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第四章 希望華
自動昇降機からの移動
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(初めてここへ来たなぁ、これが国会樹治部か……)
塔の内部に入って真っ先に目にしたのは、一七体に及ぶ歴代の最長老たちの銅像だった。円形の広間の壁面には、上階へと続いていく螺旋状の階段が、取り付けられている。
入り口付近には、塔内の案内板があり、目を通しておくことにした。
(……絶望華が保管されていそうな階か、国宝の保管庫とかあるのだろうか……――――っっ!? 最上階が禁断室?)
「……最上階に華を隠しているのか? ふん、わざわざ花粉を散布しやすそうな場所に安置するとは、この国の偉い人達というのは何を考えているんだ?」
「さぁ、何も知らないだけじゃないか? 数千年前からの古文伝に関わることだし、誰も近寄らせないために最上階に保管しているのかも……」
塔内に他の人がいないことを確認して、ヴァラレイスに掴まれていた腕を離してもらう。そして
「……ヴァラレイスあっちだ。階段の他に自動昇降機があるそこから上に――――うっ!?」
案内板からそちらに向かおうとした時、突然身体に寒気が走った。
「……ここは外よりもまずいな。複数の悪夢が混ざり合って瘴気にまで達している」
ヴァラレイスが俺の背中にそっと手を当てきた。そうされると、身体のあらゆる不快感はなくなり、彼女が肩代わりしてくれたのだと知らされる。
「複数の悪夢? この上にも植樹肉者がいるっていうのか?」
「ここに絶望華が保管されているのなら、ここに入り浸っている者たちが、悪夢に一番目覚めやすいのは確かだ……」
「それも、そうか……この国の偉い人達は、対処に遅れていたんじゃなくて、最初から対応が出来ない状況だったのか……」
広間に設置されている、歯車仕掛けの自動昇降機は、この高い高い塔を足を使わずに、どこの階でも自動で上げてくれる最先端の仕掛けが施してあるらしい。以前それを聞いたことがある。これを利用して、二人で最上階へと一気に目指すことにした。
――ガコンという起動音と共に、自動昇降機は上へ上へと俺たちを連れて行ってくれる。
「……これは凄いモノだけど、私の場合だと浮いて移動した方が早いな」
「君はそうかもしれないけど、俺は初めてなんだ。この体験の感動を削ぐようなことは言わないでくれよ」
「……ご、ごめん。そんなつもりはないんだ」
「い、いや、そんなにしょんぼりしなくてもいいさ、俺は別に怒っている訳じゃないんだ」
「…………そうか」
(ヴァラレイスは褒められたりすると気を悪くするけど、こっちの気が悪くなると申し訳なさそうな顔をするんだなぁ……)
「あーーあーー私の事は考えなくていいって――」
その時――――ガゴン!! と自動昇降機の全体が揺れ、同時に停止してしまった。まるで天井の裏に何か重い物を落とされたような感覚だった。
「――っ!? この揺れは!?」
「――来たか! ホロムこの箱から出るぞ!」
ヴァラレイスが自動昇降機に向かって、捻じるように手を動かすと、ナニかを謎の力が働いて、強引に扉をぶち破って外に出る。続けて俺も外へ飛び出すと、一七の数字を目にすることで、今いる階層を確認できた。
「――で、さっきの揺れは何だった……んだ?」
俺は自動昇降機の方を見ると、ヴァラレイスが一人の男の口に指を突っ込んでいるところだった。そして指を取り出して、布で唾液と真っ黒い血を拭き取っていた。
「――ごがああ!! がああああああああああああああああああああああああああああああ!!」
三十代くらいの男性が、悪夢に苛まれる以上の苦しみに身を沈めたような叫びを上げていた。恐らくここの役員の人だろう、そういう服装をしていた。やがて男性は苦しみの叫びを鎮めていく。
「植樹肉者だ。純黒苦血はもう摂取させた…………先を急ごう……」
彼女は階段に足を掛けて上階へと昇っていく。
(――俺が階層を確認している間に決着がついたのか? また何も見られなかった)
俺はヴァラレイスの背中を追いかけて、絶望華が保管されているであろう最上階を目指す。
塔の内部に入って真っ先に目にしたのは、一七体に及ぶ歴代の最長老たちの銅像だった。円形の広間の壁面には、上階へと続いていく螺旋状の階段が、取り付けられている。
入り口付近には、塔内の案内板があり、目を通しておくことにした。
(……絶望華が保管されていそうな階か、国宝の保管庫とかあるのだろうか……――――っっ!? 最上階が禁断室?)
