上 下
34 / 69
第三章 発芽

叶うかもしれない夢となる

しおりを挟む

「では、やってみてくれ」

 ヴァラレイスは宙にスッと浮かび上がっていき、俺とレレヤを一対一にして見守る。

「――お前が閉じ込めたんだなぁ!!」
(――俺ではないんだけどさ!)

 怒りをぶつけるレレヤから根の腕が振るわれた。
 俺は、透き通った水の腕で、不気味な根の腕を掴み取って止めた。

「――俺っちの夢を他人が掴むんじゃない!!」

 せっかく水の腕で掴み取ったのに、レレヤの根の腕に暴れられて、振りきられてしまった。

(――力が強いな)

 もう一度、水の腕を振るい、今度は根の腕を地面に抑えつけてみた。
 じたばたと根の腕が動き回り、またしても抑えつけから抜け出されてしまう。

「――俺っちを捕まえておくのが、そっちの夢なら壊してやるぅ!!」

 根の腕で力強い拳を作り、思いっきり振りかぶってくる。

(あっ、殴られる)――俺は反応を遅らせてしまった。

「――っうわぁ!?」

 突然身体に浮遊感を感じた。なんと俺が宙に浮き上がってしまったのだ。代わりに拳が直撃することはなかったけど。

「危なかったな……ヒヤヒヤしたぞ……」

 この浮遊感は、どうやらヴァラレイスが俺を危機から救ってくれたからのようだ。その後また地上に降ろされた。

「……あ、ありが――おっと!」

 彼女にお礼を言う暇はなかった。レレヤの振ってくる根の腕を、避けていくことで精いっぱいだったから。
 水の腕と根の腕がぶつかり合う中、レレヤの腕の方が少しずつ縮んでいるような気がした。

「よし、お前の腕より小さくなってきた、いい具合に悪夢力が減少している。そろそろ、拳を掴み取ってしまえ」
「――簡単にっ! 言うなよっ! っと!」

 振るわれる根の腕を跳ね返し、間一髪のところで避けたりし、ようやく拳を正面から掴み取った。相手の力が弱まっているからか抜け出されることもない。

「よーーし、そのまま力任せに潰してしまえ!」
「――ふっぐうう!!」

 俺は慣れない水の腕に力を入れていく。リンゴを握力で潰してしまうイメージも乗せてだ。すると、根の腕は絡まりが解けるようにバラバラに分散した。

「う、おおおおおおお、俺っちの夢が、夢が……」

 それと同時にレレヤは足から崩れて倒れ込んでいく。
 ――パチパチとヴァラレイスが手拍子をこちらに送って来た。

「……喧嘩の素人にしてはいい動きだったよ」

「はぁ、はぁ……終わったのか……こ、これ、水の腕はどうやって納めるんだ?」
「……夢から覚めればいい。こんな感じで――――ほらっ!!」

 パン!! と猫だましされて、俺が――ビクッとすると、まるで夢から覚めるように水の腕が消えていった。

「さて私の出番だ。お前は少し夜風に当たって休んでいるといい」

 勧められたので、俺は近場にベンチに座り込んで、ヴァラレイスたちを見守る。

「――うあああおおああああ!! ああががあああああぐううあああああ!!」

 純黒苦血を飲まされて、レレヤは苦しんで叫ぶ、とても聞くに堪えない声を上げていた。
 数分してレレヤの叫びは止まる。ヴァラレイスは謎の力で彼を浮かせて、ギターと一緒にベンチまで運んできた。ここに寝かせておく為だろうと、察した俺はそこから離れる。

(……レレヤの、夢か……本当にこれでよかったのだろうか)
「よかったさ」

 ベンチに寝かされたレレヤの表情は、憑き物が落ちたように安らかではあった。

「けど、もうギターは弾けなくなったんだろ? 何だか大事な物を奪ってしまったみたいで、心がスッキリしない」
「……お前は何を言っているんだ? また弾き始めればいいだけの話じゃないか」
「えっ? けどさっきキミは……叶えられないって」
「ああ、悪夢は叶えられない。もう私が貰ってしまったからな。けれど、この子にはこれからの未来がある。もし、またギターを手にして同じ夢を語れることが出来たのなら、今度こそ叶うかもしれない夢になるんだ……」
「…………それでも叶うかもしれない、夢なのか?」
「そう、叶うかもだ。夢というのは曖昧なんだよ…………そして、時に人を悪へと誘うくらい危険な力なんだ……大切なのは、夢を見ている間、本人が幸せでいられるかどうかだ」

 ヴァラレイスが優雅に着物の袖を振ると、どこからか現れた布団がレレヤに掛けられた。風邪を引かせないための処置だろう。

「……いい夢見ろよ、少年」

 まるで子供を寝かしつける母親の様にヴァラレイスが囁くと、眠るレレヤに僅かな笑みが浮かび上がっていた。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

