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第三章 発芽
夢幻を見る力
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「お、俺っちは、夢を……」
転ばされていたレレヤは呻く。
「ごめんよ。もう少し耐えておくれよ」
彼女が髪飾りを一つ外して、レレヤに向かって放り投げると、球状の檻の中へと、強引に収めてしまった。
「…………自分で動きを止められるんじゃないか。喧嘩の必要がなくなったぞ」
「こ、こっちにも都合があるんだ。いいから、私の話を聞きなさい……」
無感情の動揺があった。
「お前には、あの子と同じ力を使って喧嘩してもらう」
「……レレヤみたいに悪夢の力を使えばいいのか? ど、どうやってさ……だいたい俺は夢を叶えたから、悪夢力っていうモノがなくなってしまったんだろ?」
「いいや、悪夢を叶える必要がなくなっただけで、まだお前の中に力は残っている」
「……わかりやすく言ってくれないか?」
「お前には悪夢力はないが、夢を叶えた力がまだ残ってる。そういう力は夢幻力と呼ばれている。正当な方法で悪夢を叶えた者が、使わなかった力を持て余して行使できる力だ」
「……俺にも君みたいな特殊な力が使えるようになっているのか?」
「私の呪われし力とはまた違うさ。綺麗で清らかで希少な力だ」
「……その夢幻力で、レレヤみたいに腕を作って喧嘩をすればいいのか?」
「腕じゃなくてもいい。とにかくお前には可能性があるとを教えたかったんだ」
「……俺に夢を実体化させる力が、やっぱり、それも血と汗と涙を代価にするのか?」
「いいや、夢の力は、そんなものは必要としない。頭に思い浮かべるだけでいいはずだ。できれば人に見せられるような綺麗な物をイメージした方がいい。悪夢とは違うと明確に自分に課しておくことで、安定した物が実体化されるはずだ」
(……頭に思い浮かんだものか)
「まぁ……最初だ。あの少年と同じように腕でも出してみろ」
(……出してみろって簡単に言ったってそんなもの……)
試しに念じてみると右腕から、水のようなものが滲み出てくる。どんどん溢れて纏わりついてくるので、正直言って怖い。
「――――わわわっ!!!?」
「ああ、言い忘れてた。お前には私の純黒苦血を摂取せていたよな? それがお前の――この場合は夢の種か――それを制御する手助けをしてくれる」
「ど、どうすればいい!! どんどん水が溢れて大きくなっていくぞ!」
「落ち着け……それは水に見えるだけで、身体の水分ではない。お前の夢の実体化だ。そうだなぁ……目を閉じて思い浮かべろ、形とか大きさがどれくらいか……安定してきたら教えてやるからさ」
息を吐いて緊張を解く、そして瞼を下げる。
(……不思議だ。彼女の言葉を聞くと心が落ち着く、いや不安を肩代わりしてくれているのか。ってこれも聞かれてるのかなぁ…………いや、いつもみたいに話しかけてこない。それはそうか、今はイメージに集中させようとしているんだ。俺の気を乱すようなことはしないつもりなんだ……レレヤの声も聞こえてこない)
(形は……普通の腕でいいか。大きさは……とりあえず身の丈くらいでいいか。なるべく綺麗な見た目をしている方がいいな。そう、彼女の様な真っ白くて品やかな腕……)
自分の夢のイメージが完璧に固まったのを感じる。
――思考する最中に、その声が突然割り込んでくた。
「――おい、ホロム目を開けろ……」
彼女が声のままに、俺は瞼を上げる。そして右腕を見ると、イメージ通りの腕が出来ていた。
「――よし、狙い通り出来たみたいだ。これでいいのかヴァラレイス?」
「その気色悪い腕は誰の手だよ。まったくさ……まぁいい……喧嘩の準備はいいか?」
無感情の不機嫌を感じた。
「――よ、よくない! これをどうすればいいのさ!」
「……振り回せばいいだろ、あの少年みたいに……ほら、檻から出すぞ」
彼女は手をスッと上げ、レレヤを捕えた檻へと翳す。
「――ま、待ってくれ、こんな水みたいな腕で、本当に何とかなるのか!?」
「水ではないと言ったはずだ。それは夢幻力だ。そしてあっちの植物は、悪夢力。どちらも夢で、力と力は対等だ。これで覚えたな」
「掴んだり、振ったり、殴ればいいのか……レレヤに……」
「狙うのは植物の腕だけでいい。取っ組み合っていればいつか分解される…………もういいか? 檻から出すぞ?」
俺は覚悟を決めてコクンと頷いて見せる。ヴァラレイスは手の仕草だけで、離れた場所にある檻の扉をゆっくりと開いてみせる。
「ぐうぅ、夢を閉じ込めるならぁ~~――俺っちの敵だぁ!!」
