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第三章 発芽

地図をあてに道を進む

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 近場にフォレンリース共和国の全体像が把握できる案内看板があったので、ヴァラレイスに見せてみる。

「ここの辺りに俺の家がある。そして公園がここにある。ここから、こういう風に俺たちは歩いてきて、今はこの区域にいるんだ」

 案内板を指で差し、現在地とか、どこがどうなっているのか説明していく。

「ほう、これは分かりやすいなぁ……街を巡るのに役に立ちそうだが、持っていけないのか?」
「なら、地図を持って行こう。これは自由に持っていっていいモノなんだ」

 ヴァラレイスは地図を受け取ると、まじまじと見ながら歩き出す。
 街の構造と地図が正しいか確かめているようだった。スタスタと早足で歩くので、俺はついて行くのに難儀した。

「おっ、本当に同じ印の店があった……こいつは何だ? 私を導いてくれるのか」

 曲がり角を曲がって、地図の正確さに驚いていた。

(……迷わないようにしなきゃ、地を図にしている意味がないんだよ)

 心の声すら聴いていない彼女は、まだ地図とにらみ合っていた。

「へ~~、この印は何の店だろう。ここへ行くには、どう――――ごあぁ!!」

 ヴァラレイスが街路樹に――ゴン!! と頭をぶつけた。地図に目を落としていたために、下を向いて前を歩いていなかったようだ。

「ごめんごめん。わざとぶつかった訳ではないんだ。許してくれ」
「暗がりでわからないのか? 人じゃない、ただの街路樹だよ。それ……」
「なに? お前、この木にも命があることを知らないのか? 痛みと苦しみは全ての生命にとって皆平等だぞ」
「私の不注意だ。木よ、今の痛みはもらっていくからな、でも私の事は許さなくていいぞ……」

 彼女はそっと手を木に当てて沈黙すること数秒、手を離して木に背を向けた。木の痛みまで貰っていく。

「さて、遊びが過ぎたな。手がかりを探そう」
「ああ、木が羨ましい……」
「――気色悪い!!」

 手掛かりの探索を再開する。

「しかし、異様に人の気配が薄いみたいだが、本当にこの辺りの屋敷に人が住んでいるのか?」
「……トラブル事件が多発したおかげで、大半の住民は別の区域に避難したんだ」
「まぁ、そうか……自分たちの身の安全を考えることが普通だったな」
「…………君だって事件を解決しようとしている。それも普通の事さ」
「違うな。私は“負々敗々の因果”を肩代わりしに来ただけさ……」

 ヴァラレイスが地図を目に落としながら、冷たさのあるセリフを口にした。
 彼女が時計塔を目指していく様はどこか愛らしい。俺はその背後から、子をお遣いへと送り出した母のような気持ちで見守っていた。
 しばらく歩いていたら、ヴァラレイスは道の真ん中で立ち止まり、地図を畳んで前方を見据える。

「? ヴァラレイ――っ!?」

 俺はすぐに彼女に追いつくと、その道の前方に複数の女性が倒れているのがわかった。

「また衰弱した人たちか? けど、キミの綿の効果で」
「いや、彼女たちに悪夢種はまだできていない……恐らくトラブルの被害者だ。前を見ろホロム。新しい植樹肉者がいる。つまり、お前の喧嘩の時間だ」

 俺はゴクリと息を飲み込んで、何者かがいるらしい、道の向こうを見据える。
 すると闇夜の向こうから足音がし、ゆっくりとその正体が露になっていく。
 意外な人物が姿を現した。

「……イルフド?」

 夢でも幻でもない。精気の抜けた表情をした友人が、俺の目の前に佇んでいた。
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