【doll】僕らの記念日に本命と浮気なんてしないでよ

月夜の晩に

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【doll#5】世界一親友甲斐のある男

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「葵!!葵!!!」

「・・!」

はっと目を覚ますと、目の前に亮がいた。すごく不安そうな顔。

ゲホゲホと咳き込んだ。芝生に突っ伏していたせいで、土埃が喉に入った。

ほら水、と亮がペットボトル渡してくれて背中をさすってくれた。

「葵、お前何があったんだよ!」

んぐんぐと水を飲む。カラカラに乾いていた喉。貪る様に飲んだ。

1本飲み切ったところで、ぷはと口を離した。

すごく不安そうに見つめる亮と目があった。

「・・も、学校辞めよかな・・」

 

 

『砦』

 

 

屋根下のベンチに座り、僕は全てを話した。聞き終えると亮は、ハアッと深くため息を吐いた。

「・・・」

亮は信じてくれるだろうか・・。

沈黙が居た堪れなくて、スニーカーの先についた芝を靴先で弄った。

何か言ってよ、亮・・。

「葵、お前さあ・・」

 

ー『そんな嘘ついて恥ずかしくないの?翼が可哀想だろ?』ー

そんな声がどこかから聞こえた気がした。亮もそう思ってる・・!?

 

は、ハアと呼吸が再度荒くなる。

「僕は・・嘘なんて・・!」

 

「おい!?葵、どうした!?落ち着けって!」

ぐらりと上体の倒れた僕を、亮が抱きとめた。そのパーカーに縋りついた。

必死に訴えた。

「嘘なんか・・!ついてない・・」

「分かってるよ!お前はそんな変な嘘ついたりしないって!!」

まっすぐな瞳とぶつかった。

「ほんと・・?」

「ああ」

 

信じて良いんだね、良かった・・
そう思うと、呼吸はすうっと軽くなっていった。ふう、ふうと息を整えた。

「ごめんね、亮にも疑われちゃったのかと思ったんだ・・」

「逆にそんなに俺信用ないのがショックだよ」

それでさ、と亮は身体ごと僕に向き直って話し始めた。改まって、どうしたんだろう。

「・・さっきの続きなんだけど。
お前さ、もう玲司と別れたら?」

「え・・」

つい涙ぐんでしまった。そんな、玲司と別れるなんて、考えたくない。

「だって玲司、お前のこと全然大事にしてないじゃん!訳のわからないヤバい幼馴染とお前を引き合わせて、辛い目に合わせて。それで何の盾にもならないんだろアイツ!」

うう・・ッ!事実だけど改めて聞くと辛かった。そうなんだよね、僕の立場って・・

「だからさ、もう玲司なんか翼にくれてやれよ!」

「や、やだああああ!」

「やだじゃない!!!!」

らしくなく亮にキレられて、ビクゥと縮こまった。

「良いからよく聞けよ。翼はお前が潰れてくとこが見たいんだろう?
お前、自分がさっそく潰れかかってるの自覚してる?
さっき気を失って倒れてたんだぞ?これが街中の・・道路とかだったら、どうする気・・ッ!」

ぐすっと鼻を啜った亮。え、泣いてる・・!?

パーカーの袖でぐいと目元を拭うと亮は続けた。

 

「翼もさ、お前が玲司と別れたと思えば、玲司に興味なくすって。

逆に玲司の側にいればいるほど、あることないこと吹き込まれるぞ。玲司は翼ばっかり信じるからな。

それなら玲司とは距離置くのが結局一番良いんだよ。それに玲司と会わなきゃ翼にも会わないで済むんだ。

その方が良いだろ?」

「う、うん・・」

一理あるけどさあ・・。

「だからさ葵・・玲司との家出て俺と暮らさないか?一緒に対処法考えてやるから。俺ならお前のこと、全部信じるし」

まっすぐ見つめられて迂闊にもドキッとしてしまった。親友に対して、僕はなんてことを・・

「な?」

「・・・」

「良いだろ、葵・・?」

確かに、翼には一生会いたくないし。
玲司と離れることで状況がマシになるなら、その方が良いのかな・・

「分かったよ」

「本当か!?」

ぴょんて跳ねるみたいに亮が言うのが、なんか可笑しかった。

大学生プロゲーマーで、大会で勝って賞金もらっても無反応な亮が。

・・一人暮らしが寂しかったのかな?

なんてその時は思ってたんだけど、全然僕の見立てが見当違いだったと後に気付かされることになる。

 

 

善は急げと言わんばかりに、僕はその日のうちに亮の家に転がり込むことになった。

玲司が大学の授業でいないうちに、必要な荷物だけサクッとまとめた。

二人でここに住み始めた時の感傷が蘇る。家具も食器も一緒に選んだんだよね・・あの日あの時の、僕と玲司の楽しくて幸せな様子が浮かんだ。

本当は出て行きたくないけれど。
でもきっと、すぐ戻って来れるよね・・信じてるよ玲司・・。

バタン、と閉じた玄関の扉が『もう二度と来るな』と言っている様に感じたのは気のせいだ、絶対。

 

 

後手になっちゃったけど、玲司には亮の家についてからLINEを入れた。

 

文面にめちゃくちゃ気を使い、震える手で送信した。

『少し距離を置きたくなりました。

しばらく亮の家にいます。

またね。葵』

重くない?やばくない?これで『あっそじゃあ別れよう』とかないよね・・?

送信ボタンを押した僕に、亮は不服そうに言った。

「文面が生ぬるいんだよ。もっとこう地獄の底にいるかのような文面をだな・・」

「こわいよそれ」

「・・あーっ!てか『またね』やっぱ入れてんじゃん!消せって言ったのに。なんでお前が歩み寄ってんだよ。

『もう一度会わせてください葵さま』って言うべきなのは玲司の方だろ。

こういう細かい文面から交渉は既に始まってんだよまったく・・」

ブツブツとボヤき、機嫌が悪い亮。

「まあまあ・・」

あははと苦笑いしたけど、内心すごく感謝していた。だから。

「世界一親友甲斐あるよね、亮は。本当ありがとね」

「・・ああ」

そっぽ向いて、亮はそれだけ言った。

 

何はともあれ。ひと仕事終わってふうと息をついた。ソファに頭をもたれさせた。

見渡した亮の家は、モノトーンカラーのシックな部屋だった。

男の一人暮らしにしては片付いてる。

ゲーミングチェアだのデスクだのがドーン!ってある以外は大体何もない。散らかってるのは嫌いだそうだ。

 

「あ、そういえばさ、葵。寝るとこなんだけど・・」

おっこれはもちろん心得ている。

「もちろん僕ソファで寝るよ!床でも良いし!」

 

 

「俺のとなり、は・・?」

「え・・」

 

 

続く
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