「……最上階に華を隠しているのか? ふん、わざわざ花粉を散布しやすそうな場所に安置するとは、この国の偉い人達というのは何を考えているんだ?」
「さぁ、何も知らないだけじゃないか? 数千年前からの古文伝に関わることだし、誰も近寄らせないために最上階に保管しているのかも……」
塔内に他の人がいないことを確認して、ヴァラレイスに掴まれていた腕を離してもらう。そして
「……ヴァラレイスあっちだ。階段の他に自動昇降機があるそこから上に――――うっ!?」
案内板からそちらに向かおうとした時、突然身体に寒気が走った。
「……ここは外よりもまずいな。複数の悪夢が混ざり合って瘴気にまで達している」
ヴァラレイスが俺の背中にそっと手を当てきた。そうされると、身体のあらゆる不快感はなくなり、彼女が肩代わりしてくれたのだと知らされる。
「複数の悪夢? この上にも植樹肉者がいるっていうのか?」
「ここに絶望華が保管されているのなら、ここに入り浸っている者たちが、悪夢に一番目覚めやすいのは確かだ……」
「それも、そうか……この国の偉い人達は、対処に遅れていたんじゃなくて、最初から対応が出来ない状況だったのか……」
広間に設置されている、歯車仕掛けの自動昇降機は、この高い高い塔を足を使わずに、どこの階でも自動で上げてくれる最先端の仕掛けが施してあるらしい。以前それを聞いたことがある。これを利用して、二人で最上階へと一気に目指すことにした。
――ガコンという起動音と共に、自動昇降機は上へ上へと俺たちを連れて行ってくれる。
「……これは凄いモノだけど、私の場合だと浮いて移動した方が早いな」
「君はそうかもしれないけど、俺は初めてなんだ。この体験の感動を削ぐようなことは言わないでくれよ」
「……ご、ごめん。そんなつもりはないんだ」
「い、いや、そんなにしょんぼりしなくてもいいさ、俺は別に怒っている訳じゃないんだ」
「…………そうか」
(ヴァラレイスは褒められたりすると気を悪くするけど、こっちの気が悪くなると申し訳なさそうな顔をするんだなぁ……)
「あーーあーー私の事は考えなくていいって――」
その時――――ガゴン!! と自動昇降機の全体が揺れ、同時に停止してしまった。まるで天井の裏に何か重い物を落とされたような感覚だった。
「――っ!? この揺れは!?」
「――来たか! ホロムこの箱から出るぞ!」
ヴァラレイスが自動昇降機に向かって、捻じるように手を動かすと、ナニかを謎の力が働いて、強引に扉をぶち破って外に出る。続けて俺も外へ飛び出すと、一七の数字を目にすることで、今いる階層を確認できた。
「――で、さっきの揺れは何だった……んだ?」
俺は自動昇降機の方を見ると、ヴァラレイスが一人の男の口に指を突っ込んでいるところだった。そして指を取り出して、布で唾液と真っ黒い血を拭き取っていた。
「――ごがああ!! がああああああああああああああああああああああああああああああ!!」
三十代くらいの男性が、悪夢に苛まれる以上の苦しみに身を沈めたような叫びを上げていた。恐らくここの役員の人だろう、そういう服装をしていた。やがて男性は苦しみの叫びを鎮めていく。
「植樹肉者だ。純黒苦血はもう摂取させた…………先を急ごう……」
彼女は階段に足を掛けて上階へと昇っていく。
(――俺が階層を確認している間に決着がついたのか? また何も見られなかった)
俺はヴァラレイスの背中を追いかけて、絶望華が保管されているであろう最上階を目指す。
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