上 下
672 / 774
第十四章 彼と彼女の両想いになるまでの一週間の逃避行

第672話 おかしな絵本

しおりを挟む
 とある異世界の広場。

 飲料店も店仕舞いして、一行は夕食を取っていた。

「うぅ~~~~、売り上げが食費で消えていく~~」

 スワンが普通の肉料理で嘆いていた。

「仕方ないだろ……食べなきゃ明日の仕事に差し支えるんだから……」

 ハズレがワインを片手に肉料理を食べる。

「貴重なぶどうでワインを作る男がよく言う」

 ブケンがツッコむ。

「これがオレの闇夜の過ごし方さ」

「どうでもいいけどよ~~うまいなこの肉、メルヘン女にしては、いいもん食わせてくれて嬉しいぜ」

 グラスが感服し、珍しいお礼を言う。

「本当は魚料理が食べたかったけど……この辺りに魚が出回ってなかったんだよ~~」

 スワンが魚料理の味を求めながら言う。

「ええ、近場に海や川が無いのでしょう。魚の類は見かけませんでした」

 買い出しに付き合ったドノミが言う。

「はぁ~~次は海と川の近い場所の異世界に行きましょう」

 スワンが不服ながら肉料理を食べる。

「まぁ、魚は食べると頭がよくなるといいますし、そういう場所へ行き、日々の戦い方をイメージトレーニングするのもいいかもしれませんね」

「と言うか、従業員全員に衣・食・住を与えてる私の飲料店って超ホワイト企業じゃない?」

 スワンが肉を上品に食べ終えて言う。

「ありがとうスワン」

 ロードが感謝した。

「ううぅ~~~~~、そう素直に感謝されると気分いい」

 スワンがたじろぐ。

「最高の社長だな」

 ハズレが言う。

「メルヘン女! 明日もうまい飯頼むぞ!」

 グラスが食い散らかしながら言う。

「メルヘン女やめろ……」

 ドスの効いた声を上げるスワン。

「いつもいつも、食事を提供してくれて感謝感謝だな」

「そう、感謝されても私の金貨の借金の前では嬉しくないんだけど」

「あ、あの~~私の食費だけでも自分で出しましょうか?」

「ああ! ドノミさん、そういう意味で言ったわけじゃないの……」

 スワンとドノミが会話していた。

「なぁ、皆何か忘れてないか?」

 ロードが唐突に話題を変えた。

「何かって?」

 スワンが訊く。

「ああ、魔王パスラパサイダか」

 ハズレが答える。

「探すつもりか? あの異世界の狭間って所でも探し出せなかったのにか?」

 グラスが言う。

「ここ一週間、噂や手掛かりが一切ないですからね~~正直言って手づまりです」

 ドノミが言う。

「まぁ、最近戦闘不足で身体がなまって来たようだし魔王を探して吐かせた方がいいのではないか?」

 ブケンが言う。

「そうだなぁ~~ハズレたちの秘宝玉も使えるようにしたいし、魔王達の動向も気になる。どっちを優先すべきか」

 ロードが旅の方針を決める。

「いや、私の借金返そうよ」

 スワンが呟く。

「ちょっといい?」

 今まで黙っていたミハニーツが食事を終えて手を上げる。

「どうしたミハニーツ? 何か案でも?」

 ロードが訊いてみる。

「違う。ロードの持っていた絵本の話」

「ま~~たメルヘン女が増えやがった」

 グラスの一言にギロリと睨むスワンとミハニーツ。

 グラスは委縮した。

「絵本の感想か? どうだった! 面白かったか!? 全部読んだ感想は!?」

 ロードが食い付いた。

「そうなると長いぞ、ミハニーツさん」

 ハズレがワインを口にする。

「違うの……感想の話じゃない。この絵本の主人公の話」

「どういうことだ?」

「忘れたのロード、ヴィンセント先生の言葉を勇者はまだあらゆる異世界で定着していないって……」

「――――!!!? そうだった」

「どういうこと?」

 スワンが訊くがミハニーツは無視する。

