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第十二章 明かされし衝撃の事実と兄妹愛

第599話 長い長い苦しみの終わり

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 黄金の湖に佇む廃墟の城。名を勇卵の城という。

 その城がある区域は緑色の空で覆われていく。

(何だこの空は……長年ガークスボッテンに住んでいたけど見たこともない現象だ)

 ロードは物珍しい顔で見ていた。

「なぁ、アッ――――!?」

 ロードは自分の妹に話しかけようとした。その時、

「また、また、邪魔するの……」

 魔王の目をしたアップが緑色の空を見上げていた。

「こ、この空の色。まさかあの怪物の仕業では――――!?」

 ラジルバフアが怯える。

「何だ急にどうした? この現象を知って――――」

 その時ロードは浮遊感に襲われた。

 そして――――


 ◆ ◆ ◆ ◆


 色合界・ガークスボッテン・歪曲地帯。

 ロードはそこに召喚された。そこは黒光りする平面の地面と柱のようなクリスタルが並んでいた。

「――――うわっ!?」

 ロードは突然景色が変わったことに驚いた。

「回収完了」

 シルベが言う。

「ロード!」

 ミハニーツが仰向けに倒れているロードを抱え起こした。

「ミ、ミハニーツ……」

「良かった。無事で、本当に、また会えて、よかった」

 涙声のミハニーツが抱きしめてくる。

「お、おい、あっ……ハズレ」

「やあ」

「スワン」

「無事だった……」

「グラス」

「フン、生きてたか」

「ドノミ」

「やはりこの異世界に、ご無事で何よりです」

「ブケン」

「お前はオレの知る最強だ。そう簡単に死なんだろう」

「皆来てくれたのか……」

「ついてきたのはあたしたちだけじゃないぞ……あそこを見な」

 シルベがある方向へ指を差す。

 そこにいたのは腰を曲げた老人。長い白髪に長い白髭。しわだらけの顔はもういつ他界してもおかしくないくらいに思わせる。

 その老人はランラ・ロベーロ、十大英雄の内の一人、結界の秘宝玉の持ち主だった。

「あ、あの人は……」

「もう大丈夫だぞ、ロード大英雄様が俺たちの手助けをしてくれる」

 ハズレがさわやかに笑う。

「ロードも見たでしょ最後の砦の大結界を……それを何年も維持し続けてくれた人が助けてくれるって」

 スワンが説明する。

「見てなよ。あの大魔王を倒してくれるから……」

 シルベが期待していた。

「倒す!? 待っ――――――」

 その時。カンと杖を突く音が床のような地面からした。

「大結界、苦しみの結界」

 前にあった時のような力の声ではない。威厳と腹の空気を吐き出すような力強い声だった。

「これで、どんな敵だろうと苦しみ続ける」

「苦しみ続ける敵? 誰のことだ?」

「何を言ってるのロードを連れ去ったあの魔王の事だよ」

 ミハニーツが甘く優しい声を出す。

 しかし、ロードはイヤな予感がした。

「待ってくれ! あの大魔王には何もしないでくれ!」

「何を言っているんだロード。あの人ならたとえ何回、倒すことが出来なくても倒せるかもしれないんだぞ」

「ど、どうやって、あの魔王は不死の秘宝玉を持っている。誰にも倒せない!」

「ホウ、不死の秘宝玉か。ならばなおのことこの苦しみの結界はこたえるじゃろうて」

「どういうことです?」

 ロードは訊く。


 ◆ ◆ ◆ ◆


 勇卵の城の廃墟。

 緑色の空から緑色の雨が降って来ていた。

「アップ様。急ぎこの異世界から出なくては――――」

「でも兄さんが消えた。探さないと!」

 緑色の雨がアップの皮膚に触れる。ジューーーーっと腕を溶かしていく。そして、

「うああああああああああああああああああああああああああ!!」

 激しい痛みがアップを襲う。

「アップ様!」

