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第十二章 明かされし衝撃の事実と兄妹愛

第584話 魔王の少女への交渉

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 魔王の少女は信じられない言葉を発していた。

「やっと、見つけた。兄さん」

 少女らしい声がロードの耳に滑り込む。

(えっ? 兄さん)
(オレに言ってるのか?)
(オレを誰かと勘違いしているのか?)

「――人違いだ!」

 ロードは青い剣を引き抜いた。

 その前に立ち上がるミハニーツ、髪は痛み、全身に汚れがついていた。

「ロードは下がってて……今のあなたじゃこいつには勝てない」

 ミハニーツが背中越しに声を掛ける。息も乱していない。

「けれど、一人だと――――っ!!!?」

 その時、ロードの剣に朱色の光線が当たった。威力はそれほどでもなかったが、驚いたロードは尻餅をついた。

「兄さん。危ないよ……? 待っててすぐに邪魔者を消してあげるから」

 魔王の少女の袖口が再び光り輝く。朱色の光線を発射しようとしているのだ。

「やめろ!!」

 思わず本音が出るロード。しかし効果はあった。魔王の少女はその声の通り、静かに光線を出すのをやめた。

 その隙にミハニーツはつぼを出現させた。中に手を突っ込み辛蜜の剣を取り出した。熱でもこもっているのか刀身が燃えていた。

「赤蜜の剣」

 ミハニーツは再び戦いへ、そして魔王の少女を上半身と下半身に分けた。

「――いっ!?」

 ロードに追いついて来たハズレが仰天する。

 ついに魔王の少女は倒されたかのように地面に落ちた。上半身も下半身も別れたままだ。

「や、やったの?」

 スワンが呟く。

「まだだろ。霧散化が始まってねーー」

 グラスが言う。

「シルベさん、今の内にこの魔王を別世界に飛ばすことは出来ませんか? この魔王かなり手強いです!」

 ドノミが提案する。

「わかった……召喚陣一式」

 召喚の秘宝玉が発動して魔王の少女の分離した下半身と上半身がどこかに贈られる時だった。

 上半身と下半身が燃え出した。次の瞬間灰となって舞いあがり召喚陣の入り口から遠ざかり、宙で灰が集まって元の魔王の少女の姿に戻った。

「お前が、お前が、お前が、お前が……………………」

 わなわなと震える魔王の少女。どこか憎らしげにつぶやき続ける。

 それはまさに刹那の時間。シルベの首に魔王の少女の手が伸びて絞めた。

「――――あがっ!?」

「「「――――――!!!?」」」

 その場に居た誰もが魔王の少女に反応できなかった。あのミハニーツでさえ、

 ロードは見た白目をむくシルベの姿を、そして、

「殺すなーーーーーー!!」

 ロードは叫んだ。

 すると魔王の少女は手で持ち上げていたシルベを離す。地面に落ちたシルベをドノミがすぐさま診る。

「皆伏せろ!」

 ミハニーツの指示だった。炎を纏った硬い蜜の剣から炎の斬撃が飛ぶ。そして魔王の少女を焼いていく。

「炎で焼くことが出来るなら、当然私の炎でも焼け――――!?」

 炎の中で悠然と君臨する魔王の少女。その肌は段々と焼け焦げていくが、顔色変えない魔王に驚くミハニーツ。そして、

「無駄……」

 それだけ言うと赤蜜の炎が魔王の少女の炎に弾かれた。そして灰となり、灰が再び集まって元通りの姿に戻る。

 それだけではない。攻撃態勢に移ろうとしたハズレ、スワン、グラス、ドノミ、ブケン、ミハニーツの喉元に尾羽の剣の切っ先が突きつけられていた。

「動くと殺すよ……」

 魔王の少女はかつてロードがミハニーツから受けた殺気よりも何万倍もの殺気を敵に浴びせた。

 ロード以外はその場で恐怖しすくみ上がる。辛うじてミハニーツの目は死んでいなかった。

(両手から三本づつの尾羽の剣)
(それぞれが首元に当てられている)
(この魔王の狙いは秘宝玉)
(皆の命には代えられない)

「魔王聞け……秘宝玉が欲しいんだろ! だったらくれてやる!」

 ロードが手のひらを突き出して魂のような秘宝玉を出現させた。

「いらない」

 対して魔王の少女は興味なさげに言う。

「何!? なら何を探している!?」

 ロードは問いを出した。

「あなた、兄さんを見つけたからもういい」

「どういうこと?」

 ミハニーツが訊く。

「黙れ、誰が口を出していいと言った」

 ミハニーツの喉元の剣が喉に食い込んでいく。

「やめろ!」

 ロードはすぐに叫んだ。そして魔王の少女は剣を引かせる。

「やめて欲しいなら一緒に来て……」

「秘宝玉が狙いじゃないなら、オレに何の用がある……?」

「話は誰もいないところでしたい」

 魔王の少女はロードに優しく語りかけた。

「ダメ! ロード付いていってはいけない」

 ミハニーツが発言すると、喉元に尾羽の剣が締め付けられる。

「絞め殺してはダメとは言われてない」

「――――分かった。話が出来るところまで連れて行ってくれ! その代わり皆には手出しをするな!」

 ロードは魔王の少女と交渉した。

「ラジルバフア……」

 魔王の少女が呼ぶと暗雲の魔物が現れた。

「急いであの城に戻ろうね。もう我慢の限界」

「はっ! かしこまりました!」

 ラジルバフアの身体がまるでシルベの召喚陣のように広がっていく。暗雲で文字も書いてるみたいだった。

「これは魔法陣」

「命拾いしたね……さぁ、兄さんこの手を取って、そうすればここの人に手出しはしないって約束する」

 か細い腕を差し向けてくる。

(この手を取ってオレはどこへ連れて行かれる)
(いや、考えてもしょうがない。ここは皆の安全が第一だ)
(例えこの先に行ったってオレ自身が戦って勝てばいい)

 ロードはか細い手を取った。

 その時、魔王の少女は少し口角を吊り上げていた。

「行こう」

 手を引く魔王の少女がラジルバフアの中へ入って行き、ロードもまた暗雲の中へ入っていく。

「それでは人間共さらばだ」

 ロードと魔王の少女を取り込んだラジルバフアが溶けるように消えて行った。

「――――くっ!」

 消えた後、ミハニーツだけが地面に拳を振り下ろしていた。

 魔王の少女の殺気でスワンとハズレとグラスとドノミとブケンは震えあがっていた。

 この時、
(間違いない。あの魔王、大魔王の中でも最強クラスだ)
 ミハニーツはそう思っていた。
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