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r18【ヤンデレメーカー番外編】そばにいて
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最終話のあと、染谷に監禁された藍が最初は嫌がってたのに徐々に染谷に絆されていく話
ifストーリーです。
ーーーーーーーーーーーーーー
僕を見下ろしながらカチャカチャと染谷さんはベルトを外す。染谷さんのギンギンに猛ったソレがイヤでも目に入ってギク、とする。
染谷さんはペロリと舌で上唇を舐める。その綺麗な顔立ちに、獰猛な色気が滲んでいる。
「や、やだ。まさか」
「これならすぐ挿れれるな」
「あ……!」
僕の脚をわざと大きく広げさせる。遠慮なく、本当に何の遠慮もなく、いきなり中指を突っ込まれる。ぐぷ、と卑猥な音を立ててソコからは液体が溢れ出た。
「これは誰の?やっぱ垂れ方で分かったりすんの?ダラって濃いやつはとか……って」
ゲスに耳元で意地悪に揶揄われて、僕は恥ずかしくって頬が真っ赤になる。
「し、知らない!」
「ふうん?そっか。今回はブレンドか。皆を美味しく頂いてるもんな」
ハハ!と笑われて、さらに居た堪れない。
心がむずむずしてどうしようもない。
「どうしてっそんな意地悪言う……ん!」
抵抗はキスで封じられた。
「……!!」
染谷さんはそのままストレートに中に突き刺し、僕は正面から染谷さんを受け入れる形になった。
「あ、や、やだあああ……んっ!」
ぐぐ、と奥まで突き入れられてグリグリと抉られ、執念深く中を穿つ。いつも皆がやるのと同じやり方だった。
「あっ、んっだ、っだめっあん」
揺さぶられる。染谷さんはゲスに嗤っている。
見てたからワザと真似してるんだって気づいた。
こんなの、皆との行為が上書きされていくみたいだ。不器用にいびつに、でもまっすぐに僕を求めてくれる彼らとの行為を。誰にもきっと理解はされないだろうけれど、僕らは心のなかではそれぞれに深い深いつながりがあって……!
「気持ち良い?淫乱ちゃん」
頬がカッと熱くなった。なのに体は正直にズクリと疼いている。こんな、こんなことって……!
「や、い、いやだああああ!!!!」
しくしくと惨めに啜り泣く声が聞こえる。これは僕の声だ……。
『最高に興奮する』とか言って、僕を3度、4度と抱いた染谷さん。本当に誰のか分からない体液が僕の太ももをとぷ、ぽた……といやらしく滑り落ちていく。
「シャワー浴びないんですか」
一方、さっさとシャワーを浴びてその黒髪をなでつけて、嫌味っぽく現れた染谷さん。形だけは美男なその人は、気怠げに飲み物を飲んでいる。
「僕の子を妊娠したらどうするんですか?早く掻き出さないと。……なーんてね」
イライラで僕の心を逆撫でしてくるのも忘れない。プイと無視した。
「まあ。僕は初めてひとつになれて嬉しかったですよ」
「そのお上品ぶった喋り方、辞めたら良いんじゃないですか……!?」
ほんとはゲスなくせに。
イライラで顔を背けて言った。惨めだった。だって全然力で勝てなくて、力で跳ね除けるなんて出来なかった。それにいつもテディ達にズブズブに抱かれ慣れた体は、いともたやすく染谷さんをも迎え入れて、その……しっかり感じてしまって……。僕は誰でも良いのか?って、ショックだった。
「まあ、じゃあ。正直本当に最高の穴だった。毎日ヤリまくりたいね。君もかわいかった。お猿さんみたいにサカ」
「黙って!!!」
ワナワナと震えて黙らせた。
「自分で言ったんじゃん」
染谷さんはあざわらう。
「ま、それはさておき。さっさと移動しましょ。ここはさよならです」
「写真、撮らないんですか。どうせまた皆を脅したりなんだりするんでしょ」
僕はやけになって聞いた。
そしたら……。
「撮らないですね。だってもう2度と手放す気ないし。BREEZEを脅す必要はもうないんですよ。
これからは僕と一緒に過ごすんです。永遠にね」
染谷さんはまたも特殊な工具で僕の拘束を解いた。
◆◆◆
「な、何ここ……」
染谷さんに車で強引に連れてこられたのは、裏ぶれたラブホテル街。安っぽいピンクのネオン。客のおこぼれにあずかろうとする安い飲み屋の数々。
入れと促されたのは、そんな最中にある小さなちいさなボロアパートの一室。なんとカーテンがない部屋だった。ラブホテルがすぐ目と鼻の先に建ってるっていうのに。
実際、その安いラブホの上の階にいる営み中の外国人カップルの男の方と目があってしまい、僕は慌てて目を逸らすほど。(窓際でするからだ…!)
な、なにここ?
動揺する僕に、鼻で笑いながら染谷さんは言った。
「カーテンないのおもしろいでしょ。ここからだとぜえんぶ見えますよ。ラブホでヤリまくりの連中も、くだらない痴話喧嘩も。時々ホテル前で女の子に土下座してる男とかいて面白いですよ。…さ、こっち来て」
染谷さんは僕を畳の床に投げ出すと、いきなりコトに及ぼうとした!乳首をきつく吸われてぶるりと身が震えた。僕はバスローブ一枚に染谷さんのロングコート着せられその身を隠し、連れてこられていたのだ。今やはだけだバスローブだけ。
ラブホテルの上の階の男がこっちを今度は見てるんじゃないかってチラついた。
「や、や、やだああ!!テディ!」
「どこでヤルのも結局一緒でしょ」
遠慮なくぬく、と指をいれられて僕は身じろぎをする。
どうしてこの人はこうなんだ……!
「やだや、やだ!!!!それに何!?こんな、こんな、週刊誌ネタ撮るための隠れ宿みたいなとこ!最低!!!やだああ!!!」
染谷さんは声をポツ、と言った。
「ここは実は僕の実家なのですよ」
!
ラブホテル街のネオンにその横顔が哀しく照らされている。綺麗な顔立ちは哀しみをより引き立たせている。
「え……」
ってかここが実家ってマジ?超狭いし古いし、カーテンすらない何もなさ。ってか家族……?
