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第四章 希望華
仕組まれた真実
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「――――と、扉?」
「……十日前、君と私が歴史会館の大壁画の間であった時には、もう既に始まっていたのだぞ」
(…………十日前)
思い起こす。その日は確か……フェリカの告白があり……その後――歴史会館に立ち寄って、ヴァラレイスの壁画の前で、思いを告げた後、ゴダルセッキと会って……
(――っ!? ま、まさか!?)
あの日、ゴダルセッキが咳き込んでいたのを思い出した。
「そう、あの日――私はあの場に絶望華を持ち込んでいたのだ。君の体内に花粉を取り込ませ、悪夢種を生み出すためにな……時間を調整するのには苦労したがね」
「――時間の調整?」
「言ってしまえば、君はずっと監視されていたんだ。フォレンリース学庭園には私の知り合いが他にもいるんだ。彼らに君の学園生活を教えてもらっていた。だから、まず少女に夢を見せることにしたんだ」
「――待ってくれ、少女って、フェリカの事?」
「そうだとも、他に君を動かせるほどの夢を見ている者はいないはずだ」
「彼女の恋心を利用したのか? 俺をあの大壁画の間に足を運ばせるために……」
「――それだけではない、アレは花粉を吸いこませた後、種の発現は――どの程度の期間が必要かという実験でもあった」
(フェリカで実験だって?)
「とにかく思い悩むだろうキミは、必ずあの壁画まで足を運ぶ、私はその時間に絶望華を持ってあの場に現れたのだ」
「――あの時そんなことを……まさか、禁止区域の扉が破られていたのは……」
「キミが入り込むには、あの門は邪魔だろう。だから警備員の男に悪夢を見せて、破らせておいた。上手く彼は働いてくれたようだ。今はどこで何をしているのか……まぁ、私には関係ないことだな」
「――じゃあ、俺が見たあの悪夢は、全部あなたが仕組んだことだったのか?」
「君がどんな悪夢を見ていたか知らないが、見せるように仕向けたのは私だ」
「――私も、聞いていいか? 何故、ホロムを使った」
ヴァラレイスが口を挟んだ。
「ホロムのヴァラレイスに対する感情は本物だった。地獄の底に落ちてでも、会いに行きたいという強い願望があった。――しかし、決して叶うことのない願いを持つということは、決して苦しみから逃れられないことを意味している。ホロムはキミを知った瞬間、心のどこかで絶望したはずだ。この思いは絶対に届かないのだと、今は大丈夫でも、後々この苦しみは大きくなる。そうなればその生涯は失望で終わっていくのだ。そんな自分のせいで絶望する彼を、この世界を怨望してしまう彼を、君は放ってはおけまいだろう」
「……………………」
ヴァラレイスが黙り込む。
「――お、俺のこの思いを使って、ヴァラレイスを誘き出したって言うのか? そのためにフェリカを、この国の人達全てを巻き込んだのか……?」
「代わりに君は悪夢を叶えることができた。君と私に違いはないぞ。周りは悪夢を叶えようと暴走する中、一人だけ夢を先に叶えて、他者の夢を否定するのは虫のいい話でしかないのだ……彼女に会えて喜んだのだろう? 悪夢が実現して嬉しかっただろう? 次は私が叶える番だというだけの話だ」
「――――――」
俺はゴダルセッキという男が怖くなった。
「……ヴァラレイスそろそろ希望を返そう。その絶望は我々の物だ」
「――――くっ!?」
ゴダルセッキは鏡の裏側に、円錐状の花を一輪だけ回り込ませ、確実に彼女に光を浴びせられる位置で止まらせる。それに対処するべくヴァラレイスは瀕死の身体を動かして、逃れるように鏡を回すのだが、間に合わない――希望の光線が――カァっと輝いて放たれる。
――だが光が放たれる瞬間、一輪の花は――パァン――と破裂する。
「「――――!?」」
ゴダルセッキとヴァラレイスがそれぞれ、目を見開き驚ていた。
「……わかった、悪夢から覚めればいいんだろ……それなら文句はないはずだ。ゴダルセッキさん」
「どういう意味だ?」
「この事件が終わったら、俺は彼女を元の場所へ送り届けるよ」
「せっかく叶えてやった夢を棒に振るつもりか? ここで手放してしまったら永遠に失うのだぞ。彼女に希望を返せば、ヴァラレイスはもう底へ戻ることもない。ずっと一緒にいられるんだぞ。何が不服なんだ? 他人が気になるか? よもや、君までヴァラレイスのように絶望に耐える人生を歩むつもりではないだろうな?」
「――あなたが夢を叶えてくれたんじゃない。ヴァラレイスが俺の呼びかけに答えてくれただけだ」
「――もうそれでいいさ、だから、床で寝ていてくれたまえ」
「……十日前、君と私が歴史会館の大壁画の間であった時には、もう既に始まっていたのだぞ」
(…………十日前)
思い起こす。その日は確か……フェリカの告白があり……その後――歴史会館に立ち寄って、ヴァラレイスの壁画の前で、思いを告げた後、ゴダルセッキと会って……
(――っ!? ま、まさか!?)
