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【ヤンデレメーカー#42-②】

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「な、何言ってんですか…!」

もうちょっとで話せるところだったのに。
ずるずると引きずられてまた亜蓮さんから引き離されていく。どうしてだ。いつも、物理的には近くまで来れても何も言葉を交わせない。

じわ、と目頭が熱くなった。

「…そんな顔、僕にはしないじゃないですか。ほんと、藍さんてかわいくないですね」



喧騒に紛れて一瞬キスされた。

すぐに顔を背けた。逃げるようにその場から離れようとした。もしもこんなの見られたら…。そう思うと心が張り裂けてしまいそうだった。



その時。

「藍!!!!!」

ドキッとして振り返った。テディだった。

大勢の人に囲まれていた。
だけど本当に一瞬、テディと目が合った気がする。気のせいだろうか。

「テディくんとこには寄らせない。帰るよ」


力ずくで引っ張られて、僕はよろよろとその場を後にした。


さっき一瞬だけ垣間見えたテディが脳裏にチラつく。酷く憔悴した顔をしていた。僕の方に必死に手を伸ばそうとしていた。一瞬目があって、ぱって笑った気がする。ずっと無くしていた大切な宝物を数年ぶりに見つけたみたいな、あんな顔…。


胸がずきりと傷んだ。

気のせいなんかじゃない、テディは一瞬僕を見つけたんだ。


「藍!!!!!」

叫ぶような声に一瞬圧倒されるようにビクッとして首だけ振り返った。

遠くでテディが捨てられた様な絶望的な表情で、僕を見つめているのが一瞬見えた。



ごめん、テディ…。
君にそんな顔させて。


だけど僕は引き摺られてそのまま帰るしかなかった。



■■■


その日ホテルに戻ったあと。染谷さんが嬉しそうに見せてきたとある動画。

それは、今日の混雑にたまたま居合わせた人がSNSに投稿したショート動画だった。

そこには今日のテディが写っていた。

『藍!!!』

そう必死に手を伸ばして吠えている。悲壮感漂う表情で、僕はマトモに画面を見られなかった。

『アイって誰?』『撮影かなあ』『ヤバい超カッコいい』『なんかのプロモーション?』

それに周囲のざわつく声…。



SNSでもネットニュースでも騒動になっている。熱愛か?って。今日撮影とか仕事とかライブとか、大丈夫だったのかな。あんなの出回ったらテディはおしまいなんじゃないかと不安で仕方なくなる。


頭が痛くて心ざわざわして僕はどうしようもない。ベッドにうずくまって震えていた。

「染谷さん…もう…辞めて…本当…」

「いいえ?お祭り騒ぎを仕掛けるのが記者の仕事なんですよ。皆退屈してる。ゴシップは皆の清涼剤なんでね。…なんて、半分は僕の趣味ですがね。

さ、SNSもアツくなってきたところで最後はドームの日に挑発ぶつけますよ」




悪夢はまだまだ終わらない。

潰れそうな心は持つのだろうか…。僕のも、皆のも…。





続く
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