「週刊誌ネタ撮るには、ちょっとカーテンくらいないとさすがに僕でも心もとないですね」
くく、と苦笑して染谷さんは立ち上がった。
「まあ、カーテンくらい準備してきました。今つけてあげますね。あ、でもちょっと待ってて」
染谷さんは立ち上がってスタスタと窓ガラスへと向かう。窓を開けると隣の階のラブホテルの上の階の方に向かって、中指を立てて英語かなんかか?スラングの様なガラの悪い暴言を吐いた。
そして割れそうな勢いでピシャン!と窓を閉めた。
「見るのも見られるのも慣れっこ。見てんじゃねえって言っときましたよ」
振り返った染谷さんの表情はすこし寂しげだった。
「あ……んっ…!」
暗闇のなかで染谷さんが僕を穿つ。カーテン閉めてたって隙間から入り込んでくるネオンの色。とにかくどぎつくて落ち着かない。
「…あ、良い、藍……」
こんな切羽詰まったような言い方をするのはズルい。そんな、何年も待っていた恋人をようやく抱くひとみたいな……。
「藍」
人目を忍んで遭う恋人同士なのかと錯覚しそうになる。2人の肌に汗が張り付く。
「や、め……て」
僕はかろうじて絞り出した。でも全然辞めてくれるハズもない。
「ん……!」
こんなの、冗談じゃない……。
「今水持ってきてあげますね」
何時間経ったのだろう。飽くことなく僕を抱いた染谷さん。時計がないこの部屋では何も分からない。ひと組の布団の上で僕は荒い息を吐いていた。それはくたくたに綿の縮んだ布団だった。
こんなところが実家だなんて嘘なんじゃないかとも思ったけど、この生活感漂う感じはやっぱりそうなの……?
持ってきてもらった水をゴクゴクと飲んだ。こぼれ落ちた水が喉をつ、と伝う。
僕を横からじっと見つめている染谷さん。
「な、なに……?」
「今日は疲れてるだろうと思ってもう辞めてあげようと思ったのに。これは藍さんのせいだ」
僕からコップを取り上げて、また押し倒してきた。濡れた唇のはしを指で拭われた。
「きっと皆のもそうやって咥えて舐め溢してたのでしょうね……許せない」
我慢できないとばかりにまた染谷さんは僕をかき抱いた。
やだ、や、やだ。穿たれながら考える。僕は折り合いをつけてBREEZEの皆と一緒に過ごしていくはずだったのに。どうして今こんなところにいるんだろう。こんな奥まで挿れられて、広げられている。首元のチョーカーについたクマくんのチャームが揺れる。僕の1番の恋人は?いま何してる?
死ぬほどぐったりして、もう指一本も上げられないって時。思い出した様に染谷さんは僕に首輪を持ってきた。
「またこういうの……」
「藍さんは趣味でしょ?こういう閉じ込められるの。さて、この邪魔なやつ切っちゃいましょうね……」
染谷さんは僕のチョーカーをハサミで切り落とした。
「あ……!」
「なに?お気に入りだった?……誰かのプレゼントだったんでしょ、どうせ」
イラつきを含んだその声で、染谷さんはチョーカーを拾うと、なんと窓を開けて外へ投げ捨てた。
チャリ、と遠くに聞こえる小さな音。
テディがどこか遠くに行ってしまったような気がした。急に寂しさがリアルに感じられる。
「染谷さん!」
「さようならBREEZE。もう一生会わない」
機嫌良く言うと、染谷さんは今度は自分の首輪巻きつけてきた。
「こう言うのマーキングっていうんでしょうね。やる男の気持ちは分かりますよ。うんとね」
首輪から繋がるチェーンは古い家具の脚に強固に巻きつけられた。
「これでふたりっきりだ」
言われてゾク、とした。裸電球の寒々しい灯りの下。こんな男の人と2人っきりなのだ。
ふたりっきり、という言葉が改めてこわく感じてきた。
「……やだ、やだあ……!」
「そんな震えないで。どうせ誰も来ませんから。泣くだけ無駄ですよ」
!ブル、と震える。
じゃあここで殺されてもしばらくは見つからないってこと?もしかしてずっと?
「そんな……っどうしてこんなことするんですか!」
「藍さんと暮らしたいから」
「ぼ、僕じゃなくてえ!ご家族と暮らせば良いでしょう!?」
イヤな気配はした。きっとこの人はワケありなのだ。でもせめてこうやって突っぱねるしかなかった。
「家族とは暮らせないんです」
グサ、と心に何かが突き刺さる。哀しい予感がする。きっとワケを聞いてしまったら僕はこの人に同情してしまう。嫌いになりきれなくなってしまう。僕のなかで悪役ではなくなってしまう。
だから僕の両耳を塞いだ。
「辞めて!!もう良い!」
僕をテディ達から引き離した悪い人、とせめて憎ませて欲しい。
だけど少し寂しそうな顔をして、染谷さんは僕の手を外させた。
「どうして?藍さんなら分かってくれると思ったのに」
「か、買い被り過ぎですよ!僕はそんな大した人間じゃ」
「少年院上がりだから僕は」
……!
「だから家族と暮らせないんです」
囁く様に言われる。僕は心臓を冷たい手に握られる思いだった。
暗闇のなかで腕枕されながら眠る。差し込むネオン街の光。ああいう場所には昼も夜もないのだろう。安らぎの得られない家。ここで寝泊まりしてたら僕も荒れていただろうか……?
