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【doll#10】知らなかった裏切り
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※葵視点です。亮の家を出た後からのお話です。
亮と集めた証拠を持って、玲司との家に向かう。その足取りは重い。
秋風に吹かれながら、とぼとぼと歩いた。
・・玲司と本当にやり直して良いのかな?
僕よりも真っ先に翼を信じ、そして僕がどんなに困っていても結局なにも助けてはくれなかった人と・・?
ずっと側にいてくれたのは亮だったのに?
頭の中ではここ最近、ずっと同じことをグルグルと考えていた。
冷静に考えたらもう別れるべきだという自分と、玲司が変わってくれる方に賭けてみたいと願う自分、両方がいた。
その秤はすでに別れる方向に大分傾いていたけれど。でも・・。
ガサ、とぶ厚い落ち葉の山に足を踏み入れる音にハッとした。
迷っているうちに、玲司のマンション下に着いてしまった様だった。
僕ら、これからどうなるんだろう。
玲司・・。
祈るような気持ちで、僕はエレベーターのボタンを押した。
『さよならは随分前から』
「久しぶり、葵」
そう僕を迎え入れた玲司はいつもの通り香水のいい匂いがしたけど、その表情は硬く少し他人行儀だった。
おかえり!と昔みたいに僕を抱きしめることもない。ツキンと胸が痛んだ。
離れて住んでいたのはほんの少しの間だったけれど、僕らの間には明白な亀裂が走っている。そう実感させられた。
ただの友達の家に遊びに来たみたいな、そんな違和感を感じながらも僕らはリビングへ向かった。
そして前置きは省いて、僕は話し出した。
「あのね、まずは翼のことでちょっと聞いて欲しいものがあるんだ」
「何・・?」
僕は例の録音を流し始めた。
「亮と翼の会話。訳あって録音してるんだ、悪いけど。でもまずは全部聞いて欲しい」
最初は眉根を寄せていた玲司だったが、録音が進むにそれは険しい表情へと変わった。
僕が翼を影で追い詰めてるってところでは、信じられないものを見る目で僕を振り返った。
「お前っ…なんてこと…!?」
「してないよ!!!」
あまりに必死に言ったんで、つい声が裏返ってしまった。
と同時にすごく落胆していた。
やっぱりいつでも翼の言うことが正しいんだ玲司の中では。僕なんかよりも。
この件はあとで話すからとだけ伝えて、録音を流すのを続けた。
納得いかなさそうな玲司の横顔。
心がずきずきと痛んで、ひび割れていった。
『玲司は恋愛対象じゃない』ってとこでは玲司は心底がっかりして、『亮みたいなタイプが好き』ってところで唖然としていた。
それは恋に敗れた人間の顔そのものだった。
そんなに好きだったんだね、翼のこと。僕よりもずっとずっと。
翼に入れ込んでるのは知っていたけど、ここまでだったなんて、なぁ・・。
情けなくて手が震えて、涙が出そうになるのをグッと堪えた。玲司の前で泣きたくなかった。
そして僕が彼女持ちの先輩にちょっかい出してるってところでは、玲司は審問する様な瞳で『・・そうなのか?』とだけ一言。
そんな訳ないでしょ!と一蹴し、これも後で話すからと伝えた。
『葵がそんなことする訳ないよな』ってまず言ってくれたらどんなに救われただろう。
亮みたいに、僕をひたむきに信じてくれたら・・。
でも違った。玲司は、違うんだ。
そして録音の最後で、『今度ゆっくり2人っきりになれるとこ行こう』と翼が亮をお誘いしてるところで、またも玲司がショックを受けていたのがダメ押し。
そうだよねショックだよね。きっと玲司がそんなお誘い、されてみたかったんだよね。
僕は玲司への恋心が粉々に壊れていくのを感じていた。さよなら、さよなら、もう戻れない。
「・・・」
録音が終わり、無音の室内で何も言えない僕らがいた。
僕の中ではもうこの結論は出ていた。
玲司の一連の反応を見て、僕にとって本当の恋人はやっぱり玲司じゃないんだと悟った。
今まで必死に目を背けてきたけど、認めてみればストンと腹に落ちた結論だった。
このまま帰ってもよかったけど、自分が悪者だという誤解だけは解いておきたかった。