「この絵本には作者の名前が無い。なおかつ勇者の存在を知っているロード、この本いつ手に入れたの?」

「オレがストンヒュー王国に居て12才の頃だ」

「だったらおかしい。私が勇者を広めた第一人者だとしたら16才の頃、絵本の作者は勇者を知らないはず」

「たまたま、かぶってしまっただけじゃないか? 勇ましい者を略して勇者にしたんじゃないか?」

「本気でそう思う?」

 ミハニーツがじっと見る。

「………………いや、おかしいな」

 ロードが考えてから言う。

「ヴィンセント先生に会いに行こう。何か知ってるかも……」

「それは無理、私家出中だもん」

 ミハニーツは帰りたくないようだった。

「わかった、取りあえず勇者の話は後回しだな」

「うん」

 ミハニーツの訊きたいことは終わった。

 そして皆で談話して食事を楽しんだ。


 ▼ ▼ ▼


 それから数時間後。

 皆、ハンモックで就寝した。


 ▼ ▼ ▼


 ロードは朝早く誰よりも目が覚めた。

 朝日が昇るのもまだ先だった。

「ふぅ~~(まだ皆寝ているな。散歩でもしてくるか)」

 ロードはそう考えた。

 そして散歩の一歩目。


 ▼ ▼ ▼


 どこでもない暗闇の花畑。

「――――!!!?」

 ロードの身体が硬直した。指先一本動かせない。瞬きすらできない。

 その時、

「またお会いしましたね」

 ロードが忘れていたはずのコロアイという女性と再会した。
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

スライム10,000体討伐から始まるハーレム生活

昼寝部
ファンタジー
 この世界は12歳になったら神からスキルを授かることができ、俺も12歳になった時にスキルを授かった。  しかし、俺のスキルは【@&¥#%】と正しく表記されず、役に立たないスキルということが判明した。  そんな中、両親を亡くした俺は妹に不自由のない生活を送ってもらうため、冒険者として活動を始める。  しかし、【@&¥#%】というスキルでは強いモンスターを討伐することができず、3年間冒険者をしてもスライムしか倒せなかった。  そんなある日、俺がスライムを10,000体討伐した瞬間、スキル【@&¥#%】がチートスキルへと変化して……。  これは、ある日突然、最強の冒険者となった主人公が、今まで『スライムしか倒せないゴミ』とバカにしてきた奴らに“ざまぁ”し、美少女たちと幸せな日々を過ごす物語。

レベルアップに魅せられすぎた男の異世界探求記(旧題カンスト厨の異世界探検記)

荻野
ファンタジー
ハーデス 「ワシとこの遺跡ダンジョンをそなたの魔法で成仏させてくれぬかのぅ?」 俺 「確かに俺の神聖魔法はレベルが高い。神様であるアンタとこのダンジョンを成仏させるというのも出来るかもしれないな」 ハーデス 「では……」 俺 「だが断る!」 ハーデス 「むっ、今何と?」 俺 「断ると言ったんだ」 ハーデス 「なぜだ?」 俺 「……俺のレベルだ」 ハーデス 「……は?」 俺 「あともう数千回くらいアンタを倒せば俺のレベルをカンストさせられそうなんだ。だからそれまでは聞き入れることが出来ない」 ハーデス 「レベルをカンスト? お、お主……正気か? 神であるワシですらレベルは9000なんじゃぞ? それをカンスト? 神をも上回る力をそなたは既に得ておるのじゃぞ?」 俺 「そんなことは知ったことじゃない。俺の目標はレベルをカンストさせること。それだけだ」 ハーデス 「……正気……なのか?」 俺 「もちろん」 異世界に放り込まれた俺は、昔ハマったゲームのように異世界をコンプリートすることにした。 たとえ周りの者たちがなんと言おうとも、俺は異世界を極め尽くしてみせる!