雑念を振り払うように寝返りを打った。染谷さんは何も言わず、そっと僕の身体を包み込むように抱きしめた。恋人にするみたいに。
翌朝。
「藍さん、起きました?」
そっと起こされる。首輪されて繋がれてるのにやさしく起こされてて、おかしなギャップだった。
「昨日のアレ。嘘だから。
さ、飯できましたよ」
さらっと彼は言ったけれど。
ほんとかなあ。
……。
染谷さんは少しカーテンを開けた。相変わらずすぐそばにラブホは建っている。
ここに来てから2日目の朝。こんな信じられない場所でも日は昇るのだと、当たり前のことに驚いていた。
ちいさなちゃぶ台を前に座る僕ら。手作りのお茶漬けを振る舞われている。こんな庶民的なものをこの人が作るってなんか想像出来なかった。
「……前の家には戻らないんですか。住んでましたよね、あの高そうなマンション……?」
「まあ気が向けば帰りますよ」
染谷さんはず、と啜った。
「というか、いずれ向こうに帰らざるを得ないし」
どういうこと?と首を傾げた僕に、染谷さんは何も答えてはくれなかった。
◆◆◆
染谷さんは僕を正面から跨らせ、ちゅうちゅうと乳首を吸っている。僕は変な声が出ないように足先にぎゅうと力を込めた。その、なんでかすごくうまいから。
「仕事……っいかなくて、良いんですか」
「しばらく休みますよ」
「スキャンダル、命の……くせに、あ」
びく、と身体が震える。
「スキャンダルより大事なものがあるんですよね、いまは」
ずぶ、ぐちゅとなかを抉られる。自分が上に跨ってるせいで、ずぐ、と奥まで届いてしまって僕はたまらない。目の奥がチカチカする。息が詰まるようなこの圧迫感が……僕はすきで……。
「う……あ。……!」
びくびくとなかを痙攣させた僕。
「今の顔、これからはずっと見せてよ」
切羽詰まった声で染谷さんは言って、今度は体勢を変えてそのまま押し倒した。
こういうの、テディがよくやっていた。さみしくてたまらない。僕は抱かれながらぽろ、と泣いた。テディは今どうしてるんだろう。
染谷さんとの暮らしはそれからだらだらと続いた。
食べ物がなくなった時だけ染谷さんはフラ、と出かけていきコンビニ袋を下げて帰ってくる。
週刊誌記者魂なのか、大体何かしらの週刊誌を一緒に買って帰ってきてた。
ある日。
「……見る?」
そう言われて、僕は興味本意で見てすぐに後悔した。見出しにはこう書かれていた。
『BREEZEテディ 本気の恋人失踪 記者会見』
週刊誌の白黒の写真だったけど、テディが黒いスーツ着て、マイクで何か訴えてる写真だった。涙をこぼしてるのであろうショットもあった。
「テディ……!」
「すごい探してるみたいですよ。でも流石にここは見つけられないと思うなあ」
さっと僕から週刊誌を取り上げる。
「すげえ気分良いや」
悪魔的に染谷さんは笑った。
僕はそれからテディのことを思い出してはふさぎ込んだ。かわいそうなテディ。あのクマくんをひとりぼっちにしているという呵責には耐えかねた。
「僕を……ここから帰してくれませんか」
そう言ってみれば染谷さんは無言で僕に平手した。それから僕の切れた唇の端に滲んだ血を、そっと舐めとった。
「染谷さんなんか、きらい」
そう言えば言うほど、染谷さんは僕をぶったし荒く抱いた。そんな染谷さんを僕はさらにきらいになった。
テディや皆の優しい腕の中を思いだす。
そりゃ、酷いこともされた時もあったけど。彼らは僕をこんな気持ちにはさせなかった。
僕は染谷さんが与える快楽に、ギュッと唇を噛んで耐えた。
「藍さん。言うこと聞かない悪い子にはピアスしてあげましょうか」
ある日染谷さんはそう言った。
そして抵抗なんか許さず、僕の片方の乳首にピアスを開けた。
「い……いったああい……!」
半泣きで言った。耳にすら開けたことなかったのに。
「めちゃくちゃ卑猥で似合ってますよ。清楚な子なのにこんなとこピアス開いてるのヤバいでしょ」
染谷さんはゲラゲラ笑って言った。
それから悪戯なゲームが始まった。
「ほら、自分から腰動かして」
「……」
四つん這いで這いつくばらせて、後ろから僕に挿れている。乳首をやさしく撫でてつまんでいる……。
「あ……」
「はやく。言うこと聞かないとこうだよ」
「……んっ!」
そう言ってわざと意地悪に乳首のピアスを少し、ほんの少しだけ引っ張るのだ。
「や、や。取れちゃうよお」
「痛いのも好きでしょ」
耳を食む。ゾクゾクしてどうにかなりそうだ。
「でも言うこと聞かないと本当に血が出ることになるかもなあ……」
くっと引っ張られて、僕は仕方なく自分から腰を動かした。染谷さんを、自分で抜き差しするように……。
「あ……、ん……」
「ああ、イイ。最高だよ藍……」
もどかしい快感に腰が揺れる。色んな人に抱かれ慣れた身体はもっと欲しくなってしまう。
それから腰を抱え直して、ガツガツ突かれて、あんあんと喘いでしまう。
「クマくんじゃなくても良いんじゃん」
「……!」
意地悪に調教されていく……。
僕はときどき自分がわからなくなった。テディや他の皆が好きなはずなのに。恋人がいるはずなのに。今こうして僕を抱いているのは染谷さんだ。無理やりここに連れてこられたはずなのに。染谷さんとは合意で始まった関係でもないのに。なのに。僕は自分から腰をゆらめかせている……。
「藍さん、藍……すきだ……」
こんなに毎日身体を密着させて正常位で抱かれていると、僕には最初から染谷さんしかいなかったのか?と錯覚してしまいそうになる。
「藍さん。僕、こう見えて結構あなたのこと好きなんですよ」
そう言われるたび、ぼくは目を伏せた。
数週間が経った頃。染谷さんが出かけて行って少し経ったとき。
窓ガラスが二、三度揺れた。地震かなと思った。
けど違う。次にカーテンが変にもそもそと揺れる。おかしいと胸がざわついた。
次の瞬間現れたのは、うらぶれた男。卑屈そうな顔をしている。
「へへ……よう」
「だ…っだれ…!」
「あんたらさあ、ずいぶん楽しそうに暮らしてんじゃん。ええ?時々隙間から覗き見えててさあ。忍びよんのに苦労したぜ。へへ……今あの背え高い兄ちゃん、いないんだろう?え?」
そう言ってにじり寄ってくる。駆け上がる嫌悪感がすごくて吐きそうだ。
「や……辞めて……こ、こないで!!」
だだっと距離を詰められて、両肩を掴まれる。酒臭い息に虫唾が走る。そのまま押し倒されて……!
