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【ヤンデレメーカー#39】往復ビンタは痛まない
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咄嗟にばちん、と目の前の男の頬を叩いた。
「…!」
衝撃に流されるままに顔を背けた男…マネキンみたいな横顔の輪郭が妙にくっきりと見えた。
チラと流し目するかの様にこっちを見て言った。
面白そうにくく…と下瞼を三日月型に歪めて。
「どうせなら舌に思いっきり噛み付く方を欲しかったですね。次回はもっと色気ある抵抗、頼みますよ。
さ。帰りますよ」
有無を言わさず、今度こそ染谷さんは僕を引きずって立ち上がった。
■■■
マンションの部屋につくや否や僕をあっという間にロープで拘束し、彼は部屋を出て行った。
何時に帰ってくるのかは分からない。教えてくれないから。
「……」
ベッドにぽすんと横になる。
天井を見上げると、そこにもポスターが貼ってある。
大きく引き伸ばしたBREEZEの写真。いつかのライブ時の写真だろう。王子さまみたいな華麗な衣装着て、彼らは生き生きとした様子で写っている。
宣材用に撮られたポスターとはまた一味違っていた。染谷さんは被写体を撮るのが上手いみたい…。
写真の中の彼らと目が合う。
『藍。お前はそんな所で何してるんだ?』
そう問われている様な気持ちになる。
目を伏せる。寮母だったのはもう前の話だし。皆と仲良くなる所が、変に拗れて辞めることになってしまった。しかもこんな訳の分からない記者に捕まって…。
僕はどうしたら良い?どこで判断を間違えた?
……。
分からない、僕なりに出来ることをやってきたはずだったのに。
す、と目尻をこすった。泣きたいのは彼らの方なんだ。
僕はそれから外でずっと降り続く雨の音を、ただ聴いていた。
■■■
いつの間にかウトウトしていたらしい僕。
気づけばゴソゴソ音がして、起きたら染谷さんが帰ってきていた。
ボストンバッグに色々なんか詰めてるみたいだけど…出張?でも行くのかな。どこか離れた場所に行ってくれたら願ったり叶ったりではあるけれど…。
「あ、藍さん。おきました?ちょうど良いタイミング」
「張り込みはもう良いんですか」
「まあね~良い情報が得られたのでこれでOK。万事整いましたよ。おかげさまでね」
「?どういう意味です…?」
染谷さんは何も言わず、ポンと僕にボストンバッグを放ってきた。
「何これ?」
「それ藍さん用の荷物ですよ。あと1時間したらここ出ますからね」
「何でですか?…あ、もしかして解放!?」
「んな訳ないでしょ。
あのね。僕は事務所に挑戦状出すって言ったでしょ。だからと言ってちゃんとこの家でテディくん来るの待つと思います?
転々とするに決まってるじゃあないですか。
それを追ってくるからドラマ性あって面白いんでしょ」
寝ぼけ頭が一気に覚醒した!
「あ、あな、あなた、ホントに何言ってるんですか!?」
「噛んでますよおかわいいですねえ。
だからね、今言った通り。
テディくんが迎えに来る。けど藍さんがいると思った場所にいない。もちろん監視カメラは置いていく。テディくんの絶望の顔が撮りたいんですよ。すっごく楽しみでしょう?」
あの直情型のテディなら本当にあっちこっち探してきかねない。我を失ってしまったら、あの子はどうなるのだろう。
それに…それにテディががっかりする顔なんて、そんな考えただけで胸が張り裂けてしまいそうだ。かわいそうなテディ。僕はそういうのは大嫌いだ!
「そ…そんなこと言ったって!テディが思い通り来ないかもしれないですよ?僕のことなんてとっくに忘れてるかも!あ、新しい相手見つけてますよ!?」
狼狽ながら反撃した!
染谷さんは荷物を詰める作業をてきぱきやりつつ、興味無さげにチラッと僕を見た。
「別に?そうなったら週刊誌にBREEZEのスキャンダル載せるだけですけどお。
サミーくんの荒れてた頃の写真でしょ。
テディくんが猫っ可愛がりしていた男の子のペットの写真でしょ。
いやあネタはいっぱいあるなあ。もっとあっためといても良かったんですけど。
テディくんが僕を楽しませてくれないんじゃあ、そっちを出して楽しませてもらう。それだけです」
「この…最低男!」
僕は渾身の力で頬を叩いた。
バシ!と乾いた音が室内に響く。手がじんじんと痛む…。
口の端にほんの少し血を滲ませた染谷さん。
ガラ悪く笑った。
「だからあ。痛くねえんだよそれ。せめて噛みついてこいって言ったろ」
男の卑下た内面が顔を出す。スキャンダルのために日陰を這いつくばって生きてきた、その男の性根の部分が。
僕は首を振った。何て言えば良いんだろう。
僕が何度ぶったってこの人には効きやしない。
どうしたらこの人を止められるのだろう。
しかし見透かしたように男は言う。
「安心してよ。
さっきBREEZEの事務所には挑戦状出したから。
相手が乗るかそるか、僕らは捕まるか逃げ切るか。
楽しいゲームの始まりだ。あなたとの逃避行もね」
「そんなのイヤだ!」
抵抗したらぱし、と頬を打たれた。
「良いから俺と来るんだよ!
