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第三章 発芽

ホロムvsイルフド

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「僕に……恋は手に入らない?」
「そう……君は恋をしたいんじゃなくて、恋で胸をときめかせている人になりたいだけなんだ。それでは恋を知ることは出来ない。それはただの悪夢なのさ」

 少しヴァラレイスの口調が混ざってしまっていた。

「………………手に入らないだって?」
「――!?」
「そんなの――ズルいじゃないか!!」

 激昂のするイルフドの背中から、さらなる三本の触手がジュルジュルと水音を発して現れた。
 俺は急いで後ろに下がり、触手に巻き込まれないように遠ざかる。

(触手の数が増えた! あ、悪夢を叶える力が増してしまったのか? ……少し言いすぎたかもしれない)

 合計四本となったイルフドの触手は、うねりにうねって、地面を抉り、民家を叩き、宙で跳ねまわって暴れている。

(あんなの水の腕一本でどうにかなるのか? いや、どうにかしないといけないのか……)

 水の腕を動かすことで調子を確かめて、もう少し大きくするように調整もしておく。

「――恋慕になり得りえない者は、品定めの価値もない!!」

 イルフドが二本の触手をこちらに差し向けて来た。

 一方の触手を水の腕で払い、もう一方を手のひらで掴み取り、力を込めて潰す。

「――ぐうぅぅ!!」

 しかし、払ったはずの触手は鞭のような動きで、水の腕に――バシンと打ち込まれた。俺は身体の重心を崩されて、地面に倒されてしまう。
 その場で起き上がろうとしたとき、もう二本の触手が振り下ろされるのが見えた。立つ暇もないので、地面を無理やり転がって触手の鞭を避ける。
 四本の触手が再度の攻撃に備えて一旦戻っていくと、俺はそのうちの一本を水の腕で掴み取り、力任せに握り潰してやる。

(こっちは一つの腕を使うのに精一杯なのに、あんなに触手の数が多いと、余計にやりにくい)
「――こ、恋だ、恋をする夢が、夢が欲しい」

 四本の触手をうねらせるイルフドは、どうやら眠っているようで、口元は動いていない。アイツの背中に歪な花が咲いていて、声はそこから聞こえてくる。

「――づっ!?」

 先が潰された二本の触手が、こちらへ急速に伸びて来たので、水の腕を思いっきり振って、触手を払い退けてやる。
 けれど性懲りもなく二本の触手は迫ってきて、とっさに水の腕で掴み取ることでなんとか止められた。もう一度、握力に任せて握りつぶす。
 二本の触手がバシュウウーーと水蒸気のようになって消えていく。

(よし! 残りの触手は二本だ!)

 俺は拳を握り込んで一安心していたのだが、

「――邪魔をしないでくれと言っているんだ!」

 イルフドの背中から、さらに二本の触手が生える。また合計四本の触手になる。

(――そうか……確か悪夢力によって現れる物は、血と汗と涙から作られている。なら、女の人たちの水分を吸い取ったイルフドは、他の人よりも力が有り余っているのか)

 今もグネグネとうねる不気味な触手はこちらへと狙いを定めているようだ。
 俺は自分で作り出した水の腕を確認しておく。

(あと何度、この腕で触手を潰していけば、イルフドは止まってくれるんだろう……)

 少しの不安に襲われるけど、浸っている時間はない。
 ――瞬間、不気味な触手が四本同時に襲い掛かってきた。
 一本目と二本目を腕を振って払い退け、三本目も往復させた腕を振るい払う。しかし、四本目の触手は、

「――――ごはっ!!」

 みぞおちに直撃し、身体が後方に吹っ飛ばされてしまった。

「――がはっ! ごほっごほっ! ――ぐふっ!?」

 咳き込んでいる暇なんてない。まとめられた四本の触手が鞭となって横なぎに襲い掛かってきた。サッと腰を下げて、鞭を頭上で通過させてやり過ごした。
 避けた触手の鞭は見知らぬ民家に激突した。木片を吐き出し煙を噴き出しても、住人の騒ぎにならないところを見ると、やはり区域から避難しているせいか、誰かが駆けつけてくることもなかった。

「――はぁ、はぁ、はぁ……ぐふっ、はぁ、はぁ……(い、痛い……こんなこともう、続けていたくないくらいに……けど、イルフドを何とかしないといけないんだ)」

 イルフドは四本の触手をまばらに振るい始めたので、俺は水の腕を使って振るって払い続けていく。

「――――っ!?(まずいこちらの集中力の方が持たない)」

 バシンバシンと触手に打たれ続ける水の腕は徐々に形を乱し始める。

(……せめてもう一本、腕があれば直接、触手を引き千切られるのに……やってみるか? いや、この状況でそこまで集中できない。どうすればいい、この腕で触手を効率よく捌くにはどうすればいい)

 触手を掴んで潰しながら考えていたところで、

「――しまった!!」

 他の三本の触手に水の腕を絡めとられてしまう。勢いよく水の腕ごと引っ張られた俺は、急いで水の腕の構成を夢から覚めるように解いた。身体が地面を転がりゆく。
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