「やだあああ!!助けてよお!!!染谷さん!!!!!!!」
その時。バン!と玄関の扉が開いた。出来すぎるくらい完璧なタイミングで帰ってきてくれた染谷さん。激昂して言った。
「てんめえ!何してやがんだ!!ぶち殺してやらあ!!」
持ち帰ってきたコンビニ袋からワインボトルを取り出し、容赦なくその不審者男の頭に振り下ろした。
バリン!と力強い音を立ててわれる。血なのか赤ワインなのか分からない液体が床にドクドクと広がっていく。
「や、や…やだあ……死んじゃったの、このひと」
「……」
冷たい瞳がただその男を見下ろしていた。
染谷さんは意識のないその男をどこかへと運んで行った。両脇を抱えてズルズルと引きずる様に。
帰ってきた時。もちろん染谷さんは1人だった。
血のような赤ワインのようなシミで服を染めている……。
やさしく僕の頭を撫でて言った。
「ちょっと遠くに捨ててきました。好きな人を護るには仕方ないことです。でも怖がらないで。あんなのはよくあることですよ……ね」
それ以上は何も話してくれなかった。
「イヤな匂いは洗い流しちゃいましょう」
そう言って、僕を風呂場へと連れて行った。
カーテンないのに風呂場は意外とあるんですよと、当初ここに来た時そう言って少し笑わせてくれたっけ。
ぬるく暖かいシャワーを浴びせられる。
「何かされた?されてない……?」
「ん、大丈夫、です……」
ギュッと強く抱きしめられた。シャワーヘッドが床に落ちた。
「本当に無事で良かった……!ふいにイヤな予感がして、直感に従って良かった。もしそうじゃなかったらどうなっていたか……」
「……染谷さん……」
「それに。ピンチの時に僕の名前を呼んでくれて僕は嬉しかったですよ」
「……っ」
視線を下に落とす。僕はそっと染谷さんの背を抱いた。
◆◆◆
それから少し経った時。
「藍さん。僕にハッピーバースデーって歌ってみてください」
突然そう言われた。何がなんだかわからずとりあえずケーキも何もないのにハッピーバースデーを歌ってあげた。
「こりゃ良い気分。言ってみるもんですねえ」
「はあ……でも何で突然?」
「ただそういう気分だったから。
それに僕。自分の本当の誕生日知らないから。だから自分が決めた日が誕生日になるんですよ」
この人はどうしてこんなに寂しいことを言うのだろう。
その日の夜。
「あん、あ……染谷さん、そこ……」
「藍。あい……好きだよ」
染谷さんは暗闇の中で僕をかき抱いた。僕も応えた。変な言い方だけど、初めてちゃんとこのひととセックスした気がした。
染谷さんがシャワー入ってる間。
部屋の隅にコンビニのビニール袋に入れられたままの週刊誌がたまたま目について、なんとなく開いた。
記事にはこんな見出しが垣間見えた。
『××地区。川辺で謎の変死体発見。頭部を強打か』
僕は何も見なかったふりをして、そっと週刊誌を置いた。
「……藍。シャワーあいたよ」
「うん、今いく。待ってて。一緒にまた浴びてよ」
一度警察の人が聴取しにきたことがある。
僕はその間押し入れに隠されていたけど、染谷さんが口八丁という感じで言い返して追い返しているのを聞いていた。僕はふすまに耳を当てて、ただ目を閉じていた。
染谷さんはある日聞いた。それは前の日の夜から明け方にかけてずっと抱き合っていた日の、朝のこと。
「藍さん。僕がいなくなったらどうします?」
「さみしい……」
「でも、僕のことなんて誰も必要としない」
「そんなことない。僕は必要としてる……」
「こっちは少年院上がりだって言ったのに?」
自嘲して言う。
「嘘なんでしょ、アレ。……でも、もし本当だとしても、染谷さんはきっと何かしらの正当な理由はあったと思うから……」
「………。
…………。
……もともと僕は捨て子で……引き取られた家も大変に貧乏で……それで僕は育ちの良い男に強く憧れて……でもダメなんですよね。ガラの悪い性根というか本質というか、やっぱりどうも隠し切れなくて……」
続きを待つ。染谷さんは僕に背を向けた。
「昔、この家に入ってきた強盗を叩きのめしたんです。少年院に送られて……それが原因で仮の家族とは一緒に暮らせなくなりました。恥ずかしいって。
はは、実家が極貧、少年院上がり、家族と暮らせない男。……それから藍さんを僕なりに愛している。
あなたの関心を引くために嘘をついてるとしたら、どれが1番マシですかね……?」
その背中がさみしい寂しいと泣いている。
僕はたまらずその背中に抱きついた。独白は止まらない。
「この古いアパート、あともうちょっとしたら取り壊されるらしいんです。こんなクソアパートなんかそりゃ無くなった方が良い。
……ロクな思い出はないけれど、でも僕にとって思い出はここにしかない……ここがなくなるのはさみしくて……誰かにそばにいて欲しかった。でも家族は……もう一緒には過ごせないから……」
そんな最後のひとときを僕と……僕なんかと一緒に過ごそうと思ってくれたんだね。
「僕みたいな人間を受け入れてくれる場所なんて、あの週刊誌出してる会社くらいしかなかったんです。
成り上がりも悪いもんじゃないですよ。いっぱしの人間になれた気がした。
でも本当はわかってるんです。
自分みたいな人間、いない方が周りが幸せなんだと……だけど。
今は君を幸せにしたいと願ってしまっている……」
僕は染谷さんの背中に額を当てて、ギュッと擦り付けた。
そのあと、一緒に初めてコンビニに行った。もう首輪には繋がれていない。
書籍コーナーでふいに目に入ったとある週刊誌の記事。
そこには『テディBREEZE引退。失踪した恋人探しに専念』と書いてあった。ドキッとした。
僕のせいなんだね。ごめんねテディ。
君の側にいてあげられなくて。
でも僕はこの人の側にいてあげなくちゃいけないんだ。……この人を選んだ。選んでしまったんだ。
「藍……」
「ん、ごめん、今いく」
