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第四章 ダークネス・カイザー様の行方

43話 包帯にくるまれた左手の紋章

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またも路地裏に連れてこられた私たちは、結構ピンチだったりする。

「暴れやがって、ここまで来るのに苦労したぞ……だが、何故助けを呼ばなかった? まぁ、お前ら人族を助ける悪魔の方が珍しいが……」

「とにかくそういった面では楽でよかったぜ……ペロリ」

バステトの付けた引っ掻き傷を舐めるブタ悪魔。

「だから言っているでしょう。私は高貴な悪魔、あるいはそれに類ずるものよ。助けなんて呼ばずとも、自分の手で解決して見せるわ」

砂埃を払いながら立ち上がる。地面に放り込まれたので、身体の節々が転がった衝撃で痛くなっている。

「高貴な悪魔にしては角も翼も生えてねじゃねーか。ん? だが眼は違うな。本物の悪魔の眼に見えるが、何かしらの魔法がかけられているぜ」

「――主様に近づくな!!」

バステトが私を守るためイノシシの悪魔に襲い掛かって行くのだが、簡単にそのごつい腕で振り払われて倒れ込んでしまった。

「――バ、バステト!」

「キシャーーーーと言っても無駄だぜ。猫の分際で何が出来るよ!」

(そういうことか、この悪魔たちバステトの声がわからないのね)

「へへへ、人族が何でここに居んのか知らねーが随分余裕そうじゃねーか。俺たちが誰か知らねーな」

(もうあの手しかないわ。動画モード動画モード)

スーハースーハーと一呼吸おいて私は宣言する。

「――この左腕を見よ! 下級な悪魔ども! 誰の使い魔に暴力をふるったか……後悔させてやる!」

私は左腕に巻かれた包帯をイノシシとブタの悪魔共に見せてやった。

「主様、いつからそんな設定が、いやいつの間にそんな準備をしていたのですか」

「盲目なるバステトよ。私はいつも左腕に包帯を巻いているぞ!」

「怪我してるってこったなーー、丁度いい手足の二か三本折って持って帰るつもりだったからな。手負いなら大歓迎だぜ、イシシシシ」

イノシシの悪魔が笑い出した。

「――笑っていられるのも今の内よ! 見るがいい! そして震えるがいい! 恐れおののくといい! 我が紋章を目にしてもそんな減らず口が叩けるか試してやるわ!」

私は一気に包帯を左腕から引きはがしていった。

「あん? お前こそ俺たちが誰なのか知らないな。この悪魔界のグルメを食べ進める悪魔である俺グラと相棒のタンだぞ……」

「それがどうした下級悪魔には違いがないわ!」

私は二体の悪魔に手の甲に描かれた魔法陣のようなものを見せた。

「――んなっ!? あの紋章は――」

タンというブタの悪魔が言う。

(つ、通用したのね……? あ、悪魔学の勉強しておいてよかったわ……ソロモン72二柱の序列ナンバーツー、アガレスの紋章)

「――公爵の!? アガレス様の紋章じゃねーか!?」

「な、なにぃーー! もしかしてアガレス様の使い魔か!」

もちろんグラという悪魔も知っているらしかった。

「そうよ。今日はたまたまアガレス様におつかいを頼まれてきたの。これは契約の印。私の身と心はそのアガレス様のもの、それはもう決まっているの。さて、この惨状をアガレス様に報告したらあなた達の生活はどうなるのかしらね」

「――うぐっ、た、頼む。このことは内密に……」

「おい! タン! 何ビビってやがる!」

「なぁに? 私に逆らうってことは大悪魔アガレス様に反旗を翻すということかしら?」

「――す、すみません!」

「そこのイノシシも頭が高いわ!」

「くっ、今ならまだ許してもらえるか?」

「ああ、我はこう見えて寛大だ。勘違いや行き違いは許してやろう。だからとっとと下がれ! この下級悪魔共!」

「「ひぃーーーーーーすんませんしたーーーーーー!!」」

こうして、二体の悪魔グラとタンはその場から去って行った。そして静まり返る路地裏。

「……大丈夫かしらバステト」

「はい、主様それより主様の方は……」

「怪我まではしてないわよ」

私は右肩に再びバステトを乗っけた。

「…………おい、お前、その紋章は何だ?」

静まり返った路地裏にデビルンが現れた。

「あら、知らなかったの? 私は公爵であるアガレス様の使い魔なのよ(この様子もしかしたら契約破棄まで持ち込められるんじゃない?)」

「――そ、そうだったのか!? ――って、騙されるか! 最初に風呂場で会ったとき、手の甲に紋章なんてなかったぞ! いったいどんな手品だよ!」

(ちっ、騙されなかったか。まぁいいわ)

私は手の甲の紋章をペラリと剥がして見せた。

「――シールよ」

そして念のため再びシールを張り付けて、包帯でグルグル巻きにしておいた。

「な、なんだ驚かすなよなぁ! それと今度ははぐれるんじゃないぞ……今の一件でこの世界がどういう場所かわかったろ。俺様から離れるということはお前たちがどんなご馳走に見えているかってことをな」

「ええ、まぁね。っていうか見てたのなら助けなさいよ。私は大切なあなたのご馳走なんでしょう」

「飛び出そうとしたら紋章が見えたんだ。いや~~マジビビった、アガレス様の使い魔に手を出したらどんなことになるかと思ったよ。だから様子を見ていたんだ」

「(っていうか悪魔アガレスって実在するのね)まぁいいわ。じゃあ先輩探しに戻りましょう」

こうしてひと騒動を終えた私たちは、再びダークネス・カイザー様を探すため赤い煙をたぐるのだった。
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