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第一章 日常

後輩からのラブレター

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 それは本日、三度目になる授業中でのこと。
 教室では数十人の生徒たちが静かに授業を受けている。俺も本来なら話を聞いて、教師の出してくる問いを考えるのだけど、この時間にフェリカからの手紙を読むことにした。ちなみに科目は文学。
 教師が黒板に文字を書いている隙に、俺は渡された封筒を開封して、手紙を抜き取っていく。
 なるべく音を立てないように、四つ折りになっていた手紙を開いていく。
 そして、あの予感が的中してしまったのを知った。

(……マジか)

 手紙に軽く目を通してみただけでも分かってしまう。これは正真正銘、乙女が一生に一度の大勝負を決めた時のお手紙だ。噂に名高いラブレターに間違いなかった。

(手紙から彼女の香りがする……字も達筆だ。嘘や冗談ではない。真剣さが伝わってくる……気軽に読んでいいモノではなさそうだな)

 教科書に目を通すフリをして、ラブレターの内容の方を黙読していく。



 おはようかな。こんにちはかな。
 高等部一年のフェリカです。
 突然、お手紙にビックリしたかもしれませんね。ごめんなさい。
 けれど私は、どうしてもこの思いを伝えたくなってしまいました。
 でも、自分の気持ちを口に出すことはあまり得意ではないので、お手紙で伝えることにしようと思います。
 まずは、私の一方的な思いを聞いてください。

 ホロム先輩。

 私は、

 私はあなたが好きです。好きです。大好きです。大大大好きです。

 私はホロム先輩に恋をしてしまいました。
 いつからなのかはもうわかりませんが、ずっと先輩のことを考えています。
 これを読んでいる時も、きっと胸が張り裂けそうなくらい気になってしまっていることでしょう。
 覚えておいででしょうか。私が一人、全学生共有の勉強室にて問題に行き詰っている時にお声をかけてくださったこと。
 あれがきっかけで、たくさんたくさん勉強を見てくださったりしてくれましたね。
 先輩の教えはとても分かりやすく、私の理解が及ぶまで、多くの時間もくださいました。
 私はいつからか、先輩の優しさと素敵な人柄に惹かれるようになっていきました。
 いつも理由を見つけては会いに行き、用事もないのにお話をしにいったりしていましたが、もうこそこそするのはやめにしたいです。
 皆の前で堂々と、先輩の隣に寄り添って、登校も下校も校内でも昼食でも、ずっとずっと一緒にいたいです。
 だから告白します。

 ホロム先輩、私とお付き合いしてください。

 今日の放課後、私は庭園の方で待っています。そこでお返事を聞かせてください。お願いします。

 あなたを大好きなフェリカより、ホロム先輩へ。



(マジだ……)

 ドストレートすぎるラブレターの内容で、身体は内側から熱くなり、顔は真っ赤になっていったことだろう。謎のドキドキまで来る。

(ここまでストレートに思いを伝える子だったんだ……何だろ、恥ずかしいと言うか、まさか、この気持ちは嬉しいのか? 俺は喜んでいるのか?)

 今にも教室から飛び出したくなるような身体の疼きがあって、何とか必死に理性で押し込む。

(くぅ~~~~、うぅ~~~~、今ここで叫んで楽になりたいぃ~~)

 恥ずかしさのあまり表情は歪む。ドキドキしっぱなしの心臓。立ち上がりたい衝動。

「ふぅーーーー」

 と、息を吐いて自分を正常に戻すことに専念する。

(落ち着け落ち着け、しっかり受け止め、これからのことを考えろ。フェリカの告白を真剣に考えるんだ。俺は彼女と付き合うべきかどうか……焦らずゆっくり考えるんだ)

 手紙を封筒に戻し、懐に忍ばせて、授業に集中しているフリをして考える。

(どうする。彼女はいい子だ。悲しませたくない、ならばこの願いを叶えてあげるべきか? いや、告白されたんだ。こちらの気持ちもちゃんと告白しないと……キミに喜んでほしいから付き合ってあげるよ、なんて答えはあり得ない)

 コッコッと教師が黒板に文字を書き込む音の中で、俺は考えをまとめる。

(……俺にも気持ちはある。俺がフェリカに告白すべきことは一つだけ、そう一つだけだ。それをどうにかして知ってもらおう)

 少しだけ平静を取り戻して、黒板に溜まっていた文字を筆記長に書き写す余裕が出来た。

(……やはり、俺は変人みたいだ)
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