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【doll#6】亮の取り分

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「・・同じベッドで寝るってこと?」

「ああ」

低い声。チラリと見上げたら、向こうからも見つめられてどきりとした。

「・・・」

見つめ合ったまま時計の秒針がカチカチと過ぎていく。2秒、3秒・・

どきんどきんと胸を打つ音が大きくなっていく。

居た堪れなくて『ごめん無理』のご、を言おうとした瞬間、亮がぷふと吹き出した。

「いや男2人で一緒に寝る訳ねえじゃん!狭いだろうが。真面目に困ってんじゃねえよ。ちゃんと突っ込めや」

亮はケラケラと笑った。
だ、だよねえとようやく僕も笑えた。

亮は西の方出身だからなのかたまにこうやってボケを挟んでくるのだが、時々、分からないことがある。

 

 

『報われたい男』

 

 

その日はもう大学には行かず、これからどうする?と亮と作戦会議を開くことになった。

スーパーで適当に食材を買って作った夕飯を一緒に突きつつ、その会議は始まった。

だし芳るじゃがいもの味噌汁をずず・・と啜りつつ、亮は言った。

「とりあえずさ、簡単に言うなら玲司と別れたら全部解決するぜ。
・・あぁ、久々の味噌汁うめ」

「!だからぁそ」

「それは嫌なんだろ!知ってまああす!!」

亮はキレ気味に僕に被せると、ほかほかのごはんをかっこんだ。

それはカッカッ!と箸が茶碗に当たる音が小気味良いほどだった。

そしてややもぐもぐしたまま続けた。

「とは言えだな、翼が嘘ついてるって周りに言うのは最大の悪手だよ。分かるな?

お前が超!イヤな奴ってことにされて終わるぜ。」

「うう・・ッ!」

あの取り囲まれた時の悪夢が蘇った。
美形すぎる人間って、周囲をあんなにも変えてしまうのか。

僕が内心ひっそり落ち込んだ。

だがその一方で。
亮はアツアツのネギと鶏肉の塩だれ炒めをふうふうと冷ましていた。パク!と大きくかぶりつくと、満足そうに瞳を閉じた。

「うめぇ」

「本当美味しそうに食べるねぇ」

「・・葵のだからな」

ふっと笑って亮は言うから少し和んだ。僕料理はちょっと得意だし。

 

食事を食べ終えると、お茶を啜りつつ亮は再度話し出した。

「まあそれはさておき。

俺はな、翼がボロを出すのを待つしかないと思うんよな」

「ボロ」

「そ。結局さ過呼吸も演技だったんだろ?玲司に恋愛感情ないんだろ?

全て葵をズタズタにするための演技。
であればどこからしらほころびが出るはずだ。

それを玲司と学校の奴ら・・まあ少なくとも玲司に見せれば、アイツも目が覚めるんじゃね」

「覚めるかな・・?」

「まあそれでも翼♡ってなるくらいだったらその時はのし付けて翼にプレゼントして差し上げたら良いんじゃねえの?

さすがにそんな玲司、葵も嫌だろ」

「うん・・」

さすがにそこまで盲目じゃないと信じたい。

 

「それでな・・考えたんだけど。
そのボロを引き出せるのは俺だと思うんだよ」

「え、何で?」

「俺はな、近い内に翼が俺に接触してくると読んでる。

どうせ俺に色目でも使いつつ、実は葵に意地悪されてるから相談乗って欲しいとか何とか言って。

俺はその話を聞いて、事実との食い違いを指摘すれば良い。そこがボロって訳だな。

その際の会話を録音しといて玲司に聞かせりゃ良いよ」

「な、なるほど・・。でも何で亮に近づいてくるって思うの?」

「それは俺がお前の親友だからだ」

僕は首を傾げた。

「親友の亮を翼側に取り込むなんて、難しい辞めよって普通ならない・・?」

「甘いな、葵は。

今の孤立した状況下で、親友の俺からも見放されたらどうだ?しかも俺が翼の味方になってんの。

マジで学校、辞めたくならないか?自分で言うなやって感じだけどさあ」

いつも変わらず僕の味方でいてくれた亮が、僕を見放す・・?心底ゾワッ‼︎とした。

「え、無理!学校辞めて実家戻るか、少なくとも休学はしちゃうかも」

「だろ?そこなんだよ。翼の狙いは」

「え・・」

「お前をとことん追い詰めるには、俺をお前から引き離すのが効果的なんだよ。

あのサイコパス翼は、そこまで考えてんじゃないかな」

「・・・」

怖過ぎて絶句した。でも確かに翼のあの感じだとやりかねなかった。

 

「そもそもな、翼にとって俺は盲点だったはずなんだよ。

俺は大学ほぼ行かないから、俺と葵に繋がりがあること自体知らなかっただろう。

で、今回。葵が家出して俺ん家に転がり込んだだろ。

それでようやく俺という親友の存在が認知されたという訳。

アイツからしたら、葵をフォローする俺は邪魔者だろ?だから早々に来るよ、俺んとこに」

「な、なるほど・・」

「でもさっきも言ったけど、その時がチャンスだ。俺がボロを掴んできてやるから、葵は安心しとけよ」

ニコと微笑んで亮は言った。

弱っている今、こうやって優しくされるとまた更に懐いてしまいそうだ。

 

「まっそんな訳でさ。大学には俺がしばらく一緒に通うよ。変なの沸いてきたら追い払うし」

どこまでも頼りになる親友だった。
でも・・

「ありがたいけど、でも大会近かったよね?ゲームの練習は大丈夫なの?」

「んー?まあそのぶん夜に練習するし。別に余裕だよ」

 

その時はさっすがあ!なんて言ってたのだが、亮は僕のために実は大会をひっそり辞退していたと後に知った。

 

 

その日の深夜。

暗闇の中でゲーミングPCに向かって激しくキーを叩く亮を、僕は寝床のソファから見つめていた。

よく分からないがゲームの画面の中で次々に敵キャラが倒れていく。上手いんだなあと感心した。

 

その手腕を見つつ、僕は亮とのさっきの会話を思い出していた。

ー・・お風呂上がったあたりで、玲司からは『了解』と返信が来た。

『いつまでそっちいんの』
『怒ってんの』

とかチラホラと様子伺いの様なメッセージも来たのだが。

でも亮は何も返信せずに放っておけと言った。

「葵、今どう思ってんだろう?何してんだろう?って玲司には悩ませた方が良いんだよ。

翼ばっかの頭ん中で、まずは葵を思い出させなきゃならんしな」

なんて言ってて・・。

 

亮に相談して良かったな。

玲司と別れたら?とかたまに言うけど、何だかんだで上手くいく様に一緒に作戦立ててくれる。
優しいんだよね。

 

プレイを見ていた亮は、ふいに別のゲームを立ち上げた。午前1時。プロゲーマーってこんな時間でもまだまだ練習するのか。すごいや。

でも僕はそろそろ眠い・・。

ヘッドホンしてゲームしてる亮の背中に
こっそり言った。

「玲司がいなければ好きになってたかも?なんてね。おやすみー!」

 

 

 

(葵・・そりゃないぜ。
玲司め、絶対倒してやる・・!)

キーを叩く手に力が篭る。

葵がひっそり泣きやしないかと心配で、実は音量を0にしていたヘッドホン。

届ける気のなかった言葉が、届いてはいけない相手にしっかり届いていたことを、葵は知らない。

 

亮のプレイヤーIDがaoだということも。

突っ込まれた時用に、青色が好きだからと言い訳するためだけに青いパーカーを普段着てることも。

葵は、知らない。

 

 

続く
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