それにいずれ俺のペットになりたいって。言わせてやるから!」
続く
「…!」
衝撃に流されるままに顔を背けた男…マネキンみたいな横顔の輪郭が妙にくっきりと見えた。
チラと流し目するかの様にこっちを見て言った。
面白そうにくく…と下瞼を三日月型に歪めて。
「どうせなら舌に思いっきり噛み付く方を欲しかったですね。次回はもっと色気ある抵抗、頼みますよ。
さ。帰りますよ」
有無を言わさず、今度こそ染谷さんは僕を引きずって立ち上がった。
■■■
マンションの部屋につくや否や僕をあっという間にロープで拘束し、彼は部屋を出て行った。
何時に帰ってくるのかは分からない。教えてくれないから。
「……」
ベッドにぽすんと横になる。
天井を見上げると、そこにもポスターが貼ってある。
大きく引き伸ばしたBREEZEの写真。いつかのライブ時の写真だろう。王子さまみたいな華麗な衣装着て、彼らは生き生きとした様子で写っている。
宣材用に撮られたポスターとはまた一味違っていた。染谷さんは被写体を撮るのが上手いみたい…。
写真の中の彼らと目が合う。
『藍。お前はそんな所で何してるんだ?』
そう問われている様な気持ちになる。
目を伏せる。寮母だったのはもう前の話だし。皆と仲良くなる所が、変に拗れて辞めることになってしまった。しかもこんな訳の分からない記者に捕まって…。
僕はどうしたら良い?どこで判断を間違えた?
……。
分からない、僕なりに出来ることをやってきたはずだったのに。
す、と目尻をこすった。泣きたいのは彼らの方なんだ。
僕はそれから外でずっと降り続く雨の音を、ただ聴いていた。
■■■
いつの間にかウトウトしていたらしい僕。
気づけばゴソゴソ音がして、起きたら染谷さんが帰ってきていた。
ボストンバッグに色々なんか詰めてるみたいだけど…出張?でも行くのかな。どこか離れた場所に行ってくれたら願ったり叶ったりではあるけれど…。
「あ、藍さん。おきました?ちょうど良いタイミング」
「張り込みはもう良いんですか」
「まあね~良い情報が得られたのでこれでOK。万事整いましたよ。おかげさまでね」
「?どういう意味です…?」
染谷さんは何も言わず、ポンと僕にボストンバッグを放ってきた。
「何これ?」
「それ藍さん用の荷物ですよ。あと1時間したらここ出ますからね」
「何でですか?…あ、もしかして解放!?」
「んな訳ないでしょ。
あのね。僕は事務所に挑戦状出すって言ったでしょ。だからと言ってちゃんとこの家でテディくん来るの待つと思います?
転々とするに決まってるじゃあないですか。
それを追ってくるからドラマ性あって面白いんでしょ」
寝ぼけ頭が一気に覚醒した!
「あ、あな、あなた、ホントに何言ってるんですか!?」
「噛んでますよおかわいいですねえ。
だからね、今言った通り。
テディくんが迎えに来る。けど藍さんがいると思った場所にいない。もちろん監視カメラは置いていく。テディくんの絶望の顔が撮りたいんですよ。すっごく楽しみでしょう?」
あの直情型のテディなら本当にあっちこっち探してきかねない。我を失ってしまったら、あの子はどうなるのだろう。
それに…それにテディががっかりする顔なんて、そんな考えただけで胸が張り裂けてしまいそうだ。かわいそうなテディ。僕はそういうのは大嫌いだ!
「そ…そんなこと言ったって!テディが思い通り来ないかもしれないですよ?僕のことなんてとっくに忘れてるかも!あ、新しい相手見つけてますよ!?」
狼狽ながら反撃した!
染谷さんは荷物を詰める作業をてきぱきやりつつ、興味無さげにチラッと僕を見た。
「別に?そうなったら週刊誌にBREEZEのスキャンダル載せるだけですけどお。
サミーくんの荒れてた頃の写真でしょ。
テディくんが猫っ可愛がりしていた男の子のペットの写真でしょ。
いやあネタはいっぱいあるなあ。もっとあっためといても良かったんですけど。
テディくんが僕を楽しませてくれないんじゃあ、そっちを出して楽しませてもらう。それだけです」
「この…最低男!」
僕は渾身の力で頬を叩いた。
バシ!と乾いた音が室内に響く。手がじんじんと痛む…。
口の端にほんの少し血を滲ませた染谷さん。
ガラ悪く笑った。
「だからあ。痛くねえんだよそれ。せめて噛みついてこいって言ったろ」
男の卑下た内面が顔を出す。スキャンダルのために日陰を這いつくばって生きてきた、その男の性根の部分が。
僕は首を振った。何て言えば良いんだろう。
僕が何度ぶったってこの人には効きやしない。
どうしたらこの人を止められるのだろう。
しかし見透かしたように男は言う。
「安心してよ。
さっきBREEZEの事務所には挑戦状出したから。
相手が乗るかそるか、僕らは捕まるか逃げ切るか。
楽しいゲームの始まりだ。あなたとの逃避行もね」
「そんなのイヤだ!」
抵抗したらぱし、と頬を打たれた。
「良いから俺と来るんだよ!
それにいずれ俺のペットになりたいって。言わせてやるから!」
続く
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