だから僕が翼の家に行ってまで追い詰めてるとか、彼女持ちの先輩にちょっかい出してるっていう部分については、違うんだという証拠を順に見せていった。
あと過呼吸が嘘だったという指摘もした。
「・・ね、だからさ、僕、翼が言う様なことはやってないんだよ。
だから嘘ついてるのは翼。分かるよね?」
「・・ああ。でもそんな、嘘だろ、あの翼が・・・」
頭を振って、タチの悪いホラー映画でも見ている様な素振りで。
翼という悪夢からそろそろ目を覚ました方が良いよ、玲司。
しばらくウンウン唸っていたけど、玲司はようやく言った。
「翼、そんな変な嘘つく奴だったんだな・・。葵、悪かった。お前のことを信じてやれなくて。
翼とはもう会わない様にする。俺たちの学校にももう来るなって、言っておくから。本当ごめんな、葵。もう迷わないから・・」
まっすぐ僕を見つめて、かつて大好きだった人はそう言った。
以前の僕だったら舞い上がってしまっただろう。でも今の僕には砂みたいにしか感じられない、無味乾燥な言葉・・。
「・・葵?」
「玲司・・やっと分かってくれたんだね。良かった。
だからさ、僕たち、もう別れよう」
「な、何でだよ!?」
「もう好きじゃないんだ、玲司のこと。家も出ていくから」
「翼のこと、怒ってんだよな?本当、悪かったよ、俺に見る目がなかった。お前にも迷惑かけた。本当にごめん!だから・・!」
必死な玲司。こんな必死なの、告白された時以来だなあ・・。なんて他人ごとの様に考えていた。
「だって僕のこと、別にそもそもそんなに好きじゃなかったでしょ?・・翼の代わりでさ!僕知ってるよ!」
「・・!違うんだ葵・・!」
もう話は終わりとばかりに立ち上がった。
でも玲司が離してくれなくて。
あまりに必死になって引き止めてくるもんだから、内心どうしよう話聞くべき?なんて血迷ってしまったんだけど。
その時ピロン!とLINEのメッセージ受信の音が玲司の携帯から聞こえた。僕のポケットの携帯も震えた。
2人同時に、何だろう?
携帯を見た玲司。その顔は凍りつき・・
「葵、見るな!」
なんて僕の携帯を取り上げようとするから、すんでのところで奪い返した。
送り主は翼。僕ら3人のグループラインに写真が・・
「・・・!!」
開いてその画像を見た途端、僕は玲司の手を振り解いた。こんな風に裏切られてたなんて!
「酷いよ!玲司なんか大っ嫌いだ!もう二度と会わない!」
そう言って家を飛び出した。
おい待てよ!という玲司の声は聞こえないふりして僕は全速力で走り出した。
走って逃げて逃げて逃げて、そして僕にとっては最後の砦とも言える親友の家にまっすぐ行った。
あいにくの留守。携帯も繋がらない。
今日帰ってくるのかもわからない亮を、玄関先で待った。どうしても亮に会いたかったのだ。
ぽろりと涙が頬を伝うのを、僕は止めなかった。
時計の針が12時を過ぎて、それからしばらく経った頃。亮は帰ってきた。
その顔を見てすごくホッとした。・・と同時にその横顔にどきりとした自分もいた。
深夜に突然現れた僕を、亮は拒絶しなかった。また随分心配させてしまったけれど。
「何があったんだよ、お前・・」
リビングのソファに並んで座る。
心配そうに眉根を寄せる親友に、僕は事の顛末を話し出した。
「・・という訳でさ、最後の最後で玲司の裏切りの写真が出てきたの、翼から。本当タイミング良すぎ。
ずっと前から僕ら本当は終わってたんだよね。僕が知らなかっただけで・・だから別れてきたんだ」
そう敢えてボカして話を終えようとした僕を、亮はゆるさなかった。
「裏切りの写真って何だよ?」
「・・言いたくない」
「俺には教えろよ」
「・・・」
その男前な風貌をじっと見上げた。
切長な瞳と目が合って…心臓がドキンと波打った。
だかや僕は亮のパーカーをぐいと引っ張ると、唇を重ねてソファに押し倒した。
「!」
「こういうことしてる写真だよ」
亮の手のひらを頬に当てて聞く。
「僕のこと嫌いになった・・?」
瞳を見開いて驚いた亮。
ごめんね亮、僕はいつも親友の君に甘えてばかりいる。
続く
亮と集めた証拠を持って、玲司との家に向かう。その足取りは重い。
秋風に吹かれながら、とぼとぼと歩いた。
・・玲司と本当にやり直して良いのかな?
