったから!?どうしよう、今度からメッセージは短めにしよ・・。
と思ったのだけれども。
それから雪弥くんからしょっちゅうLINEが来た。
雪弥くんがテレビ出た時とか、アイドルグループが新しくアルバム出した時とか。
『どうだった?』
っていつも来る。
僕が何か送るよりも早く。
それに対して『今回も素敵だった!』とか無難な返事を返すと、『どういうとこが?』って絶対来る。
それに対して短めに返信すると、『もっと話したい』って来るから、長めのメッセージ送ると2時間くらい返信が来ない。
そしてやっぱり『了解』って来るのだ。
喜ばれているのか迷惑がられているのか、よく分からない僕のメッセージ。しかし送らないと雪弥くんは許してくれない。
狐に包まれた様な気持ちだったけれど、僕は雪弥くんとやりとりを続けた。
僕は言い続けた。どんなに雪弥くんが特別に素敵な人か。
だけど日を追うごとに雪弥くんはちょっと変になってきた。
返信ちょっと返さないだけで、こんなLINEが来る。
『誰といんの』
『まさか他のアイドルグループのライブ行ってる?』
『今どこ』
『勉強中?邪魔してごめん』
『同じクラスだったらな』
なんて立て続けに。
あまりに頻繁にLINEが来るので僕もちょっと怖くなり、ある日の深夜にこんなメッセージを送った。
『雪弥くん、僕のこと気にし過ぎだよ。僕なんかただの一般人だよ。一意見に振り回されちゃだめだよ。
だからもう、やりとりするの辞めよ。
僕も勉強しなくちゃ』
即既読がついた。
それは深夜2時半だった。
つい非常識な時間に送っちゃった僕も僕なんだけど、この時間に送ったLINEが即読まれたのもちょっと執着心を感じて怖くなり、僕は雪弥くんをブロックした。
こうして僕と憧れの人は終わった。
それから日がたち、僕は大学受験に無事に合格した。推し活から離れて随分経っていた。
久しぶりに開いたらツイッターで、雪弥くんは体調不良でしばらく芸能活動休止するとあって、僕は心配した。
やっぱり。ちょっといっ時ヤバかったもんね、雪弥くん。どうかゆっくり休んでね…。
一人暮らしをしようと、業者手配してトラックに荷物を積んだ。
ここの業者はサービスが良くて、荷物も一緒に僕自身も新しい家に乗せて行ってくれるのだ。
よろしくお願いします、と言って助手席に乗る。ガチャと助手席のドアの鍵がかかる。
帽子を目深に被った運転手さんは言った。
「ひさしぶり」
ドクンと心臓が跳ねた。この声…。
トラックは走り出した。もう止まれない、降りれない。
運転席の方は見れなかった。
「なあ、久しぶり。忘れちゃった?俺のこと」
忘れる訳がない。この声。
「俺は君と話すの、楽しみにしてた」
「……」
「何でLINEブロックした?歌っても芝居しても、瑞希から連絡来なきゃ意味なかったよ。君が『楽しかった』『今回の歌、良かった』『特別です』って言ってくれるから俺は頑張れてた。
なのにふいに切られて、俺はここ半年生きた気持ちがしなかった。
俺は…俺はもう、君の言葉がなければ生きられないんだ!」
「…このトラック、どこに行くの…」
「俺ん家。2度と離さないから」
ふいに合ったふたりの視線。
少し涙ぐんだ瞳は、初めてファンレター渡したあの日と同じ。
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