蘇生魔法を授かった僕は戦闘不能の前衛(♀)を何度も復活させる

フルーツパフェ
大衆娯楽
 転移した異世界で唯一、蘇生魔法を授かった僕。  一緒にパーティーを組めば絶対に死ぬ(死んだままになる)ことがない。  そんな口コミがいつの間にか広まって、同じく異世界転移した同業者(多くは女子)から引っ張りだこに!  寛容な僕は彼女達の申し出に快諾するが条件が一つだけ。 ――実は僕、他の戦闘スキルは皆無なんです  そういうわけでパーティーメンバーが前衛に立って死ぬ気で僕を守ることになる。  大丈夫、一度死んでも蘇生魔法で復活させてあげるから。  相互利益はあるはずなのに、どこか鬼畜な匂いがするファンタジー、ここに開幕。      

番だからと攫っておいて、番だと認めないと言われても。

七辻ゆゆ
ファンタジー
特に同情できないので、ルナは手段を選ばず帰国をめざすことにした。

あれ?なんでこうなった?

志位斗 茂家波
ファンタジー
 ある日、正妃教育をしていたルミアナは、婚約者であった王子の堂々とした浮気の現場を見て、ここが前世でやった乙女ゲームの中であり、そして自分は悪役令嬢という立場にあることを思い出した。  …‥って、最終的に国外追放になるのはまぁいいとして、あの超屑王子が国王になったら、この国終わるよね?ならば、絶対に国外追放されないと!! そう意気込み、彼女は国外追放後も生きていけるように色々とやって、ついに婚約破棄を迎える・・・・はずだった。 ‥‥‥あれ?なんでこうなった?

「おまえを愛することはない!」と言ってやったのに、なぜ無視するんだ!

七辻ゆゆ
ファンタジー
俺を見ない、俺の言葉を聞かない、そして触れられない。すり抜ける……なぜだ? 俺はいったい、どうなっているんだ。 真実の愛を取り戻したいだけなのに。

王が気づいたのはあれから十年後

基本二度寝
恋愛
王太子は妃の肩を抱き、反対の手には息子の手を握る。 妃はまだ小さい娘を抱えて、夫に寄り添っていた。 仲睦まじいその王族家族の姿は、国民にも評判がよかった。 側室を取ることもなく、子に恵まれた王家。 王太子は妃を優しく見つめ、妃も王太子を愛しく見つめ返す。 王太子は今日、父から王の座を譲り受けた。 新たな国王の誕生だった。

【完結】父が再婚。義母には連れ子がいて一つ下の妹になるそうですが……ちょうだい癖のある義妹に寮生活は無理なのでは?

つくも茄子
ファンタジー
父が再婚をしました。お相手は男爵夫人。 平民の我が家でいいのですか? 疑問に思うものの、よくよく聞けば、相手も再婚で、娘が一人いるとのこと。 義妹はそれは美しい少女でした。義母に似たのでしょう。父も実娘をそっちのけで義妹にメロメロです。ですが、この新しい義妹には悪癖があるようで、人の物を欲しがるのです。「お義姉様、ちょうだい!」が口癖。あまりに煩いので快く渡しています。何故かって?もうすぐ、学園での寮生活に入るからです。少しの間だけ我慢すれば済むこと。 学園では煩い家族がいない分、のびのびと過ごせていたのですが、義妹が入学してきました。 必ずしも入学しなければならない、というわけではありません。 勉強嫌いの義妹。 この学園は成績順だということを知らないのでは?思った通り、最下位クラスにいってしまった義妹。 両親に駄々をこねているようです。 私のところにも手紙を送ってくるのですから、相当です。 しかも、寮やクラスで揉め事を起こしては顰蹙を買っています。入学早々に学園中の女子を敵にまわしたのです!やりたい放題の義妹に、とうとう、ある処置を施され・・・。 なろう、カクヨム、にも公開中。

いっとう愚かで、惨めで、哀れな末路を辿るはずだった令嬢の矜持

空月
ファンタジー
古くからの名家、貴き血を継ぐローゼンベルグ家――その末子、一人娘として生まれたカトレア・ローゼンベルグは、幼い頃からの婚約者に婚約破棄され、遠方の別荘へと療養の名目で送られた。 その道中に惨めに死ぬはずだった未来を、突然現れた『バグ』によって回避して、ただの『カトレア』として生きていく話。 ※悪役令嬢で婚約破棄物ですが、ざまぁもスッキリもありません。 ※以前投稿していた「いっとう愚かで惨めで哀れだった令嬢の果て」改稿版です。文章量が1.5倍くらいに増えています。

王子を身籠りました

青の雀
恋愛
婚約者である王太子から、毒を盛って殺そうとした冤罪をかけられ収監されるが、その時すでに王太子の子供を身籠っていたセレンティー。 王太子に黙って、出産するも子供の容姿が王家特有の金髪金眼だった。 再び、王太子が毒を盛られ、死にかけた時、我が子と対面するが…というお話。

処理中です...