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第十二章 明かされし衝撃の事実と兄妹愛

第588話 兄妹のあり方

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 ロードはアップから今まで生きてきた中で気にしなかったことを聞いた。

「お母さん?」

「そう、わたしたちの名前はお母さんが付けたもの」

「ちょっと待て、オレはまだキミとオレが兄妹だと認めていないのに、母親のことを知っているのか?」

「うん。知ってる」

「どこで何してる人だ!」

「本を残して死んだって記憶してる」

「死んだ? 何で……?」

「分からない」

 ロードは脱力した。

(オレの母さんはもう死んで――――)

 その時ロードは目を覚ました。

「――騙されないぞ! オレを油断させるための嘘だろう?」

「違うの。本当に死んでしまったの。それだけは覚えてる」

「いつだ?」

「分からない」

「どうして人間のオレと魔王のキミが母さんから生まれるんだ?」

「分からない」

「父さんの方は?」

「そっちは全然聞いたことが無い」

「そうか……」

「信じてくれる?」

「キミとオレが本当の兄妹なら信じるよ」

「この瞳の色を見て」

 ロードは不吉なアップの目を見る。魔物のように暗い目だが瞳はエメラルド色だった。

「兄さんと同じエメラルドの瞳、これが証拠」

(……そいえば昔から瞳がキレイって言われてたっけ)
(このこと兄妹なら何でこの子は魔王になったんだ?)

「キミは一体何なんだ?」

「その答えを私は持っていないの。ごめんね。兄さん」

 アップが謝る。

(母さんが死んで、父さんが不明、妹が魔王)
(一体どういう家庭に生まれたんだ)
(今なら気になるヴィンセント先生が話そうとしていた故郷の話)

「信じてくれた?」

「信じたとしてどうする? オレは魔王を倒す勇者だぞ? これからオレは世にはびこる魔王を倒さなくてはならない。キミは何が目的でオレをここに呼んだんだ?」

「一緒に暮らしたかったの……」

 アップが事情を説明しようとしていた。

「私は物心ついたときから魔王だった」
「破壊と殺戮を振り撒くことを本能に生きていた」
「大魔王アップという名前しか持ち合わせなかった私は異世界にやりたい放題攻撃をしていた」
「けれどある異世界で学んだの」
「人々を殺していたときだった」
「ある兄妹が私の目の前に立ちふさがった」
「兄と妹、私はその二人を殺そうとした」
「けれど小さなお兄さんが言ったの」
「妹は絶対オレが必ず守るって」
「そして妹の方はこう言ったの」
「いや、お兄ちゃんを殺さないでって」
「私はその時思ったのこれが兄妹のあり方なんだって」
「兄は妹を守り、妹は兄を支える」
「私はその兄妹に感動した」
「始めて心というものがあるのだと実感した」
「私はその兄妹を殺さず見逃して異世界そのものから去った」
「それから私は兄さんを探し続けた」
「色んな魔王に協力してもらってやっと顔を拝むことも出来た」
「大事な手掛かりが出来た」
「そして私はラジルバフアを協力者にして眷属使魔スモルパフアに全力で捜索させた」
「そして私たちはここ、色合界でやっと見つけたの」
「私の大切な兄さんを……」
「けれど出会いは邪魔され私はあの強い人を追い詰めた」
「そしてまたいつかここに兄さんが戻ってくることを信じて待っていたの」
「そうして再会したとき嬉しかった」
「でも、兄さんはまた別の異世界に行ってしまった」
「私はもう我慢できずにラジルバフアに捜索させた」
「そうしてまた出会ったの私と兄さんは、だから」

「だから、一緒に暮らそう兄さん」
「もう私、人は殺さないから兄さんと一緒にいたいの」

 アップはずっと秘めていた心の扉を開いた。

「人は殺さない……本当か?」

「うん」

「オレと一緒に暮らしたいからか?」

「うん」

「もしオレが異世界を旅して、あらゆる魔王たちを倒しに行くと言ったら」

「…………兄さんの仲間を殺す」

 一瞬にしてアップの殺気がその場を支配した。

「だったら、キミは敵だ。魔王の呪縛から解かれることのない生まれてきてはいけなかった存在だ」

「じゃあ、兄さんは私を守ってくれないの? 妹なんだよ?」

「そんな言葉を並べられたって信じられるわけがない。オレはロード! いかなる魔物を前にしても道を切り開く勇ましい者!」

 ロードが立ち上がった。そしてアップに双剣を向ける。

「そう、兄さんが拒むならいいよ。気の済むまで遊んであげる。そして最後には私のものになって貰うことにするから」

 アップが宙へ飛ぶ。戦闘態勢になろうとしていた。

 どちらもエメラルド色の瞳を持つ者。しかし同じ血が通っている訳ではない。一方は勇者、もう一方は魔王。

 相反する存在の激突が始まろうとしていた。


 ◆ ◆ ◆ ◆


 どこでもない花畑。

「見もの」

 一言呟いたのはかつてロードに異世界を渡る鍵を渡したコロアイという女性だった。

 ホワイトの机に飲み物を置き、ホワイトの椅子に腰掛けて、目の前に移るロードとアップの姿を見ていた。
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