 ラジルバフアが暗雲で魔法陣を書くが緑色の雨が降り注ぐ。

「うあああああああああああああああああああああああ!!」

 ラジルバフアは苦しみのあまり魔法陣を分解、そして自身の身体の構成を保てなくなり死亡した。

「ら、ラジルバフア~~~~」

 アップが消えゆくラジルバフアを見る。そして暗雲の秘宝玉が炎に包まれて消えて行った。

「うああああああああああああああああああああああ!!」

 ラジルバフアの死を嘆いてる時ではなかった。アップは全身に激痛が走って叫び続けた。

「不死の衣おおおおおおおおおおおおお!!」

 アップの不死の炎が緑色の雨によって鎮火し、激痛を与えていく。

「うああああああああああああああああああああ!!」

 アップは今にも死にそうな断末魔を永遠に叫び続ける。


 ◆ ◆ ◆ ◆


 歪曲地帯。

 ロードは大英雄ランラ・ロベーロの力を聞かされた。そして、

「待ってくれ! あの中にはオレの妹がいるんだ! 今すぐ結界を解いてくれ!」

「何を言ってるのロード……アレはあなたの妹なんかじゃない私たち家族を引き裂いた憎き大魔王。ここで倒そう」

 ミハニーツがロードの肩に優しく手を回し助け起こすが、

 ロードはランラの背中を掴もうと手を伸ばす。

「違う! 妹なんだ! 本当なんだ! 痛めつけないでくれ!」

「ホウ、妹とな? ではなぜ大魔王などの姿をしておる?」

 ランラがロードに問う。

「それは分からない」

「人を殺めてきた大魔王ではないのか?」

「それはそうだけど……ここ十年以上は人を殺していないって言っていた!」

 ロードは前のめりになり倒れそうになったところをミハニーツに支えられた。

「人を殺めたことに変わりなし。悪は滅ぼさねばならん」

 ランラは厳しい発言をした。

「ロード、あなたあの大魔王と何をしていたの?」

「…………遊んでいたんだ。楽しそうに、嬉しそうに、悲しそうに」

「どういうこと?」

「約束したんだ! 一緒にお祭りに行くって!」

 ロードはミハニーツを突き飛ばした。

「――――――!?」

 そして、赤い剣竜封じの剣を鞘から抜き取る。

「何をするつもりじゃ!?」

「アップはオレが守る! 妹は兄が守る!」

 ロードは歪曲地帯で剣を振り上げた。

「アカ! アップのところまで空間を通してくれ!」

 ロードは剣を振ると、

「心得た」

 アカが世渡りの力を使って異世界に道を作った。

 ロードはその異空間の穴に飛び込んだ。

「「「――ロード!?」」」

 皆が驚いた。


 ◆ ◆ ◆ ◆


「ああああああああああああああああああああ!!」

 アップは断末魔の叫びを何分も発していた。

(なにこれ)
(不死の炎が消えていく)
(身体の傷は何回治しても)
(雨に触れて痛いまま)
(これじゃあ生き地獄)
(もう終わりにして欲しいくらい痛い)
(どうしてこうなるのかな)
(やっと兄さんを見つけたのに)
(やっと兄さんとお祭りに行けると思ったのに)
(大魔王だからこんな目に合うんだ)
(普通の人間に生まれていれば今頃は家族一緒に暮らせてたんだ)
(神様がいるならお願い)
(もう絶対に人殺しをしませんから)
(兄さんと一夜だけのお祭りを楽しませてください)
(だから、この苦しみから助けてください)

「アップーーーーーーーーーー!!」

 その時、アップの耳に聞き慣れた声が聞こえて来た。

 ロードがアップの手を取った。

「お前を助けに来た」

「兄さん」

 その時、緑色の雨は止んだ。

 ロードとアップは抱き合っていた。

「兄さん! 兄さん! 兄さん!」

「アップ、兄さんがついてる。もう苦しまなくていいんだ」

「うん」

 涙声に震えるアップ。

「一緒にお祭りに行こう」

 激痛に耐えるロードは優しく微笑みかけた。

 アップの長い長い兄のいない苦しみは今終わりを告げた。
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