瞬間――檻からレレヤが飛び出してくる。叫びの声は彼の口からではなく、植物の腕に開いた口から聞こえてきたものだったが、まごうことなき本人の声だった。
転ばされていたレレヤは呻く。
「ごめんよ。もう少し耐えておくれよ」
彼女が髪飾りを一つ外して、レレヤに向かって放り投げると、球状の檻の中へと、強引に収めてしまった。
「…………自分で動きを止められるんじゃないか。喧嘩の必要がなくなったぞ」
「こ、こっちにも都合があるんだ。いいから、私の話を聞きなさい……」
無感情の動揺があった。
「お前には、あの子と同じ力を使って喧嘩してもらう」
「……レレヤみたいに悪夢の力を使えばいいのか? ど、どうやってさ……だいたい俺は夢を叶えたから、悪夢力っていうモノがなくなってしまったんだろ?」
「いいや、悪夢を叶える必要がなくなっただけで、まだお前の中に力は残っている」
「……わかりやすく言ってくれないか?」
「お前には悪夢力はないが、夢を叶えた力がまだ残ってる。そういう力は夢幻力と呼ばれている。正当な方法で悪夢を叶えた者が、使わなかった力を持て余して行使できる力だ」
「……俺にも君みたいな特殊な力が使えるようになっているのか?」
「私の呪われし力とはまた違うさ。綺麗で清らかで希少な力だ」
「……その夢幻力で、レレヤみたいに腕を作って喧嘩をすればいいのか?」
「腕じゃなくてもいい。とにかくお前には可能性があるとを教えたかったんだ」
「……俺に夢を実体化させる力が、やっぱり、それも血と汗と涙を代価にするのか?」
「いいや、夢の力は、そんなものは必要としない。頭に思い浮かべるだけでいいはずだ。できれば人に見せられるような綺麗な物をイメージした方がいい。悪夢とは違うと明確に自分に課しておくことで、安定した物が実体化されるはずだ」
(……頭に思い浮かんだものか)
「まぁ……最初だ。あの少年と同じように腕でも出してみろ」
(……出してみろって簡単に言ったってそんなもの……)
試しに念じてみると右腕から、水のようなものが滲み出てくる。どんどん溢れて纏わりついてくるので、正直言って怖い。
「――――わわわっ!!!?」
「ああ、言い忘れてた。お前には私の純黒苦血を摂取せていたよな? それがお前の――この場合は夢の種か――それを制御する手助けをしてくれる」
「ど、どうすればいい!! どんどん水が溢れて大きくなっていくぞ!」
「落ち着け……それは水に見えるだけで、身体の水分ではない。お前の夢の実体化だ。そうだなぁ……目を閉じて思い浮かべろ、形とか大きさがどれくらいか……安定してきたら教えてやるからさ」
息を吐いて緊張を解く、そして瞼を下げる。
(……不思議だ。彼女の言葉を聞くと心が落ち着く、いや不安を肩代わりしてくれているのか。ってこれも聞かれてるのかなぁ…………いや、いつもみたいに話しかけてこない。それはそうか、今はイメージに集中させようとしているんだ。俺の気を乱すようなことはしないつもりなんだ……レレヤの声も聞こえてこない)
(形は……普通の腕でいいか。大きさは……とりあえず身の丈くらいでいいか。なるべく綺麗な見た目をしている方がいいな。そう、彼女の様な真っ白くて品やかな腕……)
自分の夢のイメージが完璧に固まったのを感じる。
――思考する最中に、その声が突然割り込んでくた。
「――おい、ホロム目を開けろ……」
彼女が声のままに、俺は瞼を上げる。そして右腕を見ると、イメージ通りの腕が出来ていた。
「――よし、狙い通り出来たみたいだ。これでいいのかヴァラレイス?」
「その気色悪い腕は誰の手だよ。まったくさ……まぁいい……喧嘩の準備はいいか?」
無感情の不機嫌を感じた。
「――よ、よくない! これをどうすればいいのさ!」
「……振り回せばいいだろ、あの少年みたいに……ほら、檻から出すぞ」
彼女は手をスッと上げ、レレヤを捕えた檻へと翳す。
「――ま、待ってくれ、こんな水みたいな腕で、本当に何とかなるのか!?」
「水ではないと言ったはずだ。それは夢幻力だ。そしてあっちの植物は、悪夢力。どちらも夢で、力と力は対等だ。これで覚えたな」
「掴んだり、振ったり、殴ればいいのか……レレヤに……」
「狙うのは植物の腕だけでいい。取っ組み合っていればいつか分解される…………もういいか? 檻から出すぞ?」
俺は覚悟を決めてコクンと頷いて見せる。ヴァラレイスは手の仕草だけで、離れた場所にある檻の扉をゆっくりと開いてみせる。
「ぐうぅ、夢を閉じ込めるならぁ~~――俺っちの敵だぁ!!」
瞬間――檻からレレヤが飛び出してくる。叫びの声は彼の口からではなく、植物の腕に開いた口から聞こえてきたものだったが、まごうことなき本人の声だった。
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