【doll】僕らの記念日に本命と浮気なんてしないでよ

月夜の晩に

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【doll#3】翼の侵食

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それから悶々と眠れない晩を何度も過ごした。呑気に隣で眠る玲司に、心の中で
毒づきながら・・。

どうしようどうしようとグルグル考えるものの、何も良いアイディアは浮かばず。

前日、やっと気づいて僕は慌てて新しい洋服を買い替えた。翼とお揃いみたいな服着て、地獄になるとこだった。
結局僕がやれたのはそれだけで。

当日。うちの大学の最寄駅に現れたのは、天使の様な美青年だった。いや降り立ったというべきか。

「初めまして翼です。今日は僕のためにありがとう。君のことはよく聞いてるよ葵くん。噂どおり素敵な人だね」

ニコと笑って言った。なんて美しい歯並びだ。

でもあおいなんて、気安く僕の名前を呼ぶな!

 

そしてコレ二人で食べてねと何だか高そうな洋菓子店の袋を渡された。

容姿端麗で、気が利いて、要は僕の上位互換の翼。

 

玲司が盗られるまで、あとどれくらいだろう?

 

 

『本当の顔』

 

 

大学に連れてったら、友達が何人も集まってきた。こんな美形が大学に突然来たら、そりゃそうだろう。

玲司が得意げに翼を紹介した。

「翼って言うんだよ。俺の幼馴染で、今は別の大学なんだけど、今日はウチに遊びに来たんだ。皆仲良くしてよ!」

どう?俺の幼馴染ってすごいでしょ?って言わんばかりだ。

・・良いな、僕もあんな風に玲司に自慢してもらえる人生でありたかった。

ただただ愛想笑いで時間が過ぎるのを待つ。地獄すぎる。一刻も早く夕方になって解散したかった。

 

翼はひたすら美形で、相手を立ててしおらしくて。でも会話してるとたま~に面白いツッコミ入れるから、楽しい。

・・大勢の人間にとっての、理想の恋人って感じ。

何か男も女も翼の前ではやたら笑顔っていうか、デレデレに溶けた顔の男もいるし。

きっと高校の時もこうだったんだろう。
・・玲司もその1人だったのかな。

胸がズキンと痛んだ。

だってそうだろ?
一度は諦めた理想の人が、今一人身となって玲司を頼ってくれている。これがチャンスでなくて何だというのか。

僕は時間潰しに、学食の安くて美味しくないホットコーヒーをすすった。

 

「翼くん、また大学遊びにおいでよ~
!」

「え、良いんですか?僕自分とこの大学であんまり友達出来なかったから、すっごく嬉しいです!」

「てか、うちのインカレサークル入っちゃえば?」

「えー、楽しそう!それ良いですね」

 

翼を中心に盛り上がる。
ウチの大学のサークル入るとかマジか。
正に翼界隈が出来ようとしていた。

ああ、流れ読めたぞ。
ここでサークル入って、月に何回か定期的に来る様になって。
それで僕の友達とか居場所も全部取られて。玲司も取られて、美形カップル誕生。

僕のことなんて、玲司、すぐ忘れちゃうんだろうな。『葵って翼に似てるとか思ってたけど、全然別人だったなー』とか、思い出すにしてもきっとそれくらいで・・。

 

ただただ哀しくて惨めで。ふと見上げたずっしりと曇っている鈍色の空。僕と同じ。

てかここに突っ立ってるだけでこんなにすぐ人気者になれるんだから、翼が大学で友達出来ないとか、100%嘘だろう。

玲司・・。

 

 

それから翼は本当にウチのインカレサークルに入ってしまい、毎週金曜にウチの大学に来るようになった。

その流れで毎週僕らの住む家に遊びに来るようになってしまい、僕はヘドが出そうだった。

ぼくらの家に上がりこみ、僕らの思い出のペアのマグカップやら食器やらを使っていく。っていうか玲司が出しちゃうんだ。

ある時、翼がうっかり僕のマグカップを割ってしまったことがあった。

ごめんねえと平謝りしつつ、翌週に別のお洒落なペアのマグカップを用意してきた翼。

玲司は『翼はやっぱ気が利くな!』なんて喜んでいたけれど。

僕は内心ブチギレていた。
お揃いの品が、翼によって書き換えられていくことが許せなかった。

 

