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第四章 希望華
水の鎌vs光の剣
しおりを挟むゴダルセッキが手を差し向けてくると、漂っていた一輪の花がこちらに向いて、輝く光を放ってくる――だが――バァンと内側から暴発してしまう。
「――っ!? な、にをしたんだ」
「――何だっていいじゃないか」
ゴダルセッキは残り一輪になってしまった希望の花を、自分の前へと引き寄せて念入りに調べていく。
「……水の膜か、なるほど、砲口に蓋をするようにして、花が光を放つと暴発する仕組みか……ずる賢くなったなホロム……後がなくなってしまったではないか」
ゴダルセッキが左腕で使い物にならなくなった花を掴み取ると、光となって輝きだし、その形状を円錐から五メートル程の長剣へと変っていく。
――俺も夢幻力を右腕に集めるイメージで、ヴァラレイスの髪切り小鎌をモデルとした五メートル程の水の鎌を夢から現実へと表した。
「話したことがあったはずだ。私が昔、剣術競技を嗜んでいたことを……彼女の前で良い恰好がしたいという理由だけなら痛い目を見るぞ」
「……俺は今を生きる男子高校生ですよ。あなたこそ無理をしない方がいい!」
俺は水の鎌となった右腕を左手で支えながら、ゴダルセッキの元まで走っていく。
間合いを確保すると、鎌を身体の後ろへ回して、光の長剣に狙いをつけて思いっきり振った。
――パキイーンと刃と刃の接触する幻想的な音が響いていく。
「――大きな間違いをしておるぞ、若者よ」
「――が!!」
長剣に押されて、俺の身体は鎌ごと吹き飛ばされてしまった。
「私は普段、話の分からない長老たちの相手して、精神的に疲れているだけであり、肉体的な面は君たちに若い者には――負けないのだよ!」
ゴダルセッキが走り込んできて、光の長剣を振る。
「――あがっ!!」
またしても水の鎌が長剣に押されてしまい、俺の身体が床を転がってしまう。
「ヴァラレイスも愚かな間違いをした。かつて蔓延った絶望に敗北し、自らの希望を捨ててしまったのだ。人々の為? 世界の為? 永遠の幸福の為? それで人類はこんなにも弱くなってしまった。悪夢に左右される脆い心を持ってしまい、暴走してしまってのだ」
「――――!?」
「――希望を持っていたのに使うこともなく、ただ人類に明け渡した正真正銘の敗北者だ。だが、その行いのせいで我々人類もまた絶望に打ちのめされた敗北者の汚名を被ることになったのだ。ただの一人の女が諦めたせいで、この世界は数千年間、絶望に負け続けているのだ」
俺はヴァラレイスの方を見てみると、その表情に後悔と責任を感じた気がした。
(――聞かなくていいヴァラレイス! これはゴダルセッキの見ている悪夢の話なんだ)
声が届いていないのだろうか、彼女は俯く顔をまったく動かさないでいた。
「彼女はああやって、これからも負け続けるつもりだ。ホロム、キミはそれでいいのか? この期を逃せば、彼女はこれから、数千年どころか、数万年、数億年も絶望し続けるんだ」
「――――!?」
「キミは思い人に、そんな残酷なことを続けさせたいと本気で考えているのか?」
(……そうか、ヴァラレイスはこれからも苦しみ続けるんだ。明日、明後日の話じゃない。数千年、数万年、あるいは数億、数兆、無限に続くのかもしれない。俺はそんな彼女をそのままにしておけるのか? こんな一時の彼女への尊重なんて、来週になれば後悔に変わってしまうんじゃないのか? 本当に送り返してしまっていいのか? せっかく会えたのに、せっかく夢が叶ったのに、彼女のためを思うなら心を鬼にしても、嫌がってでも止めるべきなんじゃないか? こんな……彼女に全部押し付けてしまう世界なんて、本当に守る価値があるのか? いっそ、絶望を振り撒かせて、彼女の苦しみをわからせてしまえばいいんじゃないか? 不吉や不幸の象徴と寄ってたかって言いふらしているんだ。また落ちていったって誰も感謝なんかしてくれない。何も知らずに平和にのうのうと生きていくだけなんだ。だったら、希望を与えて、絶望なんか捨てさせてしまった方がよっぽどいい。彼女を絶望に落としてしまうこんな世界に希望なんて必要なのか……もう彼女一人が助かるなら、ずっと一緒にいられるなら俺は……それだけで……)
「……ホロムも、そう思うのか」
彼女は弱々しく呟いた。
「――――っ」
俺は今の考えを忘れることにする。
「私は、結局、希望の重さに耐えかねて逃げただけだと、そう思うのか」
「……いいや、そんなこと、一度として思ったことはなかったよ」
再び俺はゴダルセッキと向かい合う為に、立ち向かう。
「――逃げたのはあなただゴダルセッキさん」
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