週刊誌を戻す。きっと染谷さんも目にしただろう。
この人にはきっと僕しかいないから。
ごめん、許してテディ。みんな……。
最近やけにパトカーのサイレンの音が聞こえる。
その度にぼくは、染谷さんの手をギュッと握った。
end
ifストーリーです。
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僕を見下ろしながらカチャカチャと染谷さんはベルトを外す。染谷さんのギンギンに猛ったソレがイヤでも目に入ってギク、とする。
染谷さんはペロリと舌で上唇を舐める。その綺麗な顔立ちに、獰猛な色気が滲んでいる。
「や、やだ。まさか」
「これならすぐ挿れれるな」
「あ……!」
僕の脚をわざと大きく広げさせる。遠慮なく、本当に何の遠慮もなく、いきなり中指を突っ込まれる。ぐぷ、と卑猥な音を立ててソコからは液体が溢れ出た。
「これは誰の?やっぱ垂れ方で分かったりすんの?ダラって濃いやつはとか……って」
ゲスに耳元で意地悪に揶揄われて、僕は恥ずかしくって頬が真っ赤になる。
「し、知らない!」
「ふうん?そっか。今回はブレンドか。皆を美味しく頂いてるもんな」
ハハ!と笑われて、さらに居た堪れない。
心がむずむずしてどうしようもない。
「どうしてっそんな意地悪言う……ん!」
抵抗はキスで封じられた。
「……!!」
染谷さんはそのままストレートに中に突き刺し、僕は正面から染谷さんを受け入れる形になった。
「あ、や、やだあああ……んっ!」
ぐぐ、と奥まで突き入れられてグリグリと抉られ、執念深く中を穿つ。いつも皆がやるのと同じやり方だった。
「あっ、んっだ、っだめっあん」
揺さぶられる。染谷さんはゲスに嗤っている。
見てたからワザと真似してるんだって気づいた。
こんなの、皆との行為が上書きされていくみたいだ。不器用にいびつに、でもまっすぐに僕を求めてくれる彼らとの行為を。誰にもきっと理解はされないだろうけれど、僕らは心のなかではそれぞれに深い深いつながりがあって……!
「気持ち良い?淫乱ちゃん」
頬がカッと熱くなった。なのに体は正直にズクリと疼いている。こんな、こんなことって……!
「や、い、いやだああああ!!!!」
しくしくと惨めに啜り泣く声が聞こえる。これは僕の声だ……。
『最高に興奮する』とか言って、僕を3度、4度と抱いた染谷さん。本当に誰のか分からない体液が僕の太ももをとぷ、ぽた……といやらしく滑り落ちていく。
「シャワー浴びないんですか」
一方、さっさとシャワーを浴びてその黒髪をなでつけて、嫌味っぽく現れた染谷さん。形だけは美男なその人は、気怠げに飲み物を飲んでいる。
「僕の子を妊娠したらどうするんですか?早く掻き出さないと。……なーんてね」
イライラで僕の心を逆撫でしてくるのも忘れない。プイと無視した。
「まあ。僕は初めてひとつになれて嬉しかったですよ」
「そのお上品ぶった喋り方、辞めたら良いんじゃないですか……!?」
ほんとはゲスなくせに。
イライラで顔を背けて言った。惨めだった。だって全然力で勝てなくて、力で跳ね除けるなんて出来なかった。それにいつもテディ達にズブズブに抱かれ慣れた体は、いともたやすく染谷さんをも迎え入れて、その……しっかり感じてしまって……。僕は誰でも良いのか?って、ショックだった。
「まあ、じゃあ。正直本当に最高の穴だった。毎日ヤリまくりたいね。君もかわいかった。お猿さんみたいにサカ」
「黙って!!!」
ワナワナと震えて黙らせた。
「自分で言ったんじゃん」
染谷さんはあざわらう。
「ま、それはさておき。さっさと移動しましょ。ここはさよならです」
「写真、撮らないんですか。どうせまた皆を脅したりなんだりするんでしょ」
僕はやけになって聞いた。
そしたら……。
「撮らないですね。だってもう2度と手放す気ないし。BREEZEを脅す必要はもうないんですよ。
これからは僕と一緒に過ごすんです。永遠にね」
染谷さんはまたも特殊な工具で僕の拘束を解いた。
◆◆◆
「な、何ここ……」
染谷さんに車で強引に連れてこられたのは、裏ぶれたラブホテル街。安っぽいピンクのネオン。客のおこぼれにあずかろうとする安い飲み屋の数々。
入れと促されたのは、そんな最中にある小さなちいさなボロアパートの一室。なんとカーテンがない部屋だった。ラブホテルがすぐ目と鼻の先に建ってるっていうのに。
実際、その安いラブホの上の階にいる営み中の外国人カップルの男の方と目があってしまい、僕は慌てて目を逸らすほど。(窓際でするからだ…!)
な、なにここ?
動揺する僕に、鼻で笑いながら染谷さんは言った。
「カーテンないのおもしろいでしょ。ここからだとぜえんぶ見えますよ。ラブホでヤリまくりの連中も、くだらない痴話喧嘩も。時々ホテル前で女の子に土下座してる男とかいて面白いですよ。…さ、こっち来て」
染谷さんは僕を畳の床に投げ出すと、いきなりコトに及ぼうとした!乳首をきつく吸われてぶるりと身が震えた。僕はバスローブ一枚に染谷さんのロングコート着せられその身を隠し、連れてこられていたのだ。今やはだけだバスローブだけ。
ラブホテルの上の階の男がこっちを今度は見てるんじゃないかってチラついた。
「や、や、やだああ!!テディ!」
「どこでヤルのも結局一緒でしょ」
遠慮なくぬく、と指をいれられて僕は身じろぎをする。
どうしてこの人はこうなんだ……!
「やだや、やだ!!!!それに何!?こんな、こんな、週刊誌ネタ撮るための隠れ宿みたいなとこ!最低!!!やだああ!!!」
染谷さんは声をポツ、と言った。
「ここは実は僕の実家なのですよ」
!
ラブホテル街のネオンにその横顔が哀しく照らされている。綺麗な顔立ちは哀しみをより引き立たせている。
「え……」
ってかここが実家ってマジ?超狭いし古いし、カーテンすらない何もなさ。ってか家族……?