父が再婚しました

Ruhuna
ファンタジー
母が亡くなって1ヶ月後に 父が再婚しました

転生貴族のハーレムチート生活 【400万ポイント突破】

ゼクト
ファンタジー
ファンタジー大賞に応募中です。 ぜひ投票お願いします ある日、神崎優斗は川でおぼれているおばあちゃんを助けようとして川の中にある岩にあたりおばあちゃんは助けられたが死んでしまったそれをたまたま地球を見ていた創造神が転生をさせてくれることになりいろいろな神の加護をもらい今貴族の子として転生するのであった 【不定期になると思います まだはじめたばかりなのでアドバイスなどどんどんコメントしてください。ノベルバ、小説家になろう、カクヨムにも同じ作品を投稿しているので、気が向いたら、そちらもお願いします。 累計400万ポイント突破しました。 応援ありがとうございます。】 ツイッター始めました→ゼクト  @VEUu26CiB0OpjtL

日本帝国陸海軍 混成異世界根拠地隊

北鴨梨
ファンタジー
太平洋戦争も終盤に近付いた1944(昭和19)年末、日本海軍が特攻作戦のため終結させた南方の小規模な空母機動部隊、北方の輸送兼対潜掃討部隊、小笠原増援輸送部隊が突如として消失し、異世界へ転移した。米軍相手には苦戦続きの彼らが、航空戦力と火力、機動力を生かして他を圧倒し、図らずも異世界最強の軍隊となってしまい、その情勢に大きく関わって引っ掻き回すことになる。

転生したら、伯爵家の嫡子で勝ち組!だけど脳内に神様ぽいのが囁いて、色々依頼する。これって異世界ブラック企業?それとも社畜?誰か助けて

ゆうた
ファンタジー
森の国編 ヴェルトゥール王国戦記  大学2年生の誠一は、大学生活をまったりと過ごしていた。 それが何の因果か、異世界に突然、転生してしまった。  生まれも育ちも恵まれた環境の伯爵家の嫡男に転生したから、 まったりのんびりライフを楽しもうとしていた。  しかし、なぜか脳に直接、神様ぽいのから、四六時中、依頼がくる。 無視すると、身体中がキリキリと痛むし、うるさいしで、依頼をこなす。 これって異世界ブラック企業?神様の社畜的な感じ?  依頼をこなしてると、いつの間か英雄扱いで、 いろんな所から依頼がひっきりなし舞い込む。 誰かこの悪循環、何とかして! まったりどころか、ヘロヘロな毎日!誰か助けて

転生幼女のチートな悠々自適生活〜伝統魔法を使い続けていたら気づけば賢者になっていた〜

犬社護
ファンタジー
ユミル(4歳)は気がついたら、崖下にある森の中にいた。 馬車が崖下に落下した影響で、前世の記憶を思い出す。周囲には散乱した荷物だけでなく、さっきまで会話していた家族が横たわっており、自分だけ助かっていることにショックを受ける。 大雨の中を泣き叫んでいる時、1体の小さな精霊カーバンクルが現れる。前世もふもふ好きだったユミルは、もふもふ精霊と会話することで悲しみも和らぎ、互いに打ち解けることに成功する。 精霊カーバンクルと仲良くなったことで、彼女は日本古来の伝統に関わる魔法を習得するのだが、チート魔法のせいで色々やらかしていく。まわりの精霊や街に住む平民や貴族達もそれに振り回されるものの、愛くるしく天真爛漫な彼女を見ることで、皆がほっこり心を癒されていく。 人々や精霊に愛されていくユミルは、伝統魔法で仲間たちと悠々自適な生活を目指します。

おっさんの神器はハズレではない

兎屋亀吉
ファンタジー
今日も元気に満員電車で通勤途中のおっさんは、突然異世界から召喚されてしまう。一緒に召喚された大勢の人々と共に、女神様から一人3つの神器をいただけることになったおっさん。はたしておっさんは何を選ぶのか。おっさんの選んだ神器の能力とは。

処理中です...