上 下
688 / 743
第十四章 彼と彼女の両想いになるまでの一週間の逃避行

第688話 目玉焼きとヘアカット

しおりを挟む
 フローランと過ごす三日目の朝。

 林に掛けたハンモックで眠っているロード。

 そして早朝からフローランは忙しかった。

 ロードの荷物から火起こし石を打ち付けて、どこから持って来たのか卵を割り、荷物からフライパンを持って目玉焼きを作り始める。

 そのかぐわしい匂いに釣られてロードは目を覚ます。

「ん……んん……」

「あら起きましたか? でしたら少し待っていてください。すぐに朝食の準備をしますので……」

「ああ、わかった……って何を作っているんだ?」

「目玉焼きです知りませんか? 卵を割ってそのままフライパンに敷いて卵白と黄卵を焼くんでしてよ。その見た目から目玉焼きと名付けられました」

「ああ、そうか、わかった。出来たらまた起こしてくれ」

「まさかの二度寝、あなた本当に使用人だったころがありまして? さぁ食事時ですハンモックを片付けて顔を洗ってらっしゃい」

 フローランに叱られた。しかし警戒心が無い。そのやりとりはまるで友人同士だった。

「わかったよ」

 ロードは朝から上品に叱るフローランの言うことを訊き、ハンモックから降りた。

 そしてハンモックを片付けて顔を洗いに行く。

「行ってらっしゃい川辺はあちらです」

 笑顔のフローランが川のある方を指差す。

「はーい(今日はやけに機嫌がいいな)」

 ロードは川辺の方へ向かう。そして川に映る自分の顔を見る。

(昨日の深夜、絵本の話で盛り上がったからだろうか)
(だとしたら見せて良かった。あの子とは気が合いそうだ)

 ロードはそう思いながら顔を水で洗い流す。

 顔の汚れをとったあと、フローランの元へ帰ると、

「はい、どうぞ」

 どちらが従者か分からない。顔を拭くためのタオルが差し出された。

「あ、ああ、ありがとう」

 ロードがタオルを受け取ると、直ぐに目玉焼きの調子を確認するフローラン。

「うん! できました! ではいただきましょう!」

 フライパンには二つの目玉焼きがあった。

「「いただきます」」

 それぞれのお皿に一つづつの目玉焼きを食していく。

「どこで取ってきた卵なんだ? まさか泥棒とかしてないよな?」

 ロードが訊く。

「まぁ、なんて失礼な方、この異世界は全て私達王家の敷地です。どこで何しようが咎められる理由はありません」

「それ抜きで答えてくれ」

「まぁ、近場ににわとり小屋がありましてそこから管理人さんに頼み込んで譲ってもらったんです」

 フローランが上品にナイフとフォークを使って目玉焼きを食べる。

「そうか、しっかり許可は貰ったんだ」

 ロードがぺろりと目玉焼きをたいらげた。

「ときに目玉焼きには固焼き派と半熟派があります。あなたはどちら?」

「何だそれは?」

「黄卵の話です。硬く焼かれているモノと生で作られているものがあるのです」

「う~~ん、じゃあオレが食べているのは?」

「固焼きです」

「キミが食べているのは?」

「半熟です」

「食べてみたい」

「わかりました、ではお口をお開けになって、はいあ~~~~ん」

「あ~~~~ん」

 パクリ、と半熟卵を食べた。

「いかがですか?」

「うん、これはこれで美味しい」

「良かった」

 フローランとロードはそれからも色々な話をして楽しそうだった。

 主に故郷の話題中心で、


 ▼ ▼ ▼


 数十分後。

 二人は川辺で皿洗いをしていた。

「あなたの髪。昨日の戦いで乱れてますね。私が切りそろえて差し上げましょうか」

 何気ない提案だった。

「おう、願ってもない提案だ。最近、髪が伸びてきたと思ってたんだ? 綺麗にカットしてくれよ?」

「わかりました。大きな船に乗ったつもりで楽をしなさい」

 そうしてロードとフローランは髪を切る準備を整えた。

 鏡が無いのでフローランは近くや遠くからロードの顔に似合った髪型を探していた。

 そして決意して何の変哲もないはさみでヘアカットしていく。

「このハサミでは少し毛先が痛むかもしれませんが、容赦してください」

 サクサクサクとロードの髪を切りそろえていくフローラン。

 ロードの髪が切りそろえられていく。


 ▼ ▼ ▼


 数十分後。

「出来ました」

 ロードの髪型は決まっていた。緩く逆立つ髪はそのままに少し短くなって、前髪も目元まで掛かっていたのが、まぶたまでとなった。

 ロードは手鏡を見てこう言う。

「さっぱりしたな」

「はい」

 そしてフローランは切った髪をロードの肩から払い、髪が溜まった敷物を片付けた。

 ロードは着ていたヘアカット用の衣服を脱いで、折りたたみ式の椅子を荷物袋にしまい込んで行く。

 ロードとフローランはそうして早朝を終えた。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

幼なじみ三人が勇者に魅了されちゃって寝盗られるんだけど数年後勇者が死んで正気に戻った幼なじみ達がめちゃくちゃ後悔する話

妄想屋さん
ファンタジー
『元彼?冗談でしょ?僕はもうあんなのもうどうでもいいよ!』 『ええ、アタシはあなたに愛して欲しい。あんなゴミもう知らないわ!』 『ええ!そうですとも!だから早く私にも――』  大切な三人の仲間を勇者に〈魅了〉で奪い取られて絶望した主人公と、〈魅了〉から解放されて今までの自分たちの行いに絶望するヒロイン達の話。