「週刊誌ネタ撮るには、ちょっとカーテンくらいないとさすがに僕でも心もとないですね」
くく、と苦笑して染谷さんは立ち上がった。
「まあ、カーテンくらい準備してきました。今つけてあげますね。あ、でもちょっと待ってて」
染谷さんは立ち上がってスタスタと窓ガラスへと向かう。窓を開けると隣の階のラブホテルの上の階の方に向かって、中指を立てて英語かなんかか?スラングの様なガラの悪い暴言を吐いた。
そして割れそうな勢いでピシャン!と窓を閉めた。
「見るのも見られるのも慣れっこ。見てんじゃねえって言っときましたよ」
振り返った染谷さんの表情はすこし寂しげだった。
「あ……んっ…!」
暗闇のなかで染谷さんが僕を穿つ。カーテン閉めてたって隙間から入り込んでくるネオンの色。とにかくどぎつくて落ち着かない。
「…あ、良い、藍……」
こんな切羽詰まったような言い方をするのはズルい。そんな、何年も待っていた恋人をようやく抱くひとみたいな……。
「藍」
人目を忍んで遭う恋人同士なのかと錯覚しそうになる。2人の肌に汗が張り付く。
「や、め……て」
僕はかろうじて絞り出した。でも全然辞めてくれるハズもない。
「ん……!」
こんなの、冗談じゃない……。
「今水持ってきてあげますね」
何時間経ったのだろう。飽くことなく僕を抱いた染谷さん。時計がないこの部屋では何も分からない。ひと組の布団の上で僕は荒い息を吐いていた。それはくたくたに綿の縮んだ布団だった。
こんなところが実家だなんて嘘なんじゃないかとも思ったけど、この生活感漂う感じはやっぱりそうなの……?
持ってきてもらった水をゴクゴクと飲んだ。こぼれ落ちた水が喉をつ、と伝う。
僕を横からじっと見つめている染谷さん。
「な、なに……?」
「今日は疲れてるだろうと思ってもう辞めてあげようと思ったのに。これは藍さんのせいだ」
僕からコップを取り上げて、また押し倒してきた。濡れた唇のはしを指で拭われた。
「きっと皆のもそうやって咥えて舐め溢してたのでしょうね……許せない」
我慢できないとばかりにまた染谷さんは僕をかき抱いた。
やだ、や、やだ。穿たれながら考える。僕は折り合いをつけてBREEZEの皆と一緒に過ごしていくはずだったのに。どうして今こんなところにいるんだろう。こんな奥まで挿れられて、広げられている。首元のチョーカーについたクマくんのチャームが揺れる。僕の1番の恋人は?いま何してる?
死ぬほどぐったりして、もう指一本も上げられないって時。思い出した様に染谷さんは僕に首輪を持ってきた。
「またこういうの……」
「藍さんは趣味でしょ?こういう閉じ込められるの。さて、この邪魔なやつ切っちゃいましょうね……」
染谷さんは僕のチョーカーをハサミで切り落とした。
「あ……!」
「なに?お気に入りだった?……誰かのプレゼントだったんでしょ、どうせ」
イラつきを含んだその声で、染谷さんはチョーカーを拾うと、なんと窓を開けて外へ投げ捨てた。
チャリ、と遠くに聞こえる小さな音。
テディがどこか遠くに行ってしまったような気がした。急に寂しさがリアルに感じられる。
「染谷さん!」
「さようならBREEZE。もう一生会わない」
機嫌良く言うと、染谷さんは今度は自分の首輪巻きつけてきた。
「こう言うのマーキングっていうんでしょうね。やる男の気持ちは分かりますよ。うんとね」
首輪から繋がるチェーンは古い家具の脚に強固に巻きつけられた。
「これでふたりっきりだ」
言われてゾク、とした。裸電球の寒々しい灯りの下。こんな男の人と2人っきりなのだ。
ふたりっきり、という言葉が改めてこわく感じてきた。
「……やだ、やだあ……!」
「そんな震えないで。どうせ誰も来ませんから。泣くだけ無駄ですよ」
!ブル、と震える。
じゃあここで殺されてもしばらくは見つからないってこと?もしかしてずっと?
「そんな……っどうしてこんなことするんですか!」
「藍さんと暮らしたいから」
「ぼ、僕じゃなくてえ!ご家族と暮らせば良いでしょう!?」
イヤな気配はした。きっとこの人はワケありなのだ。でもせめてこうやって突っぱねるしかなかった。
「家族とは暮らせないんです」
グサ、と心に何かが突き刺さる。哀しい予感がする。きっとワケを聞いてしまったら僕はこの人に同情してしまう。嫌いになりきれなくなってしまう。僕のなかで悪役ではなくなってしまう。
だから僕の両耳を塞いだ。
「辞めて!!もう良い!」
僕をテディ達から引き離した悪い人、とせめて憎ませて欲しい。
だけど少し寂しそうな顔をして、染谷さんは僕の手を外させた。
「どうして?藍さんなら分かってくれると思ったのに」
「か、買い被り過ぎですよ!僕はそんな大した人間じゃ」
「少年院上がりだから僕は」
……!
「だから家族と暮らせないんです」
囁く様に言われる。僕は心臓を冷たい手に握られる思いだった。
暗闇のなかで腕枕されながら眠る。差し込むネオン街の光。ああいう場所には昼も夜もないのだろう。安らぎの得られない家。ここで寝泊まりしてたら僕も荒れていただろうか……?