僕よりも真っ先に翼を信じ、そして僕がどんなに困っていても結局なにも助けてはくれなかった人と・・?
ずっと側にいてくれたのは亮だったのに?
頭の中ではここ最近、ずっと同じことをグルグルと考えていた。
冷静に考えたらもう別れるべきだという自分と、玲司が変わってくれる方に賭けてみたいと願う自分、両方がいた。
その秤はすでに別れる方向に大分傾いていたけれど。でも・・。
ガサ、とぶ厚い落ち葉の山に足を踏み入れる音にハッとした。
迷っているうちに、玲司のマンション下に着いてしまった様だった。
僕ら、これからどうなるんだろう。
玲司・・。
祈るような気持ちで、僕はエレベーターのボタンを押した。
『さよならは随分前から』
「久しぶり、葵」
そう僕を迎え入れた玲司はいつもの通り香水のいい匂いがしたけど、その表情は硬く少し他人行儀だった。
おかえり!と昔みたいに僕を抱きしめることもない。ツキンと胸が痛んだ。
離れて住んでいたのはほんの少しの間だったけれど、僕らの間には明白な亀裂が走っている。そう実感させられた。
ただの友達の家に遊びに来たみたいな、そんな違和感を感じながらも僕らはリビングへ向かった。
そして前置きは省いて、僕は話し出した。
「あのね、まずは翼のことでちょっと聞いて欲しいものがあるんだ」
「何・・?」
僕は例の録音を流し始めた。
「亮と翼の会話。訳あって録音してるんだ、悪いけど。でもまずは全部聞いて欲しい」
最初は眉根を寄せていた玲司だったが、録音が進むにそれは険しい表情へと変わった。
僕が翼を影で追い詰めてるってところでは、信じられないものを見る目で僕を振り返った。
「お前っ…なんてこと…!?」
「してないよ!!!」
あまりに必死に言ったんで、つい声が裏返ってしまった。
と同時にすごく落胆していた。
やっぱりいつでも翼の言うことが正しいんだ玲司の中では。僕なんかよりも。
この件はあとで話すからとだけ伝えて、録音を流すのを続けた。
納得いかなさそうな玲司の横顔。
心がずきずきと痛んで、ひび割れていった。
『玲司は恋愛対象じゃない』ってとこでは玲司は心底がっかりして、『亮みたいなタイプが好き』ってところで唖然としていた。
それは恋に敗れた人間の顔そのものだった。
そんなに好きだったんだね、翼のこと。僕よりもずっとずっと。
翼に入れ込んでるのは知っていたけど、ここまでだったなんて、なぁ・・。
情けなくて手が震えて、涙が出そうになるのをグッと堪えた。玲司の前で泣きたくなかった。
そして僕が彼女持ちの先輩にちょっかい出してるってところでは、玲司は審問する様な瞳で『・・そうなのか?』とだけ一言。
そんな訳ないでしょ!と一蹴し、これも後で話すからと伝えた。
『葵がそんなことする訳ないよな』ってまず言ってくれたらどんなに救われただろう。
亮みたいに、僕をひたむきに信じてくれたら・・。
でも違った。玲司は、違うんだ。
そして録音の最後で、『今度ゆっくり2人っきりになれるとこ行こう』と翼が亮をお誘いしてるところで、またも玲司がショックを受けていたのがダメ押し。
そうだよねショックだよね。きっと玲司がそんなお誘い、されてみたかったんだよね。
僕は玲司への恋心が粉々に壊れていくのを感じていた。さよなら、さよなら、もう戻れない。
「・・・」
録音が終わり、無音の室内で何も言えない僕らがいた。
僕の中ではもうこの結論は出ていた。
玲司の一連の反応を見て、僕にとって本当の恋人はやっぱり玲司じゃないんだと悟った。
今まで必死に目を背けてきたけど、認めてみればストンと腹に落ちた結論だった。
このまま帰ってもよかったけど、自分が悪者だという誤解だけは解いておきたかった。
だから僕が翼の家に行ってまで追い詰めてるとか、彼女持ちの先輩にちょっかい出してるっていう部分については、違うんだという証拠を順に見せていった。
あと過呼吸が嘘だったという指摘もした。