それに・・それに、翼が選ぶものは逐一品が良い。あいつ、センスまで良いんだ。

それが僕の神経を逆撫でしまくった。どこまでも僕の上位互換の翼。

着せ替え人形の僕は、本物の翼には敵わなくて。哀しくて虚して、僕は夜に眠れなくなった。

 

 

翼はサークルでの評判も上々。大人しいけど気の利く良い奴として立場を確立していた。

ここじゃ翼を悪く言う奴なんて一人もいない。僕だけが翼が心底嫌いだった。

 

 

 

あまりに苦しくて、僕はまた亮に相談してしまった。

久々に会った僕を『随分やつれたなお前』と、随分心配されてしまったが。

 

新宿のゲームセンターで、並んで昔懐かしいコインゲームをやりながら話す。

「ああ、翼って前言ってた奴だよな。あのやたら美形の。
まあ確かに気が効くやつではあるね。

俺この間久々に大学行ったらさ、これドーゾってフランスかなんかの旅行土産のお菓子もらったんだよ。家金持ちなんかな?
俺喋ったことないのに、ご挨拶ってか?丁寧なやつだな」

あああ。唯一の僕の味方からも高評価
。翼がきらいな僕の方こそ嫌なヤツってことでやっぱり確定?

ずっしりと気持ちが落ち込んだ。

「ま、でも俺は別に好きじゃないけどね」

「え」

ちょっと心が浮上してしまった。

「あの弱々しい雰囲気も、しおらしい感じも、本当かよって感じ。てか自分とこの大学で友達あんま出来ないとか嘘だろ絶対。玲司が狙いなだけで」

玲司は翼が好きで、翼も玲司を狙ってる・・?そんな、両想いじゃん。そんな・・。

「周りくどいことしてないでとっとと告白すれば?って感じ。何がしたいんだか・・って、あ嘘だよごめんな!告白とか嫌だよな!!」

落ち込みまくりの僕の顔を見て、慌てて亮がフォローした。

「ま、でも今付き合ってて一緒に住んでるのはお前なんだから。お前に分があるんだから、負けるなよ葵」

背中をトン、と押してくれたあったかい手。

・・結局手につかなかったコインゲームの画面では、僕はメタメタに亮に負けていた。

負けた方が晩ごはん奢るはずだったけど、見かねた亮が晩ごはん奢ってくれたしついでにパフェもつけてくれた。本当ありがとう亮。

君が彼氏だったら、僕こんなに悩まないで済んだだだろうなと、内心チラと思ってしまい、慌てて打ち消した。

 

 

ある日の金曜の学校帰り。
玲司と僕と、翼と3人で駅のホームにいた時。

「そういえば葵、そろそろ誕生日だよな」

なんとなしに玲司が言い出した。ああ、やめて欲しい。まさか翼と3人で祝おうとか、言うつもり?

どうやって話題を変えようかと内心慌てていたその時。

 

突然翼が、はふはふと荒く息をしだした。そして駅のホームのベンチに座ってうずくまってしまった。

あれが過呼吸ってやつか?

慌てる玲司。
「大丈夫か!?」

「息が、うまく吸えない・・しばらく休んだら、治るから・・。葵、一緒に、いてくれるよね・・?」

え、僕?心底戸惑うが、指名されてる手前嫌だとも言えなかった。まあさすがに心配だし。

いや俺が面倒見るよとやいやい言い出した玲司を、君は今日はバイトでしょと翼は追いやった。

そうなんだ、人手が足りず今日は玲司はこれからバイトに行く。だから今日はこれで解散だと内心喜んでたのに。

 

しぶしぶ玲司が電車に乗って、ホームに2人きりになってしまった僕ら。

「だ、大丈夫?水とかいる・・?」

一応その背中をさすってみる。細い背中だった。・・玲司が守ってやりたいって言ってしまう様な。

どうしたもんかと考えていたら。

ふいに細く白い手が、辞めろとばかりに僕の手首を掴んだ。意外と力が強い。

そしてさっと顔をあげると翼は言った。

「玲司と別れてよ、誕生日祝いにさ」

そして今まで見たことのない冷たい顔で、ニッと嗤った。

 

続く
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