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第十三章 悪夢と絶望を夢と希望で乗り越える

第639話 水の難敵

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 二戦目の勝利はハズレが持って行った。

「お前、よく勝てたな」

 珍しくグラスが賞賛する。

「短期決戦は得意な方だからな」

 ハズレが椅子の腰掛ける。

「さーて、次はどっちが行く? オレかスワンか……」

 ブケンが言う。

 スワンは相手チームの方を見る。

「ハズレ次はどんな人が出てくる?」

 スワンが訊いていた。

「ん? ああ、3勝すればいいから、流れが欲しいんじゃないか?」

「流れって何?」

「勢いだよ……マラソン選手が溜めていた足を解放して、一気に相手との距離を詰めて追い抜くタイミングとか」

「勢い……じゃあ、四人目で勝とうとしてるってこと?」

「まぁ、そうなるな」

 この時、
(だったら精霊の術を使うには次の相手でいいか)
 スワンはこう思った。

「ロード、あの人たちに口止めしといて、私が精霊の術使いだってことを……」

「ああ、わかった」

「じゃあブケン私が行く」

「勝てよ」

「うん」

 しゃがんでいたスワンが作戦会議から立ち上がり、エリア内の中央に向かう。

「相手が出たぞ……行ってこいフリム、同じ女性相手ならやりやすいだろ」

「ええ、行ってくるわ」

 エルフのフリムが立ち上がり、エリア内の中央に向かう。

 両者は目と目が合う。

「どうぞ、お手柔らかに……」

 お辞儀をするフリム。

「こちらこそ……」

 お辞儀で返すスワン。

「始めて……」

 審判のミハニーツは適当に仕切る。

「さぁ、可愛い可愛い、草花ちゃん、私の為に動いてくれる」

 始めに声を出したのはフリムだった。今の一言を合図にその辺に生えていた草や花が、レンガの隙間にたくましく生きていた姿を根っこごとさらす。要するに草花が生き物のように動き出したのだ。

「何……それ」

「可愛らしいでしょう? 私は植物の秘宝玉の使い手、その力は辺りの植物を自由自在に動かすことなの」

 フリムの肩に乗る花の小人、フリムの周りに集まる草の小人たち、二足歩行で動いていた。

「水霊の鉄砲」

 スワンは自分の指を銃の形にして先端から水を発射させた。

 それをフリムの肩に乗っていた花が根っこを向けて水を吸収した。

 この時、
(私の水が吸収された!?)
 スワンが驚いた。

「あの水の技は何だ? 秘宝玉の力か?」

 何気なくファンタがロードに話しかけてくる。

「ああ、あの技はせい――――――いや、口止めされてるから言えない」

「そっか」

 ファンタは気にせず勝負を観戦していた。

「行ってきて草花ちゃん達!」

 合わせて約50の草花が一斉にスワンに飛び掛かる。

 スワンはそれをフラスコの中の水を使ってサーフボードを作り出し空中へ逃げた。

 そのまま、フリムに直進する。

「草花ちゃんたちお願い」

 約50の草花がスワンの前に組み合わさり、壁を作って立ちふさがり、根っこを向けて直進して来る水のサーフボードを吸収していく。

 そして伸びる根っこに絡めとられ、スワンは身体の自由を奪われていく。

「水霊の鱗」

 スワンは自分の体内にあった水分で絡まる根っこから滑り抜けた。

 しかし、脱水症状を引き起こしかねないこの術で、スワンの身体は水を求めた。

 スワンがストックのフラスコの水を一気飲みする。

「ロード、どうやら勝負あったな。フリムに水の攻撃は利かない。相性が悪いこの勝負貰った」

「いいや、スワンの目をよく見てみろまだ諦めてない」

 ロードとファンタがそんなやり取りの会話をした。

「草花の矢」

 草花たちが根っこを螺旋状に巻き付けて、あたかも弓矢のごとく発射させていく。

 さっきの飛び掛かりと違い、スピードの乗った攻撃がスワンを襲う。

「水霊の壁!」

 スワンの前に水の壁が出来、草花の矢を防いでいく。しかし――――

「無駄よ」

 フリムの攻撃はただ単に突っ込むだけじゃなかった。

「本当は相手に絡みついて水分を吸収していくんだけどね。水の壁なら好都合、それすら草花ちゃんたちは吸収していく」

 フリムの言う通り、水の壁に刺さった草花の矢が水の壁を吸収していく。そして程なくして水の壁は消えて行った。

「さぁ、草花ちゃんたち飛び掛かって――――!」

「無理」

 スワンが呟く。

「――――!?」

 フリムは見た。あわあわと慌てふためく草花たちの姿を、

「あなたの草花たちはとても小さい、水分を吸収したわいいけど、その容量に耐えきれず溺れてしまうの」

「――――!? 水を吐き出して――草花ちゃんたち」

 水を吐き出す草花たちだったが――――その水を使ってスワンは――

「水霊の腕!」

 全く動かないフリムを4本指の水の手が掴みとる。

「――――くっ!?」

「そこまで――――勝負はついた」

 ミハニーツが止める。

 フリムは水の拘束から解放され、草花たちも元生えていた位置に戻る。

「勉強になったわ」

 握手を求めてくるフリム。

「こちらこそ」

 握手で返すスワン。

 互いの力を認め合った二人だった。

「なぁロード、精霊って知ってるか?」

 ファンタはスワンの力に感づいた。

「他言無用だ」

 ロードは口止めさせた。
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