「・・ね、だからさ、僕、翼が言う様なことはやってないんだよ。
だから嘘ついてるのは翼。分かるよね?」
「・・ああ。でもそんな、嘘だろ、あの翼が・・・」
頭を振って、タチの悪いホラー映画でも見ている様な素振りで。
翼という悪夢からそろそろ目を覚ました方が良いよ、玲司。
しばらくウンウン唸っていたけど、玲司はようやく言った。
「翼、そんな変な嘘つく奴だったんだな・・。葵、悪かった。お前のことを信じてやれなくて。
翼とはもう会わない様にする。俺たちの学校にももう来るなって、言っておくから。本当ごめんな、葵。もう迷わないから・・」
まっすぐ僕を見つめて、かつて大好きだった人はそう言った。
以前の僕だったら舞い上がってしまっただろう。でも今の僕には砂みたいにしか感じられない、無味乾燥な言葉・・。
「・・葵?」
「玲司・・やっと分かってくれたんだね。良かった。
だからさ、僕たち、もう別れよう」
「な、何でだよ!?」
「もう好きじゃないんだ、玲司のこと。家も出ていくから」
「翼のこと、怒ってんだよな?本当、悪かったよ、俺に見る目がなかった。お前にも迷惑かけた。本当にごめん!だから・・!」
必死な玲司。こんな必死なの、告白された時以来だなあ・・。なんて他人ごとの様に考えていた。
「だって僕のこと、別にそもそもそんなに好きじゃなかったでしょ?・・翼の代わりでさ!僕知ってるよ!」
「・・!違うんだ葵・・!」
もう話は終わりとばかりに立ち上がった。
でも玲司が離してくれなくて。
あまりに必死になって引き止めてくるもんだから、内心どうしよう話聞くべき?なんて血迷ってしまったんだけど。
その時ピロン!とLINEのメッセージ受信の音が玲司の携帯から聞こえた。僕のポケットの携帯も震えた。
2人同時に、何だろう?
携帯を見た玲司。その顔は凍りつき・・
「葵、見るな!」
なんて僕の携帯を取り上げようとするから、すんでのところで奪い返した。
送り主は翼。僕ら3人のグループラインに写真が・・
「・・・!!」
開いてその画像を見た途端、僕は玲司の手を振り解いた。こんな風に裏切られてたなんて!
「酷いよ!玲司なんか大っ嫌いだ!もう二度と会わない!」
そう言って家を飛び出した。
おい待てよ!という玲司の声は聞こえないふりして僕は全速力で走り出した。
走って逃げて逃げて逃げて、そして僕にとっては最後の砦とも言える親友の家にまっすぐ行った。
あいにくの留守。携帯も繋がらない。
今日帰ってくるのかもわからない亮を、玄関先で待った。どうしても亮に会いたかったのだ。
ぽろりと涙が頬を伝うのを、僕は止めなかった。
時計の針が12時を過ぎて、それからしばらく経った頃。亮は帰ってきた。
その顔を見てすごくホッとした。・・と同時にその横顔にどきりとした自分もいた。
深夜に突然現れた僕を、亮は拒絶しなかった。また随分心配させてしまったけれど。
「何があったんだよ、お前・・」
リビングのソファに並んで座る。
心配そうに眉根を寄せる親友に、僕は事の顛末を話し出した。
「・・という訳でさ、最後の最後で玲司の裏切りの写真が出てきたの、翼から。本当タイミング良すぎ。
ずっと前から僕ら本当は終わってたんだよね。僕が知らなかっただけで・・だから別れてきたんだ」
そう敢えてボカして話を終えようとした僕を、亮はゆるさなかった。
「裏切りの写真って何だよ?」
「・・言いたくない」
「俺には教えろよ」
「・・・」
その男前な風貌をじっと見上げた。
切長な瞳と目が合って…心臓がドキンと波打った。
だかや僕は亮のパーカーをぐいと引っ張ると、唇を重ねてソファに押し倒した。
「!」
「こういうことしてる写真だよ」
亮の手のひらを頬に当てて聞く。
「僕のこと嫌いになった・・?」
瞳を見開いて驚いた亮。
ごめんね亮、僕はいつも親友の君に甘えてばかりいる。
続く
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