雑念を振り払うように寝返りを打った。染谷さんは何も言わず、そっと僕の身体を包み込むように抱きしめた。恋人にするみたいに。
翌朝。
「藍さん、起きました?」
そっと起こされる。首輪されて繋がれてるのにやさしく起こされてて、おかしなギャップだった。
「昨日のアレ。嘘だから。
さ、飯できましたよ」
さらっと彼は言ったけれど。
ほんとかなあ。
……。
染谷さんは少しカーテンを開けた。相変わらずすぐそばにラブホは建っている。
ここに来てから2日目の朝。こんな信じられない場所でも日は昇るのだと、当たり前のことに驚いていた。
ちいさなちゃぶ台を前に座る僕ら。手作りのお茶漬けを振る舞われている。こんな庶民的なものをこの人が作るってなんか想像出来なかった。
「……前の家には戻らないんですか。住んでましたよね、あの高そうなマンション……?」
「まあ気が向けば帰りますよ」
染谷さんはず、と啜った。
「というか、いずれ向こうに帰らざるを得ないし」
どういうこと?と首を傾げた僕に、染谷さんは何も答えてはくれなかった。
◆◆◆
染谷さんは僕を正面から跨らせ、ちゅうちゅうと乳首を吸っている。僕は変な声が出ないように足先にぎゅうと力を込めた。その、なんでかすごくうまいから。
「仕事……っいかなくて、良いんですか」
「しばらく休みますよ」
「スキャンダル、命の……くせに、あ」
びく、と身体が震える。
「スキャンダルより大事なものがあるんですよね、いまは」
ずぶ、ぐちゅとなかを抉られる。自分が上に跨ってるせいで、ずぐ、と奥まで届いてしまって僕はたまらない。目の奥がチカチカする。息が詰まるようなこの圧迫感が……僕はすきで……。
「う……あ。……!」
びくびくとなかを痙攣させた僕。
「今の顔、これからはずっと見せてよ」
切羽詰まった声で染谷さんは言って、今度は体勢を変えてそのまま押し倒した。
こういうの、テディがよくやっていた。さみしくてたまらない。僕は抱かれながらぽろ、と泣いた。テディは今どうしてるんだろう。
染谷さんとの暮らしはそれからだらだらと続いた。
食べ物がなくなった時だけ染谷さんはフラ、と出かけていきコンビニ袋を下げて帰ってくる。
週刊誌記者魂なのか、大体何かしらの週刊誌を一緒に買って帰ってきてた。
ある日。
「……見る?」
そう言われて、僕は興味本意で見てすぐに後悔した。見出しにはこう書かれていた。
『BREEZEテディ 本気の恋人失踪 記者会見』
週刊誌の白黒の写真だったけど、テディが黒いスーツ着て、マイクで何か訴えてる写真だった。涙をこぼしてるのであろうショットもあった。
「テディ……!」
「すごい探してるみたいですよ。でも流石にここは見つけられないと思うなあ」
さっと僕から週刊誌を取り上げる。
「すげえ気分良いや」
悪魔的に染谷さんは笑った。
僕はそれからテディのことを思い出してはふさぎ込んだ。かわいそうなテディ。あのクマくんをひとりぼっちにしているという呵責には耐えかねた。
「僕を……ここから帰してくれませんか」
そう言ってみれば染谷さんは無言で僕に平手した。それから僕の切れた唇の端に滲んだ血を、そっと舐めとった。
「染谷さんなんか、きらい」
そう言えば言うほど、染谷さんは僕をぶったし荒く抱いた。そんな染谷さんを僕はさらにきらいになった。
テディや皆の優しい腕の中を思いだす。
そりゃ、酷いこともされた時もあったけど。彼らは僕をこんな気持ちにはさせなかった。
僕は染谷さんが与える快楽に、ギュッと唇を噛んで耐えた。
「藍さん。言うこと聞かない悪い子にはピアスしてあげましょうか」
ある日染谷さんはそう言った。
そして抵抗なんか許さず、僕の片方の乳首にピアスを開けた。
「い……いったああい……!」
半泣きで言った。耳にすら開けたことなかったのに。
「めちゃくちゃ卑猥で似合ってますよ。清楚な子なのにこんなとこピアス開いてるのヤバいでしょ」
染谷さんはゲラゲラ笑って言った。
それから悪戯なゲームが始まった。
「ほら、自分から腰動かして」
「……」
四つん這いで這いつくばらせて、後ろから僕に挿れている。乳首をやさしく撫でてつまんでいる……。
「あ……」
「はやく。言うこと聞かないとこうだよ」
「……んっ!」
そう言ってわざと意地悪に乳首のピアスを少し、ほんの少しだけ引っ張るのだ。
「や、や。取れちゃうよお」
「痛いのも好きでしょ」
耳を食む。ゾクゾクしてどうにかなりそうだ。
「でも言うこと聞かないと本当に血が出ることになるかもなあ……」
くっと引っ張られて、僕は仕方なく自分から腰を動かした。染谷さんを、自分で抜き差しするように……。
「あ……、ん……」
「ああ、イイ。最高だよ藍……」
もどかしい快感に腰が揺れる。色んな人に抱かれ慣れた身体はもっと欲しくなってしまう。
それから腰を抱え直して、ガツガツ突かれて、あんあんと喘いでしまう。
「クマくんじゃなくても良いんじゃん」
「……!」
意地悪に調教されていく……。
僕はときどき自分がわからなくなった。テディや他の皆が好きなはずなのに。恋人がいるはずなのに。今こうして僕を抱いているのは染谷さんだ。無理やりここに連れてこられたはずなのに。染谷さんとは合意で始まった関係でもないのに。なのに。僕は自分から腰をゆらめかせている……。
「藍さん、藍……すきだ……」
こんなに毎日身体を密着させて正常位で抱かれていると、僕には最初から染谷さんしかいなかったのか?と錯覚してしまいそうになる。
「藍さん。僕、こう見えて結構あなたのこと好きなんですよ」
そう言われるたび、ぼくは目を伏せた。
数週間が経った頃。染谷さんが出かけて行って少し経ったとき。
窓ガラスが二、三度揺れた。地震かなと思った。
けど違う。次にカーテンが変にもそもそと揺れる。おかしいと胸がざわついた。
次の瞬間現れたのは、うらぶれた男。卑屈そうな顔をしている。
「へへ……よう」
「だ…っだれ…!」
「あんたらさあ、ずいぶん楽しそうに暮らしてんじゃん。ええ?時々隙間から覗き見えててさあ。忍びよんのに苦労したぜ。へへ……今あの背え高い兄ちゃん、いないんだろう?え?」
そう言ってにじり寄ってくる。駆け上がる嫌悪感がすごくて吐きそうだ。
「や……辞めて……こ、こないで!!」
だだっと距離を詰められて、両肩を掴まれる。酒臭い息に虫唾が走る。そのまま押し倒されて……!
