上 下
11 / 69
第一章 日常

知り合いのお偉いおじさん

しおりを挟む
 フェリカが立ち去った後のこと。
 薄暗い広間でソファーに腰掛けていた俺は、しばらく壁画の少女を見つめていた。いつの間にやら他の人たちもいなくなり、俺一人だけがその空間を独占していた。
 けれど、背後から足音がコツコツと鳴るのを耳にして、誰かが広間に入って来たのだと気が付いた。

(もしかしてフェリカか? やっぱり帰らずに歴史会館を見て行くことにしたのかな?)

 そう思って、すぐそこまで近づいてきた足音の発生源が誰なのかを確認すると、

「やぁ、こんにちはホロム・ターケン君」

 知り合いのお偉いおじさんだった。

「なんだ、ゴダルセッキさんでしたか……はぁ……」
「あからさまになんだね? 人の顔を見てため息とは、そんなに若いオナゴの方がいいかね……わからなくもないが、私はこれでもフォレンリース国の議員だぞ。そのような態度は感心しないな」
「すみません。ちょっとした悩みがあって、確かに失礼でしたね……」
「まぁ、弁えてくれるのなら構わない」

 ソファーに腰を下ろし、俺の隣に座ったのは短い茶髪のゴダルセッキさん。
 フォレンリース国の中央区域の“国会樹治塔”の若き上役さんだ。若きといっても四十代半ばの男性だが、日頃から様々な政策に取り掛かっている。
 重苦しい装束に身を包んだ姿は議員らしさを引き立たせ、人目も無いので普段は堅い表情も緩くなっているようだった。

「……悩みがあるのなら私が聞こうか? こう見えても相談事には幾たびか力になったことがある」
「いえ、自分で解決したいことなので……」
「そうか、それもいいだろう。大いに悩め若者よ……」

 そこで、一息の間があって少し気まずかった。

「そういえば、学業はどうかな……? いや、グラルの息子だ、さして問題はないだろう……そいえば、どこぞで働いているのだったか?」
「はい、ティエルさんの診療所で、お手伝い程度の簡単な仕事をさせてもらっています」
「……う~~む、国から出されている支給金では足りぬか?」
「いえ、将来のために今の内から出来る限り貯金をしておこうかと思ったんです」
「そうか、まぁ確かにその方が良いだろうな。感心した頑張りたまえよ……」

 そうして、また静かになって気まずい空気が漂う。

「……父と母を欠いて寂しくはないかね」
「ええ、もう慣れました……一人で生活する分には……」
「強がらずともよい。私としてもグラル・ターケン氏の不在には寂しさを感じている。あれほど行動的な歴史家を失ってしまったのは、国としても忍びない」

 広間に僅かな沈黙が訪れる。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

蘇生魔法を授かった僕は戦闘不能の前衛(♀)を何度も復活させる

フルーツパフェ
大衆娯楽
 転移した異世界で唯一、蘇生魔法を授かった僕。  一緒にパーティーを組めば絶対に死ぬ(死んだままになる)ことがない。  そんな口コミがいつの間にか広まって、同じく異世界転移した同業者(多くは女子)から引っ張りだこに!  寛容な僕は彼女達の申し出に快諾するが条件が一つだけ。 ――実は僕、他の戦闘スキルは皆無なんです  そういうわけでパーティーメンバーが前衛に立って死ぬ気で僕を守ることになる。  大丈夫、一度死んでも蘇生魔法で復活させてあげるから。  相互利益はあるはずなのに、どこか鬼畜な匂いがするファンタジー、ここに開幕。      

初夜に「君を愛するつもりはない」と夫から言われた妻のその後

澤谷弥(さわたに わたる)
ファンタジー
結婚式の日の夜。夫のイアンは妻のケイトに向かって「お前を愛するつもりはない」と言い放つ。 ケイトは知っていた。イアンには他に好きな女性がいるのだ。この結婚は家のため。そうわかっていたはずなのに――。 ※短いお話です。 ※恋愛要素が薄いのでファンタジーです。おまけ程度です。

父が再婚しました

Ruhuna
ファンタジー
母が亡くなって1ヶ月後に 父が再婚しました

あれ?なんでこうなった?

志位斗 茂家波
ファンタジー
 ある日、正妃教育をしていたルミアナは、婚約者であった王子の堂々とした浮気の現場を見て、ここが前世でやった乙女ゲームの中であり、そして自分は悪役令嬢という立場にあることを思い出した。  …‥って、最終的に国外追放になるのはまぁいいとして、あの超屑王子が国王になったら、この国終わるよね?ならば、絶対に国外追放されないと!! そう意気込み、彼女は国外追放後も生きていけるように色々とやって、ついに婚約破棄を迎える・・・・はずだった。 ‥‥‥あれ?なんでこうなった?

妻の死を人伝てに知りました。

あとさん♪
恋愛
妻の死を知り、急いで戻った公爵邸。 サウロ・トライシオンと面会したのは成長し大人になった息子ダミアンだった。 彼は母親の死には触れず、自分の父親は既に死んでいると言った。 ※なんちゃって異世界。 ※「~はもう遅い」系の「ねぇ、いまどんな気持ち?」みたいな話に挑戦しようとしたら、なぜかこうなった。 ※作中、葬儀の描写はちょっとだけありますが、人死の描写はありません。 ※人によってはモヤるかも。広いお心でお読みくださいませ<(_ _)>

「おまえを愛することはない!」と言ってやったのに、なぜ無視するんだ!

七辻ゆゆ
ファンタジー
俺を見ない、俺の言葉を聞かない、そして触れられない。すり抜ける……なぜだ? 俺はいったい、どうなっているんだ。 真実の愛を取り戻したいだけなのに。

【完結】父が再婚。義母には連れ子がいて一つ下の妹になるそうですが……ちょうだい癖のある義妹に寮生活は無理なのでは?

つくも茄子
ファンタジー
父が再婚をしました。お相手は男爵夫人。 平民の我が家でいいのですか? 疑問に思うものの、よくよく聞けば、相手も再婚で、娘が一人いるとのこと。 義妹はそれは美しい少女でした。義母に似たのでしょう。父も実娘をそっちのけで義妹にメロメロです。ですが、この新しい義妹には悪癖があるようで、人の物を欲しがるのです。「お義姉様、ちょうだい!」が口癖。あまりに煩いので快く渡しています。何故かって?もうすぐ、学園での寮生活に入るからです。少しの間だけ我慢すれば済むこと。 学園では煩い家族がいない分、のびのびと過ごせていたのですが、義妹が入学してきました。 必ずしも入学しなければならない、というわけではありません。 勉強嫌いの義妹。 この学園は成績順だということを知らないのでは?思った通り、最下位クラスにいってしまった義妹。 両親に駄々をこねているようです。 私のところにも手紙を送ってくるのですから、相当です。 しかも、寮やクラスで揉め事を起こしては顰蹙を買っています。入学早々に学園中の女子を敵にまわしたのです!やりたい放題の義妹に、とうとう、ある処置を施され・・・。 なろう、カクヨム、にも公開中。

王が気づいたのはあれから十年後

基本二度寝
恋愛
王太子は妃の肩を抱き、反対の手には息子の手を握る。 妃はまだ小さい娘を抱えて、夫に寄り添っていた。 仲睦まじいその王族家族の姿は、国民にも評判がよかった。 側室を取ることもなく、子に恵まれた王家。 王太子は妃を優しく見つめ、妃も王太子を愛しく見つめ返す。 王太子は今日、父から王の座を譲り受けた。 新たな国王の誕生だった。

処理中です...