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第二章 異常

目撃するトラブル

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「フェリカさん……フェリカさん? 聞こえますか? フェリカさん……ここは診療所ですよ。返事は出来ますか?」

「うぅ~~~~、うううっ、うっぐう~~」

 ただ苦しそうな表情で呻くだけのフェリカが、

「うぅ~~、せ、んぱい……せん……ぱい」

「――――!?」

 フェリカが誰を呼んでいるかわかってしまった。それは俺だ。

「わた、し、しんじてる……また、いっしょに、いられるって……」

 弱々しいその言葉を聞いた。

「だから、きらいに、ならないで……」

 閉ざされたままの瞳からは哀しみの涙が零れ落ち、開く口からは気分の悪そうな唾が垂れていき、そしてまた意識を深く沈めていった。

 「フェリカさーん? フェリカさーん? 聞こえますかー? ――先生!」

 看護婦が反応を示さない患者に戸惑う。

「大丈夫、息はしているよ。……今起きたことと、現状できることをお母さんに説明しよう。呼んできてくれるかい……」
「はい」

 看護婦さんが診察室から出ていく。

「ホロム君も動けるのなら今のうちに帰りなさい。僕の見たところ君の精神もだいぶ疲れているようだよ」
「……はい……そうします。ティエル先生……先ほどは失礼しました」
「気にしてないよ。うんうん…………きっと、こんな事態はヴァラレイスさんが肩代わりしてくれる。だから、それまでの辛抱なんだよね。それが言いたかったんだろう?」
「……はい。では、先生フェリカのこと頼みます」

 診察室から出ていくと、看護婦さんに連れられたフェリカの母親とすれ違い。廊下を通ってそのまま待合室から診療所の外へ出て、自宅への帰路を辿っていく。

「キャーーーーーーー」

(……な、なんだ? いま、聞いたこともないような音が……人の声なのか?)

道行く先で女性の……悲鳴というモノが耳の内側まで突き刺してきた。異様な不安を抱いたけど、気になってそちらへ向かうことにした。

「は、離してくれーー! 俺に触らないでくれーー! お前らーー俺を捕まえて何をするつもりだーー!」

人だかりをかき分けて進むと、ある男が数人の警備隊に取り押さえられていて、そのままどこかへ連れて行かれるところを目にした。そして先ほどの悲鳴を上げた女性はというと……洋服店だろうか? 店内の荒れ果てた様を見て、泣き崩れてしまい、周囲の人々に慰められていた。

(な、何があったんだろう……)

その問いに答えるかのように、傍にいた二人の主婦がヒソヒソと話を始めた。

「どうしたの? あの奥さんどうして泣いているの?」
「また例の事件よ。ほらっトラブルが多発してるっていう……急に男が押しかけて、店内で滅茶苦茶に暴れまわったらしいの」
「それホント? どうしてそんなことになったの?」
「わからないけど、俺にはこんな服に合わないんだーー! だからもっと違うものを作ってくれぇーー! って叫んでいたらしいわ」
「それで、あんなにキレイなお洋服がビリビリに引き裂かれてしまったの? まぁ怖い」

主婦たちは涙を流していく女性を見守り続け、周りの人たちも悲しそうにしている被害者を助け起こしたりする。

(この区域でも、トラブルが発生し始めたのか。いったい、この世界はどうなってしまったんだ……)

恐ろしい事態を目の当たりにして、安心に身を沈めたい気分になった俺は、早々に自宅へと帰っていく。

(早く、いつもの日常に戻ってくれないかなぁ……)
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