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第十五章 大規模レース大会、本気を出して1位を目指す

第721話 あたいは最速の大魔王シーアースカイ

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 デンジャラエンビーズという異世界は今、レース大会が近いのでお祭り騒ぎだった。

 ロード達は奇怪な乗り物を見たり、意気込みを語る人たちの話を聞き、目的地を目指す。

 その目的地というのが、今大会の優勝候補、大魔王シーアースカイの調整場だった。

「ドルちゃん頑張って」

 スワンがあまりの人ごみの多さに飲まれそうになるドルフィーナを応援する。

「クパパパパパパパパパパパ」

 ドルフィーナはその一言でやる気を出す。

「すいませーーん通してくださーーい!」

 ドノミが周りの人に呼びかける。

 そうすると前方を塞いでいた一団が道を開けてくれた。

「流石、5000万界語をマスターしたドノミさんだ」

 ハズレが褒める。

「今のはゼンワ語です。話そうと思えばロードさんも出来るはずです」

「そうか、だったら――――」

 ロードは大きく息を吸い込んだ。そして――

「大魔王シーアースカイはどこにいるーーーー!!」

 ロードは周りの人たちに単刀直入に訊いていた。

 周りの老若男女が指をそろえて前方を指す。

 ロード達は前へ前へと進んで行く。

「ちっ、うるせーな」

 荷船で寝そべっていたグラスが言う。

 前へ前へと進むごとに何か楽器を鳴らすような音が聞こえて来た。

 ギィンギィンと弦楽器が電子音を響かせて鳴る。

「この音はエレキギターですね」

 ドノミが言う。

「何だ? そのエレキギターというのは……?」

 ブケンが訊いていた。

「通称エレクトリックギター。金属の弦で振動をピックアップし、電気信号を起こしてアンプにより音を増幅させる楽器のことです」

「へ~~~~」

 よく分かっていないブケンだった。

 ロード達は大魔王の元へ辿り着くことを目指していたが、エレキギターの音もどんどん近づいてくる。

「うるさい」

 先ほどよりも大きくギュインギュインと音が鳴ることで、ミハニーツもイラつく。

 しまいには全員耳を塞いで、ある調整所まで来ていた。

 看板にはゼンワ語でシーアースカイのコンサート会場と書かれていた。

 エレキギターを弾いていたのはピンクと紫色の混ざったモヒカン頭に趣味の悪いサングラスをかけ、全体的にパンクな格好をしていた筋肉質の男だった。もちろん大魔王である。

「いえいえーーーーい!! あたいは誰だい!?」

「はっ! 最速の大魔王シーアースカイであります!」

 配下の魔物が耳を抑えるのを我慢して言葉を発する。

「そんでもって目の前の豆粒たちは誰だい!?」

「大魔王シーアースカイ様のファンであります!」

「あらそう! ファンサービスしないとね! ホラホラホラ!!」

 エレキギターのピックを上げていくシーアースカイ。

「「「うるさーい!!」」」

 ロード達がエレキギターの音に文句を発する。

「あん!?」

 その発言は大魔王の耳に届いた。そして、コンサートを邪魔した豆粒たちを見ていた。

「大魔王シーアースカイ! ここで俺たちに出会ったのが運の尽き、大人しく倒されろ!」

 ロードが二本の剣を構えて大魔王に挑もうとする。

「ミチ――――」

「ストーーーーップ! あなた達ここへ何しに来たの? あたいはただレース大会を楽しみに来たのよ! 応援されるならわかるけど、倒される義理はないわ!!」

 シーアースカイはロードの顔の間近で叫ぶ。

「そうとも……」

 その時、一人の老人がやって来ていた。

「誰だ!」

 ロードが小生意気な声を聞く。

「おお~~~~バーバスちゃん! この血気盛んな子にあたいが無実だって証明してよ~~」

「ルッキング・バーバス。この異世界の所有者」

 ミハニーツが呟く。

「良かろう。おい、小僧……わしはこの異世界の統治者ルッキング・バーバスだ。ここでの戦闘行為は一切禁じている。魔物だろうと魔物狩りだろうとわしの私有地でごたごたは許さん。もし倒したければ何でもありのデスマッチレースに出場し、己の力で大魔王とやらを倒して見せよ」

「大魔王だぞ! 人を何人殺して来たかもわからないような奴だぞ!? こいつを見逃せというのか!?」

「だから、イヤならデスマッチレースに出場してレースの中で倒すことだ。まぁお前さんにこの大魔王に追いつけるだけのレース経験があるのなら別だがね」

「ここで倒すのは……?」

 ロードが訊く。

「わしの目の黒いうちはレース出場者には何もさせんよ。何かあれば法的手段で裁くがね」

「ロード、もしかしたら無害型の大魔王の可能性もある。ここは大人しくしよう」

 ハズレがロードの剣を掴んだ手を握る。

「まぁそんな荷船じゃあ、追いつくことも難しいがね」

 ハッハッハと笑いながらルッキングはその場から立ち去って行った。

「そういうこと――――じゃあコンサートの続き行くわよ!」

「「「いえい!!」」」

 配下のサルのような魔物たちがシーアースカイのコンサートを盛り上げる。

「待て! 人を殺したことはあるか!?」

「ん~~~~ないわよ!」

 エレキギターを弾き始める大魔王シーアースカイ。

「無害型(それとも……レース場なら斬っても構わないか……)」

 ロードは呟くと剣を鞘に納めた。

 スワン一行もコンサートの音がうるさすぎたためその場を後にした。

(オレもレースに参加しよう)

 ロードは意気込んだ。
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