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【doll#13】亮と離ればなれになる日が来るなんて

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あの後どうやって家に帰ってきたのか覚えていない。

冬迫る夕暮れ。あたりの暗くなった部屋で亮とのベッドに潜りこむ。震えた。心底怯えていた。

亮・・。
馴染みの匂いが、安堵とそれを失う恐怖心の両方を掻き立てた。ギュッと瞳を閉じる。

亮がどこか遠くにいってしまう気がしたー・・。

 

 

「・・あお?」

遠慮がちに布団を捲られて、眩しい光に目を背けた。いつの間にか眠ってしまったらしかった。

「ごめんな遅くなって。おでん買ってきたよ、食う?外寒くてさあ」
「ん、うん・・」

大きくてあったかい亮の手が僕の手を引いた。灯りのついた共に暮らす小さな部屋。生活感のある、その蛍光灯の青白い光。

 

亮がここにいる。そのリアルさが感じられてすごく安堵した。

 

 

亮はこうやってずっと側にいてくれる。

そう思っていた、この時までは・・

 

 

 

『揺らぎ』

 

 

「いや翼が俺を寝取るって何のギャグなんだよ。それだけはありえねんだわ」

一緒にこたつに入っておでんをつつきながら、心底嫌そうに顔を顰めた亮。

でも内心不安だった。絶対ないなんて、言い切れないじゃないか。

「それで、さ・・」
「おお」

言うかめちゃくちゃ迷って・・打ち明けた。

「・・・・・翼にちゅってされた・・」

「はあ!!!!!??」

「僕もよく分かんないんだけど!
・・その・・僕のこと変な意味で気に入ってるみたいに言われて。抱きたいとか・・。壊れたら僕が愛してあげるとか言われて・・意味不明だよね」

「はあ!?アイツ許せへん!!!!!」

そう言ってダアン!!と割ばしを机に叩きつけブチギレた。もともと三白眼ぎみの瞳をギリギリとさせている。

「あ、いや・・からかわれただけだと思うんだけどさ!」

「んな訳ない!!
よく分かった。アイツ、お前を本気で狙ってるよ。もちろん変な意味でな。んで壊した上でお前を手元に置いて、愛でたいんだろ。それこそお人形みたいにな・・」

「・・!!」

心の底からゾワついた。リアルに身体がブルブルッと震えた。

「キモすぎるが、それがサイコ野郎なりの人の愛し方なんだろ。お前、エライ奴に気に入られたもんだな」

「りょ、亮・・ッ!!」

亮に抱きついた。強く抱きしめてくれた。こんなん、1人じゃ対峙出来なかった。

「大丈夫だ、あお。俺が何とかしてやるから。安心してろ」

そういって僕にそっと唇を重ねた。

 

 

 

深夜。パソコンの前に座ってじっと何か作業をしている亮。

「寝ないの?」

「ああ、ちょっと調べ物があってな・・あおは先寝てな」

カタカタとキーを叩く音が、ずっと聞こえていた。

 

僕はどうしても眠れず、寝がりをうってはまた反対にうって、それでも眠れずもんもんと過ごした。

明け方、亮はベッドに潜り込んできた。足がひんやりと冷たかった。

「・・んう、亮、終わった?おつかれさま・・」

「起こしちゃった?いや、眠れなかったか?ごめんな。
でも翼を今度こそお前から追い払う方法、何とか考えついたよ。だから安心して寝なあ」

そういってギュウッと僕を抱きしめた。彼のひんやりと冷えた身体はつめたいはずなのに、あったかかった。

僕はたまらずその唇にチュッとした。

亮がいれば大丈夫なんだ・・。睡魔はその後急に訪れた。

 

 

翌朝。向かい合って朝食を食べながら亮は言った。

「でさ、明け方の話、覚えてるか?」

「うん」

「方法は詳しくはお前にも言えないんだ。言うと効果半減どころか失敗するんだ」

「え・・」

「でもとにかく何があっても俺を信じて欲しい。あお、絶対だぞ」

「う、うん」

コクコクと頷いた。でも・・

「・・概要だけでも教えてくれない?」

「それも言えない。すまない」

切長な瞳がぼくを見つめる。分かってくれと言っていた。

「そっか・・。わかった」

「俺がお前を裏切ることは絶対ない。あり得ない。誓う。不安になるかもしれないが、俺を信じて待っていて欲しい。お前は俺が守るから」

 

そう言った亮を、僕は随分頼もしく感じたものだった。

用事があると先に家を出る亮を玄関先で見送る。家を出る間際、亮は僕を壁に押し付けて長いこと唇を貪った。そしてさっさと行ってしまった。

これが試練の始まりと僕は知らなかった。

 

その日の晩、亮は家に帰って来なかった。どこで何をしているのかも分からない。連絡もない。

今までこんなことはなかった。やっぱり翼がらみでもう何かしてるの?それとも何か事件にでも・・?

 

でも信じて待つって約束したんだ。大丈夫だ、亮は絶対に裏切らない。

そう頭では分かってるはずなのに、既に一抹の不安が胸に押し寄せていた。

大丈夫だよね・・?大丈夫さ、亮ならきっと。

またも悶々と眠れない夜。ベッドで1人でいられなくて、なんとなしに亮のゲーミングデスクに行ってみた。

やけに背もたれの高い専用の椅子に座ってみる。亮のプレイを見てるのが好きだったな。

 

机のカレンダーをなんとなしに見たら、来週の僕の誕生日と、そのさらに翌週のゲームの大会の日にバツがついていた。

僕の誕生日は・・いないってこと?
ゲームの大会がバツって、もしかして僕のせいで・・?

亮・・。もう君と話したいこと沢山あるよ。早く帰ってきて・・。

 

 

その翌日も、そのさらに翌日も、亮は家に帰って来なかった。家主のいない家で、居候の僕はひとり過ごす。亮は大学にもぱったり来なくなった。

もちろん信じてる。ずっと亮を待つつもりだった。だけど1人きりで過ごす亮の家は、すごく広くて・・

 

我慢できなくて『会いたい』と打ったLINE。返信はなかった。

 

どこで何をしてるの亮・・。

 

そこから数日が経ち、僕の誕生日当日を迎えた。もちろん亮から何もメッセージは来ていない。

 

相当がっかりしながら大学を歩いていたら。

「!!!」

翼と並んで歩く亮を構内で見つけて咄嗟に隠れた。授業に亮は来てなかったのに。

心臓がどきどき、ばくばくと波打つ。

 

物陰からこっそりと見送る2人は随分親しげだった。翼がすごく馴れ馴れしくて。

 

亮の作戦がうまいこと進んでるってこと?

信じて良いんだよね?亮・・

 

その日はダメ元で深夜24時まで家で待った。でも電話もメッセージも、絵文字一個だって来なかった。

忘れちゃったの?

それとも『翼、案外良いじゃん』なんて思い始めてるの?

 

亮・・信じて良いんだよ、ね・・?

 

 

続く
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