ハズレスキル【分解】が超絶当たりだった件~仲間たちから捨てられたけど、拾ったゴミスキルを優良スキルに作り変えて何でも解決する~

名無し
ファンタジー
お前の代わりなんざいくらでもいる。パーティーリーダーからそう宣告され、あっさり捨てられた主人公フォード。彼のスキル【分解】は、所有物を瞬時にバラバラにして持ち運びやすくする程度の効果だと思われていたが、なんとスキルにも適用されるもので、【分解】したスキルなら幾らでも所有できるというチートスキルであった。捨てられているゴミスキルを【分解】することで有用なスキルに作り変えていくうち、彼はなんでも解決屋を開くことを思いつき、底辺冒険者から成り上がっていく。

【完結】【勇者】の称号が無かった美少年は王宮を追放されたのでのんびり異世界を謳歌する

雪雪ノ雪
ファンタジー
ある日、突然学校にいた人全員が【勇者】として召喚された。 その召喚に巻き込まれた少年柊茜は、1人だけ【勇者】の称号がなかった。 代わりにあったのは【ラグナロク】という【固有exスキル】。 それを見た柊茜は 「あー....このスキルのせいで【勇者】の称号がなかったのかー。まぁ、ス・ラ・イ・厶・に【勇者】って称号とか合わないからなぁ…」 【勇者】の称号が無かった柊茜は、王宮を追放されてしまう。 追放されてしまった柊茜は、特に慌てる事もなくのんびり異世界を謳歌する..........たぶん….... 主人公は男の娘です 基本主人公が自分を表す時は「私」と表現します

大切”だった”仲間に裏切られたので、皆殺しにしようと思います

騙道みりあ
ファンタジー
 魔王を討伐し、世界に平和をもたらした”勇者パーティー”。  その一員であり、”人類最強”と呼ばれる少年ユウキは、何故か仲間たちに裏切られてしまう。  仲間への信頼、恋人への愛。それら全てが作られたものだと知り、ユウキは怒りを覚えた。  なので、全員殺すことにした。  1話完結ですが、続編も考えています。

冤罪をかけられ、彼女まで寝取られた俺。潔白が証明され、皆は後悔しても戻れない事を知ったらしい

一本橋
恋愛
痴漢という犯罪者のレッテルを張られた鈴木正俊は、周りの信用を失った。 しかし、その実態は私人逮捕による冤罪だった。 家族をはじめ、友人やクラスメイトまでもが見限り、ひとり孤独へとなってしまう。 そんな正俊を慰めようと現れた彼女だったが、そこへ私人逮捕の首謀者である“山本”の姿が。 そこで、唯一の頼みだった彼女にさえも裏切られていたことを知ることになる。 ……絶望し、身を投げようとする正俊だったが、そこに学校一の美少女と呼ばれている幼馴染みが現れて──

性欲排泄欲処理系メイド 〜三大欲求、全部満たします〜

mm
ファンタジー
私はメイドのさおり。今日からある男性のメイドをすることになったんだけど…業務内容は「全般のお世話」。トイレもお風呂も、性欲も!? ※スカトロ表現多数あり ※作者が描きたいことを書いてるだけなので同じような内容が続くことがあります

無能なので辞めさせていただきます!

サカキ カリイ
ファンタジー
ブラック商業ギルドにて、休みなく働き詰めだった自分。 マウントとる新人が入って来て、馬鹿にされだした。 えっ上司まで新人に同調してこちらに辞めろだって? 残業は無能の証拠、職務に時間が長くかかる分、 無駄に残業代払わせてるからお前を辞めさせたいって? はいはいわかりました。 辞めますよ。 退職後、困ったんですかね?さあ、知りませんねえ。 自分無能なんで、なんにもわかりませんから。 カクヨム、なろうにも同内容のものを時差投稿しております。

魔王を倒した手柄を横取りされたけど、俺を処刑するのは無理じゃないかな

七辻ゆゆ
ファンタジー
「では罪人よ。おまえはあくまで自分が勇者であり、魔王を倒したと言うのだな?」 「そうそう」  茶番にも飽きてきた。処刑できるというのなら、ぜひやってみてほしい。  無理だと思うけど。

処理中です...