「やだあああ!!助けてよお!!!染谷さん!!!!!!!」
その時。バン!と玄関の扉が開いた。出来すぎるくらい完璧なタイミングで帰ってきてくれた染谷さん。激昂して言った。
「てんめえ!何してやがんだ!!ぶち殺してやらあ!!」
持ち帰ってきたコンビニ袋からワインボトルを取り出し、容赦なくその不審者男の頭に振り下ろした。
バリン!と力強い音を立ててわれる。血なのか赤ワインなのか分からない液体が床にドクドクと広がっていく。
「や、や…やだあ……死んじゃったの、このひと」
「……」
冷たい瞳がただその男を見下ろしていた。
染谷さんは意識のないその男をどこかへと運んで行った。両脇を抱えてズルズルと引きずる様に。
帰ってきた時。もちろん染谷さんは1人だった。
血のような赤ワインのようなシミで服を染めている……。
やさしく僕の頭を撫でて言った。
「ちょっと遠くに捨ててきました。好きな人を護るには仕方ないことです。でも怖がらないで。あんなのはよくあることですよ……ね」
それ以上は何も話してくれなかった。
「イヤな匂いは洗い流しちゃいましょう」
そう言って、僕を風呂場へと連れて行った。
カーテンないのに風呂場は意外とあるんですよと、当初ここに来た時そう言って少し笑わせてくれたっけ。
ぬるく暖かいシャワーを浴びせられる。
「何かされた?されてない……?」
「ん、大丈夫、です……」
ギュッと強く抱きしめられた。シャワーヘッドが床に落ちた。
「本当に無事で良かった……!ふいにイヤな予感がして、直感に従って良かった。もしそうじゃなかったらどうなっていたか……」
「……染谷さん……」
「それに。ピンチの時に僕の名前を呼んでくれて僕は嬉しかったですよ」
「……っ」
視線を下に落とす。僕はそっと染谷さんの背を抱いた。
◆◆◆
それから少し経った時。
「藍さん。僕にハッピーバースデーって歌ってみてください」
突然そう言われた。何がなんだかわからずとりあえずケーキも何もないのにハッピーバースデーを歌ってあげた。
「こりゃ良い気分。言ってみるもんですねえ」
「はあ……でも何で突然?」
「ただそういう気分だったから。
それに僕。自分の本当の誕生日知らないから。だから自分が決めた日が誕生日になるんですよ」
この人はどうしてこんなに寂しいことを言うのだろう。
その日の夜。
「あん、あ……染谷さん、そこ……」
「藍。あい……好きだよ」
染谷さんは暗闇の中で僕をかき抱いた。僕も応えた。変な言い方だけど、初めてちゃんとこのひととセックスした気がした。
染谷さんがシャワー入ってる間。
部屋の隅にコンビニのビニール袋に入れられたままの週刊誌がたまたま目について、なんとなく開いた。
記事にはこんな見出しが垣間見えた。
『××地区。川辺で謎の変死体発見。頭部を強打か』
僕は何も見なかったふりをして、そっと週刊誌を置いた。
「……藍。シャワーあいたよ」
「うん、今いく。待ってて。一緒にまた浴びてよ」
一度警察の人が聴取しにきたことがある。
僕はその間押し入れに隠されていたけど、染谷さんが口八丁という感じで言い返して追い返しているのを聞いていた。僕はふすまに耳を当てて、ただ目を閉じていた。
染谷さんはある日聞いた。それは前の日の夜から明け方にかけてずっと抱き合っていた日の、朝のこと。
「藍さん。僕がいなくなったらどうします?」
「さみしい……」
「でも、僕のことなんて誰も必要としない」
「そんなことない。僕は必要としてる……」
「こっちは少年院上がりだって言ったのに?」
自嘲して言う。
「嘘なんでしょ、アレ。……でも、もし本当だとしても、染谷さんはきっと何かしらの正当な理由はあったと思うから……」
「………。
…………。
……もともと僕は捨て子で……引き取られた家も大変に貧乏で……それで僕は育ちの良い男に強く憧れて……でもダメなんですよね。ガラの悪い性根というか本質というか、やっぱりどうも隠し切れなくて……」
続きを待つ。染谷さんは僕に背を向けた。
「昔、この家に入ってきた強盗を叩きのめしたんです。少年院に送られて……それが原因で仮の家族とは一緒に暮らせなくなりました。恥ずかしいって。
はは、実家が極貧、少年院上がり、家族と暮らせない男。……それから藍さんを僕なりに愛している。
あなたの関心を引くために嘘をついてるとしたら、どれが1番マシですかね……?」
その背中がさみしい寂しいと泣いている。
僕はたまらずその背中に抱きついた。独白は止まらない。
「この古いアパート、あともうちょっとしたら取り壊されるらしいんです。こんなクソアパートなんかそりゃ無くなった方が良い。
……ロクな思い出はないけれど、でも僕にとって思い出はここにしかない……ここがなくなるのはさみしくて……誰かにそばにいて欲しかった。でも家族は……もう一緒には過ごせないから……」
そんな最後のひとときを僕と……僕なんかと一緒に過ごそうと思ってくれたんだね。
「僕みたいな人間を受け入れてくれる場所なんて、あの週刊誌出してる会社くらいしかなかったんです。
成り上がりも悪いもんじゃないですよ。いっぱしの人間になれた気がした。
でも本当はわかってるんです。
自分みたいな人間、いない方が周りが幸せなんだと……だけど。
今は君を幸せにしたいと願ってしまっている……」
僕は染谷さんの背中に額を当てて、ギュッと擦り付けた。
そのあと、一緒に初めてコンビニに行った。もう首輪には繋がれていない。
書籍コーナーでふいに目に入ったとある週刊誌の記事。
そこには『テディBREEZE引退。失踪した恋人探しに専念』と書いてあった。ドキッとした。
僕のせいなんだね。ごめんねテディ。
君の側にいてあげられなくて。
でも僕はこの人の側にいてあげなくちゃいけないんだ。……この人を選んだ。選んでしまったんだ。
「藍……」
「ん、ごめん、今いく」
週刊誌を戻す。きっと染谷さんも目にしただろう。
この人にはきっと僕しかいないから。
ごめん、許してテディ。みんな……。
最近やけにパトカーのサイレンの音が聞こえる。
その度にぼくは、染谷さんの手をギュッと握った。
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