あの日、ゴダルセッキが咳き込んでいたのを思い出した。
「そう、あの日――私はあの場に絶望華を持ち込んでいたのだ。君の体内に花粉を取り込ませ、悪夢種を生み出すためにな……時間を調整するのには苦労したがね」
「――時間の調整?」
「言ってしまえば、君はずっと監視されていたんだ。フォレンリース学庭園には私の知り合いが他にもいるんだ。彼らに君の学園生活を教えてもらっていた。だから、まず少女に夢を見せることにしたんだ」
「――待ってくれ、少女って、フェリカの事?」
「そうだとも、他に君を動かせるほどの夢を見ている者はいないはずだ」
「彼女の恋心を利用したのか? 俺をあの大壁画の間に足を運ばせるために……」
「――それだけではない、アレは花粉を吸いこませた後、種の発現は――どの程度の期間が必要かという実験でもあった」
(フェリカで実験だって?)
「とにかく思い悩むだろうキミは、必ずあの壁画まで足を運ぶ、私はその時間に絶望華を持ってあの場に現れたのだ」
「――あの時そんなことを……まさか、禁止区域の扉が破られていたのは……」
「キミが入り込むには、あの門は邪魔だろう。だから警備員の男に悪夢を見せて、破らせておいた。上手く彼は働いてくれたようだ。今はどこで何をしているのか……まぁ、私には関係ないことだな」
「――じゃあ、俺が見たあの悪夢は、全部あなたが仕組んだことだったのか?」
「君がどんな悪夢を見ていたか知らないが、見せるように仕向けたのは私だ」
「――私も、聞いていいか? 何故、ホロムを使った」
ヴァラレイスが口を挟んだ。
「ホロムのヴァラレイスに対する感情は本物だった。地獄の底に落ちてでも、会いに行きたいという強い願望があった。――しかし、決して叶うことのない願いを持つということは、決して苦しみから逃れられないことを意味している。ホロムはキミを知った瞬間、心のどこかで絶望したはずだ。この思いは絶対に届かないのだと、今は大丈夫でも、後々この苦しみは大きくなる。そうなればその生涯は失望で終わっていくのだ。そんな自分のせいで絶望する彼を、この世界を怨望してしまう彼を、君は放ってはおけまいだろう」
「……………………」
ヴァラレイスが黙り込む。
「――お、俺のこの思いを使って、ヴァラレイスを誘き出したって言うのか? そのためにフェリカを、この国の人達全てを巻き込んだのか……?」
「代わりに君は悪夢を叶えることができた。君と私に違いはないぞ。周りは悪夢を叶えようと暴走する中、一人だけ夢を先に叶えて、他者の夢を否定するのは虫のいい話でしかないのだ……彼女に会えて喜んだのだろう? 悪夢が実現して嬉しかっただろう? 次は私が叶える番だというだけの話だ」
「――――――」
俺はゴダルセッキという男が怖くなった。
「……ヴァラレイスそろそろ希望を返そう。その絶望は我々の物だ」
「――――くっ!?」
ゴダルセッキは鏡の裏側に、円錐状の花を一輪だけ回り込ませ、確実に彼女に光を浴びせられる位置で止まらせる。それに対処するべくヴァラレイスは瀕死の身体を動かして、逃れるように鏡を回すのだが、間に合わない――希望の光線が――カァっと輝いて放たれる。
――だが光が放たれる瞬間、一輪の花は――パァン――と破裂する。
「「――――!?」」
ゴダルセッキとヴァラレイスがそれぞれ、目を見開き驚ていた。
「……わかった、悪夢から覚めればいいんだろ……それなら文句はないはずだ。ゴダルセッキさん」
「どういう意味だ?」
「この事件が終わったら、俺は彼女を元の場所へ送り届けるよ」
「せっかく叶えてやった夢を棒に振るつもりか? ここで手放してしまったら永遠に失うのだぞ。彼女に希望を返せば、ヴァラレイスはもう底へ戻ることもない。ずっと一緒にいられるんだぞ。何が不服なんだ? 他人が気になるか? よもや、君までヴァラレイスのように絶望に耐える人生を歩むつもりではないだろうな?」
「――あなたが夢を叶えてくれたんじゃない。ヴァラレイスが俺の呼びかけに答えてくれただけだ」
「――もうそれでいいさ、だから、床で寝ていてくれたまえ」
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